沖縄のヤシガニのハサミは、最大で約180kg分の力ではさんだ。野生の29匹を測って分かった
沖縄の野生のヤシガニ29匹のハサミの力を測ると、最大で約180kg分だった。体重4kgの最大級なら約340kg分と計算され、報告のある甲殻類で最も強い。

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- 野生のヤシガニ29匹のハサミの力を、初めて実際に測った
- 最も強い個体は約180kg分。体重の約90倍の力だった
- 筋肉のつくりだけでは、なぜこれほど強いのか説明できていない
人に話すなら
沖縄のヤシガニって、強いものだとハサミで約180kg分の力を出すんだって。体重の約90倍らしいよ。一番大きいヤシガニなら、340kg分くらいになると計算されてるんだって。
読む前に予想しよう
ヤシガニのハサミの力は、体重の約90倍もある
沖縄の29匹を測ると、体の大きさにかかわらず体重の約90倍の力を出した。
ヤシガニのハサミにはさまれると、人の力では開けられません。沖縄でヤシガニを調べている財団は、そう説明しています。研究者たちは論文の中で、調査中に大きなハサミで何度もはさまれたと書いているほどです。では、その力は実際にどれくらいなのでしょうか。
沖縄美ら島財団の研究チームが、沖縄本島の海洋博公園で野生のヤシガニ29匹のハサミの力を測りました。最も強い個体の力は1765ニュートン、重さにすると約180kg分でした。財団の発表によると、ヤシガニは体の大きさにかかわらず、体重の約90倍の力を出していました。
ヤシガニのハサミが強いことは、前から知られていました。けれども、実際に測った記録はありませんでした。カニの仲間のハサミの形から、甲殻類で最も強いかもしれないと予想されていただけです。
01海洋博公園は、世界でいちばん北のヤシガニのすみか
ヤシガニは、インド洋から太平洋にかけての熱帯や亜熱帯にすむ、陸で最大の甲殻類です。甲殻類とは、エビやカニの仲間のことです。世界では、とりすぎやすみかの減少で数が減り、国際自然保護連合のレッドリストで絶滅危惧II類(危急)とされています。
沖縄県本部町の海洋博公園は、ヤシガニがまとまってくらす場所として、世界でいちばん北にあると考えられています。公園の中では、ヤシガニがすみやすい環境が守られています。
研究チームは2006年から、この公園でヤシガニを調べてきました。工夫の1つが、こうらの溝の模様で1匹ずつ見分ける方法です。この模様は、脱皮をしても変わりません。2015年の論文では、写真に記録した485匹のうち、126匹を再び見つけていました。そこから、成長がとても遅いことが分かりました。体重約500gになるまでに、オスで約11年、メスで約25年かかります。寿命は、オスもメスも約50年と推定されています。
02金属の棒をはさませて、力をはかった
2016年の研究で使ったのは、動物のかむ力を測る装置です。ステンレスの細い棒の中に、力を感じる部品が入っています。棒の太さは2種類あり、細いほうは約85kg分、太いほうは約400kg分まで測れます。
測ったのは、29匹すべての左のハサミです。ハサミの動かない側の指には、こぶのような突起が並んでいます。そのいちばん大きな突起の位置で棒をはさませ、出た力の最大の値を記録しました。29匹の体重は33gから2120gまで、大きさはいろいろでした。測り終えたヤシガニは、すぐに捕まえた場所で放しました。
装置は、力を「何kgの物の重さと同じか」で表示します。研究チームは、その値に9.807をかけて、力の単位のニュートンに直しました。あわせて23匹では、ハサミの長さ・高さ・幅もノギスで測りました。

03最も強い個体は約180kg分。最大級なら約340kg分
結果は、29.4ニュートンから1765.2ニュートンでした。重さに直すと、約3kg分から約180kg分です。体が大きいほど、力も強くなりました。
力の増え方にも特徴がありました。筋肉の太さから予想されるよりも速い割合で、体が大きくなるにつれて力が強くなっていたのです。研究チームは、この関係を使って最大級のヤシガニの力を計算しました。これまでに見つかった最も重いヤシガニは、体重4kgです。その力は約3300ニュートン、約340kg分になります。
約3300ニュートンという力は、これまでに報告されたどの甲殻類のハサミよりも強い値です。論文によると、アリゲーター(ワニの一種)を除く、陸の肉食動物の多くのかむ力も上回ります。財団の発表では、ライオンのかむ力(約300kg分)に匹敵すると説明しています。
体重あたりで比べても、ヤシガニは群をぬいていました。体重0.14kgより重い動物の中では、走る、跳ぶ、かむなど、ほかの動物のどんな力と比べても、いちばん強かったのです。ただ、0.14kgより小さいヤシガニは、イチョウガニの仲間におよびませんでした。
オスとメスの差も調べました。インド洋のクリスマス島の研究では、オスとメスでハサミの大きさが違うと報告されていました。ところが沖縄の29匹では、体重が同じなら、オスもメスも同じくらいの力でした。
04筋肉を調べても、強さの理由は分からなかった
なぜこれほど強いのでしょうか。まず考えられるのは、ハサミの形です。ところが、ハサミの長さ・高さ・幅は、体が大きくなっても体とのつり合いがほとんど変わりませんでした。形が変わって強くなるわけではなさそうです。
そこで研究チームは、標本にしたオスのヤシガニ1匹のハサミの筋肉を、顕微鏡で調べました。
筋肉の細い線維には、「サルコメア」という、縮む部品が並んでいます。2000年の研究では、カニの仲間はこのサルコメアが長いほど、強い力を出せることが示されていました。この関係に当てはめると、ヤシガニの力を出すには、サルコメアの長さが約14マイクロメートル必要です。ところが、実際に測った長さは平均約8マイクロメートルでした。
つまり、サルコメアの長さだけでは、ヤシガニの強さを説明できないのです。論文は、筋肉の化学的な働きや、筋肉とこうらのつくりなど、別の方向から調べる必要があると書いています。ヤシガニの力のしくみは、まだ解けていない謎です。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
貝がらを捨てたヤドカリが、強いハサミを手に入れた
ヤシガニは、ヤドカリの仲間から進化しました。論文によると、ヤドカリの祖先から分かれたのは、260万〜530万年前ごろと考えられています。今でも、生まれて間もない小さなヤシガニは、ヤドカリのように貝がらを背負います。こうらの長さが約10mmになると体がかたくなり、貝がらはいらなくなります。
貝がらを捨てたことで、体の大きさの制限がなくなりました。その代わりに、自分の身を自分で守らなければなりません。研究チームは、強いハサミは敵や競争相手を追い払う武器になったと考えています。また、ヤシの実や倒れた木のずい、動物の死がいなど、かたい物も食べられるようになりました。ほかの動物には食べられない物を、ひとりじめできるのです。
ハサミのこうらは、鉄鋼並みに硬く、それでいて割れにくい
2021年には、物質・材料研究機構と沖縄美ら島財団のチームが、ハサミのこうらの中を調べました。使ったのは、体重約1070gのヤシガニの左のハサミです。
こうらの外側の約0.25mmは、鉄の高強度鋼に近い硬さでした。拡大すると、厚さ約2.3マイクロメートルの薄い層が、約100枚重なっていました。どの層でも、細い繊維の束が少しずつ向きを変えながら積み重なっています。一部の層が割れても、全体が一気に割れないつくりです。その内側の約2.2mmは、外側の約5分の1の硬さで、小さな穴がたくさんあいていました。この部分が、力を受け止めるクッションの役目をしていると考えられています。
「強いカニ」の研究の歴史
カニのハサミが体のわりに強いことは、前から知られていました。2000年、グレアム・テイラー(Graeme Taylor)さんは、イチョウガニの仲間6種を調べました。体重あたりで比べると、そのハサミの力は、ほかの多くの動物がどんな動きで出す力よりも強かったのです。テイラーさんは、その強さの理由の1つを、サルコメアが長い筋肉で説明しました。ヤシガニは、この説明に当てはまらない例になりました。
05まとめ
沖縄美ら島財団の研究チームは、海洋博公園の野生のヤシガニ29匹のハサミの力を、専用の装置で初めて実際に測りました。最も強い個体は約180kg分で、体重の約90倍でした。体重4kgの最大級なら約340kg分と計算され、報告のある甲殻類のハサミで最も強い値です。
ただ、なぜそれほど強いのかは、筋肉を調べても分かりませんでした。論文を書いた研究者たち自身も、調査中にこの大きなハサミで何度もはさまれています。
研究カルテ
沖縄県本部町
- 研究チーム
- 沖縄美ら島財団 総合研究センターのチーム(岡慎一郎、冨田武照、宮本圭)
- 調べた場所
- 沖縄県本部町の海洋博公園(沖縄本島北部)
- 調べた動物
- 野生のヤシガニ(学名 Birgus latro)29匹。体重33g〜2120g
- 調べ方
- かむ力を測る装置の金属の棒を左のハサミではさませ、最大の力を記録して、その場で放した
- 分かったこと
- 力は約3〜180kg分で、大きい個体ほど強かった。体重4kgなら約340kg分と計算された
- まだ分からないこと
- 筋肉の部品(サルコメア)の長さから予想される力をこえている。強さのしくみはまだ解けていない
- 論文
- PLOS ONE(2016年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
The coconut crab is the largest crab that lives on land. Some of them live in a park in Okinawa, Japan. Their claws are so strong that people cannot open them by hand.
Scientists in Okinawa measured the claws of 29 wild crabs. Each crab held a metal stick in its claw. A machine showed how hard the crab pushed. After that, the scientists let the crabs go.
The strongest crab pinched with a force like the weight of 180 kilograms. That is about 90 times its own body weight. A very big crab of four kilograms may pinch twice as hard. No other crab or shrimp is known to be stronger.
The scientists also looked at the muscle in the claw. But the muscle could not explain all of the power. The secret of the strong claw is still a mystery.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many wild crabs did the scientists measure?研究者は、野生のヤシガニを何匹測りましたか。
沖縄の海洋博公園で、野生のヤシガニ29匹のハサミの力を測りました。
Q2. The strongest crab pinched with about how many times its body weight?最も強いヤシガニは、体重の約何倍の力ではさみましたか。
ヤシガニのハサミは、体重の約90倍の力を出していました。
Q3. What did the scientists find about the muscle?研究者は、筋肉について何が分かりましたか。
筋肉の部品(サルコメア)の長さから予想される力をこえていて、強さのしくみはまだ解けていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Oka, S. et al. (2016) A Mighty Claw: Pinching Force of the Coconut Crab, the Largest Terrestrial Crustacean. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0166108
- 2沖縄美ら島財団(2016)甲殻類最強! ライオンの咬む力に匹敵? ヤシガニ 驚きのハサミの力churashima.okinawa/userfiles/files/topics/pressrelease/nr_16
- 3Oka, S. et al. (2015) Growth of the Coconut Crab, Birgus latro, at Its Northernmost Range Estimated from Mark—Recapture Using Individual Identification Based on Carapace Grooving Patterns. Zoological Science 論文確認済みdoi:10.2108/zs150008
- 4Inoue, T. et al. (2021) Three-dimensional microstructure of robust claw of coconut crab, one of the largest terrestrial crustaceans. Materials & Design 論文確認済みdoi:10.1016/j.matdes.2021.109765
- 5物質・材料研究機構・沖縄美ら島財団(2021)『ヤシガニ』のハサミの驚くべき内部構造nims.go.jp/press/2021/05/lecian0000115yu9-att/202105240.pdf
- 6Taylor, G. M. (2000) Maximum force production: why are crabs so strong? Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2000.1167
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