犬の性格は、同じ犬種でも1匹ずつバラバラだった。行動の違いのうち犬種で説明できたのは約9%

犬の行動の違いのうち、犬種で説明できたのは約9%。行動には遺伝も関わるが、その遺伝は犬種よりずっと古いものらしい。

No.017 8分で読めるえっ度 論文 2022年
公園の芝生で、同じ毛色の2頭のゴールデン・レトリーバーが並んでいる。1頭は人に向かってしっぽをふり、もう1頭は少し離れて地面のにおいをかいでいる。

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  1. 犬の行動の違いのうち、犬種で説明できたのは約9%だった
  2. 同じ犬種の中でも、性格は1匹ずつ大きく違っていた
  3. 犬種の違いがはっきり出たのは、性格より見た目だった

人に話すなら

犬の性格って、犬種で決まるわけじゃないんだって。行動の違いのうち犬種で説明できたのは1割くらい。同じ犬種でも、1匹ずつ全然違うらしいよ。

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犬の性格の違いは、ほとんど犬種で決まっている

「ゴールデン・レトリーバーは人なつっこい」「ボーダー・コリーはかしこくて働き者」。犬種の説明には、たいてい性格が書いてあります。犬を飼う前に、性格を考えて犬種を選ぶ人も多いでしょう。

アメリカの研究チームが、1万8385匹の犬の飼い主に、犬の行動について細かく質問しました。そのうち2155匹はDNAも調べました。その結果、犬の行動の違いのうち、犬種で説明できたのは約9%でした。残りの9割以上は、犬種以外の何かで決まっていたことになります。

これまでの犬の遺伝の研究は、主に純血種の犬を使ってきました。純血種では、見た目で犬種が分かります。そのため、飼い主の思い込みと、本当の遺伝の影響を分けにくかったのです。この研究は、雑種の犬をたくさん加えることで、その問題を乗りこえようとしました。

011万8千匹あまりの犬の飼い主に、117の質問に答えてもらった

研究を率いたのは、アメリカのマサチューセッツ大学医学部とブロード研究所のエリノア・カールソン(Elinor Karlsson)です。論文の第一著者は、大学院生のキャスリーン・モリル(Kathleen Morrill)でした。

チームは「ダーウィンズ・アーク」という研究サイトを作り、だれでも自分の犬を登録できるようにしました。飼い主は、10問以下の短いアンケートを12回、合わせて117の質問に答えます。「知らない人をこわがるか」「遠ぼえをするか」「おもちゃを埋めるか」といった質問です。

飼い主の答えが正しいかも確かめました。たとえば体の大きさは、「足首まで」「ひざまで」のように5段階で答えてもらいます。この答えは、巻き尺などで実際に測った高さとよく合っていました。参加した犬の85%はアメリカの犬で、49%が純血種でした。

02犬種で説明できたのは、行動の違いの約9%だった

チームは、純血種と確かめられた78犬種の犬で、行動の違いがどれだけ犬種で説明できるかを計算しました。答えは平均で約9%でした。毛の色など見た目の特徴は、行動よりおよそ5倍も犬種で説明できました。

同じ犬種の中でも、行動は大きくばらついていました。調べた犬種の中で遠ぼえが最も少なかったのは、ラブラドール・レトリーバーです。それでも飼い主の8%は「うちの子はときどき以上、遠ぼえする」と答えていました。グレーハウンドの90%はおもちゃを埋めませんが、「よく埋める」と答えた飼い主も3人いました。どの犬種にも、その犬種だけの行動はありませんでした。

ただし、犬種にまったく傾向がないわけではありません。人が大好きな度合いで上位4分の1に入る確率は、雑種なら22%です。これがゴールデン・レトリーバーだと40%に上がりました。逆に言えば、ゴールデンでも6割は上位4分の1に入りません。

03雑種の犬を使って、「遺伝」と「思い込み」を分けた

飼い主の答えには、犬種のイメージが入りこむかもしれません。「ゴールデンだから人なつっこいはず」と思って答えてしまうおそれです。そこでチームは、いろいろな犬種がまざった雑種に注目しました。

まず、雑種の犬種を見た目で当てられるかを試しました。インターネットで2万6639人が参加し、30匹の雑種について犬種を予想しました。当たったのは、それぞれの犬の祖先の平均2割ほどでした。雑種の犬種は、見た目ではほとんど分かりません。それなら、飼い主の思い込みも入りにくいはずです。

毛の長さや耳の形がばらばらな雑種の犬たちが、横一列に座っている。それぞれ違う方向を見て、違う表情をしている。

チームは、どの犬種の血も45%未満しか入っていない雑種を使いました。DNAから祖先の割合を出し、その割合と行動の関係を調べたのです。祖先の犬種で説明できた行動の違いは、ここでも平均9%ほどでした。

結果は犬種によって分かれました。ボーダー・コリーの血が多い雑種ほど、人の指示によく従う傾向がありました。これは、ボーダー・コリーの飼い主の答えとも合っています。一方、ゴールデン・レトリーバーの血の多さは、「知らない人をこわがるか」という質問の答えに関係していませんでした。ラブラドール・レトリーバーの血も、「人が大好きか」とほとんど関係がありませんでした。こうした犬種のイメージは、遺伝ではなく、飼い主の受けとり方から来ているのかもしれません。

04行動は遺伝する。でも、その遺伝は犬種より古い

それなら、犬の性格は遺伝と関係ないのでしょうか。そうではありません。チームは2千匹近くの犬のDNAと答えを合わせて、行動がどれだけ遺伝で決まるかも調べました。

物を取ってくる行動では、違いの半分ほどが遺伝で説明できました。人が大好きかどうかも、遺伝の影響が大きい行動でした。遠ぼえの多さなどに関係するDNAの場所も、11か所見つかりました。けれど、これらの場所は、犬種ごとに特に違っているわけではありませんでした。

チームは次のように考えています。今の犬種ができたのは、1800年代のイギリスのビクトリア時代以降です。まだ160年もたっていません。一方、犬が人と暮らし始めたのは1万年以上前です。犬の行動のもとになる遺伝の多くは、犬種ができるずっと前に形づくられたのではないか、というのです。今の犬種どうしで大きく違うのは、主に見た目だということになります。

05それでも「犬種の傾向はある」という研究もある

この結論に、すべての研究者が同じ意見なわけではありません。同じ2022年、アメリカ国立衛生研究所のエミリー・デュトロウ(Emily Dutrow)たちが、別の論文を発表しました。4000匹をこえるイヌやその仲間のDNAと、4万6000匹以上の犬の行動の調査を使った研究です。

デュトロウたちは、犬種を10の大きな系統に分けました。そして、それぞれの系統に行動の特徴があることを示しました。たとえば牧羊犬の系統では、神経の細胞がのばす細い突起の、のびる向きを決める遺伝子が目立っていました。犬種を1つずつではなく大きな系統で見ると、行動の違いが見えてくるという立場です。

モリルたちの研究にも、羊などを集める牧羊犬のグループは指示に従いやすいという結果がありました。2つの研究は、犬種の傾向がゼロだとは言っていません。違うのは、その傾向で1匹の性格をどこまで予想できるか、という点です。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

犬種はいつ、どうやって生まれたのか

犬はオオカミから生まれた動物です。人の出すごみを利用するうちに、体の形や行動、繁殖のしかたなどが変わっていったと考えられています。ただ、人が意図して犬をかけ合わせた証拠は、2000年ほど前からしか見つかっていません。

1800年代より前の犬は、主に仕事で選ばれていました。狩りをする、家を守る、羊を集める、といった仕事です。ところが1800年代のビクトリア時代に、決まった見た目と血統の純粋さを重んじる「犬種」が生まれました。今の犬種の多くは、見た目の基準で選ばれてきたのです。論文は、この短い期間に行動の遺伝がそれほど分かれなかったのだろうと考えています。

犬種の「性格の説明」は、どこまで当たっていたか

論文によると、犬種には「大胆」「愛情深い」「しつけやすい」といった性格がよく語られます。その多くは、羊を集める、狩りをするといった、その犬種がもともとしていたとされる仕事から来ています。最近では、犬のDNA検査が「性格やしつけの参考になる」と宣伝されることもあります。けれど以前の研究でも、同じ犬種の中の違いは、犬種どうしの違いに近い大きさだと報告されていました。

チームは、アメリカの大きな犬の団体が各犬種につけている「3つの言葉」の説明も調べました。ボーダー・コリーなら「愛情深い、かしこい、元気」です。ところが、同じ言葉で説明される犬種どうしが、行動で似ているわけではありませんでした。例外は「魅力的」と書かれた犬種で、おもちゃへの関心が少し低い傾向がありました。

雑種の犬が研究に役立った理由

世界の犬は10億匹近くいて、その8割以上は人に飼われず自由に暮らす犬です。アメリカでも、飼い犬のおよそ半分は複数の犬種の血を引いています。純血種だけを調べると、犬全体の多様さを見のがしてしまいます。

雑種のDNAには、純血種にはない変異も多く含まれていました。27匹の雑種のDNAを全部読んだところ、128犬種530匹の純血種には見つからない変異が37万個以上ありました。雑種を入れると、研究の材料がぐんと豊かになるのです。

調べ方の工夫と限界

この研究の材料は、ほとんどが飼い主の答えです。飼い主の思い込みが入りうることは、論文自身も認めています。雑種を使ったのは、その影響を小さくするための工夫でした。

それでも限界はあります。参加した犬の85%はアメリカの犬でした。調べた犬の数が少ない犬種については、はっきりしたことは言えません。日本の犬でも同じ結果になるかは、これからの課題です。

06まとめ

犬の行動の違いのうち、犬種で説明できたのは約9%でした。行動には遺伝も関わりますが、その遺伝の多くは犬種ができる前からのものらしいと分かりました。今の犬種どうしの違いは、主に見た目です。

犬種ごとの傾向が少しあることは、反対の立場の研究も含めて認められています。けれど、それで1匹ずつの性格を当てることはできません。調べた中で遠ぼえが最も少なかったラブラドールでも、飼い主の12人に1人ほどは「うちの子は遠ぼえする」と答えていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・マサチューセッツ州

研究チーム
アメリカのマサチューセッツ大学医学部とブロード研究所のチーム(第一著者キャスリーン・モリル)
調べた場所
アメリカが中心(飼い主がインターネットで参加)
調べた動物
純血種と雑種のペットのイヌ1万8385匹(DNAは2155匹)
調べ方
飼い主に行動の質問に答えてもらい、DNAの結果と合わせて犬種と行動の関係を調べた
分かったこと
行動の違いのうち犬種で説明できたのは約9%。犬種の違いは主に見た目だった
まだ分からないこと
飼い主の答えの思い込みをどこまで除けたか。アメリカ以外の犬でも同じか
論文
Science(2022年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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A Dog's Breed Says Little About Its Personality

Many people think each dog breed has its own personality. For example, golden retrievers are often called friendly. Scientists in the United States wanted to check this idea.

They asked the owners of 18,385 dogs many questions about their dogs. They also studied the DNA of 2,155 dogs. Breed explained only about 9 percent of the differences in behavior.

Dogs of the same breed were often very different from each other. In this study, Labradors howled the least. But 8 percent of Labrador owners said their dogs sometimes howl.

Genes still affect behavior. However, most of these genes may be much older than modern breeds. Modern breeds are different from each other mostly in how they look. So it is better to get to know each dog as one animal.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many dogs had their DNA studied?何匹の犬のDNAが調べられましたか。

Q2. How much of the differences in behavior did breed explain?行動の違いのうち、犬種で説明できたのはどれくらいですか。

Q3. How are modern breeds mostly different from each other?今の犬種どうしは、主に何が違っていますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Morrill, K. et al. (2022) Ancestry-inclusive dog genomics challenges popular breed stereotypes. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abk0639
  2. 2Dutrow, E. V. et al. (2022) Domestic dog lineages reveal genetic drivers of behavioral diversification. Cell 論文確認済みdoi:10.1016/j.cell.2022.11.003
  3. 3Broad Institute(2022)Dog genetics suggest that behavior is more than just breedbroadinstitute.org/news/dog-genetics-suggest-behavior-more-j

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい