ニホンザルのハグは島で違う。金華山は体をゆらし、1300キロ離れた屋久島は毛をもむ

ニホンザルのメスは、仲間との緊張をやわらげるために抱き合うらしい。金華山では体をゆらし、屋久島では手で毛をもむ。研究チームは、この違いを文化と考えた。

No.181 9分で読めるえっ度 論文 2026年
屋久島の森の中で、2頭のおとなのニホンザルが地面に座り、1頭がもう1頭の体の横から両腕を回して抱きついている。抱きついた手は、相手の背中の毛をつかんでいる。

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  1. 野生のニホンザルのメスは、けんかのあとなどに抱き合う
  2. 抱き合い方が、金華山と屋久島ではっきり違っていた
  3. 遺伝や環境では説明しにくく、研究チームは「サルの文化」と考えた

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ニホンザルって、けんかのあとに抱き合うことがあるんだって。しかも宮城の金華山では体をゆらして、鹿児島の屋久島では手で相手の毛をもむらしいよ。

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ニホンザルの抱き合い方は、すんでいる地域によって違うことがある

2頭のニホンザルが、向かい合って座っています。多くは、おとなのメスどうしです。1頭が両腕を相手の体に回し、2頭は抱き合いました。唇を少し突き出して、小さく開け閉めしています。「グニュグニュグニュグニュ」と聞こえる声を出すこともあります。そして、抱き合ったまま、体を前後に大きくゆらしはじめました。これは宮城県の金華山で見られるサルの抱き合い方です。

同じニホンザルでも、鹿児島県の屋久島のサルは違う抱き合い方をします。横から抱きつくことが多く、体はゆらしません。そのかわり、相手の毛をつかんだ手のひらを、開いたり閉じたりします。京都大学の中川尚史さんたちは、屋久島の野生の群れのおとなのメスを合わせて約570時間追いかけ、こうした抱き合いを88回記録しました。

2つの島は、およそ1300キロ離れています。研究チームは、この違いを遺伝や環境では説明できないと考えました。そして2015年、野生のニホンザルで初めて見つかった、あいさつのような社会的な習慣、つまり文化の証拠として発表しました。ニホンザルの文化といえば、エサづけされたサルのイモ洗いが有名です。エサづけをしていない野生の群れで、しかも食べ物と関係のない行動に文化があるらしい、という報告でした。

01抱き合ったのは、相手に近づいたときや、けんかのあとだった

研究の舞台は、屋久島の北西の海岸に近い森です。調べたのは「E群」と呼ばれる野生の群れで、2005年には26頭、2006年には30頭いました。この群れは、人がエサを与えずに、観察に慣らしてありました。1頭ずつ見分けもついていました。

観察したのは、2005年の9月から12月と、2006年の10月から11月です。どちらも、サルの恋の季節にあたります。研究チームは、おとなのメスを1頭決めて追いかけ、その行動を記録しました。この方法で、メス6頭を順番に記録しました。

研究チームは「抱き合い」を、座った姿勢で、1頭が両腕で相手を包む行動と決めました。抱き合うときはいつも、唇を突き出して小さく開け閉めする表情がともないました。ときどき、声も出しました。

いつ抱き合うのでしょうか。おとなのメスどうしの65回を調べると、17%は毛づくろいが途中で止まった直後でした。28%は、けんかやいざこざの直後でした。52%は、けんかも毛づくろいもないまま、片方が近づいた直後でした。

ふだんよくいざこざを起こすペアほど、よく抱き合っていました。そして抱き合ったあとは、82%が毛づくろいに移りました。仲間どうしの緊張が高まりそうな場面で抱き合い、そのあと毛づくろいに移っていたのです。このことから研究チームは、抱き合いには緊張をやわらげる働きがあると考えました。

02屋久島のサルは横から抱きつき、手のひらで毛をもんだ

抱き合う形を記録できた82回のうち、向かい合って抱き合ったのは31回(38%)でした。いちばん多かったのは、相手の体の横から抱きつく形で、50回(61%)です。後ろから抱きついたのも1回ありました。

屋久島のサルは、抱き合っているあいだに、手のひらを開いたり閉じたりして相手の毛をもみました。体をゆらすことはありませんでした。

金華山のサルの記録は、帝京科学大学の下岡ゆき子さんと中川さんが2014年に発表していました。金華山の群れは、向かい合う形でしか抱き合いません。そして、抱き合ったまま体を前後にリズムよくゆらします。手で毛をもむことはしません。1回の抱き合いは平均17秒(4〜46秒)でした。屋久島では抱き合いの長さをはかっていませんが、金華山よりずっと短いと論文に書かれています。

抱き合う場面と、その後に毛づくろいに移る流れは、2つの島でほとんど同じでした。働きは同じなのに、やり方が違うのです。

左側では、向かい合って座った2頭のニホンザルが、腕を回し合って体を前後にゆらしている。右側では、1頭がもう1頭の横から抱きつき、手のひらを相手の毛の上で開いたり閉じたりしている。

