魚は無口ではなかった。音を出す力は、別々の魚のなかまで約33回も生まれたらしい
魚の470の科のうち175の科に、音を出す証拠があった。音を出す力は、魚の中で約33回も別々に生まれていたらしい。

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- 魚の470の科のうち175の科で、音を出す証拠が見つかった
- 浮き袋をふるわせたり、骨をこすったりして音を出す
- 音を出す力は、魚の中で約33回も別々に生まれたらしい
人に話すなら
魚って静かなイメージだけど、音を出す証拠のある科には、魚の種類の3分の2近くが入るんだって。しかも音を出す力は30回以上も別々に生まれたらしいよ。
読む前に予想しよう
音を出す魚は、ごく一部の変わった種類だけである
音を出す証拠のある科には、魚の種類の3分の2近くが入っていた。
鳥はさえずり、カエルは鳴き、イヌはほえます。では、魚はどうでしょう。多くの人は、魚は静かな生き物だと思っています。けれど、魚が音を出すことは、古代ギリシャのアリストテレスや、19世紀のダーウィンも書き残していました。
2022年、アメリカのコーネル大学のアーロン・ライス(Aaron N. Rice)さんたちが、魚の音を大がかりに調べた結果を発表しました。ひれにすじのある、いわゆるふつうの魚の470の科を調べると、175の科に音を出す証拠がありました。音を出す証拠のある科には、魚の種類の3分の2近くが入っていました。
さらに、音を出す力は、魚の長い進化の中で約33回も別々に生まれていた、と計算されました。魚の音は、これまで「珍しいもの」として、動物の声の進化の話からはずされがちでした。この研究は、その見方を変えようとしています。
01魚の「音を出す証拠」を、科ごとに集めた
ライスさんたちが調べたのは、条鰭類(じょうきるい)と呼ばれる魚です。ひれが細い骨のすじで支えられている魚で、ナマズ、タラ、ハゼなど、私たちが思いうかべる魚のほとんどが入ります。今いる種類は3万4000種をこえ、背骨のある動物の種類の半分以上をしめます。
これだけ多いと、1種ずつ調べるのは無理です。そこで研究チームは、「科」ごとに調べることにしました。科は、近い種類をまとめたグループです。
研究チームは、論文や本、学位論文など141本の文献から、音を出す証拠を集めました。証拠は3種類に分けました。1つ目は、実際に録音された音のデータです。2つ目は、音を出すための体のつくりです。3つ目は、音について文章で書かれた記録です。
集めた証拠は、魚の系統樹に並べました。系統樹は、どの魚とどの魚が近い親せきかを、木の枝分かれの形で表した図です。研究チームは、470の科が並んだ系統樹を使いました。証拠が見つからない科は、念のため「音を出さない」として扱いました。
02470の科のうち175の科に、音を出す証拠があった
調べた470の科のうち、175の科で音を出す証拠が見つかりました。内訳は、録音で確かめられた科が52、体のつくりから分かった科が26、両方がそろった科が66、文章の記録だけの科が31でした。
論文によると、調べられた種の多くが音を出すと分かっている科もあります。ガマアンコウ、ニベ、スズメダイ、チョウチョウウオ、チョウザメ、ハゼ、イットウダイ、タラなどのなかまです。研究チームは、こうした例をもとに、音を出す力は科の中で共通していると考えて計算しました。
魚の音は、仲間とのやりとりに使われます。論文は、子孫を残すための行動、なわばりやエサ場を守ること、群れでまとまること、相手がだれかを見分けること、敵から逃げることなどの場面を挙げています。
03浮き袋をふるわせる魚、骨や歯をこすり合わせる魚
魚は、体のいろいろな部分を使って音を出します。研究チームは、音を出すしくみを3つに分けました。
いちばん多いのは、浮き袋をふるわせるやり方です。浮き袋は、魚の体の中にある空気の袋です。ガマアンコウのなかまは、浮き袋のかべに直接ついた筋肉を縮めて音を出します。ナマズのなかまには、ばねのようなしくみを使って、間接的に浮き袋をふるわせるものもいます。要旨によると、浮き袋をふるわせる筋肉は60の科で見つかりました。
2つ目は、骨や歯をこすり合わせるやり方です。クマノミのなかまは、あごや、のどの奥の歯を動かして音を出します。ナマズのなかまはひれのとげ、カジカのなかまは胸びれのつけ根の骨を使います。このやり方は39の科で見つかりました。
3つ目は、浮き袋以外の、体の大きな部分や筋肉をふるわせるやり方です。
1つ目と2つ目の両方のやり方を使う種がいる科も、18ありました。そのうち13はナマズのなかまでした。

04音を出す力は、約33回も別々に生まれたらしい
研究チームは、系統樹をもとに「その科の祖先は音を出していたか」を確率で計算しました。同じ計算を1000回くり返しています。
条鰭類全体の祖先が音を出していた確率は、32.3%にとどまりました。つまり、すべての魚の祖先が音を出していて、それが今の魚に受けつがれた、というわけではなさそうです。
一方で、もっと小さなグループでは、高い確率が出ました。ナマズの一部のグループでは93.9%、カジカやアイナメのなかまをふくむグループでは97.8%です。こうした「祖先から音を出していた」と考えられるグループが、系統樹のあちこちに約33個ありました。研究チームは、音を出す力が魚の中で約33回も別々に生まれたらしい、と書いています。
いつごろ生まれたのでしょうか。音を出すチョウザメのなかまの科は、約1億5500万年前に生まれたと考えられています。陸の動物で声のやりとりが生まれたのは約1億〜2億年前と計算されており、魚の音も、それと同じくらい古いらしいと研究チームは書いています。
音を出す力を、あとから失ったらしい魚もいます。タラのなかまは、祖先が浮き袋の筋肉で音を出していたと考えられています。けれど、その筋肉が小さくなり、音を出さない種もいるそうです。
05「この魚は音を出さない」と決めるのは難しい
この研究には、研究チーム自身が認める大きな弱点があります。証拠がないことは、音を出さない証拠にはならない、という点です。録音を試みて「音を出さなかった」と報告した研究は、とても少ないのです。
論文はその例を挙げています。メバルのなかまは、1970年の本では音を出さない魚に分けられていました。ところが2009年に、録音で音を出すことが確かめられました。
2023年には、カナダのビクトリア大学などのチームが、野生の魚の音を調べる装置を報告しました。水中マイクを何本も並べ、ビデオカメラと組み合わせます。音がどこから出たかを計算し、映像と重ねて、どの魚の音かを決めるのです。この装置で、メバルのなかま2種とアイナメのなかま1種の音を、初めて確かめました。論文は、水そうの中では音を出さない魚が多いことも書いています。
2022年には、別のチームが、1874年から2020年までの834本の文献を調べました。音を出すことが確かめられた魚は、133の科の989種でした。そして、魚の種の96%は、音を出すかどうかの研究がまだ発表されていない、と書いています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
魚の音の研究は、長いあいだ「わき役」だった
魚の音は、昔から知られていました。論文は、1874年の研究や、ダーウィン、アリストテレスの記述を挙げています。1938年には、魚の聞こえ方を研究したカール・フォン・フリッシュが、魚の言葉について、これから分かることがたくさんある、と書きました。
それでも魚の音は、珍しいものと思われがちでした。研究が進んだのは、録音と分析の技術がよくなり、魚どうしの親せき関係もくわしく分かってきてからです。ライスさんたちの研究は、ばらばらに報告されてきた魚の音を、これまでで最も大がかりに系統樹の上にまとめた試みでした。
「何度も別々に生まれた」説と「1回だけ生まれた」説
陸の動物の声についても、似た議論があります。2020年、アメリカのアリゾナ大学のジョン・ウィーンズ(John J. Wiens)さんたちは、陸の背骨のある動物を調べました。そして、声のやりとりは大きなグループごとに別々に生まれ、その多くは約1億〜2億年前だったと計算しました。声のやりとりが生まれたことと、夜に活動することに関係がある、という結果も出しています。
これに対し2022年、スイスのチューリッヒ大学のチームは、声を出さないと思われていたカメやハイギョなど53種を録音しました。そして約1800種のデータから、声のやりとりは約4億700万年前の共通の祖先までさかのぼる、という逆の結論を出しました。この研究が対象にしたのは、ハイギョと陸の動物をふくむグループで、条鰭類は入っていません。
このチームは、声のデータが足りない種があると、こうした計算がゆがみやすいと指摘しています。そこで、声を出さないと思われていた種を自分たちで録音して、データを補いました。ライスさんたちの魚の研究も、データの足りない科が多いという同じ弱点を抱えています。
計算の確かさを、わざと証拠を崩して試した
ライスさんたちは、自分たちの結果がどれくらい確かかを試しています。証拠のある科やない科の一部を、わざと入れかえて計算し直したのです。入れかえる割合を2%から12%まで変え、それぞれ1000回計算しました。それでも、祖先が音を出していたと考えられるグループの結果は、大きく変わりませんでした。
ただし、科の中で音を出す力が共通している、という前提そのものは確かではありません。論文の中でも、音を出す証拠のある科に入る種の割合は、要旨では「3分の2近く」、考察では「85%近く」と2通り書かれています。数字の細かい部分は、これからのデータで変わるかもしれません。研究チームも、音を出す魚はこれからもっと見つかるだろうと書いています。
06まとめ
アメリカのコーネル大学のチームが魚の470の科を調べると、175の科に音を出す証拠がありました。音を出す証拠のある科には、魚の種類の3分の2近くが入っていました。浮き袋をふるわせる、骨や歯をこすり合わせるなど、やり方もいろいろです。音を出す力は、魚の中で約33回も別々に生まれたらしいと計算されました。
ただし、証拠のない科が本当に音を出さないのかは分かりません。音を出すかどうかが調べられた魚は、まだ全体のほんの一部です。
食卓でおなじみのタラのなかまも、祖先は浮き袋の筋肉を使って音を出していたと考えられています。
研究カルテ
アメリカ・ニューヨーク州イサカ
- 研究チーム
- アメリカのコーネル大学のアーロン・ライス(Aaron N. Rice)さんたちのチーム
- 調べた場所
- アメリカ・ニューヨーク州のコーネル大学(文献とデータの分析)
- 調べた動物
- ひれにすじのある魚(条鰭類)の470の科
- 調べ方
- 141本の文献から音を出す証拠を集め、魚の系統樹に並べて、音を出す力がいつどこで生まれたかを計算した
- 分かったこと
- 175の科に音を出す証拠があり、音を出す力は約33回も別々に生まれていたらしい
- まだ分からないこと
- 証拠がない科が本当に音を出さないのか。ほとんどの魚の種類は、まだ調べられていない
- 論文
- Ichthyology & Herpetology(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Many people think fish are quiet animals. But scientists at Cornell University in the United States studied 470 families of fish. They found that 175 families had signs of making sounds.
How do fish make sounds? Many fish shake a bag of air inside their body. Some fish rub their bones or teeth together. Fish use these sounds to find mates and protect their homes.
The scientists put their data on a family tree of fish. They think sound making started about 33 separate times. Scientists think one sound-making family, the sturgeons, began about 155 million years ago.
There is still a lot to learn. Another study says that no one has checked 96 percent of fish species for sounds. Some fish make no sound in a tank but call in the wild.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many families of fish had signs of making sounds?音を出すしるしが見つかった魚の科はいくつでしたか。
調べた470の科のうち、175の科に音を出す証拠がありました。
Q2. What do many fish shake to make sounds?多くの魚は、音を出すために何をふるわせますか。
いちばん多いのは、浮き袋をふるわせるやり方でした。
Q3. What is true about fish in a tank?水そうの魚について正しいのはどれですか。
2023年の研究は、水そうの中では音を出さない魚が多いと書いています。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Rice, A. N. et al. (2022) Evolutionary Patterns in Sound Production across Fishes. Ichthyology & Herpetology 論文確認済みdoi:10.1643/i2020172
- 2Looby, A. et al. (2022) A quantitative inventory of global soniferous fish diversity. Reviews in Fish Biology and Fisheries 論文確認済みdoi:10.1007/s11160-022-09702-1
- 3Mouy, X. et al. (2023) Identification of fish sounds in the wild using a set of portable audio-video arrays. Methods in Ecology and Evolution 論文確認済みdoi:10.1111/2041-210x.14095
- 4Chen, Z. & Wiens, J. J. (2020) The origins of acoustic communication in vertebrates. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-020-14356-3
- 5Jorgewich-Cohen, G. et al. (2022) Common evolutionary origin of acoustic communication in choanate vertebrates. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-022-33741-8
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





