最高気温が26℃をこえる日、キンカチョウの親は卵のそばで鳴く。その声でヒナの育ち方が変わった
暑い日にキンカチョウの親が出す声を、卵のうちに聞かせた。するとヒナは暑い巣では小さめに育ち、おとなになると暑めの巣箱で子育てした。

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- キンカチョウの親は、暑い日に卵のそばで特別な声を出す
- その声を卵のうちに聞いたヒナは、暑い巣で小さめに育った
- 親が卵に向けた合図なのかは、まだ議論が続いている
人に話すなら
キンカチョウって鳥は、暑い日に卵のそばで特別な声を出すんだって。その声を卵のうちに聞いたヒナは、暑い巣だと小さめに育つらしい。小さいほうが体の熱を逃がしやすいからかも、って考えられてるよ。
読む前に予想しよう
キンカチョウのヒナは、卵の中で聞いた親の声で育ち方が変わる
暑い日の親の声を聞かせたヒナは、暑い巣ほど小さめに育った。
鳥の母親は、卵を産んだあとは、卵の中の栄養やホルモンを変えることができません。けれども、殻の外から中へ届くものもあります。その1つが音です。
オーストラリアの研究チームが、小鳥のキンカチョウでこの音に注目しました。キンカチョウの親は、その日の最高気温が26℃をこえると、卵のそばで特別な声を出します。チームはこの声を、機械で温めている卵に聞かせました。するとヒナは、暑い巣ほど小さめに育ちました。
親が子の育ち方を、いまの気温に合わせて整える。そんな例は、体温が気温で変わる動物では見つかっていました。けれども鳥のように体温を一定に保つ動物でもできるのかは、分かっていませんでした。卵の中で聞く声がその役目をしているかもしれない、という研究です。
01暑い日、キンカチョウの親は卵のそばで特別な声を出した
キンカチョウは、オーストラリアの乾いた土地にすむ小鳥です。気温の変化が大きい環境で、条件がよいときに子育てをします。研究したのは、オーストラリアのディーキン大学のチームです。ミレーヌ・マリエット(Mylene Mariette)さんと、キャサリン・ブキャナン(Katherine Buchanan)さんの2人です。
チームは屋外の鳥小屋で、野生のキンカチョウの子孫を飼っていました。そして卵を温めている親の声を録音しました。すると、つがいの相手が巣を離れ、親が1羽で卵を温めているときに、ある声を出すことが分かりました。チームはこの声を「抱卵中の声(incubation call)」と呼んでいます。
266回の録音を調べると、この声には2つの決まりがありました。1つめは、ヒナがかえる予定の日の5日前からしか出さないことです。2つめは、その日の最高気温が26℃をこえた日にしか出さないことです。
02卵を機械で温め、声だけを聞かせる実験をした
この声に、本当にヒナを変える力があるのでしょうか。それを確かめるため、チームは卵を親から離し、機械で温めました。温度はどの卵も同じ37.7℃です。
ふ化までの最後の5日間、一部の卵には「抱卵中の声」を録音で聞かせました。別の卵には、親がふだん仲間と連絡をとるときの声を聞かせました。違うのは、卵が聞いた声だけです。
かえったヒナは、鳥小屋の巣箱に戻されて育ちました。巣箱は、日当たりによって暑いものと涼しいものがありました。こうして、聞いた声と巣の暑さの組み合わせが、ヒナの育ち方にどう影響するかを比べました。
03暑い日の声を聞いたヒナは、巣が暑いほど小さく育った
巣立ち前の生後13日目に、ヒナの体重を量りました。暑い日の声を聞いたヒナは、巣が暑いほど体重が軽くなりました。ふつうの声を聞いたヒナは逆で、巣が暑いほど重くなりました。調べたのは、45の巣の130羽です。
同じ温度で温められた卵でも、聞いた声によって、暑さへの育ち方の反応が逆になったのです。 この差は生後1日目から見え始めていました。ただし、かえったときの体重には差がありませんでした。
この差は、どちらかのヒナが多く死んだせいではありませんでした。生き残った割合は、声の種類で変わらなかったからです。また、暑い日の声を聞いたヒナは、暑い巣にいると、えさをねだるときに声を出しやすくなりました。チームは、ねだり方の違いが育ち方の違いにつながった可能性を考えています。

04おとなになると、暑めの巣箱で子育てした
チームは、実験で育った鳥がおとなになってからも追いかけました。すると、子育てをした巣箱に違いが出ました。暑い日の声を聞いた鳥は、ふつうの声を聞いた鳥よりも、暑めの巣箱で子育てしていました。
もう1つ、子どもの数も調べました。ヒナのころ暑い巣で体重が軽かったメスほど、最初の子育ての年に多くのヒナを巣立たせていました。涼しい巣では、逆に体重が重かったメスのほうが多くのヒナを巣立たせました。これは聞いた声に関係なく、すべてのメスで見られた傾向です。
つまり、暑い巣では小さめに育つことが、のちの子育てで有利だったと考えられます。そして暑い日の声は、ヒナをその育ち方へ向かわせていました。チームはこの結果から、親の声がヒナを暑さに備えさせていると結論しました。
05「親から卵への合図」なのかは、議論が続いている
この発見には、別の見方もあります。カラム・マクダーミッド(Callum McDiarmid)さんたち別のチームは、2018年に反論の論文を出しました。野生の巣箱と飼育下の鳥で、合わせて1696時間分の音を録音して調べた研究です。
その結果、この声は暑くなるほど増えました。ところが、ふ化の直前だけでなく、卵を温めている期間全体や、ヒナを育てている期間にも出ていました。子育てをしていない鳥も、暑いときにこの声を出しました。ビデオでは、鳥があえいで息をしているときに出ていました。そこでこのチームは、卵に向けて進化した合図とは言いにくいと考えました。
マリエットさんたちは2019年に、この反論のデータを分析し直しました。そして、ふ化が近い時期に声がずっと増えていると反論しました。一方、マリエットさんたち自身も2018年に、この声は卵がいなくても出ることを報告しています。今では、親が暑いときに出す声を、卵の中のヒナが「聞きとっている」という見方も示されています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
小さく育つことが得になるかもしれない理由
論文によると、世界の多くの野生の鳥で、気温が上がるにつれて体が小さくなる傾向が見つかっています。ふつう、小さく育つことは子にとって不利だと考えられてきました。
けれども論文は、暑い場所では小さいことが得になる可能性を2つあげています。1つは、体が小さいほど熱を逃がしやすいことです。もう1つは、暑い中で急いで大きくなると、体の細胞が傷みやすくなるかもしれないことです。今回の実験で、暑い巣で小さめだったメスが多くの子を残したことは、この考えと合います。
実験のくふうと、残る弱点
暑い日に親が鳴くと、卵は声と暑さの両方を同時に受けます。これでは、ヒナが変わった原因が声なのか暑さなのか分かりません。そこでチームは、卵をすべて同じ温度の機械で温め、聞かせる声だけを変えました。比べる相手にも、何も聞かせないのではなく、親のふつうの声を聞かせました。こうすれば、「親の声なら何でもよい」という可能性と分けて考えられます。
一方で、弱点もあります。子どもの数との関係は、オスでは1年目に似た傾向が見られただけで、2年目には見られませんでした。暑めの巣箱を使う傾向も、オスとメス、1年目と2年目で、はっきり出た組み合わせと出なかった組み合わせがありました。調べた鳥の数も数十羽ずつで、多くはありません。
おとなになっても、暑さへの強さが違った
この研究のあとも、マリエットさんたちは、卵のころに声を聞かせた鳥を調べ続けました。2022年の論文では、卵のころに声を聞かせたおとなの鳥を、気温27℃から44℃まで少しずつ上げた部屋に入れました。すると、卵のころ暑い日の声を聞いた鳥のほうが、朝の実験で最も高い温度までたえられることが多くありました。少し低い温度では、体の水分をむだにしにくいことも分かりました。
2026年には、アメリカのクレムソン大学などのチームが、ふ化直前のヒナの脳を調べました。体温や成長を調節する部分で、働く遺伝子を比べたのです。暑い日の声を聞いた卵では、脳の血管にかかわる遺伝子の働き方が変わっていました。卵が経験したのは、温度ではなく声だけです。
卵の中で音を聞く鳥たち
鳥のヒナが卵の中で音を聞けることは、前から知られていました。かえってすぐ歩き出すタイプの鳥では、卵の中で聞く音が、ふ化のタイミングをそろえるのに役立つことが分かっています。
オーストラリアムシクイの仲間の2種では、卵を温める母親の声を、かえったヒナがまねることが報告されています。えさを運ぶ母親は、よその鳴き方をするヒナを冷たくあつかう傾向がありました。キンカチョウの研究は、卵の中で聞く声が、体の育ち方まで変えうることを示した点で新しいものでした。
06まとめ
キンカチョウの親は、最高気温が26℃をこえる日に、ふ化の5日前から卵のそばで特別な声を出します。その声を卵のうちに聞いたヒナは、暑い巣ほど小さめに育ちました。おとなになると、暑めの巣箱で子育てしました。
一方で、この声が卵のための合図として進化したのかは、研究者のあいだで議論が続いています。親が暑さであえぐときに出る声を、ヒナが聞きとっている可能性もあります。
どちらにしても、卵の殻ごしに届いた声が、ヒナの育ち方を変えていました。実験で声を聞かせたのは、ふ化までの最後の5日間だけです。そのわずかな期間に聞いた声の違いが、生後13日目の体重の違いになって表れました。
研究カルテ
オーストラリア・ジーロング(ディーキン大学)
- 研究チーム
- オーストラリアのディーキン大学のミレーヌ・マリエットとキャサリン・ブキャナン
- 調べた場所
- オーストラリア・ディーキン大学の屋外の鳥小屋と実験室
- 調べた動物
- キンカチョウ(学名 Taeniopygia guttata)
- 調べ方
- 卵を機械で温め、ふ化前の5日間に「暑い日の声」かふつうの声を聞かせ、ヒナの育ち方を比べた
- 分かったこと
- 暑い日の声を聞いたヒナは、巣が暑いほど小さめに育った。おとなになると暑めの巣箱で子育てした
- まだ分からないこと
- この声は親から卵への合図として進化したのか。卵が声を聞きとっているだけなのか
- 論文
- Science(2016年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Zebra finches are small birds that live in dry parts of Australia. On hot days, a parent sitting on the eggs makes a special call. It makes this call only when the day is hotter than 26 degrees.
Scientists kept some eggs warm in a machine. Some eggs heard the hot day call. Other eggs heard a normal call.
After the babies came out, they grew up in nest boxes. Some boxes were hot, and some were cool. The babies that heard the hot day call grew smaller in hot boxes. Later, they used warmer boxes for their own babies.
Other scientists do not agree on one point. They found that adult birds make this call when they are hot, even with no eggs. So the call may not be a message for the eggs. But the babies inside the eggs still hear it.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. When does the parent make the special call?親はいつ特別な声を出しますか。
親が声を出したのは、最高気温が26℃をこえた日だけでした。
Q2. What happened to the babies that heard the hot day call?暑い日の声を聞いたヒナはどうなりましたか。
暑い日の声を聞いたヒナは、巣が暑いほど体重が軽くなりました。
Q3. Why do some scientists not agree?なぜ賛成しない研究者がいるのですか。
子育てをしていない鳥も、暑いとこの声を出していました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Mariette, M. M. & Buchanan, K. L. (2016) Prenatal acoustic communication programs offspring for high posthatching temperatures in a songbird. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aaf7049
- 2Mariette, M. M. et al. (2018) Parent-embryo acoustic communication: a specialised heat vocalisation allowing embryonic eavesdropping. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-018-35853-y
- 3McDiarmid, C. S., Naguib, M. & Griffith, S. C. (2018) Calling in the heat: the zebra finch "incubation call" depends on heat but not reproductive stage. Behavioral Ecology 論文確認済みdoi:10.1093/beheco/ary123
- 4Pessato, A., McKechnie, A. E. & Mariette, M. M. (2022) A prenatal acoustic signal of heat affects thermoregulation capacities at adulthood in an arid-adapted bird. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-022-09761-1
- 5Clemson University(2026)Parents' calls help baby zebra finches prepare for future heat even before they're hatchednews.clemson.edu/parents-calls-help-baby-zebra-finches-prepa
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





