鳴かないと思われていたカメ50種が、マイクを向けるとちゃんと声を出していた
カメ50種など53種を録音すると、全種が何種類もの音を出していた。声で伝え合う力は約4億年前の祖先までさかのぼる可能性がある。

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- カメ50種などを録音すると、どの種も何種類もの音を出していた
- 声で伝え合う力は、約4億年前の祖先までさかのぼるかもしれない
- ただし、その音で本当に会話しているかはまだ確かめられていない
人に話すなら
カメって鳴かないと思ってたけど、水の中にマイクを入れて録音したら、50種ぜんぶが声を出してたんだって。声のはじまりは4億年前かもしれないらしいよ。
読む前に予想しよう
カメは声をまったく出さない動物だ
カメ50種を録音すると、どの種も何種類もの音を出していた。
カメの鳴き声を聞いたことはありますか。ペットのカメを何年も飼っている人でも、ないと答えるかもしれません。カメは長いあいだ、声をほとんど使わない動物だと考えられてきました。
ところが2022年、スイスのチューリッヒ大学の研究チームが、カメ50種を含む53種の動物にマイクを向けました。すると、録音した53種のすべてが、何種類もの音を出していました。さらに約1800種の動物を比べた計算から、声で伝え合う力は約4億700万年前の祖先までさかのぼる、という結論を出しました。
それまでは、声は鳥やカエルや哺乳類で、それぞれ別々に生まれたという考えが有力でした。カメのような「無口な動物」のデータが足りなかったからです。研究でほとんど注目されてこなかった動物の声が、声の歴史の見方を変える結果につながりました。
01カメは「声を出さない動物」だと考えられてきた
声を出す動物と聞いて、多くの人が思いうかべるのは鳥・カエル・イヌ・ネコでしょう。いっぽうでカメは、声を使わないグループだと思われてきました。ニュージーランドだけにすむムカシトカゲや、足のないアシナシイモリ、肺で息をする魚のハイギョも同じです。
論文の著者たちは、思いこみの理由を「データの不足」だと指摘しています。声を出すという証拠が見つかっていないことが、声を出さない証拠のように扱われることがあった、というのです。録音していないから声がない、とは本当は言えません。
2020年には、アメリカのアリゾナ大学のジョン・ウィーンズ(John J. Wiens)さんたちが、陸の脊椎動物1799種を比べる研究を出しています。この研究では、声で伝え合うカメは14の科のうち2つの科だけでした。そして声で伝え合う力は、大きなグループごとに別々に生まれた、という結論でした。
ただし、手がかりはありました。南米のアマゾン川にすむヨコクビガメの仲間(学名 Podocnemis expansa)では、2013年に声の記録が報告されています。研究チームは野外と飼育下で2122回の音を記録し、11種類に分けました。卵の中の子ガメも音を出していました。川では、子ガメの音に母ガメが近づき、応えるように音を出す様子も記録されました。
02プールに水中マイクを沈め、1種につき24時間以上録音した
第一著者のガブリエル・ジョルジェウィッチ=コーエン(Gabriel Jorgewich-Cohen)さんは、ブラジル出身の生物学者です。大学の記事によると、もともと自分でカメを飼っていました。陸のカメが交尾のときに音を出す動画や、アマゾンの水ガメが卵の中から音を出すという研究も知っていました。
陸ガメと水ガメは、近い親戚ではありません。遠い親戚どうしがどちらも音を出すなら、ほかのカメはどうなのか。ジョルジェウィッチ=コーエンさんはそう考えて、音響の技術者に水中マイクを作ってもらいました。ヨーロッパ各地の動物園や、アマゾン地域を回って録音を集めました。
録音のやり方は、こうです。
- 動物を1種ずつプラスチックのプールに入れる。ほかの動物の音がまざらないようにするためです。
- 水の中の音は、ブラジルのサンパウロ大学で開発された水中用の録音機で録る。空気中の音は、別の録音機で録る。
- 1種につき少なくとも24時間、昼も夜も録り続ける。
- できるだけオスとメス、いろいろな年齢の個体を録る。
- 動物を入れないときの音も録っておき、機械や水の雑音と区別する。
録った音は、音の高さや長さを目で見られる図にして調べました。数えたのは、肺から出る空気で出す音だけです。うろこをこする音や尾を鳴らす音は、声とは別のものとして外しました。ヘビなどが身を守るときに出す「シャーッ」という音も、仲間どうしの会話とは言いにくいので外しています。
03録音した53種のすべてが、何種類もの音を出していた
録音した53種のうち、50種がカメでした。今いるカメの属の54%以上、種の数でいえば14%以上にあたります。残りの3種は、ムカシトカゲ、水の中にすむアシナシイモリ1種、そして南米のハイギョでした。
結果は、53種すべてが音を出していた、というものでした。しかも1種類の音だけではありません。どの種も、いくつもの種類の音を組み合わせて出していました。
著者たちは、これまでの論文も調べ直しました。「声を出さない」と思われがちなグループで、すでに声の報告がある種は106種ありました。カメでは、すべての科で声の報告が見つかりました。15種類以上の鳴き声を使い分け、子育てにも声を使うカメもいます。
041800種の家系図から、声のはじまりを4億年前までたどった
次にチームは、声がいつ生まれたのかを計算しました。使ったのは、動物の家系図(系統樹)です。家系図の枝の先にいる今の動物に、「声で伝え合う」「伝え合わない」の印をつけます。そこから、枝分かれのもとにいた祖先がどうだったかを、確率で計算します。
家系図には、ウィーンズさんたちが使った1799種のデータを使いました。そこに今回の録音と論文調べの結果を書きこみ、南米のハイギョも加えました。対象は、ハイギョと、陸にすむ脊椎動物(両生類・爬虫類・鳥・哺乳類)をまとめたグループです。
計算の結果、声で伝え合う力は、このグループの共通の祖先にすでにあったと推定されました。その祖先が生きていたのは、約4億700万年前です。計算の答えは、声はカエルや鳥や哺乳類でそれぞれ別々に生まれたのではない、というものでした。1つの起源から受けつがれてきた、と考えられるのです。
結果を大きく変えたのは、ほんの少しのデータでした。ウィーンズさんたちの分析に、カメ12種とムカシトカゲとハイギョの計14種を加えただけで、結論が逆になったと論文は書いています。

05「音を出す」ことと「声で話す」ことは、まだ同じとは言えない
ただし、この研究をそのまま信じるには、気をつける点があります。
1つめは、音に意味があるかを確かめていないことです。著者たちは、何種類もの音を使い分けていれば、仲間に何かを伝えているはずだ、と考えて数えました。しかし録音した音を仲間に聞かせて、相手がどう反応するかを調べたわけではありません。論文も、音の測定は「最初の記録」にとどめた、と書いています。
2つめは、計算の結果が、データしだいで大きく動くことです。たった14種で結論が逆になったということは、この先のデータでまた変わるかもしれない、ということでもあります。今回「声がない」とした種の多くも、実は「調べた記録がない」だけでした。
3つめは、カメがいつも声を出すとは限らないことです。同じチームは2024年、6種のカメの卵のあいだに小さなマイクを置き、19の巣で合計147.8時間の音を録りました。卵の中から声が聞こえたのは、6種のうち2種だけでした。残りの4種では、声は録れませんでした。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
声の材料は、どの動物も「肺から出る空気」
鳥は、のどの奥の「鳴管」という特別な器官で歌います。人やイヌは、のどの「喉頭」で声を出します。鳴管と喉頭は、体の中でもとになる組織が違います。それでも論文は、どちらも肺から送り出す空気で音を出す点は同じだと指摘しています。例外は、肺をもたないサンショウウオの仲間(学名 Plethodontidae)です。
さらに論文によると、声を出すための筋肉を動かす神経は、どの脊椎動物でも脳の後ろのほう(後脳)の同じあたりにあります。体の作りはばらばらでも、声を出すしくみの根っこは共通かもしれない、というのが著者たちの考えです。
研究の歴史:「別々に生まれた」説と「1つの起源」説
2020年のウィーンズさんたちの研究は、声の起源と「夜に活動すること」の関係を示しました。論文によると、目で見る合図は暗やみでは届きにくいのに、音の合図は夜でも届きます。カエルやヤモリや哺乳類の祖先は夜型だったと考えられています。この研究では、声は大きなグループごとに別々に、その多くは約1億〜2億年前に生まれたと計算されました。
2022年の研究は、カメなどのデータを増やして、逆の答えを出しました。どちらの研究も、家系図から祖先の姿を推測する方法を使っています。2022年の著者たちは、前の研究と答えが分かれた大きな理由は、大事な動物のデータが足りなかったことだと述べています。
まだ分からないこと:魚の声とはつながっているのか
コイやタイのような、ひれにすじのある魚(条鰭類)にも、音を出す種がたくさんいます。ただし論文によると、魚の音は浮き袋をふるわせるものが多く、30回以上も別々に生まれたと考えられています。
一方で、肺と浮き袋は同じ起源ではないかという説があります。もしそうなら、声のはじまりは4億700万年前よりもっと古いかもしれません。論文はこの可能性を否定できないとしていますが、今の化石やデータでは確かめられないとも書いています。
飼育下の録音で分かること、分からないこと
今回の録音は、すべて飼育されている動物で行われました。プールに1匹ずつ入れたのは、どの音がどの動物のものかをはっきりさせるためです。いっぽうで、野生の川や海で、どんな相手に向けて音を出しているのかまでは、この方法では確かめにくいのです。
カメだけの家系図で計算すると、イシガメ科の祖先だけは「声なし」と出ました。著者たちは、これはイシガメ科のデータが少なかったせいだろうと見ています。この科には絶滅のおそれがあって近づくのが難しい種が多い、と論文は書いています。データの空白が、そのまま「声がない」という答えになってしまう。この研究全体の教訓が、ここにも表れています。
06まとめ
カメ、ムカシトカゲ、アシナシイモリ、ハイギョは、声を出さない動物だと思われてきました。ところがマイクを向けると、録音した53種のすべてが何種類もの音を出していました。
この記録を加えて約1800種の家系図を計算し直すと、声で伝え合う力は約4億700万年前の祖先までさかのぼる、という答えになりました。ただし、カメがその音で仲間と会話しているかは、まだ確かめられていません。
ペットのカメがいる人は、水そうの近くで静かに耳をすませてみてください。研究者が録音したカメ50種は、1種の例外もなく音を出していたのです。
研究カルテ
スイス(チューリッヒ大学)
- 研究チーム
- スイスのチューリッヒ大学などのチーム(第一著者ガブリエル・ジョルジェウィッチ=コーエン)
- 調べた場所
- ヨーロッパの動物園やカメの保護施設、ブラジルのアマゾン地域など(飼育されている動物)
- 調べた動物
- カメ50種、ムカシトカゲ(Sphenodon punctatus)、アシナシイモリ1種、南米のハイギョ(Lepidosiren paradoxa)
- 調べ方
- 1種ずつプールに入れ、水中マイクなどで24時間以上録音。さらに1800種の家系図で声の起源を計算した
- 分かったこと
- 録音した53種すべてが何種類もの音を出した。声で伝え合う力は約4億700万年前の祖先までさかのぼると推定された
- まだ分からないこと
- その音を仲間との会話に使っているか。魚の声とも起源が同じなのか
- 論文
- Nature Communications(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Many people think turtles never make sounds. Scientists thought so too for a long time. But a team in Switzerland decided to listen carefully.
The team put each animal in a plastic pool. They used a special microphone that works under water. They recorded each species for at least 24 hours, day and night.
They recorded 53 species, and 50 of them were turtles. Every species made several kinds of sounds. Some baby turtles even make sounds inside their eggs. Then the team compared about 1,800 kinds of animals on a family tree. They found that the ability to talk with sounds may be about 407 million years old.
Still, we do not know if turtles use these sounds to talk to each other. Next time you see a pet turtle, try to listen quietly.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where did the team put each animal when they recorded it?チームは録音するとき、動物をどこに入れましたか。
ほかの音がまざらないように、動物を1匹ずつプラスチックのプールに入れて録音しました。
Q2. How many turtle species did the team record?チームは何種のカメを録音しましたか。
録音した53種のうち、50種がカメでした。
Q3. What do we still not know?まだ分かっていないことは何ですか。
音を出すことは分かりましたが、その音で仲間と伝え合っているかはまだ確かめられていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Jorgewich-Cohen, G. et al. (2022) Common evolutionary origin of acoustic communication in choanate vertebrates. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-022-33741-8
- 2University of Zurich(2022)Vocal Communication Originated over 400 Million Years Agonews.uzh.ch/en/articles/media/2022/Acoustic-Communication.ht
- 3University of Zurich(2024)Giving Turtles a Voicenews.uzh.ch/en/articles/news/2024/prix-schlaefli.html
- 4Chen, Z. & Wiens, J. J. (2020) The origins of acoustic communication in vertebrates. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-020-14356-3
- 5Ferrara, C. R. et al. (2013) Turtle vocalizations as the first evidence of posthatching parental care in chelonians. Journal of Comparative Psychology 論文確認済みdoi:10.1037/a0029656
- 6Jorgewich-Cohen, G. et al. (2024) Prehatch Calls and Coordinated Birth in Turtles. Ecology and Evolution 論文確認済みdoi:10.1002/ece3.70410
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





