イカは空を飛び、空中でも水を噴いて加速していた。北大の船から約100匹を連続写真で撮影

北大の船の前で飛び出したイカの群れを連続写真で調べると、空中でも水を噴いて加速し、腕とひれを広げて滑空していた。

No.177 7分で読めるえっ度 論文 2020年
青い外洋の上を、細長い赤っぽいイカの群れが、海面すれすれに飛んでいる。イカはどれも、三角形のひれがある胴の先を前に向けて進み、うしろ側になった腕を扇のように広げている。腕の付け根のあたりから、うしろへ細く水を噴き出している。

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  1. 北大の練習船の前で、約100匹のイカの群れが海から飛び出した
  2. イカは空中でも水を噴き、腕とひれを広げて滑空していた
  3. 飛び方は「飛び出し・噴射・滑空・着水」の4段階に分けられた

人に話すなら

イカって空を飛ぶんだって。しかもただ跳ねるんじゃなくて、空中でも水を噴いて加速して、腕とひれを広げて滑空するらしいよ。

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読む前に予想しよう

海から飛び出したイカは、空中では水を噴かずに落ちていくだけだ

イカが海から飛び出して、空を飛ぶ。そんな様子は、世界各地の海で目撃されてきました。けれども、それが本当に「飛ぶ」と言えるのかは、はっきりしていませんでした。勢いよく海面から飛び出して、落ちているだけかもしれないからです。

北海道大学のチームが、その答えを写真で出しました。練習船の前から、約100匹のイカの群れが2回飛び出したのです。その様子を連続写真で撮り、1コマずつ調べました。すると、イカは空中でも水を噴いて加速していました。さらに腕とひれを広げて、滑空していたのです。

イカの飛行は、いつどこで起きるか分かりません。そのため、これまでの記録の多くは、目撃した人の話や、数枚の写真だけでした。飛び出してから着水するまでを通して記録し、飛び方を細かく調べたのは、これが世界で初めてだと大学は発表しています。

01イカは、胴に吸いこんだ水を噴き出して泳ぐ

まず、イカの泳ぎ方を確かめておきましょう。イカの胴は「外套膜(がいとうまく)」という筋肉の膜でできた袋です。イカはこの袋に水を吸いこみ、「漏斗(ろうと)」という管から勢いよく噴き出します。その反動で進むのです。この泳ぎ方を「ジェット推進」と呼びます。

イカは、天敵が近づいたと感じると、水を何度も噴き出して逃げます。特に、外洋にすむ筋肉の発達したイカの何種類かは、勢いよく水を噴いて海面から飛び出すことが知られていました。

今回のイカは、アカイカ科という、スルメイカの仲間でした。アカイカ科のアカイカは、北太平洋に広く分布しています。日本のいか釣り漁業でも、スルメイカと並ぶ大事なイカです。

022011年の夏、東京の東約600kmで群れが飛び出した

その日は、2011年7月25日でした。北海道大学の練習船「おしょろ丸」は、北西太平洋で実習のための航海をしていました。場所は、東京の東約600kmの沖合です。船は時速約23kmで、東へ進んでいました。

午後2時25分、船首の前で、約100匹のイカの群れが海面から飛び出しました。船首が立てる波に驚いたのだろうと、チームは考えています。群れは2回飛び出しました。

その場にいた2人が、カメラを向けました。北海道大学の大学院生だった村松康太さんと、国際基督教大学の研究員でクジラを研究していた関口圭子さんです。船の上では、海の生き物を目で見て記録する調査をしていました。2人はイカが飛び出してから着水するまでを、連続写真に収めました。

写ったイカは、アカイカ科の若いイカでした。種はアカイカかトビイカだと考えられています。大きさは、ひれの先から腕の先までで約20〜23cmでした。

03連続写真を調べると、飛び方は4つの段階に分かれた

チームは、連続写真に写ったイカの形と姿勢を、1コマずつ調べました。すると、イカの飛び方は4つの段階に分けられることが分かりました。

1つ目は「飛び出し」です。イカは水を勢いよく吐き出し、海面から飛び出します。このときイカは、ひれを胴に巻きつけ、腕もたたんでいます。水の抵抗を小さくする姿勢です。飛び出す前に、海面に向かって速く泳いできたのだろうと、チームは考えています。

2つ目は「噴射」です。空中に出たあとも、イカは漏斗から水を噴き続けて加速しました。同時に、ひれと腕を広げます。腕と腕のあいだには、薄い膜があります。この膜も広げて、腕と一緒に翼のような形を作ります。

3つ目は「滑空」です。水を噴き終わっても、イカは腕とひれを広げたままでした。イカは、ひれのある胴の先を前にして飛びます。その前の側を少し持ち上げた姿勢で、バランスを取ります。胴はぴんと張ったままで、前のひれと後ろの腕にかかる揚力に耐えていました。

4つ目は「着水」です。イカは再びひれを胴に巻きつけ、腕をたたみます。進む方向に対して前の側を少し下げた姿勢になり、海に入るときの衝撃を小さくします。

1匹のイカの飛び方を左から右へ4つ並べた絵。イカはどれも、ひれのある胴の先を右(進む方向)に向けている。海から飛び出す細い姿、水を噴きながら腕とひれを広げる姿、広げたまま滑空する姿、腕とひれをたたんで海に戻る姿。

04空中で水を噴き続け、秒速11mに達していた

噴射の段階のイカは、空中を秒速8.8〜11.2mで進んでいました。時速にすると、およそ32〜40kmです。

2020年に中国の北京航空航天大学のチームが、この論文の結果をまとめて紹介しています。それによると、イカが飛んだ距離は約26〜34mでした。また、噴射の段階の速さは、1秒に体の長さ(全長)の43〜50倍の距離を進む速さにあたるとしています。

チームは、イカの空中の行動は、ただ海面から飛び出しただけではないと結論しました。空中でも水を噴いて加速し、腕とひれで揚力を作り、姿勢を変えながら着水していたからです。チームはこれを「飛行」と呼べる行動だとしています。

05イカが飛ぶのは、天敵から逃げるためらしい

では、イカはなぜ飛ぶのでしょうか。チームは、天敵から逃げるために発達した行動である可能性が高いと考えています。今回の群れも、近づいてきた船に驚いて飛び出したようでした。

ただし、空にも危険があります。大学の発表は、イカの飛行が世界中の海でよく起きているなら、多くのイカが空中で海鳥に食べられているかもしれないと述べています。このことは、海の食物連鎖を理解する手がかりになると大学は述べています。

一方で、この研究は1回の観察から撮れた写真がもとになっています。速さや距離は、写真から見積もった値です。イカが天敵から逃げるために飛ぶという考えも、天敵がいる場面で確かめたわけではありません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

1984年、日本の調査船もアカイカの飛行を見ていた

イカの飛行の記録は、今回が最初ではありません。1984年の7〜8月、日本の調査船が北太平洋の亜熱帯の海を進んでいました。村田守さんの論文によると、この船の上から、アカイカが飛ぶ様子が8か所で観察されました。

1回に飛んだイカは、およそ10〜300匹でした。胴の長さは14〜18cmほどと見積もられています。イカたちは海面から1〜2mの高さを、10〜20m飛びました。昼も夜も、群れは同じ方向に飛んでいました。村田さんは、小さなアカイカはトビウオのように滑空して、主に天敵から逃げているのだろうと考えました。

おしょろ丸の写真は、この「滑空して逃げる」という考えに、細かい飛び方の記録を加えたことになります。空中でも水を噴いて加速するという点は、写真を1コマずつ調べたことで分かりました。

空中のジェットは「ロケット」と同じしくみ

水の中のイカは、胴に水を吸いこんでは噴き出すことをくり返します。ところが、空中では水を吸いこめません。そのため、空中で噴く水は、飛び出す前にためておいた分だけです。2020年の中国の論文は、この理由から、空中のイカの噴射を「ロケット推進」と呼んでいます。

この論文は、イカが海から飛び出す瞬間をコンピューターで再現しました。その計算では、海面に対して低い角度で飛び出すほど、空中の速さが大きくなりました。また、2004年には、1892〜2003年のイカの飛行の記録14件をまとめた研究が出ています。その研究では、少なくとも8種のイカが飛べるとされました。

トビウオも、海面から飛び出して滑空する

海の生き物で、空中を滑空するのはイカだけではありません。トビウオも、海面から飛び出して滑空する魚です。村田さんも、アカイカの飛び方をトビウオの滑空にたとえて、天敵から逃げるための行動だと考えました。体のつくりがまったく違う動物が、同じように「海の外へ逃げる」方法を手に入れたのかもしれません。ただし、イカがどんな天敵から逃げているのかは、ここで紹介した研究では確かめられていません。

06まとめ

2011年7月、北海道大学の練習船おしょろ丸の前で、約100匹のイカの群れが海から飛び出しました。連続写真を調べると、イカは「飛び出し・噴射・滑空・着水」の4段階で飛んでいました。空中でも水を噴いて加速し、腕と腕のあいだの膜とひれを広げて、揚力を作っていたのです。

噴射の段階の速さは、秒速8.8〜11.2mでした。イカの飛行は、天敵から逃げるために発達した可能性が高いと考えられています。いか釣り漁業で大事なアカイカの仲間は、空中でも水を噴いて飛んでいるのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

北西太平洋(東京の東約600km)

研究チーム
北海道大学のチーム(第一著者の大学院生・村松康太さん、山本潤さんら)
調べた場所
北西太平洋。東京の東約600km(北緯35度34分、東経146度19分)
調べた動物
アカイカ科の若いイカ(アカイカかトビイカと考えられる)。全長約20〜23cm
調べ方
練習船おしょろ丸の前から飛び出したイカの群れを連続写真で撮り、姿勢と速さを分析した
分かったこと
空中でも水を噴いて加速し、腕とひれで揚力を作り、姿勢を変えて着水していた
まだ分からないこと
写真は1回の観察だけ。飛ぶ理由が天敵から逃げるためかは、まだ確かめられていない
論文
Marine Biology(2013年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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Squid Can Really Fly

Squid swim by shooting water out of their bodies. Some squid even jump out of the sea. But do they really fly, or do they just fall?

In July 2011, a ship from Hokkaido University was in the Pacific Ocean. About 100 squid jumped out of the water in front of the ship. Two people on the ship took many photos in a row.

The photos showed four steps. First, the squid jumped out with their arms and fins closed. Next, they kept shooting water in the air and opened their arms and fins. Then they glided with their arms and fins still open. At the end, they closed their arms and fins again and dived.

The squid moved up to 11 meters a second in the air. They may fly to get away from animals that eat them.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. About how many squid jumped out of the sea?およそ何匹のイカが海から飛び出しましたか。

Q2. What did the squid do in the air?イカは空中で何をしましたか。

Q3. How many steps did the photos show?写真からは、いくつの段階が分かりましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Muramatsu, K. et al. (2013) Oceanic squid do fly. Marine Biology 論文確認済みdoi:10.1007/s00227-013-2169-9
  2. 2北海道大学(2013)プレスリリース「イカはホントに空を飛ぶ:イカの飛行行動を世界で初めて解明」hokudai.ac.jp/news/130207_pr_fish.pdf
  3. 3Hou, T. G. et al. (2020) Locomotor transition: how squid jet from water to air. Bioinspiration & Biomimetics 論文確認済みdoi:10.1088/1748-3190/ab784b
  4. 4Murata, M. (1988) On the flying behavior of neon flying squid Ommastrephes bartrami observed in the central and northwestern north Pacific. Nippon Suisan Gakkaishi 論文確認済みdoi:10.2331/suisan.54.1167
  5. 5水産庁(2020)令和2年度 開洋丸調査航海 北西太平洋冬季アカイカ分布調査jfa.maff.go.jp/j/senpaku/ships/kaiyo_maru.files/attach/pdf/k

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい