コトドリのオスは、メスが去ろうとすると「天敵が来た」さわぎを1羽で演じていた
コトドリのオスは、メスが去ろうとしたときと交尾の間だけ、小鳥の群れが天敵をさわぐ声を1羽でまねた。本物の小鳥もそのまねに集まってきた。

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- オスは、小鳥が何種類も集まってさわぐ声を1羽でまねた
- そのまねは、メスが去ろうとした直後と交尾の間だけに出た
- 本物の小鳥も、そのまねを流すと本物のさわぎと同じように集まった
人に話すなら
コトドリっていう鳥のオス、メスが帰ろうとすると、小鳥の群れが「天敵だ!」ってさわいでる音を1羽でまねするんだって。本物の小鳥もだまされて寄ってくるくらい上手らしいよ。
読む前に予想しよう
コトドリのオスは、天敵が近くにいるときだけ「小鳥のさわぎ」のまねをする
天敵がいる場面では一度も見られず、メスが去るときと交尾の間だけだった。
森の中で、小鳥たちが急にさわぎ出すことがあります。何種類もの鳥が集まって、警戒の声を浴びせかけます。近くにヘビやフクロウなどの天敵がひそんでいる、というしるしです。このさわぎを、たった1羽で、しかも求愛の最中に再現している鳥がいます。
オーストラリアのコトドリです。オーストラリアのウロンゴン大学のアナスタシア・ダルジール(Anastasia Dalziell)さんたちのチームは、野生のコトドリのオス11羽の声を分析しました。オスは、小鳥3種類以上が一緒にさわぐ声を1羽でまねていました。そして、その声を出すのは、メスが去ろうとした直後と、交尾の間だけでした。
コトドリは、ものまねが上手な鳥として昔から知られています。ただ、オスがなぜ求愛の中でものまねをするのかは、よく分かっていませんでした。研究チームは、このものまねはメスへのアピールではなく、メスを引き止めるための「ウソ」なのかもしれないと考えています。
01コトドリは、森の地面に舞台を作って踊る
コトドリは、オーストラリア南東部のしめった森にすむ鳥です。尾まで入れると80〜100センチほどになります。オスの尾羽は、広げると古い弦楽器の「竪琴」のような形になります。地面で虫やクモなどを探して食べます。
コトドリの歌は、およそ80%がものまねだとされています。森にいる鳥の声などを正確にまねるのです。オスだけでなく、メスもものまねをします。
冬になると、オスは自分のなわばりに、直径1〜2メートルの土の盛り上がりをいくつか作ります。これが求愛の舞台です。メスがやって来ると、オスは尾羽を頭の上までかぶせるように広げ、決まった順番で4種類の歌を歌いながら踊ります。メスが産む卵は1個だけで、オスは子育てにまったく加わりません。
4種類の歌のうち、ものまねが入るのは最後の小さな声の歌だけです。研究チームはこの歌を「D歌(Dソング)」と呼び、その中身を調べました。
02オスは小鳥3種類以上のさわぎ声を、羽音まで入れてまねた
チームは2007〜2009年、オーストラリア南東部のシャーブルックの森で、オス11羽のD歌を録音しました。1回のD歌の長さは平均約22秒でした。
比べる相手として、本物の小鳥たちのさわぎも録音しました。地面にゴムのヘビの模型や、フクロウのはく製を置きます。さらに小鳥の警戒の声をスピーカーで流すと、多いときには40羽ほどの小鳥が集まってきました。
D歌と本物のさわぎを、音の形を描いた図にして比べました。D歌の中身の多くは、同じ森にすむ3種類の小鳥の警戒の声でした。声の特徴を数字にして分類すると、オスのまねの多くは本物の声と同じグループに入りました。それほど正確なまねだったのです。
オスのまねは、1種類の鳥の声ではありませんでした。1回のD歌の中に、平均4.3種類(3〜6種類)の鳥の警戒の声が次々に出てきました。2羽が同時に鳴いているように、声を重ねていました。片方の声を小さくして、遠くにもう1羽いるように聞かせることもありました。11羽のうち7羽の録音には、小鳥が短く飛び回るときの羽音のまねまで入っていました。
03まねの声を流すと、本物の小鳥が集まってきた
人の耳でそっくりでも、鳥がだまされるとは限りません。そこでチームは2009年9月、シャーブルックの森で小鳥に聞かせる実験をしました。
聞かせた音は3種類です。①オスのD歌、②本物の小鳥のさわぎ、③オスがふだん木の上で歌う、ものまねの多い別の歌、です。それぞれ15回、毎回ちがう場所で、20秒の音を6回くり返して流しました。そしてスピーカーから10メートル以内に近づいてきた鳥の数と種類を、2人で数えました。
結果、D歌を流したときには、本物のさわぎと同じくらいの数と種類の小鳥が集まりました。③の別の歌には、小鳥はほとんど反応しませんでした。D歌は、本物の小鳥が「天敵がいる」と受け取るほど正確だったのです。

04D歌が出たのは、メスが去るときと交尾の間だけだった
次にチームは、オスがどんな場面でD歌を歌うのかを調べました。2014〜2018年、ブルーマウンテンズ国立公園の森で、盛り土のまわりに自動カメラを置きました。動くものがあると60秒間、映像と音を記録するカメラです。盛り土の上のコトドリをとらえた映像は1,020本ありました。
その中から、オスの踊りを見たメスが、交尾せずに盛り土から出ていった場面を26回見つけました。オスは12羽です。すべてのオスが、毎回、メスが出ていった直後にD歌を歌い始めました。メスが出てから歌い始めるまでは約2秒でした。去ったメスが声の聞こえる範囲にしばらく残ることや、盛り土に戻ってくることもありました。
交尾の場面は8回記録できました。オスは8回とも、交尾の始まりと同時にD歌を歌い始めました。交尾の長さは平均45秒(42〜49秒)でした。鳴き鳥の仲間で2秒を超える交尾はとても珍しいので、コトドリの交尾は特別に長いことになります。交尾中、オスは自分の体の前で羽を打ちふっていました。
反対に、天敵がいる場面でD歌を歌うオスは、一度も見られませんでした。研究チームは1,300本以上の映像と、何千時間もの観察で確かめています。
05「ウソの非常事態」でメスを引き止めているのかもしれない
チームは、D歌が、メスが天敵に対してとる反応を利用している、と考えています。森のさわぎは、ヘビ、大きなトカゲ、ネコ、キツネ、フクロウ、タカなどのまわりで起きます。どれもコトドリやそのひなにとって危険な相手です。近くに天敵がいると思えば、メスはむやみに動かず、その場にとどまるかもしれません。
このように、相手がもともと持っている反応を利用して、自分に都合よく動かすしかけを「感覚のわな」と呼びます。チームは、オスの複雑なものまねは、このわなとして発達したのではないかと考えています。メスがだまされにくくなれば、オスのまねはさらに精巧になる。そんな、オスとメスのいたちごっこが続いた結果かもしれない、というのです。
ただし、大事な点が確かめられていません。メスが本当にD歌にだまされて動きを止めるのかは、まだ実験されていないのです。論文自身も、メスにD歌と本物のさわぎを聞かせて反応を比べる実験が必要だと書いています。
ほかの説明もありえます。D歌は、オスの能力の高さを見せるアピールかもしれません。交尾中の無防備な2羽を、本物の天敵から守るための声かもしれません。チームは、これらの説では「なぜ求愛のほかの場面ではまねをしないのか」「なぜメスが去るときなのか」をうまく説明できないとしています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「美しいから選ばれた」という考えへの問い
オスのはでな羽や歌は、なぜ生まれたのでしょうか。チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)は、メスが「美しいもの」を好んで選んできたからだと考えました。一方で、オスとメスの利害がぶつかり合うことで、はでな行動が生まれることもあると考えられています。コトドリの研究は、鳥の複雑な歌の一部が、メスの好みに合わせるためではなく、メスをあざむくために発達した可能性を示しました。
ほかの動物にも、ウソの警報でメスを引き止める例がある
論文は、似た例として2つの動物を挙げています。レイヨウの一種トピのオスは、メスが求愛の場所から出ていこうとすると、ウソの警戒の声を出します。メスが立ち去るのが遅れ、オスは交尾の回数を増やせます。アワノメイガというガのオスは、天敵のコウモリが出す超音波に似た音を出します。するとメスは動きを止め、オスは交尾しやすくなります。コトドリが特別なのは、警報の声を1つまねるのではなく、「何種類もの鳥がさわぐ場面全体」を1羽で作り出している点です。
メスのコトドリも、ものまねの名人だった
長い間、コトドリのものまねはオスのアピールのためだけのものと考えられ、メスの声は「めったに出さない、意味のないもの」とされてきました。ところが2016年、ダルジールさんたちはメス15羽を調べ、11羽がものまねをすることを報告しました。まねた鳥は19種類で、タカの声もまねていました。メスは巣を守るときによくものまねをしていました。一方、オスとの求愛の場面では、メスはまったく声を出しませんでした。求愛の場では、メスは聞く側にまわっているのです。
06まとめ
コトドリのオスは、求愛の最後の歌の中で、小鳥が何種類も集まって天敵をさわぎ立てる声を、1羽でまねていました。声を重ね、遠近をつけ、羽音まで入れたそのまねは、本物の小鳥を集めるほど正確でした。オスがこの声を出したのは、メスが盛り土から去った直後と、平均45秒の長い交尾の間だけでした。
メスが本当にだまされているのかは、まだ確かめられていません。それでも、ものまねで有名な鳥の歌の一部が、天敵のいない森に「天敵がいるさわぎ」を作り出していたことは、録音と映像に残っています。
研究カルテ
オーストラリア・ビクトリア州
- 研究チーム
- オーストラリアのウロンゴン大学、アメリカのコーネル大学などのチーム(第一著者アナスタシア・ダルジール)
- 調べた場所
- オーストラリア南東部のシャーブルックの森とブルーマウンテンズ国立公園
- 調べた動物
- 野生のコトドリ(学名 Menura novaehollandiae)
- 調べ方
- オス11羽のまねの声を分析し、小鳥に聞かせる実験をした。自動カメラで求愛と交尾の様子を記録した
- 分かったこと
- オスは小鳥の群れのさわぎを1羽でまね、メスが去るときと交尾中だけにその声を出した
- まだ分からないこと
- メスがこのまねにだまされて動きを止めるのかは、まだ確かめられていない
- 論文
- Current Biology(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
The superb lyrebird lives in forests in southeastern Australia. It is famous for copying the songs of other birds. Males dance and sing on small hills of soil to attract females.
Scientists recorded the last song of the dance from eleven males. In this song, one male copied many small birds calling together. Small birds make this noise when they find a snake or an owl.
When the scientists played the male's song, real small birds came close. The birds acted as if there was real danger.
Cameras showed that males sang this song only at two times. One was right after a female left, and the other was during mating. The scientists think the fake alarm may stop the female from leaving. But they have not tested this with females yet.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where does the superb lyrebird live?コトドリはどこにすんでいますか。
コトドリはオーストラリア南東部のしめった森にすむ鳥です。
Q2. What did real small birds do when they heard the male's song?オスの歌を聞いた本物の小鳥はどうしましたか。
本物のさわぎを聞いたときと同じくらい、小鳥が集まってきました。
Q3. When did males sing this song?オスはいつこの歌を歌いましたか。
天敵がいる場面では一度も歌わず、メスが去るときと交尾の間だけでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Dalziell, A. H. et al. (2021) Male lyrebirds create a complex acoustic illusion of a mobbing flock during courtship and copulation. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.02.003
- 2Dalziell, A. H. & Welbergen, J. A. (2016) Elaborate Mimetic Vocal Displays by Female Superb Lyrebirds. Frontiers in Ecology and Evolution 論文確認済みdoi:10.3389/fevo.2016.00034
- 3Australian Museum: Superb Lyrebirdaustralian.museum/learn/animals/birds/superb-lyrebird/
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





