ボノボの母は、大人になった息子の子作りを手助けしていた。母がいると父になる確率は約3倍
群れに母親がいるボノボのオスは、子の父親になる確率が約3倍高かった。母親は息子をメスの近くに連れて行き、ほかのオスのじゃまをしていた。

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- 群れに母親がいるボノボのオスは、父親になる確率が約3倍高かった
- 母親は息子をメスに近づけ、ほかのオスの交尾をじゃましていた
- 近い親せきのチンパンジーでは、母親がいても差はなかった
人に話すなら
ボノボのお母さんって、大人になった息子の子作りまで手伝うんだって。息子をメスのそばに連れて行ったり、ほかのオスをじゃましたり。母親がいると、父親になる確率が3倍くらいになるらしいよ。
読む前に予想しよう
ボノボの母親は、大人になった息子が父親になるのを助けている
群れに母親がいるオスは、子の父親になる確率が約3倍高かった。チンパンジーでは差がなかった。
大人になった息子の恋愛に、母親が口を出す。人間の世界ではよく聞く話です。ところが、同じことをしている動物がいます。アフリカの森にすむ類人猿、ボノボです。
ボノボの母親は、大人の息子をメスの近くに連れて行きます。息子の交尾をじゃまするオスがいれば、追い払います。2019年、ボノボの子ども39頭の父親をDNAで調べた研究が発表されました。すると、群れに母親がいるオスは、子の父親になる確率が約3倍高かったのです。
一方、ボノボに近い親せきのチンパンジーでは、母親がいてもいなくても差はありませんでした。似た者どうしの2種で、なぜこんな違いが出たのでしょうか。
01ボノボとチンパンジーは近い親せきなのに、社会のしくみが大きく違う
ボノボとチンパンジーは、人にいちばん近い類人猿です。京都大学の発表によると、2種が分かれたのは約100万年前で、見た目はほとんど見分けがつかないほど似ています。
どちらの種でも、オスは生まれた群れに一生残ります。メスは大人になると、ほかの群れへ移っていきます。そのため、母親と息子は、息子が大人になってからもずっと同じ群れで暮らします。
違うのは、オスとメスの力関係です。チンパンジーでは、大人のオスはすべてのメスより強い立場にいます。群れの動きもオスが決め、オスどうしの争いは激しく、殺し合いもよく見られます。
ボノボでは、メスの地位がオスと同じか、それより高くなっています。群れの中心に集まるメスたちが、群れの動きを決めます。順位がいちばん高いのは、たいていメスです。そして、順位第1位のメスの息子が、オスの第1位になることが多いのです。
02母親は息子をメスの近くに連れて行き、じゃまするオスとけんかしていた
ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のマルティン・スルベック(Martin Surbeck)さんたちは、2011年の論文で、コンゴ民主共和国のルイコタレという森のボノボの群れを調べました。交尾をめぐるけんかで母親が息子を直接助けることを報告したのは、チームの知るかぎり、これが初めてでした。
調べたのは、この群れのオス9頭です。2007年から2009年まで、チームは朝ボノボが寝床を出てから、夜に新しい寝床を作るまでついて歩きました。だれが近くにいるかを1時間ごとに記録し、その時間は合わせて2112時間になりました。けんかや交尾は、見たものをすべて記録しました。
メスの交尾をめぐるけんかは、134回ありました。そのうち30回に、交尾しようとするオスの母親が加わっていました。13回は、母親が自分の息子でないオスの交尾をじゃましました。17回は、息子の交尾をじゃましに来たオスに、母親が立ち向かいました。母親が、ほかのオスをこのように助けることはありませんでした。
母親の効果は、オスの居場所にも表れました。順位が中くらいや下のオスは、母親が近くにいると、発情したメスの近くにいることが多くなりました。順位第1位のオスがしめる交尾の割合も変わりました。母親がだれもいない集まりでは40.8%でしたが、母親がそろっている集まりでは25%でした。
けれども、交尾が多いことと、子の父親になることは同じではありません。母親の手助けが、本当に孫の誕生につながっているのか。それを確かめるには、子どもの父親を遺伝子で調べるしかありませんでした。
034群れのボノボと7群れのチンパンジーで、子ども302頭の父親をDNAで調べた
2019年、スルベックさんたちは、世界の類人猿研究者と協力して、この問いに答えました。日本からは、京都大学の古市剛史さんたちが加わりました。
チームは、野生のボノボ4群れと、野生のチンパンジー7群れのデータを集めました。ボノボはコンゴ民主共和国、チンパンジーはコートジボワール、タンザニア、ウガンダの群れです。ボノボのデータには、京都大学が50年近く調べてきたワンバという森の群れも入っています。
父親を調べるのに使ったのは、ボノボやチンパンジーの「ふん」です。ふんから取り出したDNAを調べれば、体にさわらずに親子関係が分かります。こうして、ボノボの子39頭と、チンパンジーの子263頭、合わせて302頭の父親が分かりました。
次に、それぞれの子ができたときに、群れのオスたちの母親が生きて群れにいたかを調べました。そして、母親がいるオスと、いないオスで、父親になった確率を比べました。比べるときには、オスの年齢や、群れのオスの数も考えに入れました。

結果は、2種ではっきり分かれました。ボノボでは、母親が群れにいるオスは、いないオスより父親になる確率が約3倍高くなっていました。チンパンジーでは、母親がいても、父親になる確率は上がっていませんでした。むしろ、わずかに低いくらいでした。
04チンパンジーの母親も息子を助けるが、交尾の場面ではほとんど手を出さない
チンパンジーの母親も、息子を見捨てているわけではありません。研究所の発表によると、オスどうしのけんかで息子の味方をするのは、どちらの種の母親も同じでした。違ったのは、交尾の場面です。ボノボの母親は、息子の交尾を守り、ほかのオスの交尾をじゃましました。チンパンジーでは、こうした行動はまれでした。
チームは、この違いを社会の力関係で説明しています。ボノボでは、メスが高い順位にいるので、オスのけんかに割って入れます。チンパンジーでは、すべての大人のオスがメスより強いので、母親が手を出しても効き目が小さいのです。
娘に対してはどうでしょうか。研究所の発表によると、ボノボの母親が、娘に同じような手助けをする様子は見られませんでした。ボノボの娘は、ふつう大人になると群れを出て行きます。群れに残ったわずかな娘も、母親から大きな助けは受けていなかったそうです。
05ただし、母親がいることが「原因」かどうかは、まだ言い切れない
この研究で言えるのは、「母親がいるオスほど父親になりやすい」という関係です。母親の手助けが原因だと、実験で確かめたわけではありません。
論文は、別の説明がありうることを自分で書いています。たとえば、長生きする母親の体の丈夫さを決める遺伝子が、息子にも受けつがれているのかもしれません。そうなら、母親が何もしなくても、母親が生きている息子は子を多く残せることになります。
それでもチームは、2種を比べたことに意味があると考えています。母親が息子のために動くボノボでだけ差が出て、母親があまり動かないチンパンジーでは差が出ませんでした。この結果は、差の少なくとも一部が、母親の行動によるものだという考えを強めます。
ボノボの数が少ないことにも注意が必要です。ボノボで父親が分かった子は39頭で、チンパンジーの263頭よりずっと少ないのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
進化の理由:自分で産まずに、孫を増やす
母親が大人の息子を助けると、母親自身にどんな得があるのでしょうか。息子の子は、母親にとって孫です。孫は、母親の遺伝子の一部を受けついでいます。息子が父親になれば、母親の遺伝子も次の世代に伝わります。
スルベックさんは研究所の発表で、メスたちは自分で子を増やさなくても、子孫を増やす方法を見つけたと話しています。ボノボのメスは、ほかのメスより順位が上がっても、自分の子の数をそれほど増やせません。けれども、息子を後押しすれば、孫の数で差をつけられます。京都大学の発表は、この競争を「孫作り競争」とよんでいます。
研究の歴史:行動の観察から、DNAによる父子判定へ
ボノボの母親が息子の交尾にかかわることは、もともと野外での観察から気づかれていました。京都大学は、コンゴ民主共和国のワンバで、1976年から1頭1頭を見分ける調査を続けてきました。こうした野外観察から、息子たちは母親がいる場所で交尾の機会を多く得ることが知られていました。
ただし、観察だけでは、母親の存在が本当に孫の数につながっているかは分かりません。2011年の論文は、母親の手助けで交尾が増えることを数字で示しました。そして2019年の論文が、DNAで父親を調べて、子の数の差まで確かめました。
反対の結果:ボノボの社会は「平等」ではなかった
ボノボは、争いの少ない平和な類人猿として知られています。そのため、オスの間でも子の数の差は小さいだろうと予想されていました。
ところが2017年、スルベックさんたちが父親のデータをまとめると、逆の結果が出ました。ボノボの方が、チンパンジーより、順位の高いオスが子を多く残していたのです。京都大学の石塚真太郎さんたちも、2018年にワンバの2つの群れで子17頭の父親を調べました。そのうち少なくとも9頭は、第1位のオスの子でした。一方、2011年の研究では、母親がそろうと、第1位のオスがしめる交尾の割合が下がっていました。母親の手助けが、オスの間の子の数の差にどう影響しているのかは、まだはっきりしていません。
ほかの動物との比較:シャチと人間
母親の存在が子や孫の数と結びつく例は、人間とシャチでも報告されています。シャチの母親は、息子をえさの多い場所に連れて行きます。母親と一緒にいる息子は、生き残りやすいと報告されています。
人間とシャチでは、メスが子を産まなくなったあとも長く生きます。この長い「おばあさんの時期」は、子や孫を助けるために進化したのではないか、と考えられています。ところがボノボのメスには、そのような長い時期はないようです。母親が孫を増やせる社会なのに、なぜボノボでは長い「おばあさんの時期」が進化しなかったのか。論文は、これはこれからの研究が必要な問いだとしています。
06まとめ
ボノボの母親は、大人になった息子をメスの近くに連れて行き、ほかのオスの交尾をじゃましていました。子ども302頭の父親をDNAで調べると、群れに母親がいるボノボのオスは、父親になる確率が約3倍高いと分かりました。チンパンジーでは、母親がいても差はありませんでした。
ただし、これは「母親がいるオスほど父親になりやすい」という関係です。遺伝の影響を完全には切り分けられていません。
DNAで父親が分かったボノボの子39頭のうち、31頭は、父親の母親が同じ群れにいたときにできた子でした。5頭に4頭の割合です。
研究カルテ
コンゴ民主共和国
- 研究チーム
- ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のマルティン・スルベックさん、京都大学の古市剛史さんらの国際チーム
- 調べた場所
- コンゴ民主共和国の野生のボノボ4群れ。コートジボワール、タンザニア、ウガンダの野生のチンパンジー7群れ
- 調べた動物
- ボノボ(学名 Pan paniscus)とチンパンジー(学名 Pan troglodytes)
- 調べ方
- ふんから取り出したDNAで、子ども302頭の父親を調べた。子ができたときに父親の母が群れにいたかと比べた
- 分かったこと
- ボノボでは、母親が群れにいるオスは父親になる確率が約3倍。チンパンジーでは差がなかった
- まだ分からないこと
- 差の一部が遺伝によるものか。息子を助けることで、母親自身にどんな得があるのか
- 論文
- Current Biology(2019年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Bonobos are great apes that live in the forests of Africa. Male bonobos stay with their mothers even after they grow up. In bonobo groups, females often have the highest rank.
Bonobo mothers take their sons close to females. They also stop other males from mating. Scientists wanted to know if this help really works.
They checked DNA from the droppings of bonobos and chimpanzees. They found the fathers of 302 babies. The babies were born in eleven groups in Africa. Male bonobos with a mother in the group were about three times more likely to become fathers. But in chimpanzees, mothers made no clear difference.
In chimpanzee groups, all adult males are stronger than the females. So the mothers cannot help their sons as much. By helping their sons, bonobo mothers may get more grandchildren.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What do bonobo mothers do for their sons?ボノボの母親は息子のために何をしますか。
ボノボの母親は、息子をメスの近くに連れて行き、ほかのオスの交尾をじゃまします。
Q2. How did the scientists find the fathers?研究者たちはどうやって父親を突き止めましたか。
ふんから取り出したDNAで、302頭の子どもの父親を調べました。
Q3. What happened in chimpanzees?チンパンジーではどうでしたか。
チンパンジーでは、母親がいても、息子が父親になる確率ははっきり変わりませんでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Surbeck, M. et al. (2019) Males with a mother living in their group have higher paternity success in bonobos but not chimpanzees. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2019.03.040
- 2京都大学(2019)ボノボの孫作り競争を父子判定研究で証明kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2019-05-20
- 3Max Planck Society(2019)Bonobo mothers help their sons to have more offspringmpg.de/13493703/0520-evan-019609-bonobo-mothers-help-their-s
- 4Surbeck, M., Mundry, R. & Hohmann, G. (2011) Mothers matter! Maternal support, dominance status and mating success in male bonobos (Pan paniscus). Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2010.1572
- 5Surbeck, M. et al. (2017) Male reproductive skew is higher in bonobos than chimpanzees. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2017.05.039
- 6Ishizuka, S. et al. (2018) Paternity and kin structure among neighbouring groups in wild bonobos at Wamba. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.171006
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





