首から下を自分で切り離したウミウシは、頭だけから約20日で心臓ごと体を作り直した

2種のウミウシが首の所で自分の体を切り離した。心臓のない頭は動き続け、約3週間で心臓ごと新しい体を作った。切り離された体から頭は生えなかった。

No.030 7分で読めるえっ度 論文 2021年
水そうの底で、緑色のウミウシの頭だけが、細い海藻の上をはっている。少し離れた所に、切り離された緑色の大きな胴体が横たわっている。

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  1. ウミウシが、首の所で自分の体を切り離した
  2. 心臓のない頭だけが生き、新しい体と心臓を作った
  3. 切り離された体のほうからは、頭は生えなかった

人に話すなら

あるウミウシは、首から下を自分で切り離しちゃうんだって。心臓も体のほうに残るのに、頭だけで動き回って、3週間くらいで新しい体と心臓を作り直すらしいよ。

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読む前に予想しよう

ウミウシの仲間には、頭だけになっても心臓をふくむ体を作り直すものがいる

トカゲは敵におそわれると、しっぽを自分で切って逃げます。切れたしっぽは、あとでまた生えてきます。体の一部を自分で切り離すことを「自切(じせつ)」と呼びます。自切する動物は、カニなどの節足動物、巻き貝、ヒトデ、両生類など、たくさんいます。でも、切り離すのはふつう、しっぽや足のような体の端です。

2021年、奈良女子大学の三藤清香(みとう・さやか)さんたちが、これまでにない自切を報告しました。2種類のウミウシが、首の所で、心臓をふくむ胴体をまるごと切り離したのです。残った頭は、心臓がないのに動き続けました。そして若い個体では、およそ20日で心臓ごと新しい体を作り直しました。

心臓や、体の大事な器官の多くを失っても生きのびる。論文によると、体の作りが複雑な動物で、こうした自切はこれまで報告されていませんでした。この現象を見つけたのは三藤さんで、研究室で育てていたウミウシでの出来事でした。

01研究室のウミウシが、ある日、首から体を切り離した

主役は、緑色の葉のような体をしたウミウシの仲間です。1種類目は、鹿児島市でとった親から研究室で育てた、コノハミドリガイの仲間です。体の長さは3〜4cmあります。2種類目は、広島県尾道市の向島でとったクロミドリガイです。こちらは1cmほどの小さなウミウシです。

コノハミドリガイの仲間では、研究室で育てた15匹のうち5匹が、首の所で自切しました。野外でとった別のタイプの1匹も自切しました。1匹は、一生のうちに2回も自切しました。

どの例でも、心臓をつつむ袋は、切り離された胴体のほうに完全に残っていました。胴体には、腎臓や腸、子どもを作るための器官の多くもふくまれていたと考えられます。それでも頭は、切り離された直後から自分で動き回りました。

02心臓のない頭が、1週間で心臓を作り始めた

頭の切り口は、1日以内にふさがりました。若い個体の頭(ふ化してから226〜336日、3匹)は、数時間のうちに海藻を食べ始めました。そして7日以内に心臓を作り始め、およそ20日で体全体を作り直しました。

ただし、年をとった個体(ふ化してから480〜520日、2匹)の頭は、何も食べずに10日以内に死にました。

緑色のウミウシが成長していく様子を、左から右へ4段階で並べた絵。頭だけの姿から、少しずつ胴体が伸び、最後は元どおりの葉のような体になる。

切り離された胴体のほうも、すぐには死にませんでした。つつくと反応して動き、数日から長いものでは数か月動き続けました。それでも、胴体から頭が生えてくることは一度もありませんでした。胴体は少しずつ縮み、色が薄くなり、最後はくさってしまいました。その直前まで、心臓が動いているのが見えたといいます。

03首には、切り離すための「みぞ」があった

2種類のウミウシの首には、横に走るみぞがあります。三藤さんたちは、このみぞが、体が切れる場所としてあらかじめ用意された所ではないかと考えました。

そこで、コノハミドリガイの仲間6匹の首のみぞを、細いナイロンのひもで軽くしばってみました。体が切れないように、そっとしばったのです。すると、5匹が1日以内にしばった所で自切しました。残る1匹は、ひもが少し下にずれてしまい、9日後に首の所で自切しました。切り離された胴体は、体重の80〜85%にもなりました。

一方で、敵におそわれたときのまねもしました。ピンセットで頭をつまんだり、体の横に広がるひだをはさみで少し切ったりしたのです。こちらでは、1匹も自切しませんでした。また、自切が終わるまでには何時間もかかりました。敵から急いで逃げるには、遅すぎます。

04体を捨てる理由は、体の中の寄生虫かもしれない

では、何のために体を切り離すのでしょうか。手がかりは、クロミドリガイにありました。

広島でとったクロミドリガイのうち82匹は、体の中に小さな甲殻類の寄生虫を持っていました。この82匹のうち3匹が首で自切し、2匹は1週間以内に体を作り直しました。切り離された胴体を調べると、中に寄生虫がいました。ほかにも39匹は、自切ではなく体の一部が少しずつとけるように失われ、寄生虫が外に出ました。そのうち13匹は、失った部分を作り直しました。一方、同じときにとった寄生虫のいない60匹あまりは、1匹も自切しませんでした。

自切した個体も、体の一部を失った個体も、作り直したあとは寄生虫がいなくなっていました。この寄生虫は、クロミドリガイの胴体の大部分を占め、子どもを作るのを強くじゃまするといいます。三藤さんたちは、寄生虫ごと体を捨てることで、新しい体で子どもを残せるようになるのではないかと考えています。ただし、コノハミドリガイの仲間では、飼育中に寄生虫は見つかっていません。海藻にからまったときに抜け出すため、体にたまった毒を捨てるため、という別の説も挙げられています。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

頭だけでどうやって生きのびるのか:葉緑体という仮説

この2種類のウミウシは、えさの海藻から葉緑体を取りこみ、自分の細胞の中で光合成に使います。葉緑体は、植物の細胞の中で、日光から栄養を作る小さなつくりです。ウミウシの体には、消化のための管が枝分かれして広がっており、頭にも届いています。その管のまわりの細胞が、葉緑体をたくわえています。三藤さんたちは、頭だけになっても、この葉緑体の光合成で栄養を得て、体を作り直せるのではないかと考えています。ただし、論文の中でも「関わっているのではないか」と考えている段階の仮説です。

反対の研究:光合成がなくても生きられる?

葉緑体を持つウミウシが光合成でどれだけ生きているのかには、反対の結果もあります。2014年、ドイツなどのチームが、葉緑体を長く保つ別の2種類のウミウシを調べました。光の下では、ウミウシは確かに二酸化炭素を取りこんでいました。ところが、えさをあたえずに真っ暗な場所に何か月も置いても、光の下と同じように生きのび、体重の減り方も変わりませんでした。チームは、葉緑体は日光から栄養を作るための物というより、少しずつ消化される「たくわえの食料」なのではないかと書いています。調べた種類はちがいます。それでも、頭だけで生きのびるしくみを考えるときには、この結果も考えに入れる必要があります。

自切の研究の歴史と、今回の新しさ

自切は、カニなどの節足動物、巻き貝、ヒトデ、両生類、トカゲなど、遠い仲間どうしの動物で見られます。ウミウシの仲間にも自切するものはいましたが、切り離すのはしっぽや、背中の突起などの小さな部分でした。体が分かれたあとに、体の大部分を作り直せる動物もいます。プラナリアやヒトデ、クラゲやイソギンチャクの仲間などです。両生類の中には、しっぽや足、目、さらに心臓の心室まで作り直すものもいます。それでも、複雑な体を持つ動物が、心臓をふくむ胴体を自分で捨て、頭から作り直す例は、これまで報告されていませんでした。三藤さんたちはコノハミドリガイの仲間を何世代も育てることに成功しており、心臓をふくむ体の再生を調べる研究材料になると書いています。

研究方法の工夫と限界

この研究のもとになったのは、研究室でウミウシを何世代も飼い、記録を続けたことです。自切はいつ起きるか分からないので、長く飼い続けないと見のがしてしまいます。さらに、首をひもでしばる実験で、首のみぞの所で体が切れることを確かめました。偶然の観察を、手を加えた実験で確かめたわけです。

一方で、数はまだ少ないままです。自然に自切したのは、コノハミドリガイの仲間で15匹中5匹、クロミドリガイで82匹中3匹でした。コノハミドリガイの仲間が何をきっかけに自切したのかも、分かっていません。野外のウミウシがどれくらいの割合で自切しているのかも、これから調べる必要があります。

05まとめ

奈良女子大学の三藤清香さんたちは、2種類のウミウシが首の所で、心臓をふくむ胴体をまるごと切り離すことを見つけました。若い個体の頭は、7日以内に心臓を作り始め、およそ20日で体全体を作り直しました。切り離された胴体からは、頭は生えてきませんでした。

なぜ体を捨てるのか、なぜ頭だけで生きられるのかは、まだはっきりしていません。寄生虫を追い出すため、という説と、葉緑体の光合成が支えているという説がありますが、どちらも確かめる途中です。ちなみに、切り離された胴体の心臓は、くさる直前まで動き続けていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本・奈良

研究チーム
奈良女子大学の三藤清香さんと遊佐陽一さん
調べた場所
奈良女子大学の研究室(ウミウシは鹿児島県と広島県で採集)
調べた動物
コノハミドリガイの仲間(学名 Elysia cf. marginata)とクロミドリガイ(学名 Elysia atroviridis)
調べ方
研究室で飼っていたウミウシの自切を記録し、首をひもで軽くしばる実験もした
分かったこと
首から下を自分で切り離し、若い個体の頭は約20日で心臓をふくむ体を作り直した
まだ分からないこと
なぜ心臓のない頭が生きられるのか。体を切り離すことが何の役に立つのか
論文
Current Biology(2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

A Sea Slug Head Grows a New Body

Some animals can drop a part of their body. A lizard can drop its tail and grow a new one. But two kinds of green sea slugs do something much bigger.

Scientists at Nara Women's University in Japan kept these sea slugs. Some of them cut off their whole body at the neck. The heart stayed in the body, not in the head. But the head kept moving and started to eat.

In young sea slugs, the head started to make a new heart within seven days. It grew a whole new body in about 20 days. The old body never grew a new head.

Why do they do this? One kind had small animals living inside its body. Dropping the body may help it get rid of them. The scientists also think sunlight may help the head live.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the heart stay after the sea slug cut off its body?ウミウシが体を切り離したあと、心臓はどこに残りましたか。

Q2. How long did it take a young sea slug head to grow a new body?若いウミウシの頭が新しい体を作るのに、どれくらいかかりましたか。

Q3. What did the old body do?切り離された古い体はどうなりましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Mitoh, S. & Yusa, Y. (2021) Extreme autotomy and whole-body regeneration in photosynthetic sea slugs. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.01.014
  2. 2奈良女子大学学術情報リポジトリ(2021)同論文の著者版と補足資料nara-wu.repo.nii.ac.jp/records/2002339
  3. 3Christa, G. et al. (2014) Plastid-bearing sea slugs fix CO2 in the light but do not require photosynthesis to survive. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2013.2493

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい