トノサマガエルは、オオスズメバチに口の中を刺されても8割近くが食べきった
トノサマガエルにスズメバチを与えると、口の中を刺されても多くが食べきった。オオスズメバチでも、襲ったカエルの79%が完食。死んだカエルはいなかった。

30秒で読む
- トノサマガエルに3種のスズメバチを与えると、ほとんどのカエルが襲いかかった
- 顔や舌を刺されても、オオスズメバチを襲ったカエルの79%が食べきった
- 刺されて死んだり弱ったりしたカエルは、1匹もいなかった
人に話すなら
トノサマガエルにオオスズメバチを食べさせる実験があってね。舌やのどを刺されても、飛びかかったカエルの8割近くがそのまま飲みこんだんだって。死んだカエルは1匹もいなかったらしいよ。
読む前に予想しよう
トノサマガエルはオオスズメバチに刺されると、ほとんどが吐き出してしまう
実験では、オオスズメバチを襲ったカエル14匹のうち11匹が、刺されても食べきった。
オオスズメバチは、世界で一番大きなスズメバチです。腹の中に大量の毒をためていて、刺されると激しく痛みます。スズメバチの働きバチの毒は、1回刺すだけで小さな動物を殺せるほどの量があります。
そんなハチを、田んぼのそばにいるトノサマガエルが食べていました。神戸大学の杉浦真治さんが、実験室でカエルにスズメバチを与えて確かめました。多くのカエルが、顔や舌、のどを何度も刺されました。それでもオオスズメバチを襲ったカエルの79%が、最後まで食べきりました。刺されて死んだカエルは1匹もいませんでした。
スズメバチの成虫を食べる動物がいることは、前から知られていました。でも、その動物たちが毒針をうまく避けているのか、刺されても平気なのかは分かっていませんでした。この実験は、その答えの1つを、動画の記録で示しました。
01カエルの胃から、スズメバチが見つかっていた
スズメバチの働きバチは、花のみつを吸ったり、巣に運ぶ水を集めたりするために、池や田んぼの水辺にやって来ます。そこは、カエルがたくさんいる場所です。
日本では、野外でつかまえたカエルの胃の中から、スズメバチの成虫が見つかったという報告があります。トノサマガエルのほか、ウシガエルやツチガエルの胃からも見つかりました。花にとまったキイロスズメバチを、トノサマガエルが襲って飲みこむ様子も観察されています。
ただし、胃から見つかったのが刺すメスだったのか、針を持たないオスだったのかは分かりません。スズメバチの針は、卵を産む管が形を変えたものです。だから、針を持っているのはメスだけです。巣で働く働きバチは、すべてメスです。カエルは、刺されても平気なのでしょうか。
02怒らせたスズメバチを、カエルのいる容器に1匹ずつ入れた
杉浦さんは、2024年の初夏から秋にかけて実験をしました。スズメバチは、兵庫県の草地や林で、網やわなを使ってつかまえました。キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、オオスズメバチの3種の働きバチです。どれも日本でよく見かけるスズメバチです。
カエルは、兵庫県と島根県の田んぼや池のまわりの草地でつかまえた、大人のトノサマガエルです。実験の前に1〜2日えさを与えず、おなかのすき具合をそろえました。
実験の手順は、こうです。まず、ハチを透明なふくろに入れ、ピンセットで胸の両側をはさみます。するとハチは、腹の先から針を何度も出し入れしました。どのハチも、刺そうとする構えを見せたのです。次に、カエルを1匹、プラスチックの容器に入れます。そこへピンセットでハチを移します。この様子を、スマートフォンとビデオカメラで撮影しました。
カエルは45匹、ハチは3種15匹ずつ、合わせて45匹です。どのカエルもどのハチも、1回しか使っていません。実験の後には、カエルのふんも調べました。
03顔も舌も、のどの奥も刺された。それでも飲みこんだ
カエルは、ほとんどがすぐにハチを襲いました。キイロスズメバチでは15匹中14匹、コガタスズメバチでは15匹全部、オオスズメバチでは15匹中14匹です。
ハチも、されるがままではありません。動画には、ハチがカエルの顔や目、舌、口の天井、のどを刺す様子が映っていました。オオスズメバチの針の長さは、論文の写真の個体で4.3ミリあります。その針が、カエルの口の中に刺さったまま写っている写真もあります。
それでも、多くのカエルはハチを飲みこみました。襲ったカエルのうち、キイロスズメバチは93%、コガタスズメバチは87%、オオスズメバチは79%が食べきったのです。飲みこんだ後に吐き出したカエルは、1匹もいませんでした。食べたカエルはどれも、2〜4日後に、消化しきれなかったハチの体の一部をふんとして出しました。
とちゅうで襲うのをやめたり、吐き出したりしたカエルもいました。キイロスズメバチで1匹、コガタスズメバチで2匹、オオスズメバチで3匹です。

04刺されたカエルは、1匹も死ななかった
何度も刺されたのに、死んだカエルは1匹もいませんでした。けがをしたカエルもいません。刺された後も、カエルはすぐにふだんどおりに動き出しました。
これがどれほどのことかは、実験用のネズミであるマウスと比べると分かります。これまでの研究で、ハチが1回刺すときに出す毒の量が計算されています。その毒をマウスの血管に直接入れたとして計算すると、キイロスズメバチの1回分は、体重135グラムのマウスでも、半数が死ぬ量にあたります。オオスズメバチの1回分なら、体重270グラムのマウスでも半数が死ぬ量です。一方、実験に使ったカエルの体重は6〜76グラムでした。カエルはこの重さよりずっと軽いのに、刺されても平気だったのです。
もう1つ分かったことがあります。体の大きいカエルほど、ハチを食べきる割合が高かったのです。大きいカエルほど、毒針に強いのかもしれません。
05カエルがなぜ平気なのかは、まだ分かっていない
なぜカエルは、スズメバチの毒や痛みに耐えられるのでしょうか。論文はいくつかの考えを挙げています。カエルはえものを丸のみするので、舌や口、のどがもともと丈夫なのかもしれません。口の中のねばねばしただ液が、守る役目をしているのかもしれません。毒を分解したり、痛みを感じにくくしたりする体のしくみがある可能性もあります。どれも、まだ確かめられていません。
実験のやり方にも、気をつけたい点があります。オオスズメバチの実験には、わざと大きいカエルを使いました。小さいカエルでは、大きなハチが口に入らないと考えたからです。そのため、ハチの種類ごとの成功率を、そのまま比べることはできません。
また、どのカエルも1回しか実験していません。一度刺されたカエルが、次からハチを避けるようになるのかは分かっていません。おなかをすかせた、ハチを知らないカエルだったから襲った、という可能性も残ります。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
毒に強い捕食者は、ほかにもいる
毒を持つえものを平気で食べる動物は、カエルのほかにもいます。論文は、いくつかの例を挙げています。ツノトカゲというトカゲは、毒の強いアリを食べます。このトカゲの血には、アリの毒に負けない性質があります。バッタネズミというネズミは、サソリの毒と痛みに耐える体のしくみを持ち、サソリを食べてしまいます。オオヒキガエルが、刺されると特に痛いことで知られる大きなアリを何匹も食べたという観察もあります。
ハチやアリの針を研究してきたジャスティン・シュミット(Justin O. Schmidt)さんは、痛みの強さと命への危険は必ずしも一致しないと指摘しました。とても痛いのに命にはかかわらない針もあれば、あまり痛くないのに命にかかわる針もあるのです。トノサマガエルは、スズメバチの針の「痛み」と「命への危険」の両方に強いのかもしれない、と論文は考えています。
スズメバチの毒は、カエル向けにできていない?
スズメバチやミツバチ、アリの針は、おもに巣を守るために進化したと考えられています。巣を襲うのは、鳥やけものです。ところがカエルは、ハチの巣を襲うことはめったにありません。花や水辺に来た働きバチを、たまたま食べるだけです。そのため、スズメバチの毒は、カエルを追い払うようには進化してこなかったのかもしれません。神戸大学の発表は、カエルが毒に強くなったのか、ハチの毒がカエル向けに進化しなかったのか、どちらなのかを今後の課題に挙げています。
ハチとカエルの大きさを比べると
実験に使ったハチとカエルの大きさは、論文にくわしく書かれています。キイロスズメバチの働きバチは体長が約2〜2.5センチ、体重は0.2〜0.4グラムでした。オオスズメバチの働きバチは体長が約3.2〜3.9センチ、体重は0.8〜1.5グラムあります。カエルのほうは、鼻先からおしりまでの長さが約4.4〜9.3センチ、体重は6〜76グラムでした。オオスズメバチの実験に使ったカエルは、その中でも大きい27〜76グラムの個体です。
カエルが毒と痛みの研究に役立つかもしれない
人がスズメバチに刺されると、激しい痛みが出ます。カエルがなぜ刺されても平気なのかが分かれば、毒の害や痛みをおさえるしくみの理解につながる可能性があります。論文は、カエルが毒の働きを調べるための実験動物として役立つかもしれないと書いています。
06まとめ
神戸大学の杉浦真治さんは、トノサマガエルにスズメバチ3種の働きバチを1匹ずつ与えました。カエルは顔や舌、のどを刺されながらも、キイロスズメバチの93%、コガタスズメバチの87%、オオスズメバチの79%を食べきりました。刺されて死んだり弱ったりしたカエルは、1匹もいませんでした。
カエルがなぜ平気なのかは、まだ分かっていません。夏の田んぼでトノサマガエルを見かけたら、その口が世界最大のスズメバチの針にも負けないことを思い出してください。
研究カルテ
兵庫県神戸市
- 研究チーム
- 神戸大学大学院農学研究科の杉浦真治さん(1人での研究)
- 調べた場所
- 神戸大学の実験室(ハチは兵庫県、カエルは兵庫県と島根県で採集)
- 調べた動物
- トノサマガエル(学名 Pelophylax nigromaculatus)と、キイロスズメバチ・コガタスズメバチ・オオスズメバチの働きバチ
- 調べ方
- カエル1匹とハチ1匹を同じ容器に入れ、襲うか、刺されるか、食べきるかを動画で記録した
- 分かったこと
- 3種とも、襲ったカエルの8〜9割が食べきった。オオスズメバチでも79%。死んだりけがをしたりしたカエルはいなかった
- まだ分からないこと
- なぜ毒や痛みに耐えられるのか。刺された経験のあるカエルが、次からハチを避けるのか
- 論文
- Ecosphere(2025年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
The Asian giant hornet is the largest hornet in the world. Its sting is very painful. It stores a lot of venom in its body. But pond frogs in Japan sometimes eat hornets near rice fields.
A scientist at Kobe University did an experiment. He put one frog and one hornet together in a box. He used 45 frogs and three kinds of hornets. Almost all the frogs attacked the hornets.
The hornets stung the frogs on the face, tongue, and throat. But most frogs still swallowed them. Even with the giant hornet, 79 percent of the attacking frogs ate it. No frog died or got hurt.
Bigger frogs were better at eating hornets. Scientists still do not know how the frogs can stand the pain and the poison. Frogs may help us learn more about hornet stings.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many frogs did the scientist use?研究者は何匹のカエルを使いましたか。
カエル45匹を使い、3種類のハチを15匹ずつ与えました。
Q2. Where did the hornets sting the frogs?ハチはカエルのどこを刺しましたか。
ハチはカエルの顔や舌、のどなどを刺しました。
Q3. What happened to the frogs after the stings?刺された後、カエルはどうなりましたか。
何度も刺されても、死んだりけがをしたりしたカエルは1匹もいませんでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Sugiura, S. (2025) Pond frog as a predator of hornet workers: High tolerance to venomous stings. Ecosphere 論文確認済みdoi:10.1002/ecs2.70457
- 2神戸大学(2025)トノサマガエルはスズメバチに刺されても捕食できるkobe-u.ac.jp/ja/news/article/20251204-67323/
- 3Sugiura, S. (2020) Active escape of prey from predator vent via the digestive tract. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2020.06.026
- 4Sugiura, S. & Tsujii, M. (2022) Male wasp genitalia as an anti-predator defense. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2022.11.030
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





