ハチドリの求愛の急降下では、最高速度・尾羽の音・のどの色の変化が0.3秒に重なっていた
ハチドリのオスはメスの上をU字に急降下する。一番速い瞬間、尾羽の音、のどの色の変化は、約0.3秒の中に重なっていた。

30秒で読む
- オスはメスの上で、Uの字に何度も急降下する
- 一番速い時、尾羽の音、のどの色の変化が0.3秒に重なった
- メスがこれをどう見ているかは、まだ分かっていない
人に話すなら
ハチドリのオスって、メスの上を時速80キロほどで急降下して求愛するんだって。いちばん速い瞬間と、尾羽の音と、のどの色が赤から黒っぽく変わるのが、0.3秒の中に重なってるらしいよ。
読む前に予想しよう
ハチドリのオスののどの羽は、急降下の間ずっとメスから赤く見えている
メスから見えるのは約0.12秒だけで、その間に赤から黒っぽい色へ変わると計算された。
低い木の枝に、メスのハチドリがとまっています。その頭の上から、オスが急降下してきます。メスのすぐ上でUの字を描き、また空へ上がっていきます。この求愛の急降下では、いくつもの見せ場が、メスの目の前を通る一瞬に重なっていました。
アメリカのプリンストン大学の2人の研究者は、野生のフトオハチドリのオスの急降下48回を動画で調べました。オスが横向きに一番速く飛ぶ時、尾羽で音を鳴らす時、のどの羽がメスに見えて色が変わる時。この3つは、約0.3秒の中に収まっていました。人のまばたき1回ほどの長さです。
動物の求愛は、これまで声なら声、色なら色と、別々に調べられることが多くありました。野外で速く動く鳥を、受け取る側のメスの目と耳から測るのが、とても難しかったからです。この研究は、動きと音と色を、メスの立場から1本の時間の線の上に並べて比べました。
01オスはメスの頭上で、Uの字の急降下をくり返す
フトオハチドリのオスは、のどに赤く光る羽を持っています。この羽は、見る角度によって色が変わります。
オスは、枝にとまったメスを見つけると、約30メートルの高さまで上がります。そこから羽ばたきながらUの字に急降下し、また上がって次の急降下をします。この研究の録音では、急降下は2〜8回ずつ続けて行われていました。上がる時間も入れて、1回は約6.4秒でした。
オスの体からは、2種類の音が出ます。1つは翼の音です。飛んでいる間は、急降下でなくてもいつも鳴っています。もう1つは尾羽の音です。オスが尾羽を広げると、ブーンという音が出ます。こちらは急降下の時にだけ鳴らされます。
どちらも鳴き声ではなく、羽が出す音です。動きと音と色が1回の急降下にそろっているので、求愛を調べる材料にぴったりでした。
02カメラを据えて、メスがよくとまるヤナギの木を見張った
研究したのは、プリンストン大学のベネディクト・ホーガン(Benedict Hogan)と、メアリー・キャスウェル・ストッダード(Mary Caswell Stoddard)です。2人は2017年6月、アメリカのコロラド州にあるロッキー山脈生物学研究所の近くで撮影しました。
撮影の場所は、ハチドリ用のエサ台の近くです。そこにある背の低いヤナギの木に、野生のメスがよくとまりました。オスは、そのメスに向かってよく急降下してきました。2人はオスをわざと呼び寄せたりせず、自然に起きる急降下を、朝8時から夜8時の間に待ちました。
使ったのは、1秒に120コマ撮れる小型のビデオカメラです。カメラから9メートル先には、目盛りのついた棒を立てました。カメラの前を真横に通った急降下だけを選び、1コマずつ鳥の位置を手作業で記録しました。こうして、17本の動画から48回の急降下の飛び方を割り出しました。
音は、同じカメラで録った音声を使いました。音の高さの変化を時間にそって図にし、尾羽の音が始まる時と終わる時を読み取りました。
03のどの色の見え方は、博物館の標本で調べた
むずかしいのは色でした。のどの羽は、見る角度で色が変わります。急降下のどの瞬間に、メスからどんな色に見えるのかは、野外の動画では測れません。
そこで2人は、アメリカ自然史博物館にあるオスの標本10体を写真に撮りました。3Dプリンターで作った台に標本をのせ、20度ずつ回しながら撮影しました。カメラは、紫外線も写せるものを使いました。鳥の目には、人の3種類より1種類多い、4種類の色のセンサーがあり、紫外線も見えるからです。
写真の色は、ハチドリの目のそれぞれのセンサーがどれだけ反応するかに置きかえました。比べるために、角度で色が変わらない赤い羽を持つ鳥2種の標本も撮りました。こちらは、角度を変えても色合いは変わりませんでした。
メスの位置は、動画には写っていません。前の研究で、メスは急降下の一番低い点の1メートル以内の下にいるとされていました。そこで、メスは一番低い点の0.5メートル下にいると決めて計算しました。

04一番速い時、尾羽の音、のどの色の変化が重なった
急降下の最高速度は、平均で秒速約23メートルでした。時速にすると約84キロです。オスは、メスに一番近づくあたりで横向きの速さが最大になり、尾羽を広げて音を鳴らし、のどの羽をメスに見せていました。この3つが起きる時間のはばは、平均で約0.23秒でした。調べた48回の急降下のうち46回は、0.3秒より短い時間に収まっていました。
のどの羽がメスに見えるのは、平均で約0.12秒だけだと計算されました。オスの体の角度によっては、のどが体のかげになって見えないからです。その短い時間に、のどの色は明るい赤から、一番低い点では暗い緑から黒っぽい色へ変わりました。計算では、この色の差は、鳥がぎりぎり見分けられる差の約14倍にあたります。
音も、メスの耳には変わって聞こえるはずです。速く動く物の音は、近づく時に高く、遠ざかる時に低く聞こえます。救急車のサイレンでも起きる、ドップラー効果という現象です。計算では、オスの羽の音は、近づく時に約6.5%高く、遠ざかる時に約4%低く聞こえることになりました。
この色の変化は速すぎて、メスには一瞬の赤い光にしか見えないのでしょうか。2人は、近い種類のアンナハチドリの目が、とても速い光の点滅まで見分けられることにふれています。そこから、メスは色が変わっていく様子を見られるだろう、と考えています。
05ただし、メスがこの0.3秒をどう受け取っているかは分からない
この研究は、メスがどう反応したかを調べていません。著者たちも、論文の中で「メスの反応のデータがない」とはっきり書いています。急降下のどの部分がメスの選び方に効いているのかは、分かっていないのです。
測り方にも限界があります。メスの位置は計算のために決めたもので、実際には測っていません。17本の動画には、何羽かのオスが写っていると考えられますが、何羽なのかは分かりません。速さやドップラー効果の大きさは、「大まかな見積もり」として扱うよう、論文に書かれています。
0.3秒にそろうのは、オスがそろえているからなのでしょうか。のどの色が変わる時は、Uの字の形から自然に一番低い点の近くに決まってしまいます。けれども尾羽の音は、ふつうに水平に飛ぶ速さでも鳴らせることが分かっています。2人は、尾羽の音が一番低い点に合わせて鳴るのは、体のしくみで自然に決まるのではなく、進化の中でそろうようになった結果かもしれない、と考えています。
同じ2018年には、別の種類のハチドリで、音の高さの変化をむしろ小さくしているらしい、という研究も出ました。アメリカのカリフォルニア大学リバーサイド校のクリストファー・クラーク(Christopher Clark)らは、コスタハチドリを調べました。コスタハチドリのオスは、近い種類とは違い、メスの真上ではなく横を通るように急降下します。その結果、ドップラー効果による音の高さの変化が小さくなり、メスは音からオスの速さを知りにくくなっていました。さらにオスは、尾羽の半分を縦にねじり、尾羽の音をメスのいる横向きに出していました。メスの真上を通って音の高さが大きく変わる種類もあれば、その変化を小さくしているらしい種類もあるのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜ別々の合図を、同時に重ねるのか
論文は、いくつかの仮説を挙げています。音と色が、オスの体の調子や飛ぶうまさについて、それぞれ別の情報を伝えているのかもしれません。くもりの日には色より音が届きやすいので、片方が働かない時の予備になっているのかもしれません。メスがそうした組み合わせを、ただ「好み」として選んできた結果かもしれません。
そろえること自体にも意味があるかもしれません。高速でメスのそばを正確に通り過ぎながら、同時に尾羽を鳴らすのはむずかしいはずです。それなら、そろい方そのものが飛ぶうまさを示します。また、目と耳から来た情報を1つのできごととしてまとめるには、時間がそろっていることが大事だと考えられています。人やアカゲザルでは、仲間の声の音と見た目がある程度そろっていないと、1つにまとまりません。ヤドクガエルの仲間のオスは、鳴き声と鳴き袋のふくらみが0.434秒以内にそろった時だけ、作り物のオスを攻撃しました。
尾羽で鳴る音の正体が分かるまで
ハチドリの急降下の音が、鳴き声か羽の音かは、長く議論されてきました。アンナハチドリの急降下の高い音は、最初は尾羽の音だと考えられました。その後、鳴き声だという研究も出ました。2008年、クラークらは高速カメラで急降下を撮り、野生の鳥の羽に手を加える実験もしました。その結果、一番外側の尾羽のふちが細かくふるえて、音が出ていることを示しました。
鳥の目で見たのどの色は、人に見える色とは違うかもしれない
同じプリンストン大学のチームは、同じ研究所の周りで、2016年から2018年の3年の6月に、野生のフトオハチドリの色の見え方を調べました。4色のLEDで色を作れる筒を2つ並べ、片方の前にだけ砂糖水を置いて、どちらの色に来るかを調べる実験を19回行いました。ハチドリが訪れた回数は6,000回をこえます。その結果、ハチドリは「紫外線+赤」「紫外線+緑」のような、紫外線がまじった色を見分けられました。人には紫外線が見えないので、人の目ではこうした色は区別できません。チームは、オスののどの羽の色も、鳥には、離れた種類の色センサーが同時に反応する色として見えている可能性が高いと書いています。
この研究の工夫と限界
特別な装置ではなく、市販の小型カメラと標本の写真で、野外の急降下を「メスから見た時間の線」に置き直したのがこの研究の工夫です。一方で、光の条件は、くもりの日のような散らばった光で平均した色として計算しています。日の当たり方でのどの見え方がどう変わるかは、ここには入っていません。著者たちは、急降下するロボットのハチドリを作り、そろい方を変えてメスに見せる実験を「今はまだ夢」と書いています。
06まとめ
フトオハチドリのオスは、約30メートルの高さから、メスの上をUの字に急降下します。一番速く飛ぶ時、尾羽の音、のどの色が赤から黒っぽく変わる時は、約0.3秒の中に重なっていました。のどの羽がメスに見えるのは、約0.12秒だけです。
ただし、メスがこの一瞬をどう受け取っているのかは、まだ確かめられていません。オスが急降下するたびに尾羽で鳴らすブーンという音は、鳴き声ではなく、羽が出す音です。
研究カルテ
アメリカ・コロラド州(ロッキー山脈生物学研究所)
- 研究チーム
- アメリカのプリンストン大学のベネディクト・ホーガン(Benedict Hogan)とメアリー・キャスウェル・ストッダード
- 調べた場所
- アメリカのコロラド州にあるロッキー山脈生物学研究所の周り
- 調べた動物
- 野生のフトオハチドリ(学名 Selasphorus platycercus)のオス。博物館の標本10体
- 調べ方
- 急降下48回を動画で追い、速さと音を測った。のどの色は標本を角度を変えて撮り、メスの目での見え方を計算した
- 分かったこと
- 横向きの速さが最大になる時、尾羽の音、のどが見えて色が変わる時が、約0.3秒の中に重なっていた
- まだ分からないこと
- メスがこの急降下をどう受け取り、オスをどう選んでいるのか
- 論文
- Nature Communications(2018年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Male broad-tailed hummingbirds have a shiny red throat. To court a female, a male flies up about 30 meters. Then he dives over her in a U shape.
Two scientists in the United States filmed 48 of these dives in the wild. They also took photos of birds kept in a museum from many angles. This helped them guess how the red throat looks to the female.
On average, his top speed is about 84 kilometers per hour. Near the female, he flies fastest and makes a buzz with his tail. His throat turns from bright red to almost black. All of this happens within about 0.3 seconds.
That is about as long as a blink. But the scientists did not study how the females react. We still do not know which part of the dive the female likes.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How high does the male fly before the dive?オスは急降下の前にどれくらいの高さまで上がりますか。
オスは約30メートルの高さまで上がってから、Uの字に急降下します。
Q2. What does the male make a buzz with?オスは何でブーンという音を出しますか。
ブーンという音は鳴き声ではなく、尾羽が出す音です。
Q3. What do we still not know?まだ分かっていないことは何ですか。
この研究ではメスの反応を調べていないので、メスがどこを見ているのかは分かっていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Hogan, B. G. & Stoddard, M. C. (2018) Synchronization of speed, sound and iridescent color in a hummingbird aerial courtship dive. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-018-07562-7
- 2Clark, C. J. & Mistick, E. A. (2018) Strategic Acoustic Control of a Hummingbird Courtship Dive. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2018.03.021
- 3Clark, C. J. & Feo, T. J. (2008) The Anna's hummingbird chirps with its tail: a new mechanism of sonation in birds. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2007.1619
- 4Stoddard, M. C. et al. (2020) Wild hummingbirds discriminate nonspectral colors. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1919377117
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





