ボノボは26年会っていない姉の顔を覚えていたらしい。昔の仲間の写真を長く見た

昔の仲間と知らない相手の顔写真を並べて見せると、類人猿は昔の仲間を長く見た。あるボノボは、26年会っていない姉の顔を長く見た。

No.121 7分で読めるえっ度 論文 2026年
室内の実験室で、黒い顔にピンク色の唇、頭の毛が左右に分かれたボノボが1頭、透明な板ごしに画面を見つめている。画面には、2頭のボノボの顔写真が左右に並んでいる。

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  1. 昔の仲間と知らない相手の顔を並べると、昔の仲間を長く見た
  2. 26年会っていない姉とおいの顔を、長く見たボノボがいた
  3. 仲がよかった相手ほど、長く見る傾向も少しあった

人に話すなら

チンパンジーとボノボに、昔の仲間と知らない相手の顔写真を並べて見せた実験があってね。昔の仲間のほうを長く見たんだって。26年会っていない姉の顔でも差が出たボノボがいたらしいよ。

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読む前に予想しよう

ボノボが、26年会っていない姉の顔写真を、知らない相手より長く見た例がある

何十年も会っていない友だちに、道でばったり会ったとします。人はたいてい、顔を見ればすぐに分かります。では、人に一番近い動物、チンパンジーやボノボはどうでしょうか。

アメリカ、イギリス、日本などの研究者のチームが、2つの種の26頭で確かめました。昔の群れの仲間と、一度も会ったことのない相手の顔写真を、画面に並べて見せたのです。すると、類人猿たちは昔の仲間のほうを長く見ました。熊本のボノボのルイーズは、26年以上会っていない姉の顔を、知らない相手より長く見つめました。

研究チームによると、チンパンジーが何年も前の仲間を覚えているかを確かめた研究は、これまでありませんでした。ボノボでも、声で聞き分けられるのは別れて5年ほどまで、という報告しかありませんでした。この研究は、顔の記憶が何十年も続くかもしれないことを示しました。

012枚の顔写真を並べて、どちらを長く見るかをはかった

研究の中心は、ハーバード大学のローラ・ルイス(Laura Lewis)さんと、ジョンズ・ホプキンス大学のクリストファー・クルペニー(Christopher Krupenye)さんです。京都大学の狩野文浩さんも加わり、2023年に発表しました。

調べたのは、3つの国の4つの群れです。日本の京都大学熊本サンクチュアリのチンパンジーとボノボ。イギリスのエディンバラ動物園のチンパンジー。ベルギーのプランケンダール動物園のボノボです。合わせて26頭で、そのうち15頭がメスでした。

「昔の仲間」は、前に同じ群れで暮らしていて、その後に死んだか、ほかの施設に移った相手です。写真は、できるだけ別れる直前に撮ったものを選びました。「知らない相手」は、その類人猿と同じ施設で暮らしたことが一度もない相手です。2枚の写真は、同じ性別で、年ごろもそろえました。

実験では、類人猿が自分から実験の場所に来ます。画面の前の透明な板には細い管がついていて、薄めたジュースが少しずつ出てきます。ジュースは、どちらの写真を見ても同じように出ます。飲みながら画面の前にいると、画面の下の計測器が、目の動きを赤外線で記録します。体に何かをつける必要はありません。

1回の表示は3秒です。昔の仲間の写真が右に出る回と左に出る回は、同じ数にしました。そのうえで、3秒のうちそれぞれの写真を何秒見たかを比べました。

透明な板の向こうに画面があり、その下に小さな黒い計測器が置かれている。チンパンジーが板についた細い管からジュースを飲みながら、画面を見ている。

02昔の仲間のほうを、平均で約0.24秒長く見た

全部で848回の表示をしました。そこから、比べられない回を除いた544回を分析しました。たとえば、写真の2頭とも、その類人猿が知らない相手だった回です。写真が出る回数をそろえるために、そうした回も混ぜていたのです。

その結果、類人猿たちは、血のつながりのない昔の仲間を、知らない相手より平均で約0.24秒長く見ていました。割合にすると約11%長く見たことになります。昔の仲間が家族でも家族でなくても、見方に違いは出ませんでした。そのため、家族の顔が似ているから見分けた、という説明は当てはまらないと研究チームは考えています。

一番長く別れていたのが、熊本のボノボのルイーズです。ルイーズは、姉のロレッタとおいのエリンに、26年以上会っていませんでした。それでも、8回の表示で、2頭の顔を知らない相手よりはっきり長く見ました。

別れていた年数が長くなっても、見る時間の差は小さくなりませんでした。血のつながりのない仲間では、最長で約9.5年たった相手まで調べられました。この範囲では、記憶が弱まっていく様子は見られなかったのです。

03仲がよかった相手ほど、長く見る傾向があった

チームはもう1つ、昔の関係の中身が記憶に関係するかも調べました。動物園や施設の飼育員や研究者に、別れたときの関係を5段階で答えてもらったのです。よく仲よくしていたか、よくけんかをしていたか、どちらが強い立場だったかです。答えた人たちは、視線の結果を知りませんでした。答えは人どうしでよく一致していました。

すると、仲よくすることが多かった相手ほど、長く見る傾向がありました。けんかの多さや立場の強さについては、はっきりした差は報告されていません。ただし、研究チームはこの傾向を「弱いが、統計的に意味のある差」と書いています。画面をしっかり見ていた回だけで計算し直すと、この傾向は強く出ました。

人も、昔の友だちの顔だけでなく、その人とどんな関係だったかを覚えています。研究チームは、類人猿も、相手ごとの「仲のよさ」のようなものを記憶しているのかもしれないと考えています。

04はっきり差が出たのは、熊本の類人猿だけだった

この研究には、気をつけて読みたい点があります。昔の仲間をはっきり長く見たのは、主に熊本サンクチュアリの類人猿でした。エディンバラとプランケンダールの類人猿では、差は小さかったのです。

研究チームは、理由の1つとして、画面を使う実験への慣れを挙げています。熊本の類人猿は、これまでに何度も視線の実験に参加していました。実験のときは、ほかの仲間から離れて1頭ずつ画面に向かいます。実際、熊本の類人猿は、2枚の写真を合わせて平均約1.9秒見ていました。ヨーロッパの類人猿は約1.0秒でした。

もう1つは、「長く見た」ことが何を意味するかです。2024年、アメリカの研究者たちは、「2枚のどちらを長く見るか」で記憶をはかる方法の問題点をまとめました。見る時間には、記憶だけでなく、新しいものへの興味や、慣れ、やる気も混ざるという指摘です。長く見たことが、そのまま「覚えている」の証拠になるとは限りません。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

京都大学の6頭でも、似た結果が出た

2026年、日本女子大学と京都大学のチームが、続きとなる研究を発表しました。京都大学のヒト行動進化研究センターで暮らすチンパンジー6頭に、同じような顔写真の組を見せたのです。

比べたのは2種類の「知っている顔」です。1つは、昔一緒に暮らし、今はもう死んでいる仲間の顔。もう1つは、今同じ群れで暮らしている仲間の顔です。どちらも、知らない相手の顔と並べて見せました。

すると、知っている顔を長く見たのは、昔の仲間のときだけでした。今の仲間の顔は、知らない顔と同じくらいしか見ませんでした。さらに、今の仲間とは一緒に暮らした年数が長いほど、その顔を見る時間は短くなっていました。毎日見ている顔には、慣れてしまうのかもしれません。この結果は、「長く見る」ことが単純な記憶のものさしではないことも示しています。

ほかの動物は、どのくらい仲間を覚えているのか

動物が仲間を何年も覚えている例は、まだあまり多くありません。2013年、アメリカのシカゴ大学のジェイソン・ブルック(Jason Bruck)さんは、ハンドウイルカで調べました。イルカは、1頭ずつ違う、決まった形の鳴き声を持っています。昔の仲間の鳴き声を流すと、イルカは知らないイルカの鳴き声より強く反応しました。別れてから20年たっていても反応したのです。

ボノボでは、2016年にフランスなどのチームが声で調べています。昔の仲間の声には、5年たっても強く反応しました。ただ、8年ほどたつと、知っている声と知らない声の区別がつかなくなったようだと報告されています。今回の顔の研究は、この年数を大きくこえました。顔の記憶のほうが長もちするのか、それとも調べ方の違いなのかは、まだ分かっていません。

人は、48年たっても昔の知り合いを覚えていることがある

研究チームによると、人が昔の知り合いを覚えている力は、別れて15年ほどで落ち始めます。それでも、48年たっても残ることがあるそうです。チンパンジーやボノボの寿命は40〜60年ほどです。26年は、その一生の大きな部分にあたります。

人とチンパンジー、ボノボの共通の祖先は、600万〜900万年前に生きていたと考えられています。研究チームは、何十年も続く仲間の記憶は、その祖先の時代からあったのではないかと考えています。そして、この古い記憶の力が、ほかの集団との物の交換のような、人ならではの協力が生まれる土台になったのかもしれないと書いています。

05まとめ

チンパンジーとボノボの26頭に、昔の仲間と知らない相手の顔写真を並べて見せると、昔の仲間を平均約0.24秒長く見ました。ボノボのルイーズは、26年以上会っていない姉とおいの顔を長く見つめました。仲がよかった相手ほど長く見る傾向も、弱いながら見つかりました。

ただし、はっきり差が出たのは熊本の類人猿だけで、「長く見る」の意味にも議論があります。それでも、ボノボのルイーズは、26年会っていない姉の顔を、知らないボノボの顔より長く見ていたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本・熊本県

研究チーム
アメリカのハーバード大学、ジョンズ・ホプキンス大学、京都大学などのチーム(第一著者ローラ・ルイス)
調べた場所
日本の京都大学熊本サンクチュアリ、イギリスのエディンバラ動物園、ベルギーのプランケンダール動物園
調べた動物
動物園などで暮らすチンパンジー(学名 Pan troglodytes)とボノボ(学名 Pan paniscus)の計26頭
調べ方
昔の仲間と知らない相手の顔写真を3秒間並べて見せ、どちらを長く見るかを視線の計測器ではかった
分かったこと
昔の仲間を平均で約0.24秒長く見た。別れていた年数が長くても、差は小さくならなかった
まだ分からないこと
はっきり差が出たのは熊本の類人猿だけ。長く見ることが「覚えている」の証拠かには異論もある
論文
PNAS(2023年)
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英語で読んでみよう

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Apes Remember Old Friends' Faces

Can apes remember a friend after many years? Scientists tested 26 chimpanzees and bonobos in Japan, the UK, and Belgium.

Each ape saw two face photos on a screen. One was an old group member, and one was a stranger. The old group members had died or moved to other places. The photos stayed on the screen for three seconds. A machine under the screen followed their eyes. The apes looked longer at their old friends.

A bonobo named Louise had not seen her sister for more than 26 years. But she still looked longer at her sister's face. The apes also looked longer at old friends they got along well with.

The difference was clear only for the apes in Japan. They may have been more used to tests with screens. Also, looking longer may not always mean remembering.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many apes did the scientists test?研究者は何頭の類人猿で調べましたか。

Q2. Whose face did Louise look at longer?ルイーズは誰の顔を長く見ましたか。

Q3. Where was the difference clear?差がはっきり出たのはどこでしたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Lewis, L. S. et al. (2023) Bonobos and chimpanzees remember familiar conspecifics for decades. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2304903120
  2. 2Ode, A., Adachi, I. & Imura, T. (2026) Visual preference for previously familiar faces in Chimpanzees (Pan troglodytes). Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-026-40862-3
  3. 3Keenan, S. et al. (2016) Enduring voice recognition in bonobos. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/srep22046
  4. 4Bruck, J. N. (2013) Decades-long social memory in bottlenose dolphins. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2013.1726
  5. 5Basile, B. M., Waters, S. J. & Murray, E. A. (2024) What does preferential viewing tell us about the neurobiology of recognition memory? Trends in Neurosciences 論文確認済みdoi:10.1016/j.tins.2024.03.003

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

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