テントウムシの赤い羽の一部を透明にかえると、下の羽を2秒以内でたたむ様子が見えた
テントウムシの背中の硬い羽(さやばね)の一部を透明なものにかえると、下の羽をたたむ様子が見えた。おなかを上下させ、2秒以内にたたんでいた。

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- 背中の硬い羽の一部を透明にかえ、下の羽のたたみ方を見た
- 硬い羽のふちとおなかの動きで、薄い羽をたたんでいた
- 羽の骨組みは、巻尺のテープに似た形をしていた
人に話すなら
テントウムシってさ、羽をたたむところはさやばねにかくれて見えないんだって。そこで研究者が透明なさやばねを作ってつけたら、おなかを上下させて、2秒もかからずに羽をたたむのが見えたらしいよ。
読む前に予想しよう
テントウムシは、さやばねを開いたまま後ろばねをたたむ
先にさやばねを閉じてから、その下で後ろばねをたたむ。だから外からは見えなかった。
テントウムシは、草の上を歩き回り、ときどき飛び立ちます。飛ぶときに使うのは、赤い硬い前ばね(さやばね)の下にしまってある、薄い後ろばねです。テントウムシは着地したあと、この羽を小さくたたんで、さやばねの下にしまいます。
けれども、そのたたみ方は、長い間よく分かっていませんでした。テントウムシは、先にさやばねを閉じてから、その下で羽をたたむからです。外からは、肝心なところが見えません。
東京大学生産技術研究所の斉藤一哉さん(当時)たちは、さやばねの一部を透明な人工のものに取りかえるという方法を考えました。これで、さやばねの下で羽がたたまれていく様子を、高速カメラで撮ることができました。テントウムシは、2秒以内に羽をたたみ終えていました。
01さやばねを取ってしまうと、羽はたためない
さやばねの下を見たいなら、さやばねを取ってしまえばよいと思うかもしれません。ところが、それではうまくいきません。さやばねは、羽をたたむのに欠かせない部品だからです。
それまでの研究では、テントウムシがおなかを上下に動かすことが、羽をたたむのに大事だと考えられていました。羽に折り目の線がどう入るかも、平らな図としては調べられていました。ただ、おなかの単純な上下の動きだけで、なぜ複雑な形にたためるのかは分かっていませんでした。たたんだ羽と広げた羽の本当の立体の形も、はっきりしていませんでした。
02シリコーンの型と、ネイルにも使う樹脂で人工のさやばねを作った
研究に使ったのは、東京の草地でつかまえたナナホシテントウです。斉藤さんたちは、まずテントウムシを二酸化炭素のガスで眠らせました。そして、右のさやばねの先から3分の2をはさみで切り取りました。
次に、切り取ったさやばねの内側の面に、シリコーンをぬって型を取ります。固まった型に、紫外線を当てると固まる透明な樹脂を、筆でうすくぬります。大学の紹介記事によると、ネイルアートに使われる種類の樹脂です。紫外線で固めると、もとのさやばねと同じ形の、透明なさやばねができあがります。
できた人工のさやばねは、同じ樹脂で、切ったさやばねの先にくっつけました。テントウムシや羽へのダメージを減らすため、1回の手術は1時間以内で終えました。斉藤さんは、人工のさやばねで本当に羽をたためるかは分からなかった、と大学の記事で話しています。

03さやばねのふちとおなかの動きで、羽を2つの線で折っていた
高速カメラで撮ると、羽をたたむ順番が見えてきました。着地すると、テントウムシはまずさやばねを閉じます。このとき、後ろばねは後ろ向きにそろえられ、閉じたさやばねからはみ出しています。
次に、テントウムシはおなかを持ち上げます。すると、後ろばねがさやばねの下の面に押しつけられます。羽を支える太い筋の一つは弧の形に曲がっていて、その曲がり方が、さやばねの下の面の丸みにぴったり合っていました。この筋の下に、弧の形の折り目があらわれます。
おなかの上げ下げは、何回もくり返されます。そのたびに、羽の下の面がこすられ、背中の収納場所へ少しずつ引きこまれていきます。おなかの背中側の板には、細かいとげがびっしり生えた場所があります。チームは、このとげが羽の表面をつかみ、たたむのを助けていると考えています。
羽を横切る2本の折り目の線のうち、1本はさやばねの内側の丸みで、ほぼ決まった位置に入ります。もう1本は、はじめさやばねのふちで入り、おなかの動きにつれて羽の先の方へずれていきます。最後に、羽は2本の線でZの字のように折りたたまれました。羽の真ん中には、ひし形の折り目の模様もできていました。ここまで2秒以内です。
04羽の骨組みは、巻尺のテープに似た形をしていた
チームは、X線を使って体の中を立体的に写すマイクロCTでも、羽を調べました。テントウムシの後ろばねは、ほとんどが柔らかい膜です。飛ぶときは、太い筋が羽の形を保ちます。特に、羽の前のふちの部分は硬く、飛ぶための強さを生んでいると考えられています。
ところが、2本の折り目の線は、この硬い前のふちを横切っています。折り目のところに、関節や薄くなった部分があるわけではありませんでした。調べると、筋の断面がゆるく曲がった形をしていました。巻尺のテープと同じような断面です。たたんだ羽では、この筋が鋭く折れるのではなく、一定の丸みで曲がっていました。
巻尺のテープは、まっすぐのばすと硬くなり、曲げると小さくまとまります。計算では、この曲がった断面の筋は、同じ重さの平らな筋より約11倍曲がりにくくなりました。広げたときは硬く、たたむときはどこでも曲げられます。そのうえ、曲げたときにたまる力が、羽を一気に広げる助けになると考えられています。テントウムシは、0.1秒以内に羽を広げきります。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
甲虫の羽のたたみ方は、体の大きさで違う
論文によると、甲虫の羽のたたみ方には、大まかな傾向があります。カブトムシのような大きな甲虫は、重い体を持ち上げるため、太く硬い筋の羽を持っています。そのぶん、たたみ方は単純で、多くは1本の線で折るだけです。
一方、アリと暮らすアリヅカムシの仲間のような小さな甲虫は、羽の筋が細く柔らかです。6〜7本の線で、じゃばらのように羽をたたむ種もいます。テントウムシは、その中間にいます。羽の硬さを保ちながら、2本の線で小さくたたむという、両立しにくいことを実現しています。
同じ研究者が以前に調べた、ハネカクシの左右ちがいのたたみ方
斉藤さんたちは、2014年にもハネカクシという甲虫の羽を調べています。高速カメラで撮ると、ハネカクシは左右の羽を重ねて同時にたたんでいました。そのため、左右で違う折り目の模様ができていました。左右の模様は入れかえることができ、1枚の羽を2通りの向きでたためました。
「力を使わずに広げる」甲虫の研究
2024年、スイスのローザンヌ工科大学などのチームは、カブトムシの羽を調べました。カブトムシは、さやばねを開くと、ばねのように後ろばねの付け根が少し浮き上がりました。そのあと羽ばたくことで、羽が飛ぶ位置まで広がりました。筋肉で羽を動かさなくても広げられる、とチームは示しています。飛んだあとは、さやばねで後ろばねを押して元の位置に戻せることも分かりました。テントウムシの研究と同じく、さやばねが羽の出し入れに深くかかわっています。
ひし形の折り目は、羽が勝手に開くのを防いでいるのかもしれない
羽の真ん中にできるひし形の折り目は、羽全体の形を変える働きはあまりありません。けれども、真ん中の折り目の山に、小さな折り返しを作ります。たたんだ羽では、この折り返しが2本の太い筋の間にはさまっていました。チームは、羽の弾む力で勝手に開いてしまうのを防ぐ役目があるのではないかと考えています。
このひし形の模様は、折り紙の計算では、面が硬い板のままではたためない形でした。たたむときには、羽の面が少したわむ必要があります。このたわみが、羽を「たたんだ形」と「広げた形」の両方で安定させているのかもしれない、とチームは書いています。
研究方法の工夫と限界
この研究の工夫は、羽をたたむのに必要なさやばねを残したまま、透明にしたことです。さやばねを取ってしまえば羽はたためず、残せば中が見えません。この板ばさみを、形がそっくりの透明なさやばねで解きました。
一方で、まだ分からないこともあります。別の甲虫では、血の圧力で羽の筋をのばすしくみがあると報告されています。テントウムシが同じしくみを使っているかは、今回のCTでははっきりしませんでした。また、筋の曲がりにくさの計算は、筋を均一な材料と見なした簡単なモデルによるものです。チーム自身も、参考の値として扱うべきだと書いています。
05まとめ
テントウムシは、さやばねを閉じてから、その下で後ろばねをたたみます。そのため、たたみ方は外から見えませんでした。研究チームは、さやばねの一部を透明な人工のものにかえ、羽をたたむ様子を撮影しました。
テントウムシは、さやばねのふちと下の面、何度も上下させるおなかを使い、2秒以内に羽を2本の線でZの字にたたんでいました。羽の筋は巻尺のテープに似た断面で、広げると硬く、たたむと丸く曲がります。チームは、人工衛星のアンテナや、傘、扇子などの道具づくりに役立つと期待しています。
テントウムシを手にのせて飛び立つ瞬間を見ると、さやばねの下から後ろばねが一気に広がります。それが0.1秒以内の出来事です。
研究カルテ
東京都目黒区(東京大学駒場キャンパス)
- 研究チーム
- 東京大学生産技術研究所の斉藤一哉さん(当時)たちと、国立科学博物館、九州大学のチーム
- 調べた場所
- 東京大学の研究室(テントウムシは東京の草地でつかまえた)
- 調べた動物
- ナナホシテントウ(学名 Coccinella septempunctata)
- 調べ方
- 右のさやばねの先を透明な樹脂の人工ばねにかえ、高速カメラで撮影。羽の立体の形をX線CTで調べた
- 分かったこと
- さやばねのふちや下の面、おなかの動き、巻尺に似た羽の骨組みを使って羽をたたんでいた
- まだ分からないこと
- 羽を広げるときに、血の圧力のような別のしくみも使っているのかどうか
- 論文
- 米国科学アカデミー紀要 PNAS(2017年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
A ladybird has hard red wing covers. Under them, it keeps thin wings for flying. After landing, it folds these wings under the covers. But nobody could see how, because the covers close first.
A scientist in Tokyo had a smart idea. He made a clear wing cover with the same shape. He used a light-hardened resin, the kind used for nail art. Then he put the clear cover on a living ladybird.
Now the team could film the folding with fast cameras. The ladybird moved its belly up and down many times. The edge of the cover helped make the folds. The folding took less than two seconds.
The wing veins have a curved shape, like a tape measure. They are strong when open and easy to bend when folded. This idea may help us make better umbrellas and satellite antennas.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Why could nobody see the folding before?前は、なぜだれもたたみ方を見られなかったのですか。
テントウムシは先にさやばねを閉じ、その下で羽をたたむので、外から見えませんでした。
Q2. What did the ladybird move up and down?テントウムシは何を上下に動かしましたか。
おなかを何度も上下させて、羽をさやばねの下に引きこんでいました。
Q3. How long did the folding take?羽をたたむのにどれくらいかかりましたか。
羽をたたむのは2秒以内に終わっていました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Saito, K. et al. (2017) Investigation of hindwing folding in ladybird beetles by artificial elytron transplantation and microcomputed tomography. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1620612114
- 2PMC:上の論文の全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5465895/
- 3東京大学(2017)「テントウムシのはねの折り畳みメカニズムを解明」u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/a_00586.html
- 4Saito, K. et al. (2014) Asymmetric hindwing foldings in rove beetles. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1409468111
- 5Baek, S.-M. et al. (2020) Ladybird beetle–inspired compliant origami. Science Robotics 論文確認済みdoi:10.1126/scirobotics.aaz6262
- 6Phan, H. V., Park, H. C. & Floreano, D. (2024) Passive wing deployment and retraction in beetles and flapping microrobots. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/s41586-024-07755-9
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