03遺伝でも、すむ場所の違いでも説明しにくかった

ある群れだけの行動が「文化」だと言うには、遺伝や環境の違いでは説明できないことを示す必要があります。研究チームは、考えられる理由を1つずつ検討しました。

まず環境です。屋久島は年平均気温が約21度、雨は年に約2600ミリで、冬も葉の落ちない暖かい森です。金華山は約11度、雨は約1500ミリで、冬に葉の落ちる森です。屋久島のサルは、住んでいる緯度のわりに毛が長いことが知られています。ただし毛の長さは寒さへの備えで説明でき、抱き合い方の違いとは結びつかない、と研究チームは考えました。

次に遺伝です。屋久島のサルは「ヤクシマザル」という亜種に分けられています。けれど、遺伝子を調べた研究では、ほかの地域のニホンザルと分けるほどの違いは支持されていない、と論文は書いています。

さらに、同じ金華山の中にも、抱き合わない群れがありました。少なくとも6年間ある群れを観察した研究者は、その群れで抱き合いを一度も見ませんでした。この群れは、抱き合いをする群れから分かれた群れでした。同じ島の、もとは同じ群れのサルでも違うのなら、遺伝だけでは説明しにくいことになります。

エサづけされている嵐山(京都府)、勝山(岡山県)、高崎山(大分県)の群れでは、抱き合いが確認されませんでした。中川さんたちは以前の調査で、各地で1年以上サルを調べてきた研究者に、2種類の抱き合いの動画を見せて尋ねていました。どの群れでも、見たと答えた人はいませんでした。

04小豆島のサルでは、抱き合いは「群れの習慣」になっていなかった

2024年、福山大学の石塚真太郎さんが、香川県の小豆島のニホンザルについて報告しました。小豆島の群れは、エサづけされている群れです。

石塚さんは、おとなのオス3頭とメス14頭を1頭ずつ追いかけ、3か月間記録しました。抱き合いは全部で39回見られました。けれど、抱き合ったのはメス5頭だけでした。そのうち4頭は、おとなになったばかりの若いメスでした。

この行動が、仲間から仲間へ伝わって広まった証拠も見つかりませんでした。石塚さんは、小豆島では抱き合いが「文化」として群れに根づいていない、と結論しています。ただ、抱き合う前後には、毛づくろいや体を寄せ合う行動が多く見られました。緊張をやわらげる働きは、ここでも考えられています。

もう1つ、新しい報告があります。中川さんたちは、沖縄こどもの国で飼われているヤクシマザルの群れを観察しました。2023年と2024年の3月、合わせて6日間、38時間28分です。このサルたちも、横から抱きつき、手のひらを開け閉めして毛をもむ「屋久島型」の抱き合いをしていました。動物園で見られた屋久島型の抱き合いが、遺伝によるものか、群れの中で受けつがれたものかは、この報告からはまだ分かりません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ニホンザルは、動物の文化研究の出発点だった

動物にも文化があるのではないか、という考えは、日本のサル研究から大きく広まりました。1950年代、幸島(こうじま)で、エサとして与えたサツマイモを洗うサルが現れ、群れに広まりました。この発見は、動物の文化の研究の出発点とされています。

けれど、イモ洗いや石遊びなど、ニホンザルの有名な文化の多くは、エサづけされた群れで見つかったものです。エサづけされると、サルはエサ探しの時間が減ってひまになり、新しい行動が生まれやすいと考えられています。中川さんたちが、エサづけされていない野生の群れにこだわったのはそのためです。

一方、チンパンジーでは、1978年に社会的な習慣の文化が報告されていました。タンザニアのマハレのチンパンジーは、毛づくろいのときに相手と手をにぎり合います。170キロ北のゴンベのチンパンジーは、手の代わりに木の枝をにぎります。毛をかくときに指で「つつく」群れと「なでる」群れがある、という報告もあります。

掲載誌の上で、5人の研究者が意見を述べた

この論文がのった雑誌では、論文のあとにほかの研究者のコメントが並び、最後に著者が答えます。この論文には5人がコメントしました。

イギリスのケンブリッジ大学のウィリアム・マックグルー(William C. McGrew)さんは、抱き合いが緊張をやわらげるという説には、この研究の中にデータがないと指摘しました。確かめるには、ストレスにかかわるホルモンや、体をかく回数などを測る必要があると書いています。さらに、抱き合いの回数には大きなかたよりがありました。2組のペアだけで、記録された抱き合いの43%をしめていたのです。

フランス国立科学研究センターのベルナール・ティエリー(Bernard Thierry)さんは、別の点を心配しました。抱き合いが恋の季節に多いなら、「抱き合わない」と報告された群れは、季節を合わせて観察されたのか、という点です。また、一部のサルが始めた一時的なはやりと、何世代も続く伝統とを区別するべきだとも書きました。

京都大学の中村美知夫さんは、別のなぞを指摘しました。向かい合って抱き合う行動は、ほかの種類のマカク属のサルにも広く見られます。それなら、もとは祖先のサルが持っていた行動を、一部の群れが失ったと考えるほうが自然かもしれない、というのです。

著者たちの答え

中川さんたちは、緊張をやわらげる働きについては、直接の証拠が十分でないことを認めました。そのうえで、抱き合いは金華山では少なくとも29年、屋久島では少なくとも9年続いており、一時的なはやりではなく伝統だと答えています。

調べたのがメスだけで、恋の季節だけだったという指摘もありました。これには、金華山では恋の季節以外にもメスが抱き合っていたことを挙げました。今後は、すべての年齢と性別のサルを、1年を通して、多くの地域で調べる必要がある、と書いています。

「文化」と言うための方法と、その限界

野生の動物で、行動が仲間から学ばれて伝わる様子を直接見るのは難しいことです。そこで、遺伝と環境で説明できない違いを「文化」とみなす方法が、15年以上使われてきました。この方法は、遺伝や環境の影響を完全に取りのぞくのが難しい、という批判も受けています。

食べ物を取る方法なら、その土地の環境に合わせた結果だと言われやすくなります。抱き合い方のような社会的な行動は、どちらの形でも役目を果たせるので、環境では説明しにくくなります。社会的な習慣が文化の研究で大事にされるのはそのためです。

05まとめ

屋久島の野生のニホンザルのメスは、相手に近づいたときや、けんかのあとなどに、よく抱き合っていました。横から抱きつき、手のひらで相手の毛をもむのが屋久島流です。金華山のサルは、向かい合って体を前後にゆらします。研究チームは、この違いを遺伝や環境で説明できない「サルの文化」と考えました。

ただし、抱き合いが本当に緊張をやわらげるのかは、まだ直接確かめられていません。小豆島では、抱き合うのは一部の若いメスだけで、群れの習慣にはなっていませんでした。

屋久島では1975年からサルの調査が続いていましたが、2004年3月に研究チームの西川真理さんが気づくまで、この抱き合いを報告した人はいませんでした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本・鹿児島県屋久島

研究チーム
京都大学の中川尚史さんたちのチーム
調べた場所
鹿児島県の屋久島の北西部の海岸に近い森(比べた先は宮城県の金華山)
調べた動物
野生のニホンザル(屋久島にすむ亜種ヤクシマザル、学名 Macaca fuscata yakui)
調べ方
1つの群れのおとなのメスを1頭ずつ追いかけ、抱き合う場面の前後と、抱き合い方を記録した
分かったこと
屋久島のサルは横から抱きつき、手で相手の毛をもむ。金華山のサルは向き合って体をゆらす
まだ分からないこと
抱き合い方がどうやって群れに広まったのか。本当に緊張をやわらげる働きがあるのか
論文
Current Anthropology(2015年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Monkeys Hug in Different Ways on Different Islands

Japanese monkeys sometimes hug each other. Most of the time, two adult females sit down and put their arms around each other. They often hug when one monkey comes close, or after a fight.

On Kinkazan Island in Miyagi, the monkeys face each other. They rock their bodies back and forth. On Yakushima Island in Kagoshima, the monkeys often hug from the side. They open and close their hands on the other monkey's fur.

Scientists from Kyoto University watched the Yakushima monkeys for many hours. They think genes or the place they live cannot explain the difference. It may be a kind of monkey culture.

Other scientists asked hard questions. Does hugging really make the monkeys calm? On another island, Shodoshima, only five females hugged. There, hugging was not a habit of the whole group.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What do the monkeys on Kinkazan Island do when they hug?金華山のサルは、抱き合うときに何をしますか。

Q2. How do the Yakushima monkeys often hug?屋久島のサルは、どのように抱き合うことが多いですか。

Q3. What did a study find on Shodoshima Island?小豆島の研究では何が分かりましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Nakagawa, N. et al. (2015) Embracing in a Wild Group of Yakushima Macaques (Macaca fuscata yakui) as an Example of Social Customs. Current Anthropology 論文確認済みdoi:10.1086/679448
  2. 2京都大学(2015)ニホンザル初の社会的慣習を発見(プレスリリース)kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2015-02-10
  3. 3Ishizuka, S. (2024) Embracing behavior of Japanese macaques on Shodoshima Island. acta ethologica 論文確認済みdoi:10.1007/s10211-024-00453-9
  4. 4Nakagawa, N., Nakamura, T. & Onaga, H. (2026) Frequently occurrence of some of infrequently observed behaviors, including embracing in wild/provisioned groups of Japanese macaques (Macaca fuscata) in an enclosure group of Yakushima macaques (M. fuscata yakuii) at Okinawa Zoo and Museum. Primate Research 論文確認済みdoi:10.2354/psj.41.018

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい