「犬の1年は人の7年」は正しくなかった。DNAで比べると1歳の犬は人の約30歳
ラブラドール104頭のDNAの「年齢の印」を人と比べると、犬は7倍の一直線ではなかった。子犬の時期に一気に進み、1歳で人の約30歳になる。
ウソ判定の対象犬の1年は人の7年にあたる
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- 犬の年齢は「人の7倍」の一直線では進まなかった
- 子犬の時期に一気に進み、1歳で人の約30歳にあたる
- 調べたのはラブラドールだけで、ほかの犬種は分からない
人に話すなら
犬の1年は人の7年って言うけど、DNAで比べると違うんだって。犬は子犬のうちに一気に年をとって、1歳でもう人の30歳くらい。そこからはゆっくり進むらしいよ。
読む前に予想しよう
犬の年齢は、どの年代でも人の7倍のペースで進む
DNAで比べると、犬は若いときほど速く年をとり、大人になるとゆっくりになった。
「犬の1年は、人の7年にあたる」。こう聞いたことがある人は多いはずです。この計算だと、1歳の犬は人の7歳です。小学1年生くらいでしょう。
ところが、アメリカの研究チームが犬と人の血液のDNAを比べると、話は違いました。犬は子犬の時期に一気に年をとり、1歳でもう人の約30歳にあたることが分かったのです。そのあとは、ゆっくり年をとっていきます。
犬と人は、体のつくりも寿命も違います。そのため、犬の何歳が人の何歳にあたるのかを決めるのは、むずかしいことでした。チームは、犬にも人にもある、DNAにつく「年齢の印」を使って比べました。
01「7倍」で計算すると、どこがおかしいのか
まず、「7倍」の計算と、犬の実際の育ち方を比べてみましょう。
研究チームは、獣医の資料をもとに、犬の一生の区切りを整理しています。犬は生後半年ごろに思春期に入り、2歳ごろまでに体の成長を終えます。ラブラドールの平均的な寿命は12歳ほどです。
7倍の計算に当てはめると、生後半年の犬は人の3歳半です。3歳半の子どもが思春期に入ることはありません。12歳の犬は人の84歳になります。
論文の区切りでは、人の思春期は12歳ごろに始まります。つまり犬の最初の1年は、とても7年分ではおさまりません。一方で、年をとってからの1年は、7年よりも短くなりそうです。このずれを、DNAでどこまで説明できるのかが、研究の問いでした。
02DNAにつく「年齢の印」で、犬と人を比べた
研究したのは、アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校のティナ・ワン(Tina Wang)さん、トレイ・アイデカー(Trey Ideker)さんたちです。
体の細胞の中にあるDNAには、「メチル基」という小さな印がところどころについています。この印は、年をとるにつれて、ついたり外れたりします。どの場所に印がつくかは、年齢とともにかなり決まった形で変わっていきます。そのため、印の並び方から年齢を当てる計算方法が作られてきました。これを「エピジェネティック時計」と呼びます。
チームはまず、ラブラドール・レトリバー104頭の血液を集めました。生後約1か月から16歳までの犬です。血液は、大学の動物病院や、ドッグショーなどで飼い主の同意を得て集めました。データが足りなかった9頭を除き、95頭を分析しました。
次に、人のデータを用意しました。1歳から103歳までの320人の血液のDNAで、すでに発表されていたものです。
問題は、犬と人のDNAでは、場所の対応がそのままでは分からないことです。チームは、人のDNAでよく調べられている場所と同じ部分を、犬のDNAから集中して読む方法を作りました。こうして、犬と人で比べられる約5万4000か所の印をそろえました。
そのうえで、1頭ずつ、印の並び方がいちばん似ている人を5人選びました。その5人の平均の年齢を、その犬の「人でいえば何歳」としたのです。
03子犬の時期に一気に進み、大人になるとゆっくりになった
結果をグラフにすると、点は一直線にはなりませんでした。若い犬ほど、人の年齢が急に上がりました。年をとった犬では、上がり方がゆるやかになりました。
チームは、この関係を一つの式にまとめました。
人の年齢 = 16 × ln(犬の年齢)+ 31
ln は「自然対数」という計算です。数が大きくなるほど、増え方がゆるやかになる性質があります。犬の年齢が1歳のとき、ln の部分は0になります。だから1歳の犬は、人の31歳にあたります。
この式は、犬と人の一生の区切りともよく合いました。生後8週の子犬は、人の生後9か月ほどにあたります。どちらも乳歯が生えてくる時期です。ラブラドールの平均寿命の12歳は、人の70歳ほどになりました。論文が参考にした、世界の人の平均寿命と同じくらいです。
式に当てはめると、2歳は約42歳、4歳は約53歳、7歳は約62歳です。7倍の計算と比べると、ずれがよく分かります。

04ただし「1歳は31歳」も、すべての犬に当てはまるわけではない
この結果を、どの犬にもそのまま使ってよいわけではありません。論文自身が、いくつかの限界を書いています。
一つ目は、調べたのがラブラドールだけだということです。犬種によって寿命は大きく違います。チームも、寿命の違う犬種では別の式になるかもしれないと書いています。
二つ目は、調べたのが血液だけだということです。年をとると、血液の中の細胞の種類の割合も変わります。それが結果に影響した可能性は残ります。
三つ目は、式が合う時期と合いにくい時期があることです。赤ちゃんの時期と高齢の時期は、よく合いました。けれども、思春期や大人の時期は、ずれが大きめでした。この時期の犬では、体の育ち方の目安から予想されるよりも、DNAの印の変化が速く進んでいたのです。
さらに、別の研究とのくい違いもあります。2022年、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校のスティーブ・ホーバス(Steve Horvath)さんたちは、93犬種の犬の血液742件を調べました。そして、DNAの印から年齢を当てる時計を、犬種をこえて使えるように作りました。
ところが、この時計で「実際の年齢より老けているか」を調べても、寿命の短い犬種や大きな犬種で老けているという結果は出ませんでした。一方で、死亡の記録を調べた別の研究では、大きな犬ほど速く年をとるという結果が出ています。年齢を当てるDNAの時計と、体の衰え方が、いつも同じ向きを示すとは限らないのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
年をとるとDNAの印が変わるのは、なぜか
ワンさんたちは、犬・人・マウスの3種で共通して印が変わる遺伝子を探しました。見つかった394個の遺伝子の多くは、体の形づくりや成長にかかわる遺伝子でした。体が育つときに働く遺伝子の印が、年をとっても変わり続けていたのです。
チームはここから、老化の少なくとも一部は「成長の続き」なのではないかと考えています。昔から、老化と成長は別のしくみだと考えられてきました。この見方に、新しい角度を加える結果です。
エピジェネティック時計の歴史
人のDNAの印から年齢を当てる時計は、2013年に発表された研究などで広まりました。その後、マウスや犬でも時計が作られました。ただ、ある動物で作った時計は、別の動物ではうまく当たりませんでした。時計は、その動物で年齢がよく当たる印だけを選んで作られていたからです。
ワンさんたちは、3種で共通に変わる印だけを使って時計を作りました。犬のデータで作った時計でマウスの年齢を当てると、これまでの時計よりずっとよく当たりました。チームは犬とマウスのDNAも直接比べています。そこでも、犬と人と同じように曲がった関係が見えました。ただし、その関係は犬と人のときより弱いものでした。さらに、寿命をのばす処置を受けたマウスでは、時計の示す年齢が平均30%若く出ました。
大きな犬は、早く年をとるのか
小さな犬は長生きで、大きな犬は短命な傾向があります。2013年、コルネリア・クラウス(Cornelia Kraus)さんたちは、74犬種の死亡の記録を分析しました。その結果、大きな犬ほど、年とともに死ぬ危険が速く高まっていました。チームは「大きな犬が若くして死ぬのは、主に年をとるのが速いからだ」と結論づけています。
ところが、2022年のホーバスさんたちのDNA時計では、大きな犬種が老けて出るという結果にはなりませんでした。そこでチームは、犬種ごとの寿命をもとに「あと何年ほど生きるか」を当てる、別の時計も作りました。こちらの時計では、大きな犬種ほど残りの年数が短く出ました。年齢を当てる時計と体の衰えは、同じことを測っているとは限りません。どちらが「本当の年」に近いのかは、これからの研究で決まっていくでしょう。
犬を調べると、人の老化の研究に役立つ
犬は人と同じ家に住み、同じような食べ物を食べ、似たような化学物質にふれます。病院で治療を受けるのも人と似ています。しかも、20年もたたずに一生を終えます。そのため犬は、人の老化を研究するためのよい相手だと考えられています。犬と人の年齢を正しく読みかえられれば、犬で試した老化対策を、人に当てはめやすくなります。
05まとめ
「犬の1年は人の7年」は、正しくありませんでした。ラブラドールの血液のDNAを人と比べると、犬は子犬の時期に一気に年をとっていました。1歳で人の約31歳、12歳で約70歳にあたります。
ただし、この式はラブラドールの血液から作ったものです。ほかの犬種では、別の式になるかもしれません。
1歳の誕生日をむかえた犬は、人でいえば、もう30歳をこえた大人です。
研究カルテ
アメリカ・カリフォルニア州(カリフォルニア大学サンディエゴ校)
- 研究チーム
- アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校などのチーム(第一著者ティナ・ワン、責任者トレイ・アイデカー)
- 調べた場所
- アメリカ。犬の血液は動物病院やドッグショーなどで集めた
- 調べた動物
- ラブラドール・レトリバー104頭(生後約1か月〜16歳)と、人320人(1〜103歳)
- 調べ方
- 血液のDNAについた「メチル基」という印の並び方を、犬と人で比べた
- 分かったこと
- 犬と人の年齢は一直線の関係ではなかった。1歳の犬は人の約31歳、12歳は約70歳にあたった
- まだ分からないこと
- ほかの犬種でも同じ式になるのか。血液以外の体の部分でも同じか
- 論文
- Cell Systems(2020年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Many people say one dog year equals seven human years. Scientists in the United States checked this idea with DNA.
Small marks on DNA change as we get older. The team looked at these marks in the blood of 104 Labrador retrievers. The dogs were from one month to 16 years old. Then they compared the dogs with 320 people.
Dogs age very fast when they are young. A puppy of eight weeks is like a baby of nine months. A one-year-old dog is like a 31-year-old person. After that, dogs age more slowly. A 12-year-old dog is like a 70-year-old person, not 84.
But the study used only one kind of dog. Small dogs and big dogs may age in different ways. So the answer may change for your dog. Still, a one-year-old dog is already an adult.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did the scientists study?研究者たちは何を調べましたか。
研究者たちは、血液のDNAについた小さな印を調べました。
Q2. A one-year-old dog is like a person of what age?1歳の犬は、何歳の人にあたりますか。
DNAの印で比べると、1歳の犬は31歳の人にあたりました。
Q3. What kind of dog did the study use?研究ではどんな犬を使いましたか。
研究で使ったのは、ラブラドール・レトリバー104頭でした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Wang, T. et al. (2020) Quantitative Translation of Dog-to-Human Aging by Conserved Remodeling of the DNA Methylome. Cell Systems 論文確認済みdoi:10.1016/j.cels.2020.06.006
- 2PMC(上の論文の著者原稿の全文)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7484147/
- 3Horvath, S. et al. (2022) DNA methylation clocks for dogs and humans. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2120887119
- 4Kraus, C. et al. (2013) The size–life span trade-off decomposed: why large dogs die young. The American Naturalist 論文確認済みdoi:10.1086/669665
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





