ハダカデバネズミの鳴き声には巣ごとの「方言」があり、女王がいなくなると乱れた
ハダカデバネズミのあいさつの声は巣ごとに違い、自分の巣の声によく返事をした。よその巣で育った子は育ての巣の声になり、女王がいないと声のまとまりが乱れた。

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- あいさつの声に、巣ごとに違う特徴があった
- よその巣で育った子は、育ての巣の声の特徴を身につけた
- 女王がいなくなると、巣の声のまとまりが弱まった
人に話すなら
ハダカデバネズミって、巣ごとに鳴き声の「方言」があるんだって。よその巣で育った赤ちゃんは育ての巣の方言になるし、女王がいなくなると方言がばらばらになるらしいよ。
読む前に予想しよう
ハダカデバネズミの鳴き声には、巣ごとの違いがある
3万6190回の声を分析すると、どの巣の声かをコンピューターで見分けられた。
ハダカデバネズミは、アフリカの地下にトンネルを掘って暮らすネズミの仲間です。暗い巣の中で、大勢の仲間がいつも小さな声で鳴き交わしています。
ドイツと南アフリカの研究チームは、この鳴き声を2年かけて3万6190回録音し、コンピューターで分析しました。すると、あいさつに使う声に、巣ごとに違う特徴があることが分かりました。研究チームはこれを「方言」と呼びました。ハダカデバネズミは、自分の巣の方言で話しかけられると、よく返事をしました。
方言は、生まれつき決まっているものではありませんでした。赤ちゃんを別の巣で育てると、育ての巣の方言を身につけたのです。さらに、巣の女王がいなくなると、巣全体の方言のまとまりが弱まりました。ネズミの仲間で、方言が世代から世代へ伝わることを示したのは、この研究が初めてだと研究チームは書いています。
01目のよく見えない地下のネズミは、声をかけ合って暮らす
ハダカデバネズミの巣には、大勢の仲間が暮らしています。子どもを産むのは、女王と呼ばれる1匹のメスだけです。1981年、南アフリカのケープタウン大学のジェニー・ジャーヴィス(Jenny Jarvis)さんは、野生から連れてきた40匹の巣を観察し、このことを報告しました。ほかの仲間は、体の大きさや仕事で分かれ、子守りなどを協力して行います。ハチやアリのような社会を持つ哺乳類として、知られるようになりました。今回の研究に使われた巣も、ジャーヴィスさんがケニアで捕まえた巣の子孫です。
ハダカデバネズミは、ほとんど目が見えません。そのかわりに、声でたくさんのやりとりをします。鳴き声の種類は17〜25種類あるとされています。中でもいちばんよく聞かれるのが、研究者が「ソフトチャープ」と呼ぶ短い声です。チャープは、英語で小鳥などの短く高い鳴き声を指す言葉です。
ソフトチャープは、あいさつの声だと考えられています。1匹が鳴くと、相手もすぐに鳴き返します。2007年、千葉大学などの日本の研究チーム(吉田重人さん、岡ノ谷一夫さんら)が、この「鳴き交わし」を確かめていました。今回の研究チームは、この声に、仲間であることを示す情報が入っているのではないかと考えました。
023万6190回の声をコンピューターで分けると、巣ごとの違いが見えた
研究の中心になったのは、ドイツのマックス・デルブリュック分子医学センターのアリソン・バーカー(Alison Barker)さんとゲーリー・ルーウィン(Gary Lewin)さんです。南アフリカのプレトリア大学のチームも加わりました。録音したのは、ベルリンの6つの巣と、プレトリアの1つの巣の、合わせて166匹です。
研究チームは、録音からソフトチャープを1つずつ切り出しました。そして、声の高さや長さ、声の始まりと終わりの高さの差など、8つの特徴を数字にしました。その数字をもとに、機械学習で「誰の声か」「どの巣の声か」を当てさせました。機械学習とは、たくさんのデータから、コンピューターに見分け方を覚えさせる方法です。
まず、同じ巣の中で「誰の声か」は、高い確率で当てられました。1匹ずつ声に個性があるのです。次に、ベルリンの3つの巣と南アフリカの1つの巣の声で、「どの巣の声か」を試しました。これも高い確率で当たりました。巣を見分けるのに特に役立ったのは、声の始まりと終わりの高さの差と、声のいちばん高いところの音の高さでした。
一方、順位や年齢、オスかメスかは、声からはあまり当てられませんでした。体の大きさと声の高さの関係も調べました。多くの哺乳類では、体が大きいほど声が低いことが報告されています。ところがハダカデバネズミでは、体が大きいほど声が高い傾向がありました。
03自分の巣の方言を流すと、よく鳴き返した
声に巣ごとの違いがあっても、ハダカデバネズミ自身が聞き分けているとは限りません。研究チームは、声を聞かせる実験をしました。
実験の装置は、3つの部屋がつながったものです。左右の部屋にはスピーカーとマイクがあり、片方の部屋からソフトチャープを流します。巣の中で順位の低い働き手を、2つの巣から合わせて9匹選び、1匹ずつ入れました。1匹につき、声の種類ごとに36回以上試しています。声を流してから0.5秒以内に鳴いたら、「返事」と数えました。
どの巣の声を流しても、ハダカデバネズミは音の鳴る部屋で長く過ごしました。違いが出たのは返事の数です。自分の巣の声を流したときは、よその巣の声よりずっと多く鳴き返しました。
研究チームは、次の疑問も確かめました。ハダカデバネズミは、知っている仲間の声に返事をしただけではないか、という疑問です。そこで、コンピューターで「実在しない仲間」の声を作りました。巣の平均的な特徴は持つけれど、巣の誰の声とも重ならない声です。この作り物の声でも、自分の巣のものによく返事をしました。
においの影響も調べました。テスト用の部屋に、よその巣の寝床の材料を置いても、自分の巣の声によく返事をしました。ハダカデバネズミは、声に入っている巣ごとの特徴そのものを聞き分けていたと考えられます。

04よその巣で育った赤ちゃんは、育ての巣の方言を身につけた
方言が文化と呼べるなら、次の世代に伝わるはずです。研究チームは、赤ちゃんを別の巣で育てる実験をしました。女王は出産の時期がそろわないので、これは簡単ではありません。
ある実験では、生まれた巣で見放された赤ちゃん1匹を、生後1週間以内に別の巣へ移しました。別の実験では、母親の女王を亡くした赤ちゃん2匹を、それぞれ別の巣に移しました。移す前には赤ちゃんをぬるま湯で洗い、移す先の巣のふんを体にぬりました。
子どもの声は、生後数か月かけて大人の声に近づきます。そこで、移してから6か月以上たってから声を調べました。巣を見分けるように覚えさせたコンピューターに、5つの巣の中から判定させると、3匹とも育ての巣の声だと判定されました。その割合は59〜95%でした。生まれた巣ではなく、育った巣の方言を話していたのです。
05女王がいなくなると、方言のまとまりがくずれた
研究のあいだに、ある巣では女王が続けて2回いなくなりました。最初の女王は、妊娠に関わる合併症で死にました。次に女王になったメスは、最初の子を産んだあと、巣の何匹かのオスに襲われました。けががひどかったため、研究者は安楽死させました。
女王がいない期間、巣の仲間の声はばらばらになりました。1匹1匹の声の高さなどのばらつきが大きくなり、コンピューターが「この巣の声」と当てる割合も下がりました。新しい女王が立つと、方言のまとまりは戻りました。別の巣でも、女王が仲間に襲われて死んだあとの3か月間、同じように方言のまとまりが弱まりました。
研究チームは、女王がいることが、巣の方言をまとめるのに役立っていると考えています。ただし、どうやってまとめているのかは、まだ分かっていません。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
巣ごとの方言は、よそ者を見分けるのに役立つかもしれない
ハダカデバネズミの巣では、女王以外のほぼ全員が子どもを産みません。限られた食べ物で巣を保つには、この仕組みが欠かせないと考えられています。そのため、よその巣の者を強くこばみます。研究チームは、仲間かどうかを確かめる手段がいくつもあったほうがよいと考えました。巣ごとの方言は、その手段の1つになりうる、ということです。
方言には、巣の中の足並みをそろえる働きもあるかもしれません。人間も、あいさつ1つで、声で誰かが分かり、言葉づかいでどこの出身かが分かります。研究チームは、ハダカデバネズミも、声で「どの巣の者か」を示していると考えています。
研究の歴史:「女王のいる哺乳類」と「鳴き交わし」の発見
ジャーヴィスさんが1981年に報告したのは、飼育した40匹の巣で、子どもを産むメスが1匹だけだということでした。残りの個体は体の大きさや仕事で2〜3のグループに分かれ、オスもメスも含まれていました。何世代もの仲間が一緒に暮らし、子守りを協力して行う点も、ハチやアリの社会とよく似ていました。
声の研究では、日本の吉田さんや岡ノ谷さんらのチームが2007年に、ソフトチャープが鳴き交わしの声であることを示しました。2匹を一緒にすると、相手の声に応えるように、短い間をおいて鳴いていたのです。このチームは、声の特徴が体重や、もともといた巣によって違うことも報告していました。今回の研究は、その「巣による違い」を、録音の数と実験で大きく広げたものです。
方言を持つ動物は、ほかにもいる
声で社会の情報を伝える動物は、コウモリ、サル、クジラやイルカ、ゾウ、肉食の動物などで知られています。研究チームは、この仲間にネズミのグループを加えたと述べています。ただし、声の覚え方には違いがあります。鳴き鳥のように、まねをして新しい声を作り出す動物がいます。一方で、多くのサルのように、声の使い方を覚えるのが得意な動物もいます。ハダカデバネズミがどちらなのかは、まだ分かっていません。
まだ分からないこと
里子の実験は3匹、女王がいなくなった例は2つの巣だけです。どの実験も、研究施設で飼われている巣で行われました。野生の巣でも同じように方言があるのかは、この研究では調べていません。
女王がどうやって方言をまとめているのかも分かっていません。研究チームは、巣の中で子づくりをしているオスの声が、特にばらつきが大きいことに気づきました。そこで、ホルモンなどの体の状態が声の安定に関わっているのではないか、という仮説を出しています。女王がいなくなると、巣の仲間の子づくりをおさえる仕組みも外れるからです。
06まとめ
ハダカデバネズミのあいさつの声には、巣ごとの方言がありました。ハダカデバネズミは、作り物の声でも、自分の巣の特徴を持つ声によく返事をしました。
方言は生まれつきではなく、育った巣で身につくものでした。そして、女王がいなくなると方言のまとまりがくずれ、新しい女王が立つと戻りました。
地下のトンネルでハダカデバネズミが交わす「チャープ」には、「同じ巣の仲間だよ」という合図が入っているのかもしれません。
研究カルテ
ドイツ・ベルリン
- 研究チーム
- ドイツのマックス・デルブリュック分子医学センターなどのチーム(アリソン・バーカー、ゲーリー・ルーウィンら)
- 調べた場所
- ドイツ・ベルリンと南アフリカ・プレトリアの飼育施設
- 調べた動物
- 飼育されているハダカデバネズミ(学名 Heterocephalus glaber)7つの巣の166匹
- 調べ方
- あいさつの声を2年かけて録音し機械学習で分析。声を聞かせる実験や、赤ちゃんを別の巣で育てる実験もした
- 分かったこと
- 声には巣ごとの「方言」があり、自分の巣の方言によく返事をした。方言は育つ巣で身につき、女王がいないと乱れた
- まだ分からないこと
- 方言を自分で声を変えて覚えるのか、女王がどうやって方言をまとめているのか
- 論文
- Science(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Naked mole-rats live in tunnels under the ground in Africa. They can hardly see, so they use their voices a lot. Their most common call is a short greeting called a soft chirp.
Scientists recorded more than 36,000 soft chirps from 166 animals. A computer studied the sounds. Each colony had its own special sound, like a dialect. When the scientists played chirps from their home colony, the animals answered more often.
Three babies grew up in a different colony. Later, they used the dialect of their new home, not their birth home.
Each colony has one queen. When a queen died, the dialect of the colony became less clear. When a new queen started to rule, the dialect came back. Scientists still do not know how the queen does this.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Why do naked mole-rats use their voices a lot?ハダカデバネズミはなぜ声をたくさん使うのですか。
ハダカデバネズミはほとんど目が見えず、声のやりとりに頼っています。
Q2. Which dialect did the babies from a different colony use?別の巣で育った赤ちゃんは、どの方言を使いましたか。
3匹とも、育ての巣の方言を身につけていました。
Q3. What happened when a queen died?女王が死んだとき、何が起きましたか。
女王がいない期間は声のばらつきが大きくなり、巣の方言のまとまりが弱まりました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Barker, A. J. et al. (2021) Cultural transmission of vocal dialect in the naked mole-rat. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abc6588
- 2Max Delbrück Center 機関リポジトリ(Barker et al. 2021 著者版)edoc.mdc-berlin.de/19928/
- 3Yosida, S. et al. (2007) Antiphonal vocalization of a subterranean rodent, the naked mole-rat (Heterocephalus glaber). Ethology 論文確認済みdoi:10.1111/j.1439-0310.2007.01371.x
- 4Jarvis, J. U. M. (1981) Eusociality in a mammal: cooperative breeding in naked mole-rat colonies. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.7209555
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