アリは仲間の傷にばい菌が入ったかを見分け、抗菌の液を塗っていた。死ぬ割合は9割減った
マタベレアリは、仲間の傷にばい菌が入ったかを見分けて、抗菌の液を塗る。この手当てで、ばい菌が入ったアリの死ぬ割合は9割減った。

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- シロアリを狩るアリは、戦いでよく脚を失い、仲間に運ばれて帰る
- 巣の仲間は、ばい菌が入った傷に、胸から出す抗菌の液を塗っていた
- 巣の仲間全員の液の出口をふさぐと、ばい菌の入ったアリは全部死んだ
人に話すなら
アフリカのアリって、ケガした仲間の傷にばい菌が入ったかを見分けて、自分の体から出す抗菌の液を塗るんだって。それで死ぬ割合が9割も減ったらしいよ。
読む前に予想しよう
アリは、ばい菌が入った仲間の傷に抗菌の液を塗る
マタベレアリは胸の腺から出る液を傷に塗る。この手当てで死ぬ割合が9割減った。
ケガをした人の傷が赤くはれてきたら、医者はばい菌が入ったと考えて薬を出します。傷を見て、具合を判断して、手当てを選ぶ。これは人間の医療の基本です。同じことを、小さなアリがしていました。
アフリカにすむマタベレアリは、ケガをした仲間の傷にばい菌が入ったかどうかを見分けていました。そして、ばい菌が入った傷に、自分の胸の腺から出る抗菌の液を塗っていました。この手当てを受けたアリは、受けなかったアリに比べて、死ぬ割合が9割減りました。
傷をなめる動物は、哺乳類にもいます。でも、傷にばい菌が入ったかどうかで手当てを変える例は、哺乳類では見つかっていませんでした。2023年に発表されたこの研究は、アリの社会に「見分けてから治す」仕組みがあることを示しました。
01マタベレアリは、毎日シロアリと戦ってケガをする
マタベレアリは、アフリカのサハラ砂漠より南に広くすんでいます。食べるのはシロアリだけです。偵察役のアリがシロアリを見つけると、200〜500匹の仲間を連れて行列で襲いに行きます。この狩りは1日に2〜4回あります。
シロアリにも、大きなあごを持つ兵隊がいます。兵隊にかみつかれて、アリは脚や触角を失います。2017年の研究では、狩りの行列のアリのおよそ5匹に1匹が、前の戦いで脚などを失っていました。
ドイツの研究者エリック・フランク(Erik Frank)は、コートジボワールのコモエ国立公園でこのアリを調べてきました。そして、ケガをしたアリが仲間に運ばれて巣に帰ることを確かめました。運ばれずに1匹で帰らされたアリは、帰り道で32%が死にました。死んだアリの半分以上は、クモに食べられていました。
2018年には、巣の中の様子も報告されています。仲間はケガをしたアリの傷を、口で念入りにきれいにしていました。この手当てがないと、24時間以内に死ぬ割合が10%から80%に上がりました。原因はおそらく感染だと考えられました。
02傷にばい菌を入れて、生き残る割合を比べた
2023年の研究で、チームは死ぬ原因をつきとめようとしました。研究所では、11の巣を掘り出し、人工の巣で飼いました。実験に使ったのは、戦いでケガをしやすい小さい働きアリです。
まず、健康なアリの後ろ脚に、消毒したはさみで切り傷をつけました。その傷に、巣のまわりの土をとかした液をつけたアリと、ばい菌のいない液をつけたアリを用意しました。11時間後、土の液をつけたアリの胸の中には、ばい菌のいない液をつけたアリの100倍の細菌がいました。
土から取り出して試した菌のうち、アリをはっきり死なせたのは緑膿菌でした。緑膿菌だけを傷につけて、1匹だけで容器に入れると、36時間以内に93%が死にました。同じアリを仲間のいる巣に戻すと、死んだのは8%だけでした。
03手当て役は、ばい菌が入った傷に、抗菌の液をより多く塗っていた
では、仲間は何をしていたのでしょうか。チームは3つの巣に、傷をつけたアリを4匹ずつ入れ、24時間ビデオで撮りました。4匹のうち2匹にはばい菌を入れ、2匹には入れていません。
手当て役のアリは、まず傷を口でなめてきれいにしました。そのあと、ときどき特別な液を塗りました。この液は、胸の後ろの方にある「後胸側腺(こうきょうそくせん)」という腺から出ます。手当て役は前脚を後ろに回して自分の腺から液をとり、その脚をなめて口にためていました。ケガをしたアリ本人の腺に、口を直接つけることもありました。
撮影した手当て411回のうち、液を塗ったのは43回でした。液を塗るときは、塗らないときより長く手当てしました。そして、液はばい菌が入ったアリの傷に、より多く塗られていました。とくに多かったのは、傷ができてから10〜12時間後です。手当てがなければ、ばい菌の入ったアリが死に始めるころでした。

チームは、この液が本当に効いているかも確かめました。3つの巣をそれぞれ半分に分け、片方では働きアリ全員の腺の穴を絵の具でふさぎました。ばい菌の入ったアリを戻すと、穴をふさいだ巣では36時間以内にすべて死にました。ふさがなかった巣では、死んだのは33%でした。
04見分ける手がかりは、体の表面のにおいの変化らしい
手当て役は、どうやってばい菌の入った傷を見分けたのでしょうか。アリの体の表面は、油に近い物質でおおわれています。アリはこの物質を、仲間どうしの情報のやりとりによく使っています。
チームは、傷をつけたアリの体からこの物質を洗い出して調べました。傷をつけた直後は、ばい菌の有無で違いはありませんでした。11時間後になると、ばい菌が入ったアリだけ、成分の割合が変わったままでした。体の中で、この物質を作る遺伝子の働き方も変わっていました。
さらに、液の中身も分析しました。見つかった化学物質は112種類、たんぱく質は41種類でした。その半分ほどに、菌をおさえる働きや、傷を治す働きがあると考えられています。実験室で液を緑膿菌に加えると、菌の増え方は25%以上おさえられました。
05「アリのお医者さん」にも、まだ分からないことがある
この研究には、まだ確かめきれていない部分があります。まず、においの変化は「見分けの手がかりになっているらしい」という段階です。においだけを変えたアリを用意して、手当てが増えるかを試したわけではありません。
撮影したアリの数も、ばい菌ありとなしで6匹ずつでした。112種類の物質のうち、どれが緑膿菌に効いているのかも分かっていません。最も量の多いたんぱく質は、働きが分からないままです。
一方、2024年には、同じフランクたちが別のアリの報告をしました。オオアリの仲間(学名 Camponotus floridanus)は、後胸側腺を持っていません。このアリは、仲間の脚の傷が太ももにあると、その脚を根元からかみ切っていました。切り落とされたアリは、切られなかったアリより生き残りました。傷がすねにあるときは、切らずに傷をなめました。アリの「治療」は、種によって違う形に進化していたのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜ、ケガ人を助ける仕組みが進化したのか
マタベレアリの狩りは、ケガをする危険が大きい仕事です。それでも、ケガの多くは死ぬほどではありません。2017年の研究では、脚を2本失ったアリも、巣で休むと24時間後には健康なアリと変わらない速さで歩けました。運ばれて帰ったアリの95%は、その後の狩りにまた参加していました。
チームは計算で、助ける行動がある巣は、ない巣より28.7%大きくなれると見積もりました。ただし、2017年の論文は、助ける行動が進化するのは、集団で狩りをして仲間のケガに気づける種に限られるだろうと述べています。
助ける相手を選んでいるらしい証拠もあります。2018年の研究では、脚などを5本失った重いケガのアリは、運ばれず、手当ても受けませんでした。助けるかどうかを決めていたのは、助ける側ではありませんでした。重いケガのアリは、仲間が近づいても反応しなかったのです。逆に、軽いケガのアリは、仲間の近くでは「よりケガが重そうに」ふるまっていました。
運ぶ、なめる、塗る。研究の積み重ね
アリがケガをした仲間を運ぶ様子は、ケニアやコンゴ民主共和国でも以前から観察されていました。ただ、それが仲間の命を救っているかは調べられていませんでした。フランクたちは2017年に「運んで帰る」、2018年に「傷をなめる」、2023年に「抗菌の液を選んで塗る」と、一歩ずつ確かめてきました。
2017年の研究では、運ぶきっかけも分かっています。ケガをしたアリは、あごの近くの腺から2種類の化学物質を出していました。この物質を健康なアリに塗ると、そのアリまで仲間に運ばれました。
ほかの動物の「傷の手当て」と比べると
傷をなめて、だ液の抗菌成分をつける動物は、哺乳類にも何種類もいます。ただ、論文によると、哺乳類が傷の感染の有無で手当てを変える例は観察されていません。研究を率いたフランクは、人間以外にこれほど高度な傷の手当てをする生き物を知らない、と大学の発表で話しています。
緑膿菌は、人間の戦争のけがでも感染の大きな原因になる菌です。しかも、薬が効きにくくなった株が何度も現れています。研究チームは、アリの液の成分が、新しい薬の手がかりになる可能性があると考えています。
野外の研究所で、どうやって実験したのか
実験は、アフリカの国立公園の中にある研究所で行われました。窓は開けたままにして、温度や湿度、昼と夜の明るさを野外と同じにしました。1匹だけにする実験では、土を入れたガラス容器を220℃のオーブンで3時間熱して、菌をいなくしてから使いました。そして36時間のあいだ、1時間ごとにアリの生き死にを確かめました。
ただし、どの実験も研究所の巣の中での結果です。野生の巣で、ばい菌の入った傷がどれくらいあり、手当てでどれだけ助かっているのかは、まだ分かっていません。
06まとめ
マタベレアリは、シロアリとの戦いでケガをした仲間を巣に運び、傷をなめてきれいにします。それだけではなく、ばい菌が入った傷を見分け、胸の腺から出る抗菌の液を多く塗っていました。この手当てで、緑膿菌が入ったアリの死ぬ割合は93%から8%に下がりました。
においで見分けているという点や、どの成分が効くのかは、まだこれからの研究です。それでも、「具合を見て手当てを変える」行動が、アリの社会にあることは確かめられました。緑膿菌は、人間の戦場のけがでも感染の大きな原因になる菌です。その菌による死を、アリは自分の体から出す液で大きく減らしていたのです。
研究カルテ
コートジボワール
- 研究チーム
- ドイツのヴュルツブルク大学とスイスのローザンヌ大学などのチーム(第一著者エリック・フランク)
- 調べた場所
- コートジボワールのコモエ国立公園の研究所
- 調べた動物
- マタベレアリ(学名 Megaponera analis)の小さい働きアリ
- 調べ方
- 脚に傷をつけ、ばい菌を入れたアリと入れないアリを、巣に戻すか1匹にするかで比べた
- 分かったこと
- 仲間はばい菌が入った傷に抗菌の液を多く塗り、死ぬ割合を9割減らした
- まだ分からないこと
- においの変化を本当に手がかりにしているか。どの成分がばい菌に効くのか
- 論文
- Nature Communications(2023年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Matabele ants live in Africa, south of the Sahara. They eat only termites, and they hunt them in large groups. Termite soldiers fight back, so many ants lose their legs.
Other ants carry the hurt ants back to the nest. In the nest, they clean the wounds with their mouths. Scientists found that they do even more than that.
Some wounds get germs in them. The helper ants can tell which wounds have germs. They put a special liquid from their bodies on those wounds. The liquid can slow the growth of germs.
The scientists put germs in the wounds of some ants. When these ants were alone, 93 percent died within 36 hours. When they were with their friends, only 8 percent died. These small ants take care of each other in this way.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What do Matabele ants eat?マタベレアリは何を食べますか。
本文に They eat only termites(シロアリだけを食べる)とあります。
Q2. What do the helper ants put on wounds with germs?手当て役のアリは、ばい菌の入った傷に何を塗りますか。
They put a special liquid from their bodies on those wounds とあります。
Q3. How many ants with germs died when they were with their friends?ばい菌の入ったアリが仲間と一緒にいたとき、何%が死にましたか。
仲間と一緒だと only 8 percent died(8%だけ)でした。1匹だと93%でした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Frank, E. T. et al. (2023) Targeted treatment of injured nestmates with antimicrobial compounds in an ant society. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-023-43885-w
- 2Frank, E. T. et al. (2017) Saving the injured: Rescue behavior in the termite-hunting ant Megaponera analis. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.1602187
- 3Frank, E. T. et al. (2018) Wound treatment and selective help in a termite-hunting ant. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2017.2457
- 4Frank, E. T. et al. (2024) Wound-dependent leg amputations to combat infections in an ant society. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.06.021
- 5ヴュルツブルク大学(2024)Ants recognise infected wounds and treat thembiozentrum.uni-wuerzburg.de/en/news/archive/news-single/news
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





