よその巣に侵入した女王アリが、巣の女王に液を15回かけると、娘の働きアリが母を殺した
よその巣を乗っ取る日本のアリ2種の女王は、その巣の女王に液をかける。すると娘の働きアリが母を襲って殺し、侵入者を新しい女王として受け入れた。

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- 寄生する女王アリは、よその巣の女王にお尻から液をかけた
- すると働きアリが、自分の母である女王を襲って殺した
- そのあと働きアリは、入りこんだ女王を新しい女王として世話した
人に話すなら
よその巣に入りこんだ女王アリが、その巣の女王に液をひっかけるんだって。すると働きアリが自分のお母さんを襲って殺しちゃう。最初に気づいたのは、アリ好きの人のブログだったらしいよ。
読む前に予想しよう
よその巣を乗っ取る女王アリは、どの種も自分で相手の女王をかみ殺す
日本の2種は液をかけ、相手の娘である働きアリに母を殺させていた。
アリの巣の奥には、卵を産む女王アリがいます。まわりの働きアリは、ほとんどがその女王が産んだ娘です。娘たちは母にえさを運び、敵が来れば体を張って守ります。
ところが日本の研究チームが、この娘たちが母を襲って殺す場面を記録しました。きっかけは、よその巣に入りこんだ別の種の女王アリです。この女王が巣の女王に液をかけると、まわりの働きアリが自分の母にかみつき始めました。ある種では、液をかけた回数は20時間で15回でした。
よその巣を乗っ取るアリは前から知られていました。ただ、乗っ取る側が相手の女王を消すやり方は、ほとんど分かっていませんでした。今回の研究で、「相手の娘に母を殺させる」という、これまで知られていなかった方法が見えてきました。
01女王を追い出して巣ごと乗っ取るアリがいる
アリの中には、自分では巣を一から作らず、よその種の巣を使う種がいます。このやり方を社会寄生といいます。ほかの種の巣と働きアリを、自分の子育てに使ってしまう暮らし方です。
社会寄生にはいくつか型があります。今回の2種がとるのは「一時的社会寄生」という型です。若い女王が1匹で相手の巣にしのびこみ、そこの女王を消します。そして自分の卵を、残った働きアリに育てさせます。
乗っ取られた巣の働きアリは、やがて寿命で死んでいきます。そのあとは寄生した種のアリだけの巣になります。寄生している期間が限られているので「一時的」と呼ばれます。
この暮らし方で一番大事な場面は、相手の女王を消すところです。これまでに知られていたのは、寄生する女王が自分で相手の女王の首にかみつき、切り落とすやり方だけでした。九州大学のプレスリリースは、ほかの方法がほとんど分かっていなかったと説明しています。
02巣のにおいをまとった女王が、相手の女王に近づいた
研究したのは、九州大学の髙須賀圭三助教と、2人のアリ好きの人です。1人は第一著者の島田拓さん、もう1人は東京都八王子市の田中勇史さんです。研究チームは、人が飼育しているアリの巣を使って観察しました。
調べたのは、ケアリの仲間の寄生アリ2種です。テラニシクサアリはキイロケアリの巣を、アメイロケアリはトビイロケアリの巣をねらいます。乗っ取られる側の2種は、どちらも寄生の相手として記録がある種です。
髙須賀さんによると、そのまま巣に入れると、寄生する女王はすぐに見つかって襲われてしまいます。そこで研究チームは、寄生する女王を少数の働きアリやまゆと一緒に入れておきました。たった一晩で、女王の体には相手の巣のにおいがつきました。
次に、巣とつながった別の部屋に、寄生する女王をそっと放しました。すると2種とも、自分から巣の中へ入っていきました。しばらくして相手の女王に近づくと、お腹を前に強く曲げ、女王めがけて液を吹きかけました。
03液をかけられた女王に、娘たちがかみついた
液がかかった瞬間、それまで女王を世話していた働きアリたちが女王を攻撃し始めました。働きアリにとって、この女王は自分の母です。
テラニシクサアリは、最初に液をかけてから20時間で、合わせて15回も液をかけました。かけるたびに、働きアリの攻撃は激しくなりました。九州大学の英語の発表によると、キイロケアリの女王は4日後に殺されました。
アメイロケアリが液をかけたのは、全部で2回だけでした。それでもトビイロケアリの働きアリはすぐに女王を襲い、体をばらばらにしました。どちらの場合も、母の女王は娘たちに殺されたのです。
そのあと働きアリは、入りこんだ寄生女王を受け入れました。 寄生した女王は卵を産み、働きアリがその子を育てました。巣はやがて寄生した種だけの巣へと変わっていきました。

研究チームは、女王が死んだのは液そのものの毒のせいではないと考えています。液をかけるたびに働きアリの攻撃が強まったからです。女王の命をうばったのは、娘たちによる集中攻撃だと考えられます。
04始まりは、アリ好きの人のブログだった
最初にこの場面を見たのは、第一著者の島田さんです。島田さんは子どものころからアリに夢中で、アリについてのブログを書いています。2021年、テラニシクサアリがよその巣に入りこむ様子をブログにのせました。
それから3年後、髙須賀さんがその記事を見つけました。髙須賀さんはふだん、寄生バチがクモをあやつるしくみを研究しています。大学の発表の中で、記事を読んで本当に驚き、学問の記録として残すべきだと考えたと話しています。
アメイロケアリの行動は、田中さんが島田さんと同じやり方で観察して見つけました。研究者ではない2人の観察が、アメリカの科学誌にのる論文になったのです。
05液の正体は、まだ確かめられていない
研究チームは、かけた液を蟻酸だと考えています。ただし、液の成分を調べて確かめたわけではありません。日本語の発表でも「蟻酸と見られる液体」と書かれています。
なぜ蟻酸で、娘が母を襲うのでしょうか。髙須賀さんは次のように説明しています。寄生する側も乗っ取られる側も同じケアリの仲間で、どちらも蟻酸を持ち、蟻酸を危険の合図として知っています。そのため、女王が急に大量の蟻酸にまみれると、働きアリは母を巣の危機だと受け取るのではないか、という考えです。
この考えは、まだ仮説の段階です。液の成分を調べることや、蟻酸だけで同じことが起きるかを試すことが、次の確かめ方になるでしょう。また、今回の観察はどれも人が飼っている巣でのものです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
母を殺すことが、自然の中でほとんど起きない理由
論文によると、子どもが殺される「子殺し」に比べて、子が母を殺すことははるかに珍しい出来事です。母と一緒に暮らす動物では、母に世話をしてもらう得がとても大きいからです。母を消して得をする場面は、ほとんどありません。
アリの働きアリは、自分ではふつう子を産みません。母である女王が産む妹や弟を育てることで、自分と同じ遺伝子を次の代に残します。今回の母殺しは、働きアリが自分から選んだ行動ではありません。寄生する女王に引き起こされた行動だと研究チームは考えています。
遠い親戚の2種が、別々に同じ手を身につけた
ケアリの仲間の中では、一時的社会寄生が2回、別々に生まれたと考えられています。今回のテラニシクサアリとアメイロケアリは、それぞれ別の起源のグループに入ります。
つまり2種は、共通の祖先から母殺しをさせる技を受けついだのではなさそうです。別々の道すじで、同じような技にたどり着いたと考えられます。これを収れん進化といいます。研究チームは、ほかの寄生アリの中にも同じような手を使う種がいるかもしれないと考えています。寄生アリが相手の女王をどう消すかは、ほとんどの種でまだ分かっていません。
寄生の「始まり」には、どの生き物も特別な技を持っている
九州大学の発表は、寄生する生き物にとって、寄生を始める瞬間が、生き残れるかどうかを分ける大事な場面だと説明しています。たとえば寄生バチは、相手の守りをかいくぐって卵を産みつけます。カッコウの仲間は、ほかの鳥の巣から卵を1つ取りのぞき、すばやく自分の卵を産みこみます。
寄生アリの女王にとっての大事な場面は、相手の巣にしのびこみ、相手の女王を消すところです。今回の2種は、ここで自分の力を使わず、相手の働きアリの力を使っていました。相手の巣のにおいをまとって近づき、液をかけます。母を殺すのは、その娘たちでした。
働きアリの行動は、だれの遺伝子が決めたのか
寄生する生き物が、相手の行動を自分に都合よく変えることを「寄主操作」といいます。九州大学の発表は、今回の母殺しを寄主操作の新しい型だと説明しています。
働きアリが母を殺すという行動は、働きアリの遺伝子が決めたものではありません。液をかけるという、寄生する女王の遺伝子による行動が引き起こしたものです。生物学者のリチャード・ドーキンス(Richard Dawkins)は、遺伝子の働きが自分の体の外にまでおよぶことを「延長された表現型」と呼びました。九州大学の発表は、今回の発見をその実例の一つとしています。
06まとめ
日本にすむ2種の寄生アリの女王は、よその巣の女王に液をかけます。すると娘である働きアリが自分の母を襲って殺し、侵入した女王を新しい女王として迎えました。テラニシクサアリは20時間で15回、アメイロケアリは2回、液をかけました。
液は蟻酸だと考えられていますが、まだ確かめられていません。観察はどれも、人が飼っている巣で行われたものです。
この発見の始まりは、アリを飼っていた人が2021年にブログに書いた観察でした。大学の研究者がその記事を見つけたのは、3年後のことです。
研究カルテ
日本・東京都(飼育下の観察)
- 研究チーム
- 九州大学の髙須賀圭三助教と、アリ好きの島田拓さん・田中勇史さん(第一著者は島田さん)
- 調べた場所
- 日本(飼っているアリの巣での観察)
- 調べた動物
- 寄生するテラニシクサアリ(Lasius orientalis)とアメイロケアリ(L. umbratus)、巣を乗っ取られる側のキイロケアリとトビイロケアリ
- 調べ方
- 野外で見つけた寄生する女王を、飼育しているよその種の巣に放し、何が起きるかを見守った
- 分かったこと
- 寄生する女王が巣の女王に液をかけると、働きアリが自分の母を襲って殺し、寄生する女王を受け入れた
- まだ分からないこと
- 液は本当に蟻酸なのか。ほかの寄生アリも同じ手を使っているのか
- 論文
- Current Biology(2025年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
In an ant nest, the queen lays eggs. Most of the workers are her daughters, and they protect her.
Some ant queens in Japan take over the nests of other ants. First, the new queen gets the smell of the other nest. Then she walks inside and sprays a liquid on the old queen.
After that, the workers attack their own mother and kill her. One kind of queen sprayed 15 times in 20 hours. Another kind sprayed only two times. Then the workers took care of the new queen and her babies.
Scientists think the liquid is formic acid, but they have not checked it yet. The first person to see this was an ant lover. He wrote about it on his blog in 2021. A university scientist found the post three years later.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Who are most of the workers in an ant nest?アリの巣の働きアリのほとんどは、だれですか。
働きアリのほとんどは、巣の女王が産んだ娘です。
Q2. What did the new queen do to the old queen?新しい女王は、もとの女王に何をしましたか。
新しい女王は液をかけただけで、殺したのは働きアリでした。
Q3. How did the scientist find out about this?研究者はどうやってこのことを知りましたか。
アリ好きの人が2021年にブログに書いた記事を、3年後に研究者が見つけました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Shimada, T., Tanaka, Y. & Takasuka, K. (2025) Socially parasitic ant queens chemically induce queen-matricide in host workers. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2025.09.037
- 2PubMed:上の論文の要旨pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41253115/
- 3九州大学(2025)プレスリリース「社会寄生性ケアリ2種はホストワーカーに実母である女王の殺害を強要する」kyushu-u.ac.jp/f/63906/25_1113_02.pdf
- 4Kyushu University(2025)Press release: Parasitic matricide, ants chemically compel host workers to kill their own queenkyushu-u.ac.jp/f/66171/2501118_Takasuka_HP.pdf
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





