同じ荷物運びパズルで、アリは約80匹で1匹より上手に。人間は話せないと1人より下手になった

同じ形のパズルで、アリは1匹より約80匹のほうがずっと上手だった。人間は1人でも上手だが、話せないチームは1人より成績が落ちた。

No.092 9分で読めるえっ度 論文 2025年
白い床の上で、脚と触角がとても長い黒っぽい小さなアリがたくさん、T字形の細いプラスチックの枠につかまって引っぱっている。前には細いすき間のある壁があり、枠はそのすき間を通り抜けようとしている。

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  1. 1匹ずつではなかなか進めないパズルを、大勢のアリは上手に解いた
  2. 話すのを禁じられた人間のチームは、1人より下手になった
  3. 話し合えるチームは、1人のときとほぼ同じくらいの成績だった

人に話すなら

T字の荷物をすき間から運び出すパズルを、アリと人間にやらせた実験があるんだって。アリは大勢になるほど上手になったのに、人間は話すのを禁止されると1人のときより下手になったらしいよ。

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荷物運びのパズルでは、アリも人間も大勢になるほど上手になる

T字形の荷物を、細いすき間を通して隣の部屋に運び出す。まっすぐ押すだけでは引っかかってしまい、向きを変えたり、一度戻したりしないと通りません。この同じパズルを、アリと人間に解かせた研究があります。

イスラエルのワイツマン科学研究所のチームは、パズルの大きさだけを変えて、アリにも人間にも挑戦させました。アリは1匹ずつではなかなか進めませんでしたが、約80匹集まると上手に解きました。一方、人間は1人でも上手でした。ところが、話すことを禁じられたチームは、1人のときより成績が落ちたのです。

「みんなで考えれば賢くなる」と言われることがあります。でも、本当にそうなのかを、1人と集団で同じ問題を使って比べるのは難しいことでした。アリと人間は、どちらも大きな荷物を大勢で運べる、数少ない生き物です。研究チームはそこに目をつけ、大きさを自由に変えられるパズルで、1人(1匹)と集団の頭の働きを比べました。

01アリと人間に、大きさだけ違う同じパズルを解かせた

研究を率いたのは、ワイツマン科学研究所のオファー・ファイナーマン(Ofer Feinerman)さんです。実験は、タベア・ドライヤー(Tabea Dreyer)さんが中心になって進めました。論文は2024年12月にアメリカの科学雑誌PNASのウェブ版に載りました。

パズルの囲いは長方形で、中が3つの部屋に分かれています。部屋と部屋は、細いすき間でつながっています。左端の部屋にあるT字形の荷物を、真ん中の部屋を通して、右端の部屋まで運べばクリアです。答えが形だけで決まるパズルなので、大きさを変えれば、アリにも人間にも同じ問題を出せます。

アリは、ヒゲナガアメイロアリを使いました。体長3ミリほどの黒っぽいアリで、脚と触角がとても長いのが特徴です。このアリは、大きなえさを仲間と一緒に運びます。大きな荷物を大勢で運ぶことは自然界ではとても珍しく、主に人間と、知られているアリの種類の1%ほどだけが行います。

研究チームは、プラスチックで作ったT字形の荷物をひと晩キャットフードにつけ、ツナ缶もこすりつけました。アリに、えさだと思わせるためです。右端の部屋は、アリの巣の方向に開いています。

アリのパズルは2つの大きさを用意しました。小さいほうは1匹のアリか、平均約7匹の小さな群れが運びます。大きいほうは、平均約80匹の大きな群れが運びます。

人間のパズルは3つの大きさです。小さいものは1人で、中くらいは6〜9人、大きいものは16〜26人で運びます。囲いの壁は高さ2メートル以上あり、外は見えません。荷物は、車輪つきの台にのせたT字形のプラスチックのパイプです。チームの参加者は、それぞれ決まった持ち手を引っぱることしか許されません。アリが荷物をくわえて引っぱるのと、条件をそろえるためです。

02人間のチームの約半分は、マスクとサングラスをつけ、話すことも身ぶりも禁じた

人間のチームは、2つの条件に分けました。1つは自由に話し合えるチーム、もう1つは話すことも身ぶりも禁じたチームです。禁じたチームの人は、マスクとサングラスをつけ、口の動きや目の動きも相手に見えないようにしました。

話せないチームが仲間に伝えられるのは、持ち手を引っぱる力だけです。アリも、この実験では、荷物を通して伝わる力が主な連絡手段になります。アリはふだん、においの道しるべも使います。でも、すき間の大きさや荷物の向きは、においでは伝えられません。だから、話せない人間のチームとアリの群れを比べることに意味があるのです。

一部の実験では、持ち手に、旅行かばんの重さを量る道具を使った力の計測器を組みこみました。一人ひとりが、どちら向きにどれだけの力で引っぱったかが記録されます。参加者は、10歳以上の子どもを含めて、合わせて1251人でした。

031匹ずつではなかなか進めないアリが、約80匹になると上手に解いた

アリの結果から見ていきます。1匹だけのアリは、荷物を遠くまで運べませんでした。1匹のアリは、よく荷物を離れて仲間を呼びに行ってしまいました。研究チームは1匹ずつの実験を何時間も、ときには何日も続け、記録をつないで分析しました。アリが入れかわりながら少しずつ動かせば、1匹ずつでも解けることは確かめられました。

約7匹の小さな群れも、1匹とほとんど変わりませんでした。ところが約80匹の大きな群れは、1匹や小さな群れよりはっきり上手に解きました。

違いは、荷物が壁にぶつかったときに現れました。大きな群れの荷物は、壁にぶつかっても止まらず、向きもほとんど変えません。そのまま壁にそってすべるように進み、すき間を見つけるとそこを通り抜けました。小さな群れの荷物は、ぶつかると速さを失い、動き出すと違う方向へ進んでしまいます。そのため、あちこちさまよったり、行き止まりにはまったりしました。

上から見た、3つの部屋が細いすき間でつながった囲いの中を、T字形の荷物が通り抜けていく様子。荷物のまわりには、帽子をかぶった人たちが、荷物から伸びた持ち手を引っぱる姿が小さく見える。

研究チームは、アリ1匹ずつの動きのルールを決めて、コンピューターで再現してみました。荷物にくっついたばかりのアリは、10秒ほど、次の出口(巣のある方)へ荷物を引っぱります。そのあとは、荷物が動いている向きに合わせて引っぱる側に回ります。たったこれだけのルールで、大きな群れが上手に解く様子が再現できました。

このルールには、パズルの形を理解する仕組みは入っていません。つまり、大きな群れの上手さは、1匹1匹がパズルの形を考えた結果ではないと考えられます。大勢がそろって同じ向きに引っぱっていると、壁にぶつかってもその向きが保たれます。研究チームは、これを群れ全体が持つ「短い記憶」だと考えました。

04人間は1人でも上手。でも話せないチームは1人より下手になった

人間は、平均するとアリより上手でした。1人で解く人は、荷物の状態を「どの部屋に、どんな向きで入っているか」といういくつかの区切りでとらえているようでした。行けそうな方向を試し、行き止まりなら戻ります。一度失敗した道は、ほとんど試しません。1人で解く人の、部屋から部屋への移動のうち、約91%がこの探し方と合っていました。

ところが、話すことを禁じたチームは、1人のときより成績が下がりました。一方、話し合えるチームは、1人のときとほぼ同じで、わずかに上回る程度でした。中くらいのチームと大きなチームで、大きな差はありませんでした。

話せないチームの何が問題だったのでしょうか。研究チームは、道が2つに分かれる場面での選び方に注目しました。一方は、荷物を出口の方向へいちばん遠くまで進められる「目先の近道」です。もう一方は、遠回りに見える道です。話せないチームは、1人で解く人や話し合えるチームより、目先の近道を選びがちでした。この選び方が、成績を下げていました。

話せないチームは、1秒もたたないうちに荷物を動かし始めていました。そして動き出すと、全員がその向きに合わせて引っぱりました。研究チームは、最初に引っぱり始めた何人かの「多数決」で行き先が決まり、そのときに目先の近道へ引っぱられやすいのだと考えています。各自が、自分の近くにあるすき間に反応しやすいことも、理由の1つと考えられています。

話し合えるチームは、動き出す前に数十秒かけて話し合いました。そして、遠回りに見える正しい道を選ぶこともできました。ただし、チームの中でいちばん上手な人の考えに従ったわけではありません。研究チームの計算では、話し合えるチームは、メンバーの中で最も上手な人より、試す道の数が35%多くなっていました。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

単純なルールで動く者どうしは、数が増えても足並みがそろう

研究チームは、アリと人間の違いを「頭の働きを、個と集団のどちらに置くか」の違いとして説明しています。この実験のアリは、パズルの形を考えず、いつも同じ単純なルールで動いていました。全員が同じルールで動くので、数が増えても協力しやすくなります。そして集団になると、壁にそって進むという、迷路を解くのに向いたふるまいが自然に生まれました。

人間は、1人ひとりが状況に合わせて、違う考え方を選べます。それは1人のときには強みです。でも、考え方が人によって違うので、集団で動くときには意見をまとめる必要があります。話し合えないと、まとめる手段がなくなり、成績が落ちてしまいました。研究チームは、単純な頭は数が増えても協力しやすく、複雑な頭は十分に話し合わないと協力がうまくいかない、とまとめています。

アリの荷物運びは「一時的な案内役」で向きが決まる

ファイナーマンさんたちは、前からこのアリの荷物運びを調べてきました。2015年の論文では、荷物に新しくついたアリが、短いあいだだけ巣の方向を知る「案内役」として働くことを示しました。荷物を運ぶアリたちは、そろうことと案内役に従うことのつり合いをとっていました。このつり合いは、1匹の案内役の影響が群れ全体に最もよく伝わる状態に近いものでした。

今回のコンピューターの再現も、この「案内役と追従役」のルールを使っています。大きな群れでは、足並みがそろいやすく、1匹の案内役だけでは向きが変わりにくくなります。この性質が、壁にそって進み続ける「短い記憶」を生んでいました。

人間の集団が賢くなるには、何が必要か

話し合えるチームは、目先の近道にとらわれにくくなりました。研究チームは、話し合いで遠回りの道を提案できたからだと考えています。行き止まりの部屋で、誰かが「ここは行き止まりだ」と言葉で示せば、その奥をいちいち試さずにすみます。研究チームは、話し合えるチームが1人よりわずかに上手だった主な理由を、ここに見ています。

一方で、話し合えば最も上手な人の考えが選ばれる、というわけでもありませんでした。研究チームは、黙っているチームが本音と違う「みんなが選びそうな案」に合わせてしまう点を、人間の集団でよく知られた現象と結びつけて論じています。

研究方法の限界

1匹のアリの実験は3回分しかなく、データが少なめです。研究チームは、1匹でも解けること、そして大きな群れよりずっと下手なことを示すには十分だとしています。また、アリにとって荷物はえさですが、人間は指示されて動いています。人間に許したのは「引っぱるだけ」という、アリに合わせた不自然な動き方です。アリはふだんにおいも使いますが、このパズルではにおいがほぼ役に立たない条件でした。結果がほかの種類のアリや、ふだんの暮らしの場面にそのまま当てはまるとは限りません。

05まとめ

同じ形のパズルで比べると、アリと人間は反対の結果になりました。アリは1匹ずつではなかなか進めませんでしたが、約80匹集まると、壁にそって進む方法で上手に解きました。

人間は1人でも上手でした。ところが話すことを禁じたチームは、目先の近道に流れて、1人のときより下手になりました。話し合えるチームでも、1人のときとほぼ同じでした。

大勢で何かを運ぶとき、すぐに動き出す前に一言話すだけで、結果が変わるかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

イスラエル・レホボト

研究チーム
イスラエルのワイツマン科学研究所のチーム(第一著者タベア・ドライヤー、代表オファー・ファイナーマン)
調べた場所
イスラエルのワイツマン科学研究所(レホボト)
調べた動物
ヒゲナガアメイロアリ(学名 Paratrechina longicornis)と、人間の参加者1251人
調べ方
大きさだけ変えた同じ形のパズルを、1匹・約7匹・約80匹のアリと、1人・数人・十数〜二十数人の人間に解かせた
分かったこと
アリは大勢で上達した。人間は話せないチームが1人より下手になり、話せるチームは1人とほぼ同じだった
まだ分からないこと
頭の良さと協力しやすさの「引きかえ」が、ほかの動物にも当てはまるか
論文
Proceedings of the National Academy of Sciences(2025年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Ants and People Try the Same Puzzle

Scientists in Israel made a puzzle with three rooms and two narrow gaps. Players had to move a big T-shaped object to the last room. They gave the same puzzle to ants and to people in different sizes.

One ant could not move the object very far. But a group of about 80 ants did much better. When the object hit a wall, the big group kept sliding along it. Then the ants found the gap.

People were good at the puzzle, even alone. Some groups of people could not talk or use their hands to give signs. These groups did worse than one person. They often chose the move that looked like a shortcut, and this lowered their score.

Groups that could talk did about as well as one person. Simple ants work well in big groups, but people need to talk.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What shape was the object in the puzzle?パズルの物はどんな形でしたか。

Q2. Which ants solved the puzzle best?パズルをいちばん上手に解いたのはどのアリでしたか。

Q3. What happened to groups of people who could not talk?話せない人間のチームはどうなりましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Dreyer, T. et al. (2025) Comparing cooperative geometric puzzle solving in ants versus humans. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2414274121
  2. 2PMC(Dreyer et al. 2025 全文)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11725855/
  3. 3Weizmann Institute of Science(2024)Ants vs. Humans: Putting Group Smarts to the Testwis-wander.weizmann.ac.il/space-physics/ants-vs-humans-putti
  4. 4Gelblum, A. et al. (2015) Ant groups optimally amplify the effect of transiently informed individuals. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/ncomms8729

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい