リカオンは「くしゃみ」の数で出発を決めているらしい。群れの集まり68回を調べた
出発前の集まりで、くしゃみが多いほど群れは出発した。リーダー格が始めると3回、下の立場の犬が始めると10回ほどが目安だった。

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- 出発前の集まりで、くしゃみが多いほど群れは出発した
- リーダー格が始めると、くしゃみ3回以上で必ず出発した
- 下の立場の犬が始めたときは、10回ほど必要だった
人に話すなら
リカオンって、出かける前に集まってくしゃみをするんだって。くしゃみが多いと出発する。下っぱの犬が言い出しても、くしゃみが10回くらい集まれば出発できるらしいよ。
読む前に予想しよう
リカオンは、下の立場の犬が言い出すと絶対に出発しない
くしゃみが10回ほど集まれば、下の立場の犬が始めた集まりでも出発した。
群れで暮らす動物は、いつ動き出すかを決めなければなりません。1頭だけ先に行けば、はぐれてしまいます。全員がばらばらに動けば、群れでいる意味がありません。では、言葉を持たない動物は、どうやって「そろそろ行こう」を決めているのでしょうか。
アフリカにすむ野生のイヌのなかま、リカオンには、その答えの1つが「くしゃみ」だという研究があります。ボツワナで、出発前の集まり68回をビデオで調べました。すると、くしゃみが多い集まりほど、群れは本当に出発していました。
リカオンの群れには、はっきりしたリーダー格のペアがいます。それなら、リーダーが決めれば済みそうです。ところが、この研究では、下の立場の犬が始めた集まりでも、くしゃみが十分に集まれば出発していました。
01出発の前に、リカオンは「あいさつの集まり」を開く
リカオンは、黒・茶色・白のまだら模様をした犬のなかまです。模様は1頭ずつ違います。アメリカのサンディエゴ動物園によると、群れはふつう5〜20頭です。群れには、子どもを産む中心のオスとメスが1組います。
リカオンの群れは、ひとところで休んだあと、そろって動き出します。その出発の前に、にぎやかなあいさつの集まりを開きます。頭をくっつけ合ったり、体を並べて走ったり、数頭がかたまったりします。研究者のあいだでは、この集まりは群れをまとめる大事な儀式だと考えられてきました。
ただし、集まりを開いても、いつも出発するわけではありません。しばらく騒いだあと、また寝転がってしまうこともあります。出発する集まりと、しない集まりは何が違うのか。そこはよく分かっていませんでした。
02研究チームは、ビデオで「くしゃみ」を1回ずつ数えた
調べたのは、アメリカのブラウン大学のリーナ・ウォーカー(Reena Walker)さんたちです。ウォーカーさんは、ボツワナでリカオンを長く研究している「ボツワナ捕食動物保護トラスト」の研究助手でした。オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のニール・ジョーダン(Neil Jordan)さんたちも加わりました。
舞台は、ボツワナ北部のオカバンゴデルタです。チームは2014年6月から2015年5月まで、5つの群れを車から観察しました。観察した日は合わせて52日です。群れの49頭は、毛の模様で1頭ずつ見分けました。
集まりの始まりは、はっきり決めました。休んでいた1頭が、頭を下げ、口を開け、耳を後ろにたおして立ち上がったら「始まり」です。チームは、だれが始めたのかを記録しました。そして、集まりをビデオにとりました。

ビデオを見ていると、リカオンが鼻から短く強く息をふき出す音がよく聞こえました。チームはこれを「くしゃみ」と呼び、集まりごとに回数を数えました。ほかの犬は、くしゃみの音に驚いたり、くしゃみをした犬の方を見たりはしませんでした。つまり、おどしや危険の合図とは違うようでした。
03出発した集まりでは、くしゃみが平均で約7.5回あった
チームが見た集まりは68回です。このうち、群れが本当に出発したのは28回でした。
くしゃみの数を比べると、違いははっきりしていました。出発した集まりでは、くしゃみは1回の集まりあたり平均約7.5回でした。出発しなかった集まりでは、平均約1.2回です。
チームは、出発するかどうかに関係しそうなことを、いくつも同時に調べました。だれが始めたか。その日の何回目の集まりか。大人のうち何割があいさつに参加したか。そして、くしゃみの数です。この中で、出発を一番よく言い当てたのが、くしゃみの数でした。
何回目の集まりかも、少し関係していました。その日の最初の集まりで出発したのは、34回のうち9回(26%)だけでした。3回目の集まりになると、8回のうち5回(64%)で出発しました。失敗するたびに、次は出発しやすくなっていたのです。
あいさつに参加した大人の割合は、出発とはあまり関係がありませんでした。にぎやかに盛り上がったかどうかより、くしゃみの数のほうが大事だったのです。
04リーダー格が始めると3回、下の立場だと10回が目安だった
次にチームは、集まりを始めた犬の立場で分けました。リカオンの群れでは、えものを食べる順番で立場が分かります。最初に食べるのは、リーダー格のペアとその年の子どもです。次が1〜2歳の若い犬、最後がそれ以外の大人です。
だれが始めたか分かった集まりは57回でした。リーダー格のペアや子どもが始めた集まりは、17回のうち76.5%で出発しました。若い犬が始めた集まりでは27.3%、ほかの大人が始めた集まりでは33.3%でした。
ここで、くしゃみの数が効いてきます。リーダー格が始めた集まりでは、くしゃみが3回以上あれば、一度も失敗しませんでした。下の立場の犬が始めた集まりで同じように確実に出発するには、くしゃみが10回以上必要でした。
くしゃみを賛成の1票と見ると、リーダーが言い出せば少しの賛成で決まり、下の立場の犬が言い出しても、賛成が多ければ決まる。論文は、この様子を「投票」にたとえています。チームは、くしゃみをしたのがどの犬かまでは見分けられませんでした。草木がしげっていたからです。
05でも、くしゃみが本当に「票」なのかはまだ分からない
この研究には、大事な注意点があります。くしゃみの数と出発が「一緒に起きる」ことは分かりました。でも、くしゃみが出発を「決めている」とまでは言えません。論文の著者たち自身が、そう書いています。
別の説明も考えられるからです。群れはもっと別の合図で出発を決めていて、決まったあとに体が準備を始めているだけかもしれません。くしゃみで鼻の中をすっきりさせれば、においをかいだり走ったりしやすくなるかもしれません。著者たちは、このどちらなのかを確かめるには、さらに研究が必要だとしています。
確かめる方法の1つは、くしゃみの録音を流してみることです。くしゃみの音を聞かせるだけで群れが出発しやすくなれば、くしゃみが合図である見込みは高まります。この研究では、そこまではしていません。
また、調べたのは1つの地域の5つの群れ、68回の集まりです。ほかの地域の群れでも同じなのかは、まだ分かっていません。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
群れで一緒に動くことの得
論文によると、群れで暮らす得は、天敵から身を守りやすいこと、情報を分け合えること、えさ場を守りやすいことなどです。その得を受けるには、群れがまとまって動く必要があります。リカオンは子育ても群れでします。サンディエゴ動物園によると、群れの犬たちは、食べたものを口から出して子どもに与えます。一方で、リカオンの群れはリーダー格のペアが強い力を持つ社会です。論文は、下の立場の犬たちの賛成が十分に大きければ、「群れの意思」がリーダーの好みを上回るのかもしれないと書いています。
「みんなで決める」と言われていたが、数えた人はいなかった
リカオンのあいさつの集まりは、1970年ごろから研究者の記録に出てきます。目立って、型が決まっていて、群れをまとめる役目があると書かれてきました。2008年には、サルの群れの決め方を調べていた研究者が「リカオンは群れ全員が参加して決めているのだろう」と述べています。リカオンの群れは協力し合うことで知られていたからです。けれども、それを実際に数えて確かめた研究はありませんでした。ウォーカーさんたちの論文は、出発前の集まりで何が起きているかを数で調べた最初の研究だと、自ら書いています。
「何頭そろえば動く」は、ほかの動物にもある
決めるのに必要な最低限の数を「定足数」と言います。アフリカのミーアキャットでは、2011年の論文があります。「移動の鳴き声」に加わる個体が2頭から3頭に増えると、群れが次のえさ場へ移る確率が急に上がりました。ウォーカーさんたちの論文は、マウンテンゴリラが休み場所を離れる前に、低いうなり声が増えるという報告も紹介しています。
リカオンとミーアキャットの違い
ミーアキャットの研究では、立場の高い個体が鳴いても、下の個体だけが鳴いたときと群れの反応は変わりませんでした。一方、リカオンでは、リーダー格が始めた集まりは少ないくしゃみで決まりました。つまり、リカオンの「1票」は、だれが言い出したかで重みが変わるようです。それでも、下の立場の犬の賛成が十分に集まれば、群れは動きました。
研究方法の限界
くしゃみをしたのがどの犬か、この研究では分かりません。もし同じ犬が何度もくしゃみをしていたら、それは「多くの犬の賛成」ではなく「1頭の強い希望」かもしれません。今のデータでは、この2つを区別できないのです。だれが何回くしゃみをしたかが分かれば、「票」と呼べるかどうかがもっとはっきりするでしょう。
06まとめ
リカオンの群れは、出発前にあいさつの集まりを開きます。ボツワナで68回の集まりを調べると、出発した集まりではくしゃみが平均約7.5回、出発しなかった集まりでは約1.2回でした。
リーダー格が始めた集まりでは、くしゃみが3回以上あれば必ず出発しました。下の立場の犬が始めたときは、10回ほどが必要でした。くしゃみが本当に「票」なのかは、まだ確かめられていません。
動物園でリカオンを見る機会があれば、休んでいた群れが動き出す前の様子に耳をすませてみてください。短く「フッ」と鼻を鳴らす音が、その合図かもしれません。
研究カルテ
ボツワナ・オカバンゴデルタ
- 研究チーム
- ボツワナ捕食動物保護トラストなどのチーム(第一著者リーナ・ウォーカー)
- 調べた場所
- ボツワナのオカバンゴデルタ(モレミ動物保護区とその周り)
- 調べた動物
- 野生のリカオン5つの群れ(学名 Lycaon pictus)
- 調べ方
- 出発前の集まり68回をビデオにとり、くしゃみの数と、集まりを始めた犬の立場を記録した
- 分かったこと
- くしゃみが多い集まりほど出発した。リーダー格が始めると、少ないくしゃみで決まった
- まだ分からないこと
- くしゃみが本当に「票」なのか、出発の準備で鼻をすっきりさせているだけなのか
- 論文
- Proceedings of the Royal Society B(2017年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
African wild dogs live and hunt in groups called packs. Before a pack leaves its resting place, the dogs have a noisy meeting. But the pack does not always leave after the meeting.
Scientists in Botswana filmed 68 of these meetings in five packs. They counted the sneezes in each meeting. When the pack left, there were about 7.5 sneezes on average. When the pack stayed, there were only about 1.2 sneezes.
The leader dogs also made a difference. When a leader started the meeting, three sneezes were enough. When a lower dog started it, the pack needed about ten sneezes.
The scientists say the sneezes may work like votes. But they are not sure yet. The dogs may just be clearing their noses before they run.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many meetings did the scientists film?研究者たちは集まりを何回撮影しましたか。
5つの群れの集まりを、合わせて68回撮影しました。
Q2. When a leader started the meeting, how many sneezes were enough?リーダー格が集まりを始めたとき、くしゃみは何回で十分でしたか。
リーダー格が始めたときは3回で十分でした。下の立場の犬だと10回ほど必要でした。
Q3. What are the scientists not sure about?研究者たちがまだはっきり分かっていないことは何ですか。
鼻をすっきりさせているだけの可能性もあり、くしゃみが票なのかはまだ確かめられていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Walker, R. H. et al. (2017) Sneeze to leave: African wild dogs (Lycaon pictus) use variable quorum thresholds facilitated by sneezes in collective decisions. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2017.0347
- 2同論文の全文(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5597819/
- 3Bousquet, C. A. H. et al. (2011) Moving calls: a vocal mechanism underlying quorum decisions in cohesive groups. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2010.1739
- 4San Diego Zoo Wildlife Alliance「Painted Dog (African Hunting Dog)」animals.sandiegozoo.org/animals/painted-dog-african-hunting-
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





