右あごの歯が多いヘビは左巻きのカタツムリが苦手。実験では左巻きの9割近くが生き残った

カタツムリばかり食べるヘビは、右のあごの歯が多く、右巻きの殻に合った食べ方をする。実験では、右巻きは全滅し、左巻きは9割近くが生き残った。

No.148 8分で読めるえっ度 論文 2017年
夜の森で、細長くて頭の大きなヘビが、木の枝をはうカタツムリに後ろから近づいている。カタツムリの殻は左巻き。

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  1. カタツムリを食べるヘビは、右のあごの歯が左より多い
  2. 実験で、右巻きのカタツムリは全滅し、左巻きは9割近くが生き残った
  3. このヘビがいる地域では、左巻きのカタツムリの仲間の割合が高かった

人に話すなら

カタツムリを食べるヘビって、右のあごの歯が左より多い「右利き」なんだって。だから左巻きのカタツムリはうまく食べられなくて、実験では9割近くが生き残ったらしいよ。

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カタツムリを食べるイワサキセダカヘビは、右のあごの歯が左より多い

カタツムリの殻をてっぺんから見ると、うずを巻いています。うずの向きには、時計回りの「右巻き」と、反対向きの「左巻き」があります。世界のカタツムリは、ほとんどが右巻きです。

そのため、カタツムリばかり食べるヘビは、右巻きの殻に合った体と食べ方をしています。日本の石垣島や西表島にすむイワサキセダカヘビは、右の下あごの歯が左より6本ほど多いヘビです。日本と台湾の研究者のチームが実験すると、右巻きのカタツムリは1匹も生き残れませんでした。ところが左巻きのカタツムリは、87.5%が生き残りました。

左巻きのカタツムリは、右巻きの相手とは交尾しにくいことが知られています。数が少ないうちは相手が見つからず、増えにくいはずです。それなのに、なぜ左巻きの種が何度も生まれてきたのか。チームは、その答えの1つがこのヘビだと考えました。

01カタツムリを食べるヘビは、右のあごの歯が多い

イワサキセダカヘビは、セダカヘビの仲間です。セダカヘビの仲間は東南アジアなどにすみ、カタツムリやナメクジを専門に食べます。

カタツムリの食べ方は、少し変わっています。ヘビは、はっているカタツムリに後ろから近づき、決まった角度で左寄りにかみつきます。上あごで殻の下側を押さえ、下あごを殻の入り口に差しこみます。そして左右の下あごを、交互に前に出したり引いたりして、殻の中から体を引き出します。

このヘビの頭の骨を見ると、右の下あごには、左より6本ほど多く歯が並んでいます。チームはこの歯の数のちがいと、決まった向きのかみつき方を「右利き」と呼んでいます。2007年の研究では、調べたセダカヘビの仲間のうち、カタツムリを専門に食べない種をのぞいて、右の下あごの歯が左より多いことが分かりました。

同じ2007年の研究で、ヘビは右巻きのカタツムリのほうが速く、あごを動かす回数も少なく食べ終えました。左巻きのカタツムリは、つかみそこねて落とすことが多くありました。

02左巻きのカタツムリは、87.5%が生き残った

研究したのは、東北大学の細将貴さんたちです。実験は、2004年8月から2005年8月にかけて、京都大学で行いました。

ヘビは4匹使いました。3匹は石垣島、1匹は西表島で採集したもので、頭の先から尾の付け根までの長さは43〜58cmでした。カタツムリは、サツマ属の2種を使いました。沖縄島にすむ右巻きの種と、久米島にすむ左巻きの種です。2種は形も大きさもよく似ていて、親せきどうしです。殻の直径は平均27mmほどでした。

カタツムリは、どちらもセダカヘビのいない島から集めました。ヘビのいる島のカタツムリは、ヘビに合わせた守りを身につけていたり、ヘビに慣れていたりするかもしれません。そうした影響をさけるための工夫です。

それぞれのヘビに、右巻きと左巻きのカタツムリを10回ずつ与えました。結果ははっきり分かれました。右巻きのカタツムリは、1匹も生き残りませんでした。左巻きのカタツムリは、87.5%が生き残りました。

ヘビは、実験の間ずっと、右巻き向きのかみつき方を変えませんでした。左巻きの殻をつかむには、殻の入り口をこえて反対側に上あごをかけなければなりません。殻の入り口が大きいと、ヘビの口では届かないのです。

2匹のカタツムリが向かい合って並んでいる。左の殻は右巻き、右の殻は左巻きで、うずの向きが鏡に映したように逆になっている。

03ヘビのいる地域では、左巻きのカタツムリの仲間が多かった

実験の結果が自然でも働いているなら、セダカヘビのいる地域では、左巻きのカタツムリが多く生まれているはずです。チームは、世界の陸のカタツムリについて、属ごとに殻の巻き方とすむ地域を調べました。属は、よく似た種をまとめたグループです。

セダカヘビのいる地域では、左巻きの種をふくむ属が11.8%でした。いない地域では5.0%です。この差は、殻が平たいカタツムリや、殻が大きいカタツムリで、よりはっきりしていました。

殻が平たいカタツムリは、向かい合って交尾します。右巻きと左巻きでは体の向きが逆なので、この形だとほとんど交尾できません。殻が高いカタツムリは、相手の殻に乗って交尾するので、巻き方がちがっても比較的交尾しやすいといいます。

平たい殻の左巻きは、偶然だけでは増えにくいはずです。それでもヘビのいる地域で多いことは、ヘビに食べられにくい得が、交尾しにくい損を上回った可能性を示しています。

04左巻きの種は、何度も別々に生まれていた

チームは、日本と台湾のサツマ属75種のDNAを調べ、親せき関係の図を作りました。もし左巻きの種が1回だけ生まれて分かれていったのなら、左巻きの種は図の上で1つのまとまりになるはずです。

結果はちがいました。左巻きの種は、図の上で少なくとも3つの別々のグループに分かれていました。右巻きの祖先から、左巻きの種が何度も別々に生まれていたことになります。しかも、サツマ属の左巻きの種は、セダカヘビのいない地域にはほとんどいませんでした。

カタツムリの巻き方は、多くの場合1つの遺伝子で決まります。論文は、左巻きになった集団は右巻きの集団と交尾しにくくなり、そのまま新しい種になりうると考えています。チームは、ヘビに食べられにくいことで左巻きの遺伝子が集団に広まり、新しい種が生まれたと考えています。

05ただし、すべての左巻きがヘビのおかげではない

論文は、限界もはっきり書いています。実験の2種は、巻き方のほかにも細かいちがいがあるかもしれません。結果がすべて巻き方のせいだとは、この実験だけでは言い切れません。

また、ヘビのいない地域にも左巻きの属はあります。左巻きは、ヘビとは関係なく生まれることもあるのです。チームは、ヘビのいる地域の左巻きの種がすべてヘビのせいで生まれた、とは結論づけていません。

「右巻きと左巻きは交尾できない」という前提にも、反対の証拠が出ています。2017年、イギリスのノッティンガム大学と東北大学のチームは、日本のマイマイ属のカタツムリを調べました。すると、巻き方のちがう個体どうしが交尾した例が見つかりました。遺伝子が行き来している証拠もありました。

このチームは、巻き方の遺伝子1つだけで新しい種ができると考えるには、まだ証拠が足りないと書いています。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

左巻きは、なぜ増えにくいのか

カタツムリの巻き方は、子ども自身ではなく、母親の遺伝子で決まります。少なくとも4つの科のカタツムリで、1つの遺伝子が巻き方を決めていることが知られています。

右巻きばかりの集団に、左巻きの個体が生まれたとします。左巻きの個体は、まわりの右巻きとうまく交尾できません。数が少ないものほど相手を見つけにくく、不利になります。そのため、左巻きは集団の中で消えていきやすいと考えられてきました。

左巻きの種がどうやって生まれたのかは、長いあいだの謎でした。細さんたちは、ヘビに食べられにくいという得があれば、交尾の不利を打ち消せると考えました。1つの遺伝子が「別の種になること」と「食べられにくさ」の両方に大きく効くという点で、細さんはこれまでの常識をくつがえす発見だと説明しています。

偶然で左巻きが広まることもある

細さんは2012年に、別の可能性も調べました。世界の陸のカタツムリ995属を調べると、海の島だけにすむ属では、左巻きの属の割合が高くなっていました。

海の島は陸地が小さく、カタツムリの集団も小さくなりがちです。集団が小さいと、得にも損にもならない遺伝子が、偶然だけで集団全体に広まることがあります。左巻きは、ヘビの力と偶然の両方で生まれてきたのかもしれません。

ヘビの側も、左巻きに合わせていた

細さんたちは2010年の論文で、歯の並びが左右逆の「左利き」のセダカヘビは、東南アジアで見つかっていないと書いています。では、ヘビは左巻きにまったく対応していないのでしょうか。

2016年、タイのチュラロンコン大学などのチームが、左巻きのカタツムリが多い地域にすむ別のセダカヘビ(学名 Pareas carinatus)を調べました。このヘビは、左巻きのカタツムリに近づいたり、かみついたりすることをさけました。かみついたときは、左巻き用に逆向きの食べ方をして、うまく食べました。

一方、イワサキセダカヘビは、左巻きの少ない小さな島にすんでいます。このヘビは左巻きにもかみつこうとして、何度も失敗しました。左巻きの多い場所のヘビは、巻き方を見分けているらしいのです。

巻き方を決める遺伝子が見つかった

巻き方を決める遺伝子は、100年以上探されてきました。2019年、東京理科大学の黒田玲子さんたちのチームは、淡水にすむ巻き貝の一種で、この遺伝子を確かめました。遺伝子を働かなくすると、右巻きばかりの家系から、左巻きの子が何世代も生まれ続けました。この遺伝子は、受精卵がまだ1つの細胞のときから、左右の向きにかかわっていました。

06まとめ

イワサキセダカヘビは、右の下あごの歯が左より6本ほど多く、右巻きの殻に合った食べ方をします。実験では、右巻きのカタツムリは1匹も生き残れず、左巻きは87.5%が生き残りました。

世界を見ると、セダカヘビのいる地域では、左巻きの種をふくむカタツムリの属の割合が高くなっていました。サツマ属では、左巻きの種が何度も別々に生まれていました。ただし、すべての左巻きがヘビのおかげとは言えず、交尾できないという前提にも反対の証拠があります。

カタツムリを見つけたら、殻をてっぺんから見てみてください。世界のカタツムリのほとんどは右巻きですが、日本にも左巻きの仲間がいます。

RESEARCH FILE

研究カルテ

沖縄県・石垣島(実験に使ったヘビの採集地)

研究チーム
東北大学・京都大学・台湾の大学などのチーム(第一著者 細将貴さん)
調べた場所
京都大学での飼育実験。ヘビは石垣島と西表島、カタツムリは沖縄島と久米島で採集
調べた動物
イワサキセダカヘビ(学名 Pareas iwasakii)と、サツマ属のカタツムリ(学名 Satsuma)
調べ方
ヘビ4匹に右巻きと左巻きのカタツムリを10回ずつ与えた。世界のカタツムリの分布と、DNAの系統も調べた
分かったこと
右巻きは1匹も生き残らず、左巻きは87.5%が生き残った。ヘビのいる地域で左巻きの仲間の割合が高かった
まだ分からないこと
左巻きの種のうち、どれだけがヘビのせいで生まれたのか。右巻きと左巻きは本当に交配できないのか
論文
Nature Communications(2010年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Left-Coiled Snails Escape a Right-Handed Snake

Most snails in the world have shells that coil to the right. A few kinds of snails have shells that coil to the left. It is hard for a left-coiled snail to mate with a right-coiled snail.

A snake on Ishigaki Island in Japan hunts snails and slugs. It has about six more teeth on the right side of its lower jaw. It pulls snails out of right-coiled shells very well.

Scientists gave right-coiled and left-coiled snails to four snakes. Each snake was given each type of snail ten times. None of the right-coiled snails lived. But 87.5 percent of the left-coiled snails lived.

In places with these snakes, there were more groups of left-coiled snails. The scientists think the snakes helped new kinds of snails appear. Left-coiled snails appeared many separate times in one group of snails. Other scientists say we need more proof.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Which way do most snail shells coil?ほとんどのカタツムリの殻は、どちら向きに巻いていますか。

Q2. What is special about the snake's teeth?このヘビの歯は、どこが変わっていますか。

Q3. How many of the left-coiled snails lived?左巻きのカタツムリは、どれくらい生き残りましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Hoso, M. et al. (2010) A speciation gene for left–right reversal in snails results in anti-predator adaptation. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/ncomms1133
  2. 2Hoso, M., Asami, T. & Hori, M. (2007) Right-handed snakes: convergent evolution of asymmetry for functional specialization. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2006.0600
  3. 3Danaisawadi, P. et al. (2016) A snail-eating snake recognizes prey handedness. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/srep23832
  4. 4Richards, P. M. et al. (2017) Single-gene speciation: Mating and gene flow between mirror-image snails. Evolution Letters 論文確認済みdoi:10.1002/evl3.31
  5. 5Hoso, M. (2012) Cost of autotomy drives ontogenetic switching of anti-predator mechanisms under developmental constraints in a land snail. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2012.1943
  6. 6KAKEN:左右非対称性の共進化:捕食者―被食者間相互作用による種分化機構の解明(細将貴)kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08J02138/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい