ハトが乳がんの顕微鏡画像で、がんかどうかを見分けた。初めて見る画像でも85%正解

エサで訓練したハトは、乳がんの組織の画像で良性と悪性を見分け、初めて見る画像でも85%正解した。ただし難しい「しこり」の判定は覚えられなかった。

No.062 8分で読めるえっ度 論文 2026年
実験用の小さな箱の中で、灰色のハトが光る画面に顔を近づけ、画面に映ったピンクと紫の細胞の画像をくちばしでつついている。

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  1. ハトは乳がんの組織の画像で、良性と悪性を見分けられるようになった
  2. 初めて見る画像でも、85%の割合で正しく答えた
  3. 医師でも難しい「しこり」の判定は、丸暗記しかできなかった

人に話すなら

ハトに乳がんの顕微鏡写真を見せて、正しいボタンをつついたらエサ、っていう訓練をしたんだって。2週間ほどで85%当てるようになって、初めて見る写真でも当てたらしいよ。

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ハトは初めて見る乳がんの組織の画像でも、良性か悪性かを当てられた

がんかどうかを最後に決めるのは、多くの場合、病理医という医師です。体から取った組織をうすく切って色をつけ、顕微鏡で細胞の形や並び方を見ます。この「見る目」を身につけるには、何年もの訓練が必要だとされています。

2015年、アメリカの研究チームが、この仕事をハトに教えてみました。正しいボタンをつつくとエサがもらえるしくみで、乳がんの組織の画像を見せたのです。ハトは2週間ほどで、良性(がんではない)と悪性(がん)を見分けるようになりました。初めて見る画像でも、平均85%を正しく答えました。

ハトにがんの診断をさせたいわけではありません。研究チームのねらいは、新しい医療画像の機械やソフトを試すときに、医師の代わりに画像を見て答える「テスト役」を見つけることでした。そして実験の最後には、ハトにはどうしてもできない課題も見つかりました。その課題は、人間の専門家にとっても難しいものでした。

01医師が何年もかけて身につける「画像を見る目」を、ハトで調べた

研究を率いたのは、アメリカのカリフォルニア大学デービス校の病理医リチャード・レベンソン(Richard Levenson)さんです。アイオワ大学の心理学者エドワード・ワッサーマン(Edward Wasserman)さんたちと組みました。

医療画像の世界では、顕微鏡のかわりにパソコンの画面で診断することが増えています。新しい機械やソフトが出るたびに、その画像で本当に正しく見分けられるかを確かめる必要があります。しかし、そのテストに専門の医師を何人も集めるのは、手間もお金もかかります。

そこで目をつけたのがハトでした。ハトはこれまでの研究で、写真の中のネコや花、アルファベット、人の顔の表情などを見分けられることが分かっていました。ハトの目と脳の見るしくみには、人と似たところが多いと論文は書いています。

02タッチパネルの画像を見て、ハトは青か黄色のボタンをつついた

実験は、アイオワ大学の実験室で行われました。最初の実験に参加したのは、8羽のハトです。

ハトは1羽ずつ、縦横36センチほどの箱に入ります。箱は暗い部屋に置かれ、気が散らないように「ザー」という雑音が流されました。正面にはタッチパネルの画面があり、うしろの壁にはエサの粒が出る皿があります。

1回の問題は、次の順番で進みます。

  • 画面の白い四角をつつくと、乳がんの組織の画像が出る。
  • 画像を何回か(最後は6〜10回)つつくと、画像の左右に青と黄色のボタンが出る。
  • 良性なら片方、悪性ならもう片方のボタンをつつく。
  • 正解ならエサの粒が出る。まちがえるとエサは出ず、同じ画像がもう一度出る。

ハトは毎日、決まった量のエサで、自由に食べたときの体重の85%くらいに保たれていました。エサをもらいたい気持ちを保つためです。

見せた画像は、カリフォルニア大学デービス校の病院で実際に診断された、ふつうの症例の組織でした。病理医が、分かりやすい良性と悪性の例を選びました。倍率は4倍・10倍・20倍の3段階です。

結果は、はっきりしていました。4倍の画像で訓練を始めた日は、正解率は50%でした。2択なので、でたらめに選んだときと同じです。ところが15日後には、正解率は85%まで上がりました。画像を回転させたり裏返したりすると、正解率は少し下がりましたが、訓練を続けると元に戻りました。

03初めて見る画像でも、ハトは85%正解した

ここで大事な疑問があります。ハトは、画像1枚1枚の答えを覚えただけかもしれません。それなら、初めて見る画像には答えられないはずです。

そこでチームは、訓練の画像にまぜて、一度も見せていない画像を出しました。このテストでは、ハトがどちらのボタンを押してもエサを出しました。正解でだけエサを出すと、テスト中に答えを覚えてしまうからです。

すると、見なれた画像の正解率は87%、初めて見る画像は85%でした。差は、意味のある大きさではありませんでした。ハトは答えを丸暗記したのではなく、良性と悪性に共通する特徴をつかんでいたことになります。4倍・10倍・20倍のどの倍率でも、同じように見分けられました。

色の手がかりを消した実験もしました。画像を1色にそろえ、明るさや濃さの差もできるだけなくしたのです。別の4羽はこの画像でも85%まで正解するようになりましたが、初めて見る画像では約70%に下がりました。色は役に立つけれど、なくても形だけで見分けられる、とチームは考えました。

さらに、4羽の判断をまとめる工夫も試しました。1枚の画像に対して、何羽が「悪性」と答えたかを数えたのです。見分ける力を表す指標(1が満点)は、1羽ずつだと0.73〜0.85でした。4羽分を合わせると0.99になりました。

実験箱の中のハトを横から見た場面。正面の画面の中央に細胞の画像、その左右に青と黄色の四角いボタンがあり、ハトの背後の壁にはエサが出る小さな皿がある。

04ハトは、乳房のエックス線写真の小さな白い点(石灰化)も見つけた

次の実験では、別の4羽にマンモグラフィー(乳房のエックス線写真)の一部を見せました。課題は「石灰化」があるかないかです。石灰化は、カルシウムが小さな白い点のようにたまったもので、がんの手がかりになることがあります。

画像は40枚で、20枚に石灰化のかたまりがあり、20枚にはありませんでした。ハトは14日の訓練で、正解率が50%から85%以上になりました。初めて見る画像では、正解率は約7割でした。見なれた画像より下がりましたが、でたらめよりはっきり上でした。

チームは、白い小さな点をごちゃごちゃした背景から見つけるのは、地面にちらばった種を探すことに近いのではないか、と書いています。ハトが生きるために毎日していることです。

05「しこり」ががんかどうかは、ハトは丸暗記しかできなかった

最後の課題は、もっと難しいものでした。マンモグラフィーに写った「しこり(腫瘤)」が、良性か悪性かを見分けるのです。論文によると、放射線科の医師たちが同じ画像を見ても、正解率は約80%でした。

ハトの訓練は、これまでの課題のように数日では進みませんでした。80日かけても、正解率は2羽が約80%、残りが約60%にとどまりました。1羽は最後まで、でたらめより上になりませんでした。

そして、初めて見る画像のテストです。正解率は初日が50%、その後の4日間が44%で、でたらめに選ぶのと変わりませんでした。訓練中によくできていた2羽も同じでした。ハトは画像ごとの答えを覚えただけで、悪性のしこりに共通する特徴はつかめなかったのです。

チームはこの結果に意味を見いだしました。人にとって難しい課題は、ハトにとっても難しい。だからこそ、ハトは人の「見る力」の強みと弱みを映すテスト役になれるかもしれない、というのです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

研究の歴史:絵画を見分けたハト

ハトの「見分ける力」は、この50年ほどのあいだ盛んに調べられてきました。論文によると、ハトは1800枚を超える画像を覚えておけることが分かっています。

有名なのが1995年の研究です。ハトにモネとピカソの絵のスライドを見せ、どちらの画家の絵かを見分ける訓練をしました。するとハトは、訓練で一度も見ていないモネとピカソの絵も見分けました。さらに、モネに近い画家(セザンヌやルノワール)の絵をモネの側に、ピカソに近い画家(ブラックやマティス)の絵をピカソの側に分けました。

ハトは「考えて」見分けているのか

ハトがここまでできるなら、人のように「ルールを考えて」見分けているのでしょうか。2023年、ワッサーマンさんたちは、この問いを調べました。ハトに、ルールで解ける課題と、ルールでは解けないように作った課題をいくつも覚えさせました。

そして、とても単純なしくみの計算モデルに同じ課題を解かせました。このモデルは「この特徴にはこの答えが正解だった」という結びつきを、少しずつ強めるだけのものです。ハトの成績の変わり方は、このモデルの結果とよく合いました。ハトの見分ける力は、ルールを考えなくても、経験から結びつきを積み上げるしくみで説明できそうだ、という結論です。

心臓の画像でも試された

アイオワ大学のチームは、その後、心臓の画像でもハトを訓練しました。2020年の研究では、心臓の筋肉への血の流れを色で表した画像を、正常と異常に分けられるようになりました。初めて見る画像でも見分けました。ところが同じ画像を白黒にすると、見分けられなくなりました。最初から白黒で訓練した別のハトは、ずっと長い訓練が必要でした。

2026年に発表された研究では、心臓の超音波の動画を、人とハトの両方に見せています。この研究では、AIが心臓の大事な部分に赤い色をぬった動画を使いました。医師ではない人たちは、赤い色つきで覚えたあと、色のない動画でも見分けられました。ハトも色つきの動画では覚えましたが、色のない動画では見分けられませんでした。人とハトの「見る力」には、似ている所と違う所の両方がある、ということです。

方法の限界

1つの実験に使ったハトは4〜8羽で、多くはありません。また、組織の画像は病理医が「分かりやすい例」として選んだものでした。実際の診断では、もっと見分けにくい画像がたくさんあります。ハトがまちがえた画像を調べると、良性なのに細胞がぎっしり並んでいるなど、反対の側に似た特徴をもつものでした。

06まとめ

エサをごほうびに訓練したハトは、乳がんの組織の画像で良性と悪性を見分けるようになりました。初めて見る画像でも平均85%正解し、マンモグラフィーの小さな石灰化も見つけました。

一方で、専門医でも難しい「しこり」の良性・悪性は、80日の訓練でも丸暗記しかできませんでした。ハトの得意と苦手は、人間の専門家の得意と苦手によく重なっていました。

公園でパンくずをつついているハトも、同じカワラバトの仲間です。あの小さな頭の中には、がんの細胞の特徴をつかめるほどの「見る力」がそなわっています。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・アイオワ州

研究チーム
アメリカのカリフォルニア大学デービス校とアイオワ大学などのチーム(第一著者リチャード・レベンソン)
調べた場所
アメリカのアイオワ大学の実験室
調べた動物
カワラバト(ドバト。学名 Columba livia)。実験ごとに4〜8羽
調べ方
タッチパネルに医療画像を出し、正しい色のボタンをつつくとエサが出るしくみで訓練。初めて見る画像でテストした
分かったこと
組織の画像の良性・悪性と、マンモグラフィーの石灰化は、初めて見る画像でも見分けられた
まだ分からないこと
ハトが画像のどこを手がかりにしているのか。しこりの判定はなぜできないのか
論文
PLOS ONE(2015年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Pigeons Learned to Find Cancer in Pictures

Doctors study for many years to find cancer in medical pictures. In 2015, scientists in the United States tried to teach this skill to pigeons.

Each pigeon looked at a picture of breast cells on a touch screen. Then it pecked a blue button or a yellow button. When it chose the right answer, it got food. After 15 days, the birds were right 85 percent of the time.

Next, the pigeons saw pictures they had never seen before. They still got 85 percent right. So they did not just remember the answers.

But one task was too hard for them. They had to judge if a lump in an X-ray was cancer or not. With new pictures, the birds could only guess. This task is also hard for human doctors.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did a pigeon get when it chose the right answer?正しい答えを選ぶと、ハトは何をもらえましたか。

Q2. How did the pigeons do with pictures of cells they had never seen?初めて見る細胞の画像で、ハトの成績はどうでしたか。

Q3. Which task was too hard for the pigeons?ハトに難しすぎた課題はどれですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Levenson, R. M. et al. (2015) Pigeons (Columba livia) as Trainable Observers of Pathology and Radiology Breast Cancer Images. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0141357
  2. 2Watanabe, S. et al. (1995) Pigeons' discrimination of paintings by Monet and Picasso. Journal of the Experimental Analysis of Behavior 論文確認済みdoi:10.1901/jeab.1995.63-165
  3. 3Navarro, V. M. et al. (2020) Taking pigeons to heart: Birds proficiently diagnose human cardiac disease. Learning & Behavior 論文確認済みdoi:10.3758/s13420-020-00410-z
  4. 4Turner, B. M. & Wasserman, E. A. (2023) The pigeon as a machine: Complex category structures can be acquired by a simple associative model. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2023.107998
  5. 5Orr, O. R. P. et al. (2026) Categorization of echocardiograms by humans and pigeons. Frontiers in Psychology 論文確認済みdoi:10.3389/fpsyg.2025.1680346

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい