アリに似たクモの母が、子に乳を飲ませていた。授乳は約38日、子が大人の一歩手前まで続く
アリに似たハエトリグモの母は、体から乳を出して子を育てる。子は約38日飲み続け、乳を止めると全滅した。大人になった娘だけが巣に戻れた。

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- アリにそっくりなクモの母は、体から乳を出して子に飲ませる
- 子は自分で狩りができるようになっても、乳を飲み続けた
- 大人になった娘は巣に戻れたが、息子は攻撃されて追い出された
人に話すなら
クモの中に、お母さんが乳を出して子どもに飲ませる種類がいるんだって。子どもは1か月以上飲み続けて、大人になった娘だけは巣に戻ってこられるらしいよ。
読む前に予想しよう
乳を出して子に飲ませる動物は、哺乳類だけだ
中国の研究で、ハエトリグモの一種の母が乳を出し、子が約38日飲み続けることが分かった。
母が体から乳を出して、子に飲ませる。これは哺乳類だけの特徴だと、多くの人が思っています。「哺乳類」という名前も、乳で子を育てることから来ています。
ところが、中国の研究チームが、乳で子を育てるクモを見つけました。アリにそっくりな姿をした、ハエトリグモの一種です。母は体から乳を出し、子は生まれてから約38日、大人の一歩手前になるまでそれを飲み続けました。母の乳を止めると、生まれたばかりの子はすべて死にました。
このクモの子育ては、乳だけではありません。このクモの母は、子が大人になったあとも世話を続けていました。大人になった子の世話は、これまで人間やゾウなど、長生きで群れをつくる一部の脊椎動物でしか知られていなかったのです。
01巣にいつまでも母がいる、変わったハエトリグモ
研究したのは、中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園のチェン・ジャンチー(Zhanqi Chen)たちのチームです。植物園は、中国の雲南省にあります。調べたのは「トクセウス・マグヌス」という学名の、東南アジアにすむハエトリグモでした。体はアリそっくりで、巣をつくってくらしています。
チームが最初に気づいたのは、野外での巣の様子でした。子が生まれたあとも、母が何週間も巣にとどまっていたのです。このクモの巣には、2匹以上の大人や、大人のメスと数匹の子が一緒にいることがよくありました。大きな群れをつくらないと考えられていたクモとしては、珍しいことです。
そこでチームは、実験室で巣を作らせて観察しました。すると、子グモに食べ物を運んでくる母の姿は、一度も見られませんでした。それなのに、子はちゃんと大きくなっていきます。子は何を食べていたのでしょうか。
02子グモは、母のおなかの穴から出る乳を飲んでいた
顕微鏡でくわしく見ると、答えが分かりました。母のおなかの下側には、卵を産むための小さな穴があります。子グモは、そこから出てくる液のしずくを飲んでいたのです。
生まれたばかりの子は、まず巣の表面に母が残したしずくを飲みます。1週間ほどたつと、母のおなかの穴から直接飲むようになりました。チームはこの液を「乳」と呼んでいます。分析すると、乳には糖、脂肪、たんぱく質がふくまれていました。たんぱく質は牛乳の4倍近くあり、脂肪と糖は牛乳より少なめでした。

乳が本当に必要かも確かめました。生まれたばかりの子がいる巣で、母のおなかの穴をふさいだのです。乳を飲めなくなった子は、10日以内にすべて死にました。生まれてしばらくの子は、乳がなければ生きられません。
03自分で狩りを始めても、子は乳を飲み続けた
子グモは、生まれて20日ほどで巣の外へ出て、自分で獲物をとり始めます。ところが、それでも乳を飲むのをやめませんでした。乳を飲む期間は、生まれてから約38日まで続きました。ちょうど大人の一歩手前の段階です。
この間に、子の体長は生まれたときの0.9ミリから5.3ミリまで大きくなります。大人になるのは生まれて53日ほどで、大人の体長は平均6.6ミリです。つまり子は、大人に近い大きさになるまで乳を飲んでいたことになります。
狩りができるようになった後の乳には、どんな意味があるのでしょうか。中国科学院の発表によると、チームは19の巣で生まれた子187匹を観察しました。母の世話と乳を受けた子は、76%が生き残りました。生後20日で母から離された子は、50%しか生き残りませんでした。論文は、乳は初めは子が生きるのに欠かせず、後になると子の狩りを補う役目をしていると考えています。
04大人になった娘は巣に戻れたが、息子は追い出された
この子育てには、続きがあります。母は、子が大人の一歩手前になるまで、娘も息子も同じように扱いました。ところが子が大人になると、扱いが変わります。巣に戻ってこられたのは、娘だけでした。大人になった息子が戻ろうとすると、攻撃されて巣から追い出されたのです。
チームは、きょうだいどうしの近親交配を防ぐためかもしれないと考えています。また、母を巣から取りのぞくと、大人になった子のメスの割合が大きく下がりました。母がいる巣でだけ、大人の子にメスが多くなっていたのです。母は乳を出すだけでなく、巣をそうじし、こわれた所を直し、小さな寄生虫を取りのぞいていました。
05「クモの授乳」には、まだ分からないことが多い
研究に加わっていない研究者も、この結果を評価しました。イギリスのエクセター大学で動物の行動を研究するニコール・ロイル(Nicole Royle)は、無脊椎動物にも長い子育てがあることを示した、最もくわしい研究だと述べています。
一方で、このクモの乳と哺乳類の乳を同じものと考えてよいかは、まだ分かりません。チェンは、母と子のやりとりや乳を与える期間といった行動の面で、哺乳類に似ていると話しています。けれど、乳がどの器官で、どんなしくみで作られるのかは、まだ調べられていません。
大人になった子の世話が、子に長い目で見てどんな得をもたらすのかも分かっていません。哺乳類のボノボでは、母が大人の息子を助け、仲間うちの順位やメスをめぐる争いで有利にすることが知られています。クモの娘たちが、母の巣に戻ることで何を得ているのかは、これからの研究のテーマです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
クモの乳は、どこから進化したのか
このクモの乳がどうやって生まれたのかは、まだ分かっていません。チームは1つの仮説を出しています。クモの中には、育たない卵(栄養卵)を産み、生まれた子にえさとして食べさせる種がいます。乳は、この栄養卵から進化したのではないか、というのです。ただし、栄養卵は一度に与えるだけですが、乳はくり返し与えられるという違いがあります。
2019年には、チェンたちが、残された謎を整理した論文を出しました。そこでは、乳がどこでどうやって作られるのか、まだ証拠がないと書かれています。哺乳類の乳には、子を病気から守る働きもあります。クモの乳に同じ働きがあるかどうかも、調べられていません。
哺乳類の乳を出す器官が何のために生まれたのかについても、いくつかの説があります。生まれたばかりの子に栄養を足すため。昔の哺乳類が産んだやわらかい殻の卵を、しめらせておく水分を与えるため。そして、子を感染から守るため、という説です。クモの乳がどの説に近いのかを確かめるには、乳の成分や作られ方をもっと調べる必要があります。
乳を出すのは、母にとって大きな負担
哺乳類では、乳を出すことは、子を産み育てる中で最も負担の大きい部分だとされています。乳を出しているメスは、子を産んでいないメスより、66〜188%も多くのエネルギーを食べ物からとっているという報告があります。2019年の論文は、この負担の大きさが、哺乳類以外で乳があまり進化しなかった理由の1つだろうと考えています。
小さなクモが、なぜこの負担にたえられるのかは分かっていません。乳を出すことで、母自身の寿命や、次に子を産む回数がどう変わるのか。今後の研究が待たれています。
ほかの動物との比較
子に栄養の液を与える無脊椎動物は、ほかにもいます。ツェツェバエなどのハエ、ゴキブリ、シデムシ、ハチ、アリ、サソリなどです。ただし2019年の論文によると、それらは子が生まれる前か、生まれた直後にだけ液を与えます。大人の一歩手前まで乳を与える点と、大人になった子まで世話をする点で、このクモは違います。大人になった子を世話する無脊椎動物は、このクモが初めての記録です。
脊椎動物でも、哺乳類以外の「乳」が見つかっています。2024年には、足のない両生類アシナシイモリの一種で、母が乳を出すことが報告されました。卵からかえった子は、2か月にわたって母の総排出口(ふんや卵の出口)から出る乳を飲んでいました。この乳は、主に脂肪と炭水化物でできていました。乳による子育ては、哺乳類以外でも何度か別々に進化してきたようです。
06まとめ
アリにそっくりなハエトリグモの一種は、母が体から乳を出して子を育てていました。子は生まれてから約38日、自分で狩りができるようになった後も乳を飲み続けます。乳を止めると、生まれたばかりの子はすべて死にました。
母の世話は、子が大人になっても続きました。ただし巣に戻れたのは娘だけで、息子は追い出されました。体長1センチにも満たないクモの巣の中で、哺乳類によく似た子育てが行われていたのです。
研究カルテ
中国・雲南省
- 研究チーム
- 中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園のチーム(第一著者チェン・ジャンチー)
- 調べた場所
- 中国・雲南省の研究所(実験室の巣)
- 調べた動物
- アリに似たハエトリグモの一種(学名 Toxeus magnus)
- 調べ方
- 巣の中の母と子を観察し、乳を出す穴をふさいだり、母を取りのぞいたりして比べた
- 分かったこと
- 子は乳がないと育たない。乳は大人の一歩手前まで続き、母の世話は大人になっても続いた
- まだ分からないこと
- 乳がどう作られるのか。乳を出すことが母にどれほど負担なのか
- 論文
- Science(2018年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Most people think only mammals feed their babies milk. But scientists in China found a spider that does it too. It is a small jumping spider that looks like an ant.
The mother makes milk drops from a small hole under her body. Her babies drink the milk. The milk has almost four times as much protein as cow's milk. When the scientists blocked the hole, all the newborn babies died within ten days.
The babies start to hunt at about 20 days old. But they keep drinking milk until about 38 days old. By then, they are almost adults.
The mother takes care of her children even after they grow up. Adult daughters can come back to the nest. But adult sons are attacked and driven away from the nest.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What does the spider look like?このクモは何に似ていますか。
a small jumping spider that looks like an ant(アリに似ている)とあります。
Q2. Until about what age do the babies drink milk?子グモはおよそ生後何日まで乳を飲みますか。
they keep drinking milk until about 38 days old とあります。20日は狩りを始めるころです。
Q3. What happens to the adult sons?大人になった息子はどうなりますか。
adult sons are attacked and driven away from the nest(攻撃されて巣から追い出される)とあります。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Chen, Z. et al. (2018) Prolonged milk provisioning in a jumping spider. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aat3692
- 2Dong, B. et al. (2019) Prolonged milk provisioning and extended maternal care in the milking spider Toxeus magnus: biological implications and questions unresolved. Zoological Research 論文確認済みdoi:10.24272/j.issn.2095-8137.2019.041
- 3Mailho-Fontana, P. L. et al. (2024) Milk provisioning in oviparous caecilian amphibians. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adi5379
- 4Chinese Academy of Sciences(2018)Spider mothers feed their offspring a milk-like substanceenglish.cas.cn/head/201812/t20181203_201749.shtml
- 5シーサンパンナ熱帯植物園(2018)研究紹介記事en.xtbg.ac.cn/ns/es/201811/t20181130_201667.html
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





