池にすむ小さなヒドラを8年飼うと、年をとっても死にやすくならなかった

ヒドラ2256匹を最長8年記録すると、死ぬ確率は年をとっても上がらず、多くのグループで1年に約167匹に1匹だった。子を生む力も落ちなかった。

No.082 8分で読めるえっ度 論文 2020年
透明な水の中で、細長い体のヒドラが底にくっつき、上の口のまわりの細い触手を広げている。体の横から小さな子どものヒドラが芽のように出ている。

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  1. ヒドラ2256匹を1匹ずつ、最長8年間、毎日記録した
  2. 死ぬ確率は、年をとっても上がらなかった
  3. 子を生む力も落ちなかったが、寒さで老化する種類もいる

人に話すなら

ヒドラっていう1センチもない水の生き物は、研究所で8年飼っても、年をとって死にやすくなることがなかったんだって。人とはまったく違うよね。

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ヒドラは研究所で飼うと、年をとるほど死にやすくなる

人は年をとるほど、1年のうちに死ぬ確率が上がっていきます。20歳と80歳では、次の1年を生きのびる見こみがまったく違います。研究者はこれを「老化」とよびます。多くの動物で同じことが起きるため、老化はどんな動物にもさけられないと長く考えられてきました。

ドイツのマックス・プランク人口研究所のラルフ・シャイブレ(Ralf Schaible)さんたちは、池や川にすむヒドラという小さな動物でこの考えを確かめました。2256匹のヒドラを1匹ずつ容器に分け、8年間、毎日ようすを記録したのです。すると、死ぬ確率は年をとってもほとんど上がりませんでした。多くの集団で、1年のうちに死ぬのは約167匹に1匹のままでした。

野生の動物の老化を調べるのは、とても難しいことです。野生では、年をとるまで生きのびる個体がほとんどいないからです。年をとった個体の数が少ないと、死ぬ確率が上がっているのかどうか、はっきりしません。この研究は、たくさんの個体を長いあいだ守られた場所で飼い、その問題を乗りこえました。

01ヒドラは、体長1センチもない水の中の動物

ヒドラは、クラゲやサンゴと同じ刺胞動物(触手に小さな毒針をもつ動物)のなかまです。体の長さは1センチもなく、針のように細い体をしています。体は2層の細胞でできた小さなふくろで、上の口のまわりに触手があり、下の足で物にくっつきます。

ヒドラは、ふだんは体の横から芽を出してふえます。芽は親と同じ遺伝子をもつ子どもで、育つと親からはなれてひとりで暮らします。ヒドラの体には、いろいろな細胞のもとになる幹細胞がたくさんあります。幹細胞は、新しい細胞を作りつづける特別な細胞です。

ヒドラの老化を調べた大きな研究は、それまで1つだけでした。1998年に、ダニエル・マルティネス(Daniel E. Martínez)さんが発表した研究です。このときは145匹を4年間調べ、年をとっても死にやすくならないことを報告しました。ただ、数が少なく、芽の数のばらつきも大きいものでした。

022つの研究所で、2256匹を1匹ずつ毎日見た

新しい研究は、ドイツ北部のロストックにあるマックス・プランク人口研究所と、アメリカ・カリフォルニア州のポモナ大学で行われました。ポモナ大学にいるマルティネスさんも、この研究に加わっています。調べたのは、ヒドラ2種の3つの系統、合わせて2256匹です。2006年から、12のグループに分けて飼いはじめました。

ヒドラは、小さなくぼみがたくさん並んだプラスチックの容器で、1匹ずつ飼われました。水温は18℃で、12時間ごとに明かりをつけたり消したりしました。ロストックでは、アルテミアという小さな甲殻類の、生まれたばかりの幼生を、1匹に3匹ずつ、週に3回与えました。研究所の発表によると、係の人が細いスポイトを使って、触手のすぐ近くにエサを置いていました。

研究チームは毎日、それぞれのヒドラが生きているか、芽をいくつ出したかを記録しました。観察した期間は最長で2925日、約8年です。ヒドラ1匹を1日見たことを1と数えると、合わせて390万を超えました。

ロストックのヒドラには、長い歴史があります。もとになったのは、1973年に野外でとられた1匹のヒドラです。そこから芽でふえた子孫が、ずっと受けつがれてきました。同じ遺伝子をもつこの一族は、研究が終わるころには少なくとも41歳になっていました。

03死ぬ確率は何年たっても上がらず、多くのグループで1年に167匹に1匹のまま

研究チームは、ヒドラの死を2つに分けました。1つは、体が弱って死ぬ「自然な死」です。動きがにぶくなり、触手が短くなり、体がちぢみ、最後は水にとけてしまいます。もう1つは、事故による死です。ふたにくっついてかわいてしまったり、水をかえるときに見失ったりした場合です。研究チームは、自然な死だけで死ぬ確率を計算しました。

結果は、12のグループすべてで、死ぬ確率が年齢によって変わりませんでした。12のうち10のグループでは、1年のうちに死ぬ確率は0.006、つまり約167匹に1匹でした。残る2つのグループは、もっと低く、0.0009でした。

この確率は、一族が生まれてから何年たっているかにも関係しませんでした。卵からかえって1年もたたない一族でも、41歳の一族でも、同じように低かったのです。この確率がずっと続くと考えて計算すると、数百年から数千年たっても、5%のヒドラが生き残っている計算になります。ただし、これはあくまで計算上の数字です。

たくさんの小さなくぼみが並んだ透明な容器を上から見たところ。くぼみの一つひとつに、ヒドラが1匹ずつ入っている。細いスポイトの先が、1匹の触手の近くに小さな甲殻類の幼生を落としている。

04子を生む力も、年をとって落ちなかった

死ぬ確率が変わらなくても、それだけでは老化していないとは言いきれません。弱い個体が先に死ぬと、残った個体が老化していても、全体の死ぬ確率は変わらないように見えることがあるからです。死は1匹に1回しか起きないので、1匹ずつの老化は死だけでは見えません。

そこで研究チームは、1匹ずつの芽の数に注目しました。芽を出すことは、何度もくり返し起きます。もし体が老化しているなら、年とともに芽の数は減るはずです。

観察期間を4つに分け、1匹ずつ芽の数をくらべました。最初と2番目の期間をくらべると、80%のヒドラは芽を出すペースが変わりませんでした。減ったヒドラは8%で、増えたヒドラは12%でした。年をとって子を生む力が落ちる、という様子は見られなかったのです。

05野生のヒドラは、大人になってから数週間ほどしか生きないらしい

では、ヒドラは死なない動物なのでしょうか。研究チームは、そうは言っていません。

研究チームは、ドイツ北部の池で野生のヒドラも観察しました。ヒドラは春にふえ、6月に一番多くなります。ところが7月から8月には数が急に減り、ほとんど見られなくなります。研究チームは、野生のヒドラのほとんどは長くても数か月しか生きられないと考えています。大人になってからの命は、ふつう数週間ほどだろうというのです。

研究所では、食べ物がいつも同じだけあり、ヒドラを食べる動物もいません。今回の結果は、そうした守られた条件でのものです。また、研究チームが見られたのは8年分だけです。もっと長い年月がたってから老化が始まる可能性は、研究チーム自身も否定できないと書いています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

「老化はさけられない」という考えはどこから来たか

1950年代から60年代にかけて、イギリスのピーター・メダワーやアメリカのジョージ・ウィリアムズたちが、老化がなぜ起きるかを説明する理論を作りました。1966年には、イギリスのウィリアム・ハミルトンが、この考えを数式で示しました。おとなになって子を生みはじめたら、老化はさけられない、という主張です。

シャイブレさんたちは、この主張が今も疑われずに引用されていると指摘しています。ヒドラは、子を何度も生む動物なのに、少なくとも8年間は老化しませんでした。この結果から、研究チームは「老化はすべての動物にさけられない」という理論は成り立たない、と結論づけました。

なぜヒドラは老化しないのか

研究チームは、いくつかの理由を考えています。ヒドラの細胞の多くは、ずっとふえつづける幹細胞です。体の細胞は3〜4週間ですべて入れかわります。古い細胞にたまったごみやきずも、細胞ごと入れかわってしまいます。

もう一つは、ヒドラが芽でふえることです。人では、卵や精子になる細胞は、体のほかの細胞と分かれています。ヒドラでは、芽は体の細胞からそのまま作られます。体の細胞がいたむと、そのいたみが子どもに受けつがれてしまいます。だから体の細胞を守る力が、とても強く進化したのかもしれません。ただし研究チームは、これだけでは説明しきれないかもしれないとも書いています。

同じヒドラでも、老化する種類がいる

ヒドラのなかまには、老化を見せる種類もいます。学名をHydra oligactisというヒドラの、寒さに弱い系統です。このヒドラは、水温を下げると芽でふえるのをやめ、卵や精子を作りはじめます。

スイスのジュネーブ大学などのチームは2020年、この系統を調べました。卵や精子を作りはじめると、まず幹細胞が減っていきます。体の再生ができなくなり、動きもにぶくなり、3か月以内に死んでしまいました。寒さに強い系統では、このようなことは起きませんでした。

同じ2020年、アメリカのチームが、この系統で働く遺伝子を調べました。卵や精子を作りはじめると、細胞の老化にかかわる遺伝子が多く働くようになりました。一方で、幹細胞を保つ遺伝子の働きは弱まりました。チームは、老化は卵や精子を作るための体の作りかえにともなって起きるのかもしれない、と考えています。

この研究の工夫と限界

この研究の一番の工夫は、数と時間です。2256匹を8年間、毎日1匹ずつ見たからこそ、「死ぬ確率がほとんど変わらない」と言えました。一方で、結果は研究室の条件でのもので、野生のヒドラにそのままあてはまるとは限りません。

06まとめ

ドイツとアメリカの研究所で、2256匹のヒドラを8年間1匹ずつ記録しました。死ぬ確率は年をとっても上がらず、多くのグループで1年に約167匹に1匹のままでした。8割のヒドラは、芽を出すペースも変わりませんでした。

ただし、これは守られた研究室での結果です。野生のヒドラの多くは数週間で死にますし、もっと長い年月で老化が始まる可能性も残っています。寒さで卵や精子を作りはじめると、3か月以内に死んでしまう種類のヒドラもいます。

研究所の発表によると、2015年の時点で一番多く芽を出したヒドラは、341匹の子どもを残していました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ドイツ・ロストック

研究チーム
ドイツのマックス・プランク人口研究所のラルフ・シャイブレさんと、アメリカのポモナ大学などのチーム
調べた場所
ドイツ・ロストックとアメリカ・カリフォルニア州クレアモントの研究室
調べた動物
淡水にすむヒドラ2種(学名 Hydra magnipapillata と Hydra vulgaris)
調べ方
2256匹を1匹ずつ小さな容器で飼い、死んだかどうかと芽(子ども)の数を毎日記録した
分かったこと
死ぬ確率はとても低く、年齢で変わらなかった。8割のヒドラは子を生むペースも変わらなかった
まだ分からないこと
もっと長い年月がたったら老化が始まるのか。野生ではどうなのか
論文
PNAS(米国科学アカデミー紀要、2015年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

The Tiny Animal That Does Not Grow Old

As people get older, the chance of dying each year goes up. Scientists once thought this was true for all animals.

A hydra is a small animal that lives in fresh water. It is less than one centimeter long. Scientists in Germany and the United States kept 2,256 hydras in small cups, one in each cup. They checked every hydra every day for up to eight years.

The chance of dying did not go up with age. In most groups, only about one in 167 hydras died each year. Most hydras also made babies at the same speed, year after year.

But this happened in a safe lab with plenty of food. In the wild, most adult hydras probably live only a few weeks. Another kind of hydra gets old and dies quickly when the water becomes cold.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How long did the scientists check the hydras?研究者はどれくらいの期間ヒドラを調べましたか。

Q2. In most groups, how many hydras died each year?多くのグループで、1年に死んだヒドラはどれくらいでしたか。

Q3. How long do most adult hydras live in the wild?野生で、大人のヒドラの多くはどれくらい生きますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Schaible, R. et al. (2015) Constant mortality and fertility over age in Hydra. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1521002112
  2. 2Max Planck Institute for Demographic Research(2015)A hint of immortalitydemogr.mpg.de/en/news_press/news/news/a_hint_of_immortality_
  3. 3Tomczyk, S. et al. (2020) Deficient autophagy in epithelial stem cells drives aging in the freshwater cnidarian Hydra. Development 論文確認済みdoi:10.1242/dev.177840
  4. 4Sun, S. et al. (2020) Inducible aging in Hydra oligactis implicates sexual reproduction, loss of stem cells, and genome maintenance as major pathways. GeroScience 論文確認済みdoi:10.1007/s11357-020-00214-z

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい