大人のクシクラゲが、飢えやけがのあと若いころの姿に戻った。65匹中13匹で確かめた

クシクラゲの一種を飢えさせたりけがをさせたりしたあと、えさを与えると、65匹中13匹が触手のある若いころの姿に戻った。

No.094 8分で読めるえっ度 論文 2024年
暗い海の中で、透明なクシクラゲが2本の長い触手をのばして浮かんでいる。体の表面には、光を受けて虹色にきらめく細い列が縦に並んでいる。

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  1. 大人のクシクラゲが、えさ不足やけがのあと若いころの姿に戻った
  2. なくしたはずの2本の触手を、もう一度生やした
  3. 大人から若返る動物は、ベニクラゲの仲間しか知られていなかった

人に話すなら

クシクラゲっていう海の生き物、大人になったあとでも若いころの姿に戻れるんだって。えさ不足やけがのあとにえさをもらうと、なくした触手をまた生やして戻るらしいよ。

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大人になってから若いころの姿に戻る動物は、ベニクラゲの仲間しかいない

生き物は、赤ちゃんから大人へと育ちます。その向きを逆にして、大人から若いころの姿に戻れる動物は、ほとんどいません。大人になって子孫を残せるようになってから若返る動物は、これまで1種類しか知られていませんでした。「不老不死のクラゲ」と呼ばれる、ベニクラゲの仲間です。

2024年、ノルウェーのベルゲン大学のチームが、2つ目の例を報告しました。クシクラゲという海の生き物の一種、ムネミオプシスです。大人の形になった個体に、えさ不足やけがを経験させました。そのあとでえさを与えると、65匹のうち13匹が若いころの姿に完全に戻りました。

クシクラゲは、名前にクラゲとつきますが、ベニクラゲなどのクラゲとは別のグループの動物です。若返りは、クラゲやサンゴを含むグループ(刺胞動物)だけが持つ特別な力だと考えられてきました。その常識が、別のグループの動物で破られたのです。

01クシクラゲは、触手のある丸い姿から、ひだのある大人の姿に育つ

クシクラゲは、海にすむ生き物で、体がとてももろいのが特徴です。そのため、どんな種類がいてどう暮らしているのか、くわしいことはあまり分かっていません。動物の進化の中で、とても早い時期に分かれたグループの1つと考えられています。

ムネミオプシス(学名 Mnemiopsis leidyi)は、クシクラゲの中で最もよく調べられている種の1つです。ムネミオプシスは卵からかえると、まず丸い体に2本の触手を持つ姿になります。これを「シディピド期」と呼びます。育つにつれて触手は体に吸収され、かわりに2枚のひだと、耳のような突起ができてきます。この大人の形を「ロベート期」と呼びます。

成長の順番は、シディピド期からロベート期へと進みます。ロベート期まで育ったムネミオプシスが、触手のあるシディピド期に戻ることはない、と考えられてきました。以前の研究では、えさを与えずに飢えさせても、シディピド期には戻らないと報告されていました。

02研究者は、えさ不足とけがの2つの方法で試した

研究したのは、ノルウェーのベルゲン大学の研究所(Michael Sars Centre)のジョアン・ソト=アンヘル(Joan J. Soto-Angel)さんとパヴェル・ブルクハルト(Pawel Burkhardt)さんです。2人は、研究室で育てたムネミオプシスのうち、ロベート期まで育った健康な個体を使いました。1匹ずつ別の水槽に入れ、海水の条件をそろえて飼いました。

試した方法は2つです。1つ目のグループは、えさを減らすだけにしました。2つ目のグループは、まず大人の形の特徴である2枚のひだを切り取りました。どちらのグループも、最初の15日間はえさを与えず、そのあとは週に1回だけえさを与えました。ひだがほとんど消えてからは、えさを2日に1回に増やしました。

体の形の変化は、1〜3日ごとに撮影して記録しました。ひだや突起の大きさ、触手のあるなしを、1匹ずつ追いかけたのです。判定の基準は3つです。体が丸くなること、ひだと突起がなくなること、2本の触手がしっかり働くことです。これがそろった個体を「完全に戻った」としました。

0365匹中13匹が、触手を生やしてシディピド期に戻った

結果は、どちらの方法でも若返りが起きました。65匹のうち13匹が、シディピド期の姿に完全に戻りました。ほかに7匹は、触手は生えたものの、ひだや突起が一部残りました。触手を新しく生やした個体は、合わせて20匹で、全体の31%でした。

方法によって差もありました。ひだを切ったグループは15匹中6匹(40%)が完全に戻り、死ぬ個体も少なめでした。えさ不足だけのグループは、50匹中7匹(14%)でした。ひだを切ったグループのほうが、体が早く縮み、早く若返りました。触手が生えたのは、ひだを切ったグループで平均20日目でした。えさ不足だけのグループでは平均30日目です。

大事なのは、飢えている間には戻らなかったことです。長く飢えた個体の多くは弱りすぎて回復できませんでした。若返った個体は、えさをもらってから触手を生やしていました。研究チームは、飢えだけでは若返りは起きず、そのあとのえさが必要だと考えています。

透明なクシクラゲの3つの姿が横に並んでいる。左は大きな2枚のひだを持つ大人の形、真ん中はひだが縮んだ形、右は丸い体から2本の触手がのびた小さな形。

04若返った個体は、触手でえさを捕まえ、また大人に育った

若返った個体は、見た目だけでなく、暮らし方もシディピド期に戻りました。触手を使って、えさの小さな生き物を捕まえたのです。研究チームの写真では、触手が生えると、おなかの中のえさが増えていました。

ひだや突起は、多くの場合、突起のほうが先に消えました。中には、体が急に傷んで、触手のつけ根や口のあたりがすっかりなくなった個体もいました。それでも、えさを与えると数日で作り直されました。

若返った個体は、そのあとふつうに育ち、もう一度ロベート期の大人になりました。そして、受精できる卵や精子を作りました。若返った13匹のうち12匹は、シディピド期の姿のときにも卵や精子を出しました。ムネミオプシスは、小さい体のうちから子孫を残せる動物だからです。

05ベニクラゲの若返りとは、やり方が違っていた

若返るベニクラゲの仲間は、学名をトゥリトプシス・ドールニー(Turritopsis dohrnii)といいます。このクラゲは、泳ぐクラゲの姿から、何匹もつながって暮らす「ポリプ」という姿に戻ります。1996年に発表された研究で、子孫を残せるようになったクラゲでもポリプに戻れることが報告されました。研究者たちは、これを「死をまぬがれ、不死に近づく」ことだと書いています。

ベニクラゲの仲間では、クラゲからポリプへの変化は、はっきり分かれた段階の間で起こります。体の組織を大きく作り直し、まだ役割があまり決まっていない細胞の集まりから、新しい体を作ります。一方、ムネミオプシスの若返りは、同じ個体の中で少しずつ進みました。ロベート期とシディピド期の間には、その中間の形もあります。研究チームは、やり方は違っても、育つ向きを逆にするという点では同じ「逆向きの発生」だとしています。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

若返りは、えさの少ない海で生きのびる作戦かもしれない

ムネミオプシスは、えさが少ないと体を大きく縮めて生きのびることが知られていました。この力は、ムネミオプシスがもともといなかった海に入りこんで広がってきた理由の1つと考えられています。研究チームは、若返りもこうした話に新しい見方を加えると述べています。

ムネミオプシスは、育つにつれて食べ物が変わります。若いころは主に、とても小さな単細胞の生き物を食べます。大人になると、小さな動物を食べるようになります。研究チームは、若返って触手を取り戻すと、大人の形では得られなかった食べ物を、もう一度とれるようになると指摘しています。

研究の歴史:若返りは「刺胞動物だけの特技」と考えられていた

逆向きの発生は、100年以上前から、クラゲやサンゴを含む刺胞動物で報告されてきました。中でも有名になったのが、1996年に報告されたベニクラゲの仲間です。2022年には、スペインなどのチームが、若返るベニクラゲの仲間と、若返らない近い仲間の遺伝子を比べました。若返る種では、DNAの修理や、染色体の端を守る仕組みなどに関わる遺伝子に違いが見つかりました。

ムネミオプシスでは、こうした仕組みはまだ調べられていません。ムネミオプシスは、体を切られても作り直す力が強いことで知られています。でも、何にでもなれる幹細胞のような細胞は、まだ見つかっていません。若返りと再生が同じ仕組みを使っているのかは、これからの研究の課題です。

反対の見方:シディピド期は本当に「子ども」なのか

この研究には、言葉の上での議論があります。2022年、アメリカのフロリダ大学などのチームは、ムネミオプシスが小さい体のうちから子孫を残し始め、そのまま作り続けることを示しました。大人と子どもで、子孫の残し方に区切りがないのです。このチームは、クシクラゲはもともと、幼生の時期をへずに育つ「直接発生」の動物だっただろうと結論しました。

今回の論文も、クシクラゲに本当の幼生の時期があるかは議論中だと認めています。ただし、シディピド期からロベート期へ育つ順番は確かなので、その逆に進んだことは「逆向きの発生」と呼べる、という立場です。この記事でも「子ども」ではなく「若いころの姿」と書いたのは、このためです。

この研究の限界

実験は、研究室で育てた個体で行われました。野生の海で、同じ若返りがどのくらい起きているのかは分かっていません。研究チームは、野生で見つかる小さな個体の中に、若返った元の大人がまじっているかもしれないと述べています。もしそうなら、ムネミオプシスの数の増え方の考え方も変わります。また、若返りを何度もくり返せるのかは、この研究では確かめられていません。

06まとめ

大人の形に育ったクシクラゲのムネミオプシスが、えさ不足やけがのあと、えさをもらうと若いころの姿に戻りました。65匹中13匹が、なくしたはずの2本の触手を取り戻し、丸い体のシディピド期になりました。

大人から若返る動物は、これまでベニクラゲの仲間しか知られていませんでした。研究チームは、クラゲとは別のグループで見つかったことで、若返りがどれほど多くの動物に広がっているのかという新しい疑問が生まれた、と書いています。

若返った13匹は、そのあと、もう一度ロベート期の大人の形に育ちました。そして、受精できる卵や精子を作ったのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ノルウェー・ベルゲン

研究チーム
ノルウェーのベルゲン大学の研究所(Michael Sars Centre)のジョアン・ソト=アンヘルとパヴェル・ブルクハルト
調べた場所
ノルウェー・ベルゲンの研究所の飼育水槽
調べた動物
飼育したクシクラゲの一種(学名 Mnemiopsis leidyi)65匹
調べ方
大人の形になった個体を、えさ不足だけ、またはひだを切ったうえでえさ不足にし、そのあと少しずつえさを与えて形を記録した
分かったこと
65匹中13匹が、2本の触手を持つ若いころの姿に完全に戻った。戻った個体はその後また大人の形に育った
まだ分からないこと
どんな細胞や遺伝子の働きで若返るのか。野生でも同じことが起きているのか
論文
Proceedings of the National Academy of Sciences(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

A Comb Jelly That Can Turn Young Again

Most animals grow from young to old, and they cannot go back. Only one kind of jellyfish was known to turn young again after it became an adult.

Scientists in Norway studied a comb jelly. A young comb jelly has a round body and two long tentacles. As it grows, the tentacles go away, and it gets two flaps.

The scientists gave adult comb jellies no food for some time. They also cut the flaps off some of them. Then they gave the animals food again. Out of 65 comb jellies, 13 grew new tentacles and became round again.

These animals caught food with their tentacles. Later, they grew into adults again. Scientists do not know how the cells change yet. But now we know that turning young is not only a jellyfish skill.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What does a young comb jelly have?若いクシクラゲは何を持っていますか。

Q2. How many comb jellies became young again?何匹のクシクラゲが若返りましたか。

Q3. What happened to the comb jellies after they turned young?若返ったクシクラゲは、そのあとどうなりましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Soto-Angel, J. J. & Burkhardt, P. (2024) Reverse development in the ctenophore Mnemiopsis leidyi. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2411499121
  2. 2PMC(Soto-Angel & Burkhardt 2024 全文)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11551415/
  3. 3Piraino, S. et al. (1996) Reversing the life cycle: medusae transforming into polyps and cell transdifferentiation in Turritopsis nutricula. Biological Bulletin 論文確認済みdoi:10.2307/1543022
  4. 4Edgar, A. et al. (2022) Ctenophores are direct developers that reproduce continuously beginning very early after hatching. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2122052119
  5. 5Pascual-Torner, M. et al. (2022) Comparative genomics of mortal and immortal cnidarians unveils novel keys behind rejuvenation. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2118763119

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

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