2頭で同時にひもを引くテストで、オオカミは7組中5組が成功した。イヌは8組中1組だけだった

2頭で同時にひもを引くとエサが取れる装置で、オオカミは息を合わせて成功した。イヌは8組中1組が1回成功しただけだった。

No.045 8分で読めるえっ度 論文 2019年
金網のフェンスの前で、2頭のハイイロオオカミが並び、地面にたれた1本のロープの両端をそれぞれ口でくわえて、同時に後ろへ引いている。

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  1. 2頭で同時にひもを引く課題で、オオカミはよく成功した
  2. イヌは同時に装置にさわることが少なく、ほぼ失敗した
  3. 飼い犬や、人と組む場合は、結果が違った

人に話すなら

2頭で同時にひもを引かないとエサが取れない装置で試したら、オオカミはちゃんと息を合わせたんだって。イヌは交互に引いちゃって、練習したあとでもほとんど成功しなかったらしいよ。

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読む前に予想しよう

同じように育てると、仲間と協力する課題はイヌのほうがオオカミより上手

イヌは、人とくらすうちに、オオカミよりおだやかで協力的になった。そう考える研究者は少なくありません。では、イヌどうし、オオカミどうしで協力させたら、どちらが上手でしょうか。

オーストリアの研究チームが、同じように育てたオオカミとイヌで試しました。2頭が同時にひもを引かないとエサが取れない装置です。結果は、オオカミの圧勝でした。何も教えずに試すと、オオカミは7組中5組が成功したのに、イヌで成功したのは8組中1組、それも1回だけだったのです。

イヌが失敗した理由は、やる気がなかったからではありませんでした。どうやらイヌは、相手とぶつからないように、同時に装置にさわるのを避けていたらしいのです。

01「イヌのほうが協力上手」という予想と、その反対の予想

イヌは、オオカミから人の手で家畜になった動物です。その過程で、こわがりや攻撃的な性質が弱まり、仲間に寛容になったという考えがあります。この考えに立つと、イヌは人とだけでなく、イヌどうしでも協力が上手なはずです。

一方で、反対の予想もできます。野生のオオカミは、家族の群れでくらしています。獲物を狩るときも、子を育てるときも、なわばりを守るときも、仲間と協力します。

ところが、世界のイヌの約80%は、人に飼われず自由にくらすイヌです。そうしたイヌは、多くの場合、人が出したゴミを1頭でさがして食べます。群れで子育てを助けることも少なく、協力するのは主になわばりを守るときです。この見方に立つと、仲間との協力はオオカミのほうが上手なはずです。

どちらの予想が正しいのか。それを確かめたのが、この研究です。

02同じように育てたオオカミとイヌを、ひも引きの装置で試した

研究したのは、オーストリアのウィーン獣医大学などのサラ・マーシャル=ペシーニ(Sarah Marshall-Pescini)さん、フリーデリケ・ランゲ(Friederike Range)さんたちです。

舞台は、オーストリアの「オオカミ科学センター」です。ここでは、オオカミとイヌが同じように人の手で育てられています。そして、それぞれ2〜6頭の群れを作ってくらしています。オオカミとイヌの育ち方の違いを、できるだけ小さくしてあるのです。実験には、オオカミ12頭とイヌ14頭が参加しました。

使った装置のしくみは、次のとおりです。

  • フェンスの外に、エサをのせた台を置く
  • 台には1本の長いロープが通してあり、両はしがフェンスの内側にたれている
  • 両はしは、1頭では同時にくわえられないほどはなれている
  • 2頭が両はしを同時に引くと、台が近づいてエサが取れる
  • 片方だけを引くと、ロープが台からぬけてしまい、その回は失敗になる

1回の挑戦は2分です。実験をする人は、ついたての後ろにかくれて、動物から見えないようにしました。このひも引きの装置は、チンパンジー、ゾウ、オウム、カラスなど、いろいろな動物の協力を調べるのに使われてきたものです。

03オオカミは息を合わせ、イヌはほとんど成功しなかった

まず、何も教えずに装置を見せました。オオカミ7組とイヌ8組を比べると、オオカミは5組が1回以上成功しました。成功した割合は、組によって挑戦の3〜56%でした。イヌで成功したのは、8組のうち1組が1回だけでした。

次に、1頭でも成功できる練習をさせました。ロープの両はしを近づけておき、2本を口でまとめてくわえて引くことを覚えさせたのです。そのあとで、もう一度2頭で挑戦させました。

それでも、オオカミとイヌの差ははっきり残りました。オオカミは4組のうち3組が成功し、成功の割合は14〜92%でした。イヌは6組のうち2組が、それぞれ1回成功しただけでした。

金網のフェンスの前で、2頭のイヌのうち1頭だけがロープの片はしをくわえて引き、もう1頭は少しはなれた場所でそれを見ている。

04イヌは、相手とぶつからないように装置を避けていたらしい

なぜイヌは失敗したのでしょうか。チームは、何も教えない場合と練習のあとの場合について、それぞれ最初のひと区切り(6回)の挑戦をビデオでくわしく調べました。

まず、やる気には目立った差がありませんでした。2頭が装置の近くに来るまでの時間も、近くにいた時間も、オオカミとイヌではっきりした差はありませんでした。装置をかんだり、前足でひっかいたりする回数も、差はありませんでした。何も教えない段階では、オオカミのほうがロープをよく引きました。けれども練習のあとは、ロープを引く回数の差はなくなりました。それでも、成功したのはオオカミでした。

差が出たのは、「2頭が同時に装置にさわるかどうか」でした。オオカミは、2頭そろって装置にさわることがよくありました。イヌは、その割合が少なかったのです。イヌは、1頭が引いているとき、もう1頭は手を出さない、という形になりがちでした。

けんかが多かったわけでもありません。うなる、かみつこうとするといった行動は、オオカミとイヌを合わせても挑戦の12%でしか起きず、種による差もありませんでした。チームは、イヌはほしいエサをめぐって相手とぶつかるのを避けていたのではないか、と考えています。

オオカミのほうは、さらにむずかしい課題もこなしました。10メートルはなれた2台の装置を、2頭そろって1台ずつ動かす課題では、平均74%の挑戦で両方のエサを取りました。仲がよく、群れの中の順位が近い組ほど、うまくいきました。1頭を10秒早く放す課題もありました。先に入ったオオカミは、相手が来るのを待たないと成功できません。この課題を受けた9頭のうち8頭は、挑戦の55〜94%で成功しました。

05飼い犬なら成功した。イヌの協力は、相手と育ち方しだい

では、イヌは仲間と協力できない動物なのでしょうか。そう決めつけるのは早すぎます。

2014年、イギリスのケンブリッジ大学のリェルカ・オストイッチ(Ljerka Ostojić)さんたちは、同じしくみの装置で飼い犬を試しました。この実験では、イヌどうしの5組がすべて成功しました。イヌは相手の動きと、エサが近づいてくる様子の両方に注意を向けていました。ただし、相手を待つことは苦手でした。

マーシャル=ペシーニさんたちは、結果の違いをこう説明しています。飼い犬はよく訓練されていて、同じ家で一緒にくらすイヌどうしでした。飼い主は、エサをめぐってけんかしないように、ふだんからしつけています。一方、オオカミ科学センターのイヌは、人があまり口を出さずに群れの関係を作っています。エサをめぐる張り合いが強く、ぶつかるのを避ける行動が出やすかったのかもしれません。

さらに2019年、ランゲさんたちは、相手を人にして同じ装置で試しました。すると、オオカミもイヌも、よく知る人と組めば高い割合で成功しました。ただし、動き方が違いました。オオカミは自分から先に動き出しました。イヌは人が動くのを待ち、そのあとについていきました。

イヌが「協力が下手」なのではなく、相手やくらし方によって協力のしかたが変わる。そう考えるほうが、いまの結果に合っています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ひも引きテストは、いろいろな動物で使われてきた

2頭が同時にひもを引く装置は、動物の協力を調べる定番の方法です。これまでに、チンパンジー、マカク(ニホンザルのなかま)、ゾウ、ヨウム、ミヤマガラス、ワタリガラス、ケアなどで試されてきました。多くの動物は、まず1頭で両はしを引く練習をしてから、2頭での課題に成功しています。今回の研究では、オオカミは練習なしでも成功した組がありました。ここに、オオカミの協力の力がよく表れています。

イヌは、なぜ仲間との協力が苦手になったのか

チームは、くらし方の違いに注目しています。オオカミは今も、狩りや子育てで仲間の協力にたよっています。そのため、相手に寛容になり、動きを合わせる力が保たれてきたと考えられます。

一方、イヌは人のそばで、人の出す食べ物にたよってくらすようになりました。仲間と協力しなくても生きていけるので、協力の力を保つ必要が弱まったのではないか。チームはそう考えています。家畜化で「やさしくなった」から協力が上手になる、とは限らないのです。

「イヌはオオカミよりおだやか」は単純すぎる

群れでくらすオオカミとイヌを比べた研究からは、ほかにも違いが見えています。イヌは、順位を示すはっきりした合図をあまり出しません。けれども、いざけんかになると激しくなりやすいと報告されています。エサがある場面では、イヌは相手から距離をとって、ぶつかるのを避けることが多いことも分かっています。

チームは、イヌを「おとなしいオオカミ」と見るのは単純すぎると書いています。イヌは、オオカミとは別の方法で、仲間とのもめごとを処理しているのです。

人間の進化を考えるときの注意

人間は、チンパンジーなどの仲間より、おたがいに寛容で協力的に進化したと考えられています。これを「自己家畜化」と呼び、イヌの家畜化と似た道すじだという説があります。この説に立つと、イヌとオオカミの比べっこは、人間の進化を考える手がかりになります。

けれども、今回の結果は、家畜化が仲間との協力を強めるとは限らないことを示しました。チームは、イヌとオオカミの比較を、人間の「自己家畜化」の手本として使うことには注意が必要だと述べています。

2019年の研究から生まれた新しい考え

ランゲさんたちは、人と組んだときにイヌが「人のあとについていく」ことに注目しました。そして、家畜化の中で、イヌは人に従う性質を強めるように選ばれてきたのではないか、と考えています。人が先に立ち、イヌがついていく。そうすれば、食べ物をめぐるもめごとが起きにくく、人とイヌが安全に一緒に働けるからです。これはまだ一つの仮説で、これから確かめられていく段階です。

06まとめ

2頭が同時にひもを引かないとエサが取れない装置で、オオカミはイヌよりはるかによく成功しました。練習のあとでも、オオカミは4組中3組が何度も成功し、イヌは6組中2組が1回ずつ成功しただけでした。イヌはやる気がなかったのではなく、2頭が同時に装置にさわるのを避けていたようでした。

ただし、よく訓練された飼い犬は、同じ課題を成功させています。人と組めば、イヌもオオカミも成功しました。協力のしかたは、相手と育ち方で変わるのです。

オオカミが息を合わせたこの実験で、使われたのは1本のロープだけでした。2頭が同時に引かないと、ロープはするりと台からぬけてしまいます。

RESEARCH FILE

研究カルテ

オーストリア・エルンストブルン(オオカミ科学センター)

研究チーム
オーストリアのウィーン獣医大学などのチーム(第一著者サラ・マーシャル=ペシーニ、フリーデリケ・ランゲら)
調べた場所
オーストリアの「オオカミ科学センター」(エルンストブルン)
調べた動物
同じように人に育てられ、種ごとに群れでくらすオオカミ12頭とイヌ14頭
調べ方
2頭が同時にひもの両端を引くとエサの台が動く装置で、2頭が協力できるかを試した
分かったこと
オオカミは息を合わせて成功したが、イヌはほとんど成功しなかった。イヌは2頭そろって装置にさわることが少なかった
まだ分からないこと
飼い犬や、仕事をする犬など、ちがう環境で育った犬ではどうなるか
論文
PNAS(2017年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Wolves Work Together Better Than Dogs

Many people think dogs became kind and helpful by living with humans. But are dogs good at working with other dogs?

Scientists in Austria tested wolves and dogs raised in the same way. Food was on a tray behind a fence. Two animals had to pull the two ends of a rope at the same time.

In the first test, five of the seven wolf pairs got the food. Only one of the eight dog pairs got it, and only one time. The dogs were as interested in the task as the wolves. But they rarely touched the rope at the same time. They probably wanted to avoid a fight.

Other studies show a different side of dogs. Well-trained pet dogs did the same task well. Dogs and wolves also did well with a human partner. Wolves led the way, and dogs waited and followed.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did two animals have to do to get the food?エサを取るために、2頭は何をしなければなりませんでしたか。

Q2. In the first test, how many of the eight dog pairs got the food?最初のテストで、犬の8組のうち何組がエサを取りましたか。

Q3. What did dogs do with a human partner?人と組んだとき、犬はどうしましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Marshall-Pescini, S. et al. (2017) Importance of a species' socioecology: Wolves outperform dogs in a conspecific cooperation task. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1709027114
  2. 2Ostojić, L. & Clayton, N. S. (2014) Behavioural coordination of dogs in a cooperative problem-solving task with a conspecific and a human partner. Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-013-0676-1
  3. 3Range, F. et al. (2019) Wolves lead and dogs follow, but they both cooperate with humans. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-019-40468-y
  4. 4ウィーン獣医大学(2017)プレスリリースidw-online.de/de/news682867

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい