「しっぽをふる犬はうれしい」はグレー。ふる向きが右寄りか左寄りかで意味が違うらしい

しっぽふりは、うれしい場面だけでなく、緊張や攻撃の場面でも起きる。犬の体から見て右寄りか左寄りかで、意味が違うらしい。

No.169 8分で読めるえっ度 論文 2024年
家の玄関で、茶色の雑種の犬が、帰ってきた飼い主の足元に向かってしっぽを大きくふっている。飼い主は足元だけが見える。グレー
グレー

判定の対象しっぽをふる犬はうれしい気持ちでいる

30秒で読む

  1. しっぽふりは、うれしい時だけでなく緊張や攻撃でも起きる
  2. 飼い主には右寄り、知らない強そうな犬には左寄りにふる傾向がある
  3. 犬がオオカミよりよくしっぽをふる理由は、まだ仮説の段階

人に話すなら

犬がしっぽをふってたら、うれしいって思うでしょ。でも、攻撃的な犬のほうがよくふってたっていう研究もあるんだって。しかも、右寄りにふるか左寄りにふるかで、意味が違うらしいよ。

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しっぽをふっている犬は、必ずうれしい気持ちでいる

家に帰ると、犬がしっぽを大きくふって出迎えてくれます。それを見ると、多くの人は「喜んでいる」と感じるでしょう。しっぽをふるのは、うれしいしるし。犬と暮らす人の多くが、そう思っています。

ところが、2024年に出た総説を読むと、話はそう単純ではありません。総説とは、これまでの研究を集めて整理した論文です。書いたのは、オランダのマックス・プランク心理言語学研究所などのチームです。チームによると、しっぽふりは、良い気分のときだけでなく、いやな場面で興奮したときにもよく起きます。さらに、犬の体から見て右寄りにふるか左寄りにふるかで、意味が違うらしいのです。

判定は「グレー」です。うれしいときにしっぽをふることは多いものの、しっぽをふっていれば必ずうれしい、とは言えません。しかも、これほど身近な動きなのに、しっぽふりをくわしく調べた研究は、まだ少ないのです。

01しっぽをふるのは、うれしい時だけではない

総説の第一著者は、シルビア・レオネッティ(Silvia Leonetti)さんです。チームは、しっぽふりについて、これまでの研究を4つの面から整理しました。しくみ、育ち方、役目、進化です。

役目について、総説は次のような例をあげています。イヌ科の動物では、しっぽを低めにしてふるのは、よく合図として使われます。相手をなだめる、従う、争う気がないことを示す合図です。犬どうしでは、しっぽの高さとふり方の組み合わせが、自分が従う側だと示すたしかなしるしになっているようです。

人とのやりとりでは、犬は知らない人にもしっぽをふりますが、一番よくふるのは飼い主がいるときです。食べ物をもらえない場面で、人がいるときにしっぽをよくふったという研究もあります。「ちょうだい」と頼むしるしの可能性もあるのです。食べ物や扇風機、ビニール袋など、人以外の物にしっぽをふることもあります。

体の反応との関係も、すっきりしません。しっぽをふる時間が長いほど、心拍数が高いという研究は複数あります。けれども、ストレスで増えるホルモンとの関係は、研究によって結果がばらばらでした。総説は、しっぽふりを「ふったか、ふらないか」の1種類として数えてきたことが、原因の一つかもしれないと書いています。

02飼い主には右寄り、知らない強そうな犬には左寄りにふった

しっぽふりの左右の偏りについては、2007年に発表された研究がよく知られています。この研究では、家で飼われている犬が、自分の体から見て右寄りにしっぽをふりました。その偏りは、知らない人より飼い主を相手にしたときに強く出ました。このときは、研究者がビデオを見て、数秒おきにしっぽの位置を判断していました。

総説は、これまでの研究をまとめて、次のように書いています。犬は、飼い主や知っている人のような良い相手を見ると、右寄りにしっぽをふります。一方、知らない強そうな犬のような、身を引きたくなる相手を見ると、左寄りにふります。総説は、これを犬の脳の左右が別々の役目を受け持っているしるしと見ています。近づきたい良い相手には脳の左側が、身を引きたい相手には右側が強く働く、と考えられています。

03左寄りにふる犬の姿を見ると、ほかの犬の心拍が上がった

では、ほかの犬は、相手のしっぽの向きを見分けているのでしょうか。2013年に、イタリアのバーリ大学などのチームが、これを確かめました。チームには、2007年の研究をした研究者もふくまれていました。

実験には、家で飼われている43匹の犬が参加しました。犬は、暗くした部屋で飼い主の足の間にすわり、大きなスクリーンに映る犬の動画を見ます。映すのは、右寄りにしっぽをふる犬、左寄りにふる犬、しっぽをふらない犬の3種類です。ふつうの動画のほかに、表情などの手がかりを消した黒い影の動画も使いました。1本は18秒です。

犬は、心拍数を測る器具のついたベストを着ていました。ベストに慣れるため、犬は6週間、週2回、大学に通いました。研究者は、犬の心拍数と、不安そうなしぐさを記録しました。

結果、左寄りにしっぽをふる犬を見たとき、心拍数の最高値が、ほかの2つの動画より高くなりました。不安そうなしぐさも、右寄りの動画より左寄りの動画で多く見られました。右寄りにふる犬と、ふらない犬の動画では、心拍数の最高値に差はありませんでした。犬は、相手のしっぽのふり方の左右の違いに反応していたのです。

公園の芝生で、知らない2頭の犬が少し離れて向かい合っている。1頭はしっぽを低めにしてゆっくりふり、もう1頭はしっぽを高く上げて動かさずに立っている。

04初めて会う人と3日続けて会うと、しっぽは左寄りから右寄りへ変わった

2022年、中国科学院の研究所のチームは、新しい方法でしっぽふりを測りました。5台の高速カメラで犬を撮り、人工知能でしっぽの先の位置を1秒に150回記録したのです。2007年の研究のように、人が数秒おきに目で判断する必要はありません。

実験に参加したのは、1〜2歳のビーグル10匹です。同じ研究者が、1日5分、3日続けて柵の外を歩きながら犬の相手をしました。犬に直接はさわらず、約1分ごとにおやつをあげました。犬にとって、はじめは知らない人です。

1日目、ビーグルたちのしっぽは、左寄りにふれる時間帯が全体の42%ありました。3日目には22%に減りました。右寄りの時間帯は、9%から25%に増えました。研究者と親しくなるにつれて、しっぽふりが左寄りから右寄りに変わったのです。別の3匹で5日間続けると、3日目以降は変化が落ち着きました。

05攻撃的な犬のほうが、しっぽをよくふっていた

しっぽふりがうれしいしるしだとすると、首をかしげたくなる結果もあります。2021年、スロベニアのリュブリャナ大学のチームは、オスの犬を2つのグループに分けて調べました。過去の訓練で攻撃的だったと報告された警察犬と、攻撃の記録がない、いろいろな犬種の牧羊犬です。分析に使ったのは、それぞれ11匹と13匹でした。

犬たちは、16の場面からなる行動テストを受けました。その結果、テスト中にかみつこうとしたり攻撃したりした警察犬は、攻撃的でない犬よりも、しっぽをよくふりました。左寄りのしっぽふりも多くなっていました。攻撃的な犬のグループでは、攻撃の度合いが高い犬ほど、左寄りのしっぽふりが多い傾向がありました。チームは、攻撃には脳の右側が強くかかわるという、これまでの報告と合う結果だとしています。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

犬はオオカミよりずっとよくしっぽをふる

総説によると、犬は、オオカミなどほかのイヌ科の動物より、ずっとよく、いろいろな場面でしっぽをふります。2005年、ハンガリーのエトヴェシュ大学のチームは、犬の子11匹とオオカミの子13匹を、同じように人の手で育てました。そして、生後3〜5週のころに、育ての人とほかの相手のどちらに近づくかを調べました。犬の子は、オオカミの子より、鳴く、しっぽをふる、人の顔を見るといった行動をよく見せる傾向がありました。総説は、オオカミの子はほとんどしっぽをふらなかったと紹介しています。

犬がよくしっぽをふるようになった理由の、2つの仮説

総説は、犬がよくしっぽをふるようになった理由について、2つの仮説を出しています。

1つめは、家畜化の「ついで」という仮説です。人は、人になれやすく、おとなしい犬を選んできました。そのとき、しっぽふりも一緒に変わったのではないか、という考えです。根拠の一つに、40世代にわたって、人へのなれやすさとおとなしさでキツネを選び続けた実験があります。しっぽふりは選んでいないのに、人になれたキツネは犬のようにしっぽをふり、しっぽも巻き気味になりました。

2つめは、人がリズムのあるしっぽふりを好んで選んだという仮説です。人の脳は、一定のリズムを心地よく感じやすいことが知られています。人が、規則正しくしっぽをふる犬を、意識して、あるいは知らず知らずのうちに好んで残してきたのかもしれません。総説は、これを「家畜化されたリズムのしっぽふり」仮説と名づけています。どちらの仮説も、まだ確かめられていません。

しっぽをふるしくみも、まだよく分かっていない

犬のしっぽは背骨の続きですが、脳がどうやってしっぽをふらせているのかは、よく分かっていません。総説によると、1985年の研究で、犬の小脳の一か所を電気で刺激すると、しっぽふりが増えました。小脳は、体の動きの調節にかかわる脳の部分です。

ホルモンとの関係も、少しずつ調べられています。よく知っている人と再会したときのしっぽふりと、オキシトシンというホルモンの間に関係があることを示す、間接的な証拠があります。

研究の足りない点と、これからの調べ方

総説が強調するのは、しっぽふりが1種類ではないことです。しっぽの高さ、ふる向き、速さ、左右の偏り、ふれ幅があり、しっぽの付け根と先で動きが違うこともあります。これまでの多くの研究は、ふった時間や回数しか数えていませんでした。

総説は、カメラと人工知能でしっぽの動きを細かく測り、心拍数やホルモンも同時に測ることをすすめています。同じ犬を子犬からおとなまで追った研究も、まだありません。

06まとめ

しっぽをふる犬は、うれしいことが多いものの、いつもうれしいとは限りません。しっぽふりは、いやな場面での興奮や攻撃の場面でも起きます。研究をまとめると、犬は飼い主には右寄り、知らない強そうな犬には左寄りにふる傾向があります。左寄りにふる犬の姿を見た犬は、心拍数が上がりました。

犬がオオカミよりよくしっぽをふる理由は、家畜化のついでか、人がリズムを好んで選んだからか、まだ分かっていません。

しっぽの右と左は、犬の体から見た向きです。犬と向かい合って見ると、左右が逆に見えることを覚えておいてください。

RESEARCH FILE

研究カルテ

オランダ(ナイメーヘン)

研究チーム
オランダのマックス・プランク心理言語学研究所などのチーム(第一著者シルビア・レオネッティ)
調べた場所
これまでの犬のしっぽふりの研究をまとめた総説(新しい実験はしていない)
調べた動物
イエイヌ(学名 Canis familiaris)。オオカミなど、ほかのイヌ科の動物とも比べた
調べ方
しっぽふりのしくみ、育ち方、役目、進化について、これまでの研究を集めて整理した
分かったこと
しっぽふりは良い気分だけでなく、いやな場面の興奮でも起きる。犬はオオカミよりよくふる
まだ分からないこと
犬がよくしっぽをふるようになったのは、家畜化のついでか、人が選んだからか
論文
Biology Letters(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Is a Dog with a Wagging Tail Always Happy?

Many people think a wagging tail means a happy dog. But the answer is not so simple. Dogs also wag their tails when they are nervous or ready to fight.

The side of the wag may also matter. Studies show that dogs often wag more to their right when they see their owners. They often wag more to their left when they see a strange, strong dog. Other dogs noticed this difference. Their hearts beat faster when they watched a dog wagging to the left.

In another study, ten beagles met a new person. On the first day, their tails often moved to the left. By the third day, they moved more to the right.

Dogs wag their tails much more than wolves do. Maybe people chose friendly dogs, and wagging came along. Or maybe people liked the rhythm of a wagging tail.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Which way did dogs wag more when they saw their owners?飼い主を見たとき、犬はどちら寄りにしっぽをふりましたか。

Q2. What happened when dogs watched a dog wagging to the left?左寄りにしっぽをふる犬を見た犬に、何が起きましたか。

Q3. Which animal wags its tail less than dogs?犬よりしっぽをふらない動物はどれですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Leonetti, S. et al. (2024) Why do dogs wag their tails? Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2023.0407
  2. 2PMC:上の論文の全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10792393/
  3. 3Siniscalchi, M. et al. (2013) Seeing left- or right-asymmetric tail wagging produces different emotional responses in dogs. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2013.09.027
  4. 4Ren, W. et al. (2022) Left-right asymmetry and attractor-like dynamics of dog's tail wagging during dog-human interactions. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2022.104747
  5. 5Gobbo, E. & Zupan Šemrov, M. (2021) Neuroendocrine and cardiovascular activation during aggressive reactivity in dogs. Frontiers in Veterinary Science 論文確認済みdoi:10.3389/fvets.2021.683858
  6. 6Gácsi, M. et al. (2005) Species-specific differences and similarities in the behavior of hand-raised dog and wolf pups in social situations with humans. Developmental Psychobiology 論文確認済みdoi:10.1002/dev.20082

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい