チンパンジーの群れで、耳に草を差す流行が1週間で8頭中5頭に広まった。おしりに差す流行も
ザンビアのチンパンジーの群れで、耳やおしりに草を差す行動が数週間で広まった。ほかの群れにはほぼ見られず、仲間のまねで広まったと分析された。

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- ある群れで、耳に草を差す行動が1週間で5頭に広まった
- おしりに草を差す行動も、6週間ほどで6頭に広まった
- 同じ施設のほかの7つの群れでは、ほぼ見られなかった
人に話すなら
チンパンジーの群れで「耳に草を差す」のがはやったんだって。何の役にも立たないのに、1週間で8頭中5頭がまねしたらしい。おしりに差すのもはやったんだって。
読む前に予想しよう
チンパンジーの群れで、役に立たない「耳に草を差す」行動が流行したことがある
ザンビアの保護施設で2回記録された。仲間のまねで広まったと分析されている。
ある日、1頭のチンパンジーが、細い草の茎を自分の耳に差しているのが見つかりました。手を離しても、草は耳からぶら下がったままです。それから1週間のうちに、同じ群れの仲間4頭が同じことを始めました。
アフリカのザンビアにある保護施設で、2023年に記録された出来事です。オランダのユトレヒト大学などの研究チームが調べると、群れの8頭のうち5頭が耳に、6頭がおしりに草を差すようになっていました。分析の結果、この行動は仲間のまねで広まった可能性が高いと分かりました。
道具でナッツを割るような「役に立つ技」が仲間に伝わることは、前から知られていました。しかし、耳に草を差しても食べ物は手に入りません。何の得もなさそうな行動まで、チンパンジーはまねして広めるのでしょうか。
011頭が耳に草を差すと、1週間で4頭が同じことを始めた
舞台は、ザンビアのコッパーベルト州にある「チンフンシ野生動物孤児院」です。野生動物の肉の取引などから救われたチンパンジーと、施設で生まれたチンパンジーが、森の囲いの中で暮らしています。群れは全部で8つあります。研究チームは2023年5月から2024年10月までのうち約12か月、合わせて147頭を観察しました。
問題の群れは「グループ8」です。主にスーダンから保護されてきた8頭で、6〜13歳ほどの若い群れでした。2023年8月16日、ジュマという12歳ほどのオスが、耳に草を差しているのが見つかりました。
研究チームは、数える行動をはっきり決めました。「草か小枝を耳に入れ、手で支えずにぶら下げたままにする」ことです。耳に草を入れて動かしても、手を離すと落ちる場合は数えません。ジュマが始めてから1週間のうちに、さらに4頭が同じことをするようになりました。
0211日後、今度はおしりに草を差す行動が始まった
8月27日、ジュマはまた新しいことを始めました。今度は草をおしり(肛門)に差して、ぶら下げたままにしたのです。同じ日に、コマンドーという若いオスも同じことをしました。
4日後の8月31日には、アイミ、コンゴ、ビクトリアの3頭が加わりました。10月7日にはジョンも続きます。こうして群れの8頭のうち6頭が、おしりに草を差すようになりました。研究チームによると、群れの多くに広まるまで6週間ほどでした。
12月には、別の場所から保護された3頭がこの群れに入りました。そのうちの1頭、メスのエメラブは、2024年4月までに耳に草を差すようになりました。新入りの3頭の中で、元からいた仲間と最もよく一緒にいたのが、このエメラブでした。
03ほかの7つの群れでは、ほとんど見られなかった
この行動は、チンパンジーなら誰でもする「ふつうのくせ」なのでしょうか。それを確かめるには、ほかの群れと比べる必要があります。
同じ施設には、ほかに7つの群れ、合わせて136頭がいます。森の環境も、もらう食べ物も、ほぼ同じです。研究チームが約1100時間観察したところ、耳に草を差したのは2頭だけでした。おしりに草を差したチンパンジーは、1頭もいませんでした。飼育員や見学に来た人たちからも、ほかの群れで見たという報告はありませんでした。
耳に草を差した2頭には、わけがありました。2頭は「グループ4」の仲間で、この群れには10年以上前から耳に草を差す習慣があるのです。その話は、後の「もっと深く」で紹介します。

04「まねで広まったか」を、広まった順番から確かめた
研究チームが注目したのは、行動が広まった順番です。仲間のまねで広まるなら、行動はつながりのある仲間へ次々に伝わるはずです。それぞれが自分で思いついたのなら、つながりとは関係なく、ばらばらに現れるはずです。
この考え方で調べる方法を「ネットワークに基づく拡散分析」といいます。まず、誰と誰が同じ群れにいるかという「つながりの表」を作ります。次に、行動が現れた順番が、そのつながりで説明できるかを統計で比べます。
研究チームは、「仲間のまねで広まった」とする説明と、「それぞれが自分で始めた」とする説明を統計で比べました。結果ははっきりしていました。耳の行動もおしりの行動も、まねの説明の確からしさが99%で、自分で始めた説明は1%未満でした。分析では、耳に草を差したチンパンジーの約84%、おしりに差したチンパンジーの100%が、まねで覚えたと見積もられました。年齢やオス・メスの違いは、はっきりした影響を見せませんでした。
05かゆいから差しているのでは、という疑問も調べた
ここで、こう思う人もいるでしょう。耳やおしりがかゆくて、草でかいているだけではないのか。それなら「役に立つ行動」になります。
研究チームと施設の獣医は、この点も確かめました。病気やかゆみが原因なら、皮膚が赤くなる、下痢をする、その場所をしきりにかく、といった様子が見られるはずです。しかし、そのような症状は見つかりませんでした。研究チームは、かゆみを和らげるための行動である可能性は低いと考えています。
06飼育員の耳そうじとの関係は、まだ分かっていない
研究を率いたユトレヒト大学のエドウィン・ファン・レーウェン(Edwin van Leeuwen)さんは、大学の発表で一つの事実を挙げています。耳に草を差す行動が見られた2つの群れは、同じ飼育員たちが世話をしていました。その飼育員たちは、ときどき草やマッチ棒を自分の耳に入れて、耳そうじをしていたそうです。ほかの群れの飼育員は、そうしていないと答えました。
チンパンジーが人のしぐさを見て始めたのかどうかは、確かめられていません。ただ、始まりが何であれ、その後に群れの中で行動が広まった順番は、仲間どうしのまねで説明できました。
ファン・レーウェンさんによると、野生のチンパンジーでは、このような「役に立たない流行」は見つかっていません。人に飼われている環境では食べ物を探す時間が短く、まわりを警戒する必要も少ないので、自由な時間が多いと説明しています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
最初の流行は2010年、ジュリーというメスから始まった
同じ施設での「耳に草」は、今回が初めてではありません。2010年、グループ4にいたジュリーというメスが、何度も耳に草を差すようになりました。研究チームは1年間、毎日1頭ずつ順番に追いかけて観察しました。すると、群れの12頭のうち8頭がこの行動をしていました。近くの3つの群れ(82頭)では、1回見られただけでした。この結果は2014年に論文として発表されています。
ジュリーはその後死にましたが、行動は消えませんでした。今回の調査でも、ジュリーの息子ジュエルと、同じ群れのバルが耳に草を差していました。始めた本人がいなくなっても残ったことから、研究チームはこれを「伝統」になった例と考えています。そして今回、まったく別の群れで、似た流行が新しく生まれたのです。
「動物は本当にまねをしているのか」という論争
動物の文化の研究には、大きな論争があります。一部の研究者は、動物はほかの個体の行動を細かく写しているわけではない、と主張しています。仲間が草に触っているのを見て草に興味がわき、あとは自分で同じ行動にたどり着いただけかもしれない、という見方です。
ファン・レーウェンさんたちも、草を耳に入れる動き自体は単純だと認めています。チンパンジーがふだんからする動きの組み合わせだからです。一方で、草を耳やおしりにぶら下げる姿そのものは、この群れにとって新しい行動でした。また、身近に草がある群れは世界中にあるのに、この行動が記録されたのはこの施設だけです。どこまでが「まね」で、どこからが「自分で思いついた」のかは、まだ決着していません。
役に立たない流行は、イルカやサルでも報告されている
意味のなさそうな行動が広まる例は、ほかの動物にもあります。ミナミハンドウイルカのある群れでは、「テールウォーク」が流行しました。体の大部分を水面から縦に出し、尾びれを激しく動かしてその姿勢を保つ行動です。
始まりは、ビリーというメスでした。ビリーは保護されたときに、一時的に水族館で、芸を教わったイルカたちと過ごしました。1988年に海へ戻され、7年後にこの行動をしているのが確認されます。ビリーの死後、別のメスのウェーブがこの行動を何度も見せるようになり、群れの複数のイルカが続きました。論文の題名には、流行の「盛り上がりと終わり」という言葉が入っています。
今回のチンパンジーの論文では、オマキザルの例も紹介されています。仲間の口に指を入れ合うなど、群れごとに違う「遊び」があり、仲間から学ばれて長く続くそうです。
なぜ役に立たない行動をまねするのか
人間の世界にも、実用的な意味は薄いのに広がる流行があります。服装の流行や、仲間内だけのしぐさです。こうした行動には、仲間とのつながりを強める働きがあると考えられています。
ファン・レーウェンさんは、チンパンジーでも似たことが起きているかもしれないと話しています。誰かのまねをすることは、「あなたに気づいている」「あなたが好きかもしれない」と示すことになる、という考えです。ただし論文の中でも、これは推測だとされています。もし本当なら、草を差したチンパンジーは、仲間から毛づくろいを多くしてもらうなど、何かの得をしているはずです。それを確かめる研究は、これからです。
07まとめ
ザンビアの保護施設で、ある群れのチンパンジーたちが、耳とおしりに草を差し始めました。耳の流行は1週間で5頭に、おしりの流行は6週間ほどで6頭に広まりました。同じ施設のほかの136頭は、ほぼ誰もしていません。広まった順番の分析は、「仲間のまねで広まった」ことを強く示しました。
なぜ草なのか、まねをすると何か得があるのかは、まだ分かっていません。分かっているのは、この施設では10年以上をへだてて、2つの群れが別々に「耳に草」を流行させたということです。
研究カルテ
ザンビア(チンゴラ近くの保護施設)
- 研究チーム
- オランダのユトレヒト大学などのチーム(第一著者エドウィン・ファン・レーウェン)
- 調べた場所
- ザンビアのチンフンシ野生動物孤児院(チンパンジーの保護施設)
- 調べた動物
- チンパンジー(学名 Pan troglodytes)。8つの群れの147頭
- 調べ方
- 2023〜2024年に約12か月観察。行動が広まった順番を、群れのつながりと比べて統計で分析した
- 分かったこと
- 1つの群れでだけ、耳とおしりに草を差す行動が数週間で広まった。まねで広まった形跡が強かった
- まだ分からないこと
- なぜ草を差すのか。まねをすると仲間と仲良くなれるのか。野生でも起きるのか
- 論文
- Behaviour(2025年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
In 2023, a young chimpanzee in Zambia put a piece of grass in his ear. He did not hold it with his hand. The grass just hung from his ear.
Within one week, four more chimpanzees in his group did the same thing. Later, six of the eight chimpanzees in the group put grass in their bottoms, too. This grass does not help them get food.
Scientists watched 147 chimpanzees in eight groups at the same place. In the other seven groups, only two chimpanzees put grass in their ears. The scientists studied the order in which the chimpanzees started the new behavior. They found that the chimpanzees probably learned it by copying their friends.
Why do they do it? Nobody knows yet. One idea is that copying a friend may show that you like that friend. People also follow fashions that are not really useful.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where did the first chimpanzee put the grass?最初のチンパンジーは、草をどこに入れましたか。
若いオスのチンパンジーが、草を耳に差して手で支えずにぶら下げていました。
Q2. How many chimpanzees did the scientists watch?研究者たちは何頭のチンパンジーを観察しましたか。
8つの群れの合わせて147頭を観察しました。136頭はほかの7つの群れの数です。
Q3. How did the chimpanzees probably learn the new behavior?チンパンジーたちは、おそらくどうやって新しい行動を覚えましたか。
広まった順番を分析すると、仲間のまねで広まったという説明が強く支持されました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1van Leeuwen, E. J. C. et al. (2025) Chimpanzees socially learn non-instrumental behaviour from conspecifics. Behaviour 論文確認済みdoi:10.1163/1568539X-bja10313
- 2van Leeuwen, E. J. C. et al. (2014) A group-specific arbitrary tradition in chimpanzees (Pan troglodytes). Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-014-0766-8
- 3Bossley, M. et al. (2018) Tail walking in a bottlenose dolphin community: the rise and fall of an arbitrary cultural fad. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2018.0314
- 4Utrecht University(2025)ニュースリリースuu.nl/en/news/a-pointless-fashion-trend-chimpanzees-wear-bla
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





