バリ島のサルは観光客のメガネを奪ってエサと交換。大事な物ほどエサを多くもらうまで返さない
バリ島の寺院のサルは、観光客の物を奪ってエサと交換する。大人のサルは人が大事にする物をねらい、エサを多くもらうまで返さなかった。

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- 寺院のサルは、観光客の物を奪ってエサと交換する
- 子どもより大人のサルのほうが、奪うのも交換も上手
- 人が大事にする物ほど、エサを多くもらうまで返さない
人に話すなら
バリ島のお寺のサルって、観光客のメガネやスマホを取って、エサと交換するんだって。しかも大人のサルは、人が大事にする物ほど、エサを多くもらうまで返さないらしいよ。
読む前に予想しよう
バリ島の寺院のサルは、メガネよりからっぽの袋を好んで盗む
大人のサルは、人が取り返したがるメガネやスマホなどを選んで盗んでいた。
インドネシアのバリ島の南のはしに、海に面したウルワツ寺院があります。観光客が石のかべぞいを歩いていると、1匹のサルが近づき、かけていたサングラスをさっと取っていきます。少しすると寺院の係の人が来て、サルに食べ物をさし出します。サルは食べ物を受け取り、サングラスを手放します。
この寺院のカニクイザルは、観光客から物を奪い、エサと交換することで知られています。カナダのレスブリッジ大学のジャン=バティスト・ルカ(Jean-Baptiste Leca)さんたちは、この「盗みと交換」を1年間ビデオで記録しました。すると大人のサルは、交換を9割以上の確率で成功させていました。しかも、人が取り返したがる物ほど、多くのエサをもらうまで返しませんでした。
サルが物とエサを交換する力は、これまで主に研究室で調べられてきました。人が用意した食べられない小さな物を、サルにエサと交換させる実験です。ウルワツ寺院では、人に仕込まれたわけでもない野生のサルが、自分から物を奪って交換を始めます。研究室の外で、物の「値打ち」に合わせて動くサルの姿が、数字で確かめられたのです。
01バリ島では、ウルワツ寺院のサルだけが盗んで交換する習慣を続けている
ウルワツ寺院は、2015年に150万人の観光客が訪れた場所です。2016年4月には、寺院のまわりに333匹のカニクイザルがいて、5つの群れに分かれていました。サルには毎日、寺院の人たちが果物や野菜を与えています。
ルカさんたちのこれまでの研究で、この習慣のくわしい姿が分かっています。バリ島には、人の近くで暮らすサルの群れがほかにもあります。けれど、盗みと交換はウルワツ寺院のサルでしか見られませんでした。寺院では、名前の分かっているサルの約半分(49.3%)が盗みを、約3分の1(35.6%)が盗みと交換の両方をしていました。
この習慣は、少なくとも30年ほど前から、世代をこえて受けつがれていると考えられています。ただし、いつ、どの群れで始まったのかは分かっていません。
02研究チームは1年間、盗みと交換の場面をビデオで撮りつづけた
調査は2015年9月から2016年8月まで、合わせて273日行われました。2人の観察者が寺院を歩き、サルが観光客をじっと見ながら5メートル以内に近づくと、録画を始めました。サルは人になれているので、2〜5メートルの近さで撮ることができました。
ビデオからは、次のことを1秒単位で書き出しました。どのサルが、だれから、何を取ろうとしたか。成功したか。そのあと係の人が、どの食べ物を何個さし出したか。サルがどれを受け取り、どれを断ったか。食べ物は、生卵、果物を少し入れた小さな袋、クラッカーの3種類でした。
サルが食べ物を断るときは、手や腕で払いのけるしぐさをします。研究チームは、このしぐさも数えました。
03子どものサルは失敗が多く、大人ほど上手だった
研究チームは、サルを年齢で子ども・若者・大人の3つに分けて比べました。オスの場合、子どもは1〜4歳、若者は4〜6歳、大人は6歳より上です。メスはもっと早く大人になります。
盗みは、4つの段階がそろって初めて成功です。人をじっと見る。目立たないように近づく。物をつかんで取る。物を持ったまま離れる。子どものサルの成功率は39.1%でした。若者のサルは61.5%、大人のサルは68.8%でした。
交換にも段階があります。物を持ったまま、その場にとどまる。交換を始める。物をこわさずに返す。交換の成功率は、子どもが72.4%、若者が89.4%、大人が92.0%でした。
子どものサルは、交換でもあまり「ねばり」ませんでした。若者と大人には、子どもより多くの食べ物がさし出され、断った数も多くありました。研究チームは、このわざは子どもの時期(4歳ごろまで)に、自分で何度も試しながら少しずつ身につくと考えています。

04大人のサルは、人が取り返したがる物を選んで盗んでいた
サルが取った物は6種類に分けられました。からっぽの入れ物、髪かざりやキーホルダー、ぼうし、はき物、メガネ、そして電子機器や財布です。研究チームは、取られた物を係の人が取り返そうとした割合を調べました。からっぽの入れ物は8.4%、髪かざりなどは16.3%しか取り返そうとされません。メガネは90.6%、電子機器や財布は98.7%でした。
この割合をもとに、研究チームは物を「低い・中くらい・高い」の3つの値打ちに分けました。大人と若者のサルは、低い物より中くらいや高い物を多く選んでいました。1人の観光客が値打ちの違う物を2つ持っているときは、高いほうを選びました。子どものサルには、この差は見られませんでした。
では、高い物はただ取りやすいだけなのでしょうか。研究チームは、観光客500人が身につけていた物も数えました。はき物が一番多く、メガネは少なめでした。サルが選んだ物は、身のまわりにある数とも、取りやすさとも関係していませんでした。
研究チームは2019年に、実験でも確かめました。子ども・若者・大人を5匹ずつ選び、1.2メートル先の地面にお盆を置きます。お盆にはぼうしかはき物と、メガネかスマホを1つずつ並べ、どちらを先に取るかを見ました。1匹16回ずつ試すと、大人は80回中70回、若者は80回中68回、高い物を取りました。子どもは45回で、はっきりした差はありませんでした。
05メガネやスマホを持つと、多くのエサをもらうまで返さなかった
若者と大人のサルは、高い物を持っているときのほうが、多くの食べ物をさし出されるまで待ってから返しました。2個以上の食べ物をためこんでから返すことも、高い物のときのほうが多くありました。
大人のサルは、高い物を持っているとき、自分の好みでない食べ物を断ることが多くなりました。反対に、中くらいの物を持っているときは、好みでない食べ物でも受け取って返すことが多くありました。
ただし、予想どおりにならなかった点もあります。研究チームは、高い物のときほど「何個か断ってから別の種類を受け取る」と予想していました。この予想は、若者でも大人でも確かめられませんでした。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
研究室の交換実験と、寺院での交換はどこが違うのか
サルや類人猿に物とエサを交換させる研究は、これまで研究室で行われてきました。小さな札などの食べられない物を、人がエサと交換してくれることを覚えさせる方法です。この方法で、オマキザルやチンパンジーが、値打ちの低い札より高い札を選べることが分かっています。
ルカさんたちは、研究室の実験には弱点があると指摘しています。サルは仲間から離され、ほかに選べることが少なく、少ない数のサルしか調べられません。ウルワツ寺院では、たくさんの野生のサルが、自分で相手と物を選び、交換するかどうかも自分で決めます。人の経済にもっと近い場面で、サルの判断を調べられるのです。
なぜ「文化」と呼ばれるのか
ルカさんたちは、この習慣を「文化として受けつがれている」と考えています。理由は、ウルワツ寺院の群れだけに見られること、世代をこえて続いていること、仲間の影響を受けて広がることなどです。
2017年の論文では、2010年に4か月かけて、4つの群れで201回の盗みと交換を記録しました。観光客の多い場所で長く過ごす群れほど、盗みと交換が多い傾向がありました。2020年の論文では、仲間の盗みを見たサルが、そのすぐあとに自分も盗みをしやすくなることが示されました。見た盗みが多いほど、自分の盗みも増えていました。
反対意見と、まだ分からないこと
「サルが物の値打ちを分かっている」という言い方には、注意が必要です。この研究で使った値打ちは、人が取り返そうとした割合で決めたものです。サルは、メガネそのものの値段を知っているわけではありません。「この物を持つと、人がよく食べ物をくれる」と覚えた、と考えるほうが自然です。
また、子どもが下手なのは、経験が少ないからだけではありません。はいているサンダルを引っぱって取るには、力も必要です。研究チームも、体が育ちきっていないことが成功率に影響している可能性を認めています。さらに、この研究は同じサルが育っていく様子を何年も追ったものではありません。年齢の違うサルどうしを、同じ時期に比べた結果です。
2022年には、アメリカとインドネシアの研究者たちが、2つの群れの若いオス13匹を197時間観察した結果を出しました。176回の盗みの試みのうち、成功は92回で、交換まで進んだのは44回でした。群れの中での順位が高いオスほど盗みの効率がよい群れもあれば、そうでない群れもありました。だれが、なぜ盗みをするのかには、群れの中の関係もかかわっていそうだ、とこのチームは考えています。
06まとめ
ウルワツ寺院のカニクイザルは、観光客から物を奪い、エサと交換します。この習慣はバリ島ではこの寺院のサルにしか見られず、少なくとも30年ほど続いていると考えられています。
子どものサルは失敗が多く、大人になるほど上手になりました。大人のサルは、人が取り返したがる物を選んで奪い、そういう物を持っているときほど、多くのエサをもらうまで返しませんでした。ただし、サルが値打ちをどこまで分かっているのかは、まだはっきりしていません。
寺院のサルは、ほしくない食べ物をさし出されると、手や腕で払いのけるしぐさをして断ります。
研究カルテ
インドネシア・バリ島
- 研究チーム
- カナダのレスブリッジ大学のジャン=バティスト・ルカさんたちと、インドネシアのウダヤナ大学
- 調べた場所
- インドネシア・バリ島南部のウルワツ寺院
- 調べた動物
- 寺院のまわりで暮らす野生のカニクイザル(学名 Macaca fascicularis)
- 調べ方
- 1年間、盗みと交換の場面をビデオで記録。さらにお盆に2つの物を置き、どちらを取るか試した
- 分かったこと
- 年上ほど上手で、人が大事にする物ほど選んで盗み、多くのエサをもらうまで返さなかった
- まだ分からないこと
- この習慣がいつどう始まったのか、物の値打ちをどこまで分かっているのか
- 論文
- Philosophical Transactions of the Royal Society B(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
At Uluwatu Temple in Bali, Indonesia, monkeys take things from visitors. They take glasses, hats, shoes, and phones. Then temple workers give them food, and the monkeys give the things back.
Scientists from Canada and Indonesia filmed these trades for one year. They used video cameras and watched each trade very carefully. Young monkeys often failed. Adult monkeys were much better at taking things and trading them.
People almost always tried to get back glasses, phones, and wallets. Adult monkeys chose these things more often than empty bags. When they held a phone or glasses, they waited for more food before they gave it back. With a hat or a shoe, they more often took food they did not like.
In Bali, this habit is seen only at this temple. It has probably continued for at least thirty years. Monkeys that see a friend steal often try to steal soon after. Scientists think the monkeys learn it from each other.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What do the temple workers give the monkeys?寺院の係の人はサルに何を与えますか。
係の人が食べ物を与えると、サルは取った物を返します。
Q2. Which monkeys were better at trading?交換が上手だったのはどのサルですか。
子どもはよく失敗し、大人のほうがずっと上手でした。
Q3. What did monkeys do when they held a phone?スマホを持っているとき、サルはどうしましたか。
値打ちの高い物を持っているときは、多くの食べ物をもらうまで返しませんでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Leca, J.-B. et al. (2021) Acquisition of object-robbing and object/food-bartering behaviours: a culturally maintained token economy in free-ranging long-tailed macaques. Philosophical Transactions of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rstb.2019.0677
- 2Brotcorne, F. et al. (2017) Intergroup variation in robbing and bartering by long-tailed macaques at Uluwatu Temple (Bali, Indonesia). Primates 論文確認済みdoi:10.1007/s10329-017-0611-1
- 3Brotcorne, F. et al. (2020) Social influence on the expression of robbing and bartering behaviours in Balinese long-tailed macaques. Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-019-01335-5
- 4Peterson, J. V. et al. (2022) Cohort dominance rank and "robbing and bartering" among subadult male long-tailed macaques at Uluwatu, Bali. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-022-11776-7
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





