カビに感染したアリのサナギは、治らないとき匂いで仲間に知らせ、自分を処分させていた
カビに感染して治る見込みのない働きアリのサナギは、体の匂いを変えて仲間に知らせた。仲間はサナギを繭から出して消毒し、病気が巣に広がるのを防いだ。

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- 治らない働きアリのサナギは、体の匂いを変えて知らせた
- その匂いだけで、仲間はサナギを繭から出して処分した
- 女王になるサナギは病気に強く、匂いを変えなかった
人に話すなら
アリのサナギって、カビの病気で治りそうにないと、体の匂いを変えて仲間に知らせるんだって。仲間はそのサナギを消毒して処分する。女王になるサナギは自分でカビをおさえこめるから、知らせないらしいよ。
読む前に予想しよう
病気のアリのサナギは、仲間に気づかれないよう病気をかくす
治らない働きアリのサナギは、逆に匂いを変えて自分から知らせていた。
病気にかかった動物は、群れの仲間にそれをかくすことがよくあります。弱っていると気づかれると、仲間から追い出されたり、攻撃されたりするおそれがあるからです。ところがアリの巣では、その反対のことが起きていました。
2025年、オーストリアの研究チームが、カビに感染したアリのサナギを調べました。治る見込みのない働きアリのサナギは、体の表面の匂いを変えて、自分から仲間に知らせていました。仲間の働きアリは、その匂いに気づくと、サナギを繭から出して消毒します。サナギは死にますが、カビは巣に広がりません。匂いを調べた働きアリのサナギは323匹です。
アリが病気の仲間を処分すること自体は、前から知られていました。ただ、分からないことが残っていました。病気のサナギの匂いは、病気のせいで勝手に変わったものなのか。それとも、サナギが自分から出している合図なのか。研究チームは、この2つを見分ける方法を考え出しました。
01働きアリは、感染したサナギを繭から出し、穴をあけて毒をかける
研究の舞台は、オーストリア科学技術研究所(ISTA)です。シルビア・クレマー(Sylvia Cremer)さんの研究室は、アリが病気から巣を守るしくみを調べています。使ったのは、ヨーロッパに広がっている外来のケアリの仲間です。病気のもとは、土の中にふつうにいるカビの一種で、虫の体に入りこんで殺してしまいます。
同じ研究室は2018年に、アリが感染したサナギをどう扱うかを調べていました。働きアリは、まず感染したサナギを繭から引き出します。次に、かみついて体に小さな穴をあけます。そして、自分の体で作った毒を穴にかけます。毒は、カビやばい菌を殺す働きを持つ蟻酸(ぎさん)です。研究チームはこの一連の行動を「破壊的消毒」と名づけました。
この消毒は、カビがまだ外にうつらない時期に行われます。感染したサナギを8匹の働きアリと一緒にし、繭から出したあと1日だけ消毒を続けさせました。すると、働きアリのいないサナギとくらべて、カビが胞子を作ったサナギの数は65%減りました。5日間続けさせると、95%減りました。一方、消毒されずに胞子を作った死がいを働きアリと一緒にすると、働きアリの42%が感染して死に、次の感染源になりました。
02仲間がそばにいるときだけ、匂いが変わった
2025年の研究の中心は、エリカ・ドーソン(Erika Dawson)さんです。ドーソンさんたちは、サナギを4つの組に分けました。カビを感染させたサナギと、させていないサナギ。それぞれを、働きアリ2匹と一緒にする組と、ひとりぼっちにする組です。
ここでむずかしい問題がありました。アリは体をなめ合うので、働きアリの匂い物質がサナギの体にもうつります。サナギ自身が出した匂いだけを測らないと、正しい答えは出ません。
そこでチームは、働きアリに3週間、特別な砂糖水を飲ませました。ふつうの炭素より少し重い炭素を多くふくむブドウ糖です。こうすると、働きアリが作る匂い物質には、重い炭素の目印がつきます。サナギの体から見つかった匂い物質のうち、目印のないものだけがサナギ自身が作ったものだと分かります。

結果ははっきりしていました。2種類の匂い物質が増えたのは、感染していて、しかも働きアリがそばにいるサナギだけでした。感染していても、ひとりぼっちのサナギでは増えませんでした。一方、病気と戦うための遺伝子は、感染したサナギなら仲間がいてもいなくても同じように強く働いていました。病気になって体の中が変わったせいなら、ひとりぼっちのサナギでも匂いは変わるはずです。チームはこの結果から、サナギが仲間の存在に合わせて匂いを出し分けていると考えました。
03匂いをぬるだけで、健康なサナギも処分された
その匂いが本当に合図なのかも確かめました。知らせているサナギの体から匂い物質を取り出し、健康なサナギにぬったのです。比べる相手として、知らせていないサナギの匂い物質をぬったサナギも用意しました。全部で213匹のサナギを使いました。
すると、知らせている匂いをぬった健康なサナギのほうが、働きアリに繭から出される割合が高くなりました。体は健康なのに、匂いだけで「処分する相手」と判断されたのです。
くわしく調べると、知らせているサナギでは、1種類目の匂い物質が約20倍に増えていました。2種類目は約3倍で、中身の成分の割合も変わっていました。
04女王になるサナギは知らせず、自分の力でカビをおさえこんでいた
アリの巣には、次の女王になるサナギもいます。チームは、女王になるサナギ103匹でも同じ実験をしました。女王のサナギは体が大きいので、働きアリのサナギの約10倍の量のカビをつけました。
それでも、女王になるサナギは匂いを変えませんでした。働きアリが繭から出す割合も、健康なサナギとはっきりした差がありませんでした。
これは、女王のサナギが「ずる」をして巣を危険にさらしているのでしょうか。チームは、サナギの体の中のカビの量を時間を追って測りました。働きアリのサナギでは、カビは増え続けました。女王になるサナギでは、カビはいったん増えたあと、3分の1近くまで減りました。健康なときに病気を防ぐ遺伝子が働く強さも、女王になるサナギのほうが35%高かったのです。女王のサナギは、自分で病気をおさえこめるから知らせなかった。チームはそう考えています。
ちなみに、知らせている働きアリのサナギの匂いを、健康な女王のサナギにぬる実験もしました。すると働きアリは、女王のサナギも繭から出す割合が高くなりました。チームは、女王のサナギも、もし知らせれば処分されるのだろうと考えています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
自分を犠牲にする合図が、なぜ進化したのか
ふつう、自分が死ぬような合図を出す生き物は、子孫を残せません。ところが働きアリは、もともと自分では子を産みません。ふつう、血のつながった家族の中で暮らし、女王の子を育てます。病気の働きアリが巣全体を守れば、自分と同じ遺伝子を多く持つ家族が生き残ります。ドーソンさんたちは、このような家族の得になる場合に、「自分の病気を知らせる合図」が進化しうると説明しています。女王になるサナギは将来子を産むので、むやみに処分されると損が大きくなります。知らせるかどうかが、働きアリと女王で分かれていたのは、この考えと合っています。
研究の歴史:病気の子を取りのぞく虫たち
ミツバチでは、病気の幼虫やサナギが入った巣部屋のふたを開け、外に運び出す行動が前から知られていました。病気のミツバチの子の体から出る匂い物質が、この行動のきっかけになることも分かっています。2018年、クレマーさんたちは、アリが感染したサナギを繭から出し、毒で消毒することを示しました。ただ、匂いの変化が病気のせいで勝手に起きるのか、サナギが出す合図なのかは分かっていませんでした。2025年の研究は、その答えを出そうとしたものです。
感染した細胞を取りのぞく、体の中のしくみと似ている
私たちの体でも、ウイルスなどに感染した細胞は、まわりに目印を出します。それを見つけた免疫の細胞が、感染した細胞を取りのぞきます。ISTAの発表では、これを「見つけて・食べて」の合図と呼んでいます。アリの巣では、動けないサナギが感染した細胞に、働きアリが免疫の細胞にあたります。大人の働きアリは、死が近づくと自分で巣を出ていくことがあります。動けないサナギには、それができません。
限界と、まだ分からないこと
この研究は、1種類のアリを研究室で調べたものです。匂いをぬる実験では、知らせている匂いのほうが繭から出される割合は高くなりました。ただ、統計で「偶然ではない」と言えるぎりぎりの差でした。また、ミツバチで病気の子の処分を引き起こす匂い物質を1種類だけぬっても、アリは41匹のサナギのどれも繭から出しませんでした。アリは1つの物質ではなく、いくつもの成分の組み合わせに反応しているのかもしれません。ミツバチとアリで、病気の目印になる物質がちがう可能性もあります。研究チームは、社会性昆虫すべてに共通する「病気の目印」はないのではないかと書いています。女王になるサナギも、カビにおさえきれないほど感染したら知らせるのか。それも今後の課題です。
05まとめ
カビに感染し、自分の力では治せない働きアリのサナギは、体の表面の匂いを変えて仲間に知らせていました。匂いが変わったのは、仲間がそばにいるときだけでした。その匂いをぬっただけで、健康なサナギも繭から出されました。病気に強い女王になるサナギは、匂いを変えず、自分でカビをおさえていました。
2018年の実験では、働きアリが5日間消毒すると、カビが胞子を作ったサナギの数は95%減りました。小さなサナギ1匹の合図が、巣の仲間を病気から守っているのです。
研究カルテ
オーストリア・クロスターノイブルク
- 研究チーム
- オーストリア科学技術研究所(ISTA)とドイツのヴュルツブルク大学などのチーム(第一著者エリカ・ドーソン)
- 調べた場所
- オーストリアの研究所(アリはドイツとスペインで採集)
- 調べた動物
- ヨーロッパに広がる外来のケアリの仲間(学名 Lasius neglectus)
- 調べ方
- サナギにカビを感染させ、仲間がいる・いないで体の表面の匂い物質がどう変わるかを測った
- 分かったこと
- 感染した働きアリのサナギは、仲間がいるときだけ2種類の匂い物質を増やした
- まだ分からないこと
- 仲間は匂いのどの成分に反応しているのか。女王のサナギも重い病気なら知らせるのか
- 論文
- Nature Communications(2025年)。前の研究は eLife(2018年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Many sick animals hide their illness from their group. But some young ants do the opposite. Scientists in Austria studied ant pupae with a dangerous fungus.
A worker pupa that cannot fight the fungus changes its smell. Adult worker ants notice the smell. They take the pupa out of its cocoon and spray it with acid. The pupa dies, but the fungus does not spread.
The pupae changed their smell only when workers were near them. The scientists put the smell on healthy pupae. The workers took more of these pupae out of their cocoons.
Pupae that will become queens did not change their smell. Their bodies were stronger against the fungus. After a while, the fungus in their bodies went down. So the scientists think they did not need to send a warning.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What do worker ants do to a pupa with the warning smell?働きアリは、知らせの匂いを出すサナギに何をしますか。
働きアリはサナギを繭から出し、酸をかけて消毒します。
Q2. When did the pupae change their smell?サナギが匂いを変えたのはいつですか。
ひとりぼっちのサナギは、感染していても匂いを変えませんでした。
Q3. Why didn't the queen pupae send a warning?女王になるサナギは、なぜ知らせを出さなかったのですか。
女王になるサナギは、体の中のカビを自分でおさえることができました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Dawson, E. H. et al. (2025) Altruistic disease signalling in ant colonies. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-025-66175-z
- 2Pull, C. D. et al. (2018) Destructive disinfection of infected brood prevents systemic disease spread in ant colonies. eLife 論文確認済みdoi:10.7554/eLife.32073
- 3ISTA(2025)Ants Signal Deadly Infectionista.ac.at/en/news/ants-signal-deadly-infection/
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





