大人のメスの2割がオスそっくりのハチドリ。派手な羽はモテではなく、からまれないためらしい
シロエリハチドリの若い鳥は、メスもオスと同じ派手な羽。大人でも約2割のメスはそのままだ。派手なメスはほかの鳥に攻撃されにくく、エサ場に長くいられた。

30秒で読む
- 若いハチドリは、メスもオスと同じ派手な羽をしている
- 大人のメスの約2割は、派手な羽のまま残る
- 派手なメスは攻撃されにくく、エサ場に長くいられた
人に話すなら
パナマのハチドリって、大人のメスの2割くらいがオスとそっくりの青い羽なんだって。地味なメスはエサ場でよく追い払われるけど、オスっぽいメスは攻撃されにくいらしいよ。
読む前に予想しよう
シロエリハチドリのオスは、オスそっくりの派手なメスを好んで求愛した
剥製の実験では、オスが最初に求愛のしぐさを向けたのは、いつも地味なメスのほうだった。
鳥の世界では、派手なのはたいていオスです。オスが目立つ色でメスに選ばれ、メスは地味な色で巣を守る。そう教わった人も多いはずです。ところが、中米のパナマにすむシロエリハチドリでは、派手な青い羽のメスが、たくさん暮らしていました。
アメリカのコーネル大学などのチームは、野生のシロエリハチドリを4年かけて436羽つかまえ、羽の色と年齢と性別を調べました。すると、若い鳥はメスも全部、オスと同じ派手な羽でした。大人になると多くのメスは地味な羽に変わりますが、大人のメスの約2割は、派手な羽のままでした。
メスの派手な色は、これまで「オスに選ばれるため」と考えられることが多くありました。けれども、オスを引きつける必要のない若いメスほど派手なら、その説明は合いません。チームは剥製とエサ場の記録を使い、派手な羽が何の役に立っているのかを確かめました。
01若い鳥は、メスもみなオスと同じ派手な羽だった
シロエリハチドリは、メキシコ南部から南米の低地に広くすむハチドリです。オスは、頭とのどが光る青、胸とおなかが白く、首の後ろに白い点があります。地味なメスは、背中が緑で、のどと胸は灰色と緑のまだらです。
研究の中心になったのは、ジェイ・フォーク(Jay Falk)です。コーネル大学の大学院生として、パナマのガンボアという町で調べました。ガンボアはパナマ運河のそばにある町で、フォークはパナマのスミソニアン熱帯研究所にも所属していました。
フォークらは、2015年7月から2019年6月まで、エサ台のそばにかすみ網やわなを置いてハチドリをつかまえました。つかまえた436羽のうち135羽は、次の年以降にもう一度つかまりました。羽の色は、オスのような派手な羽と、地味な羽と、その中間に分けました。性別は、少しだけとった血のDNAで調べました。
性別が分かった401羽を見ると、オスはすべて派手な羽でした。メスは28.6%が派手な羽で、残りのほとんどは地味な羽でした。この記事では、派手な羽のメスを「オス型のメス」、地味な羽のメスを「地味なメス」と呼びます。
02くちばしのすじで年齢を見分けると、変わり方が分かった
ハチドリの年齢は、見た目では分かりにくいものです。そこでチームは、くちばしの表面にある細かいすじを使いました。若いハチドリのくちばしには、このすじが多く、年をとると消えていきます。フォークは、くちばしのどれだけの長さにすじがあるかを、10%きざみで記録しました。
すじが60〜80%ある、とても若いメスは14羽いました。その14羽は、1羽残らずオス型でした。すじが0〜40%の、大人に近いメスは104羽いました。こちらでオス型だったのは20.2%だけでした。
同じ鳥をもう一度つかまえた記録も、同じことを示していました。若いときオス型だったメス2羽は、次の年に大人になってつかまったとき、地味な羽に変わっていました。一方、大人の時点でオス型だったメス3羽は、次の年もオス型のままでした。地味なメス17羽が、次の年にオス型に変わっていた例はありませんでした。
つまり、メスは若いうちはみな派手な羽で、多くは大人になるときに地味な羽に変わります。そして約2割は、派手なまま大人になります。オス型のメスが巣で卵を温めている写真と動画も記録されました。オス型のまま、ちゃんと子育てもしているのです。
03剥製を2つ並べると、地味なメスが先にねらわれた
では、派手な羽は何の役に立つのでしょうか。オスに選ばれるためなら、オスはオス型のメスに求愛するはずです。ほかの鳥からのいやがらせを避けるためなら、オス型のメスは攻撃されにくいはずです。
チームは、ハチドリの剥製を使いました。地味なメス2体、オス型のメス4体、オス4体です。どれも、性別を体の中で確かめた標本です。2本の柱を3メートル離して立て、砂糖水を入れたエサ入れを1つずつつるしました。それぞれのエサ入れに剥製を1体ずつとめ、どちらに置くかはコインを投げて決めました。
組み合わせは3通りです。地味なメスとオス、地味なメスとオス型のメス、オス型のメスとオス。実験は2017〜2019年の2月から5月に、朝7時から11時半の間に行いました。同じ鳥が何度も来ないよう、場所は50メートル以上離しました。様子はビデオで撮り、10メートル以上離れた所から双眼鏡でも見ました。

結果ははっきりしていました。地味なメスの剥製がある組み合わせでは、オスの最初の求愛のしぐさは、すべて地味なメスに向けられました。オス型のメスとオスの組み合わせでは、どちらかにかたよることはありませんでした。オスは、オス型のメスを好んではいなかったのです。
攻撃も、地味なメスの剥製に先に向かいました。攻撃してきたのは、シロエリハチドリだけではありません。ほかの種類のハチドリも、地味なメスの剥製をよくねらいました。オス型のメスとオスの組み合わせでは、攻撃にかたよりはありませんでした。
野生の鳥どうしの追いかけっこも、ビデオで数えました。78時間分の映像で、オス型の鳥が関わる追いかけっこは269回ありました。オス型の鳥は、追われるより追う側になることが多くありました。地味なメスが関わる追いかけっこは90回ありました。地味なメスは、自分が追う回数の10倍以上、追われていました。
04オス型のメスは、エサ場に長くいられた
攻撃されにくいことは、暮らしの得になるのでしょうか。チームは、ハチドリの皮の下に、小さな電子タグを入れました。タグは、エサ入れの口についた読み取り機に近づくと、鳥の番号と時刻を記録します。地味なメス36羽、オス型のメス15羽、オス103羽が対象です。
エサ入れは28か所、約0.84平方キロメートルの範囲に置きました。花の蜜にも濃い薄いがあるので、半分のエサ入れには濃い砂糖水、残りの半分には薄い砂糖水を入れました。278日の間に、8万8,528回の訪問が記録されました。
オス型のメスは、地味なメスより多くエサ入れを訪れ、1回にいる時間も長くなりました。1回にいる時間の差は、鳥たちが集まりやすい濃い砂糖水のエサ入れで、とくに大きくなりました。コーネル大学の発表によると、濃い砂糖水のエサ入れで、オス型のメスは地味なメスより約35%長く飲んでいました。ハチドリは、体の重さあたりで使うエネルギーが、背骨のある動物の中で一番多い鳥です。エサ場に長くいられることは、生きていくうえで大きな意味を持つと考えられます。
05ただし、オス型が得なら、なぜ8割は地味なのか
この研究には、まだ答えの出ていない点があります。オス型のメスがそんなに得なら、なぜ大人のメスの8割は地味な羽に変わるのでしょうか。チームは論文の中で、その理由はよく分からないと書いています。巣にいるとき地味な色のほうが敵に見つかりにくいのかもしれません。オス型のメスが増えすぎると、得が小さくなるのかもしれません。
求愛についても、慎重な書き方をしています。剥製の実験のうち、1回3時間で行った26回の実験で、記録できた求愛のしぐさは136回だけでした。どれも剥製に向けたものです。野生の鳥どうしの求愛は、1回も見られませんでした。チームは、求愛が季節によって増えるかもしれないことや、求愛と攻撃の見分けがむずかしいことも書いています。一方、同じ26回の実験で、剥製への攻撃は1,790回記録されました。この場所では、攻撃のほうがずっとよく起きていたのです。
「メスがオスのような羽を持つハチドリは多い」という話にも、反論があります。2021年、フォークらも加わった別の研究は、300種をこえるハチドリの博物館の標本を調べました。そして、ハチドリの約25%の種類にオス型のメスがいると報告しました。これに対し、アメリカのカリフォルニア大学リバーサイド校のクリストファー・クラーク(Christopher Clark)らは、2022年に13種を見直しました。オス型とされたメスは、実は若いメスだったり、性別をまちがえられたオスだったり、図鑑の絵のまちがいだったりした、と指摘しています。はっきりオス型のメスがいるといえるのは、ハチドリ全体の0.9%にあたる3種ほどだと結論しています。その中で一番はっきりした例として挙げたのが、シロエリハチドリでした。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
オスの「まね」だと考えられる理由
2022年、フォークらは続きの研究を発表しました。オス型のメスが、本当にオスのように強いのかを調べたのです。体のつくりや飛ぶ力、エサ場での行動など、ケンカの強さに関わる特徴を測りました。すると、オス型のメスと地味なメスの間にはほとんど差がなく、オスのほうが強いという結果でした。チームは、オス型のメスは強くなったのではなく、より攻撃的なオスに見た目を似せることで、攻撃を避けていると考えました。強い相手に似せて攻撃をかわすしくみは、これまで別の種類の動物どうしで考えられてきました。同じ種類のオスとメスの間でも起きうる、というのがこの研究の主張です。
みんながまねると、ばれてしまう
2025年、フォークらアメリカのワシントン大学とカーネギーメロン大学の研究者は、数学のモデルを作りました。ゲーム理論という、相手の出方を考えた損得の計算を使っています。もしメスが全員オスのまねをすれば、相手は「オス型でも弱いかもしれない」と考え、まねが効かなくなります。モデルでは、まねをするメスとしないメスが混ざった状態で落ち着くことが示されました。相手が全部はだまされないところで、つり合うのです。2つの型のメスが、どちらも消えずに残り続けることを説明できる考え方です。
反対意見と、残る宿題
カリフォルニア大学リバーサイド校のクラークは、2022年の研究への論評で、2つの型がどうやって両方残るのかは、まだ確かめきれていないと書いています。そして、2つの型のメスで、巣の子育てがうまくいく割合を比べることを提案しました。地味な色が巣を守るのに役立つのかどうかは、昔から議論されてきました。メスの色は巣で見つかりにくくするためだ、という考えは、ダーウィンと同じころの博物学者ウォレスまでさかのぼります。シロエリハチドリは、その問いを1つの種類の中で調べられる、めずらしい鳥なのです。
ハチドリのオスは子育てをしない
ハチドリでは、オスが卵を温めたりひなにエサを運んだりする例は知られていません。メスにとって、オスに選ばれることより、毎日十分に蜜を飲めることのほうが、生きのびることに直結しているのかもしれません。論文の著者たちも、メスが相手を見つけられずに困っている証拠はないと書いています。
06まとめ
シロエリハチドリの若い鳥は、メスもみなオスと同じ派手な羽をしています。大人になると多くのメスは地味になりますが、約2割は派手なまま残ります。剥製の実験では、地味なメスが先に攻撃され、求愛も地味なメスに向かいました。オス型のメスは、エサ場に長くいることができました。
派手な羽は、オスに選ばれるためではなく、ほかの鳥にからまれにくくするためらしいのです。ただし、それならなぜ8割のメスが地味になるのかは、まだ分かっていません。パナマのこのハチドリでは、オスそっくりの青い若鳥の中に、やがて地味な羽に変わるメスがまじっているのです。
研究カルテ
パナマ・ガンボア
- 研究チーム
- アメリカのコーネル大学のジェイ・フォーク(Jay Falk)、コロンビア大学のダスティン・ルーベンスタインら
- 調べた場所
- 中米パナマのガンボアとその周り(パナマ運河のそば)
- 調べた動物
- 野生のシロエリハチドリ(学名 Florisuga mellivora)。2015〜2019年に436羽をつかまえた
- 調べ方
- 羽の色と年齢と性別を記録。剥製を2つ並べてほかの鳥の反応を見た。タグを入れた鳥のエサ場通いを記録した
- 分かったこと
- 若い鳥はみなオス型の羽。地味なメスの剥製は攻撃も求愛も先に受けた。オス型のメスはエサ場に長くいた
- まだ分からないこと
- 得なはずのオス型のメスが、なぜ大人のメスの2割ほどにとどまるのか
- 論文
- Current Biology(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
In many birds, males are bright and females are plain. But in one hummingbird in Panama, some females look just like males. They have a shiny blue head and a white chest.
Scientists caught 436 of these birds over four years. All the young females had male-like feathers. Most females changed to plain feathers as adults, but about 20 percent did not.
The team put stuffed birds on feeders and watched other hummingbirds. The plain female was attacked first. Males also courted the plain female first, not the male-like one. At feeders, male-like females stayed longer and drank more often.
So the bright feathers may help females avoid trouble. But if looking like a male helps, why do most females become plain? Scientists are still looking for the answer.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What color were the feathers of all the young females?若いメスはみな、どんな羽をしていましたか。
このハチドリでは、若いメスはみなオスと同じ派手な羽をしていました。
Q2. Which stuffed bird was attacked first?先に攻撃されたのは、どの剥製でしたか。
地味なメスの剥製が、ほかのハチドリから先に攻撃されました。
Q3. About how many adult females keep male-like feathers?オスのような羽のままでいる大人のメスは、およそどれくらいですか。
大人のメスの約20%は、オスのような派手な羽のままでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Falk, J. J., Webster, M. S. & Rubenstein, D. R. (2021) Male-like ornamentation in female hummingbirds results from social harassment rather than sexual selection. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.07.043
- 2Falk, J. J. et al. (2022) Intersexual social dominance mimicry drives female hummingbird polymorphism. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2022.0332
- 3Diamant, E. S., Falk, J. J. & Rubenstein, D. R. (2021) Male-like female morphs in hummingbirds: the evolution of a widespread sex-limited plumage polymorphism. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2020.3004
- 4Clark, C. J., Robinson, B. & Remsen, J. V. (2022) Female plumage polymorphism is rare in hummingbirds. Journal of Ornithology 論文確認済みdoi:10.1007/s10336-022-01975-4
- 5Falk, J. J. et al. (2025) Partial honesty in a hummingbird polymorphism provides evidence for a hybrid equilibrium. Animal Behaviour 論文確認済みdoi:10.1016/j.anbehav.2025.123104
- 6Cornell Chronicle(2021)Female hummingbirds look like males to evade harassmentnews.cornell.edu/stories/2021/08/female-hummingbirds-look-ma
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





