ミミズが主食のヤマカガシの仲間は、ホタルの幼虫を食べて身を守る毒をためていた

ヤマカガシの仲間には、ミミズが主食なのに身を守る毒を持つヘビがいる。その毒は、食べたホタルの幼虫から取りこんだものだった。

No.137 8分で読めるえっ度 論文 2025年
しめった林の落ち葉の上で、茶色っぽい細身のヘビが、平たくて節のある黒っぽいホタルの幼虫を口にくわえている。

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  1. 日本のヤマカガシは、食べたヒキガエルの毒を首の腺にためて身を守る
  2. ミミズが主食の中国の仲間も、同じ種類の毒を持っていた
  3. その毒の形はホタルのものと一致し、胃からはホタルの幼虫が出てきた

人に話すなら

ヤマカガシの毒って、もとは食べたヒキガエルの毒なんだって。で、ミミズばかり食べる中国の仲間は、代わりにホタルの幼虫を食べて同じ種類の毒をためてるらしいよ。

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ミミズを主食にするヤマカガシの仲間は、毒を持っていない

ヤマカガシは、日本でよく見られるヘビの1つです。このヘビの首の皮の下には、毒をためる器官があります。ところがこの毒は、ヘビが自分で作ったものではありません。えさとして食べたヒキガエルの毒を、体にためていたのです。

では、ヒキガエルを食べなくなった仲間はどうなるのでしょうか。中国には、ミミズを主食にするヤマカガシの仲間がいます。ミミズは毒を持っていません。それなのに、このヘビも同じ種類の毒を持っていました。京都大学などのチームが調べると、その毒の出どころはホタルの幼虫でした。

毒の出どころが、カエルから昆虫に変わっていたのです。これほどかけ離れた生き物へ毒の出どころが移った例は、ほかに知られていないと京都大学は発表しています。

01日本のヤマカガシは、食べたヒキガエルの毒を首にためる

ヤマカガシは、トノサマガエルやアマガエルなどのカエルや、ドジョウなどの魚を食べます。ときどき、ヒキガエルも食べます。首の背中側の皮の下には「頸腺(けいせん)」という、毒をためる器官があります。敵におそわれて皮が破れると、毒液が飛び散ります。この毒液が目に入ると、人間でも一時的に目が見えなくなるほどです。

毒の正体は「ブファジエノライド」という物質です。心臓に強く効く毒で、ヘビをおそう多くの動物にとって危険です。2020年の時点で、この毒を作ると考えられていた動物は、ヒキガエルと一部のホタルだけでした。

2007年、アメリカの大学の研究者と京都大学の森哲(もり・あきら)さんたちのチームは、ヤマカガシがこの毒を自分では作っていないことを示しました。ヒキガエルのいない場所でとれたヤマカガシの頸腺には、この毒がありませんでした。卵からかえった子ヘビを育てる実験では、ヒキガエルを食べさせた子ヘビが毒をためました。毒をたくさん持つ母親から生まれた子ヘビは、ヒキガエルを食べなくても毒を持っていました。

02ミミズが主食の仲間も、同じ種類の毒を持っていた

頸腺のような毒の器官を持つヘビは、ヤマカガシ属に17種知られています。インドやスリランカから中国、日本までのアジアにだけすむヘビです。そのうち中国南西部の「イツウロコヤマカガシ」は、カエルではなくミミズを主食にしています。遺伝子を調べた研究から、この仲間は進化のとちゅうで、主食をカエルからミミズに変えたと考えられています。

このヘビの仲間は、ほかのヤマカガシ属より体が小さく、頭が細めです。頭が細いのは、ミミズのような細長いえさを食べるヘビによく見られる特徴です。

チームはまず、本当にミミズが主食なのかを確かめました。四川省でとれたイツウロコヤマカガシ28匹の胃と腸を調べると、えさが残っていたのは12匹でした。そのうち8匹から、ミミズが出てきました。卵からかえした子ヘビ30匹を10匹ずつ3組に分け、それぞれにミミズ、トノサマガエル、ヒキガエルの仲間を出しました。ミミズの組は10匹中9匹が食べました。トノサマガエルの組は1匹も食べず、ヒキガエルの組で食べたのは1匹だけでした。

それなのに、このヘビの首から背中にかけての腺には、ブファジエノライドがありました。ヘビがすむ場所のミミズ14匹と、つりのえさ用のミミズ3匹を分析しても、毒は見つかりませんでした。では、この毒はどこから来たのでしょうか。

03毒の形を調べると、ヒキガエルではなくホタルのものだった

チームは、ヘビ29匹の腺から毒液を集めました。首や背中に紙を当て、そっと押して腺を破り、紙にしみこんだ液を取り出したのです。分析すると、これまでヤマカガシ属から見つかっていなかった4種類のブファジエノライドが出てきました。

そのうち2種類は、北アメリカのホタルから見つかっていた物質と同じでした。残り2種類は新しい物質でしたが、台湾のホタルの幼虫からも同じものが見つかりました。

ブファジエノライドは、細かい形の違いで、ヒキガエル型とホタル型に分けられます。たとえば分子の中の2つの輪のつながり方です。ヒキガエルの毒は、すべて同じつながり方をしています。ホタルの毒には、それとは違うつながり方のものもあります。ヘビの4種類の毒は、すべてホタル型のつながり方でした。そのうち1つは糖がついた形で、動物ではホタルからしか見つかっていなかった形でした。分子に小さな部品がつく位置も、ホタルの毒と同じでした。

同じ4種類の毒は、ミミズを主食にするほかの2種の仲間からも見つかりました。チームは、毒の出どころがホタルに変わったのは、このミミズ食のグループに共通する特徴だと考えています。

地面の断面の絵。土の中にミミズがいて、落ち葉の上には節のある平たいホタルの幼虫がはい、その横を細身のヘビが舌を出しながら進んでいる。

04野生のヘビの胃から、ホタルの幼虫が出てきた

毒の形だけでは、ヘビが本当にホタルを食べているかは分かりません。そこでチームは、えさの証拠も集めました。

先ほどの胃と腸の調べでは、えさが残っていた12匹のうち5匹から、ホタルの幼虫が合わせて8匹見つかりました。マドボタルの仲間の幼虫です。

飼育下でも確かめました。大人のヘビ5匹のケースに、別のマドボタルの仲間の幼虫を3匹ずつ入れ、赤外線カメラで72時間撮影しました。すると、5匹のうち少なくとも3匹が、自分から幼虫を食べました。

論文は、このヘビがミミズを主に食べながら、ホタルの幼虫も食べて毒をためていると結論しています。ヒキガエルも、ときどき食べる小さな毒の出どころとして残っているようです。

05ヘビは、毒のあるホタルだけを選んで食べていた

ヘビの暮らす場所には、毒を持たないホタルもいます。ヘビは、毒のあるホタルを見分けているのでしょうか。2022年、京都大学などのチームが、この仲間のヘビで確かめました。

2020年の研究のあと、四川省のヘビの一部は、別の新しい種として名前がつけられました。チームは、この新しい種のヘビ20匹を使いました。綿棒に8種類のにおいをつけて、ヘビが舌を出す回数を比べたのです。

いちばん強く反応したのは、毒のあるマドボタルの仲間の幼虫のにおいでした。綿棒にかみついたのも、このにおいのときだけでした。えさとして出すと、18匹中13匹がこの幼虫を食べました。一方、毒のないホタル3種の幼虫は、1匹も食べませんでした。

ただし、ヘビは毒の物質だけのにおいには、中くらいの反応しか見せませんでした。ヘビが何を手がかりに毒のあるホタルを見分けているのかは、まだ分かっていません。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

えさの毒をためる動物は多い。でも、出どころがここまで変わった例はめずらしい

えさの毒を自分の体にためて身を守る動物は、昆虫にたくさんいます。食べる植物を大きく変えても、同じ種類の毒をためつづけた昆虫の例も知られています。脊椎動物では、ヤドクガエルの仲間が有名です。およそ155種のヤドクガエルが、アリやダニなどのえさから、850種類をこえる毒をためています。

それでも、脊椎動物のヒキガエルから昆虫のホタルへと、毒のおもな出どころが移った例は、ほかに知られていません。昆虫を食べるヘビ自体が、ヘビ全体ではあまり多くありません。

なぜ、ミミズ食のヘビはホタルを食べはじめたのか

論文は、ヘビがにおいでえさを選ぶことに注目しています。ヒキガエルとホタルは、まったく違う生き物です。それでも同じ毒を持っています。チームは、ヘビが毒の物質そのものをにおいの手がかりにして、ホタルの幼虫に行き着いたのではないかと考えました。ホタルの幼虫は細長くて体がやわらかく、ミミズと形が似ている点も助けになったかもしれないと述べています。

ところが2022年の実験では、毒の物質だけには中くらいの反応でした。チームは、手がかりは1つの物質ではなく、何種類かの毒の組み合わせかもしれないと考えています。ヒキガエルとホタルに共通する、毒以外の物質の可能性もあります。答えはまだ出ていません。

少なくとも1種のホタルは、自分で毒を作っていた

2020年の時点では、ホタルが毒をどう手に入れているかもはっきりしていませんでした。ホタルの一部のメスは、別の種のホタルのオスを食べて毒を手に入れます。ほかのホタルは自分で作ると考えられていましたが、作り方は分かっていませんでした。

2025年に発表された研究が、この疑問の一部に答えました。北アメリカのホタルの幼虫に、目印をつけたコレステロールを食べさせました。すると、目印は幼虫の毒の中から見つかりました。少なくともこのホタルは、食べたコレステロールから自分で毒を作っていたのです。ヒキガエルも、コレステロールからこの毒を作ります。

毒を食べても、ヘビはなぜ平気なのか

ブファジエノライドは、細胞の表面でナトリウムとカリウムを出し入れするたんぱく質の働きを止めます。そのせいで心臓の筋肉が強く縮みつづけ、多くの動物にとって命にかかわります。ヤマカガシ属のヘビは、このたんぱく質の遺伝子が変化していて、毒が効きにくくなっています。だから毒のあるえさを食べ、体にためておけるのです。

06まとめ

日本のヤマカガシは、食べたヒキガエルの毒を首の頸腺にためて身を守ります。中国にすむ仲間のイツウロコヤマカガシは、主食をミミズに変えていました。それでも同じ種類の毒を持っており、その毒はホタルの毒と同じ形でした。野生のヘビの胃からは、ホタルの幼虫も見つかりました。

さらに後の実験で、四川省の仲間のヘビは、毒のあるホタルの幼虫だけを食べ、毒のないホタルの幼虫は食べませんでした。ホタルの幼虫が、ミミズを食べるヘビの毒の出どころになっていたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

中国・四川省雅安市

研究チーム
京都大学の森哲・森直樹らと、中国・台湾・アメリカなどの共同チーム
調べた場所
中国の四川省(ヘビの採集・飼育実験)、京都大学(毒の分析)
調べた動物
イツウロコヤマカガシ(学名 Rhabdophis pentasupralabialis)とその近い仲間
調べ方
胃の中身、飼育下でのえさ選び、首から背中の腺の毒の化学分析、ホタルの幼虫の毒との比較
分かったこと
毒はヒキガエルではなくホタルの毒と同じ形。野生のヘビの胃からホタルの幼虫が出た
まだ分からないこと
ヘビが何を手がかりにホタルの幼虫を毒の出どころとして見つけたのか
論文
PNAS(米国科学アカデミー紀要、2020年)
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A Snake That Gets Its Poison from Fireflies

The yamakagashi is a snake in Japan. It keeps poison in its neck to protect itself. If the poison gets into a person's eyes, the person cannot see for a while. But the snake does not make this poison. It gets the poison from the toads it eats.

In China, a related snake eats mostly earthworms. Earthworms have no poison. However, this snake has the same kind of poison.

Scientists from Kyoto University studied the poison closely. Its shape matched the poison of fireflies, not toads. Two of its four kinds were also found in a firefly from Taiwan. They also found firefly babies in the stomachs of wild snakes.

In a later study, the snakes ate only the fireflies with poison. In one test, 13 of 18 snakes ate the firefly babies with poison. They did not eat fireflies without poison. The snakes changed their food, but they kept their poison.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where does the yamakagashi in Japan get its poison?日本のヤマカガシは、どこから毒を手に入れますか。

Q2. What does the snake in China mostly eat?中国のヘビは、主に何を食べますか。

Q3. What did the scientists find in the stomachs of wild snakes?研究者は野生のヘビの胃から何を見つけましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Yoshida, T. et al. (2020) Dramatic dietary shift maintains sequestered toxins in chemically defended snakes. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1919065117
  2. 2京都大学(2020)中国のヤマカガシは頸腺毒の成分をホタルから摂取していたことを発見kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2020-03-03
  3. 3Hutchinson, D. A. et al. (2007) Dietary sequestration of defensive steroids in nuchal glands of the Asian snake Rhabdophis tigrinus. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.0610785104
  4. 4Fukuda, M. et al. (2022) Do predators prefer toxic animals? A case of chemical discrimination by an Asian snake that sequesters firefly toxins. Current Zoology 論文確認済みdoi:10.1093/cz/zoab102
  5. 5Smedley, S. R. et al. (2025) The Source of Firefly Chemical Defenses: Endogenous Biosynthesis of Lucibufagins from Cholesterol. ACS Omega 論文確認済みdoi:10.1021/acsomega.5c06679

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい