人に育てられたオオカミの子13匹中3匹が、初めて会った人の投げたボールを持ってきた

人に育てられたオオカミの子13匹のうち3匹が、初めて会った人のボールを持ってきた。犬らしさの芽は、オオカミにもあったらしい。

No.060 7分で読めるえっ度 論文 2021年
明るい部屋の床で、生後2か月ほどの灰色のオオカミの子が、黄色いテニスボールを口にくわえ、こちらへ小走りに向かってくる。

30秒で読む

  1. 生後8週のオオカミの子13匹に、初めて会う人がボールを投げた
  2. 3匹が、教わっていないのにボールを人のところへ持ってきた
  3. 犬らしい性質の芽が、オオカミの中に前からあった可能性がある

人に話すなら

スウェーデンで人に育てられたオオカミの子に、知らない人がボールを投げたら、13匹中3匹が、教えてないのに持ってきたんだって。犬の「とってこい」の芽は、オオカミにもあったのかもね。

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読む前に予想しよう

人に育てられたオオカミの子の中には、教わらずにボールを人に持ってくる子がいた

犬にボールを投げると、走って取りに行き、くわえて持ってきます。「とってこい」は、犬らしい遊びの代表です。この遊びでは、犬が人の呼びかけに応えて、人と一緒に遊んでいます。

スウェーデンのストックホルム大学のチームは、人の手で育てたオオカミの子13匹で、この遊びを試しました。初めて会う人がボールを投げ、持ってくるように声をかけたのです。すると生後8週の3匹が、教わってもいないのに、ボールをその人のところへ持ってきました。

人の合図を読み取る力は、犬が家畜になってから身につけた、犬だけの性質だと考える研究者がいました。チーム自身も、オオカミの子はボールを持ってこないだろうと予想していました。

01「人の合図を読む力は犬だけのもの」という説があった

犬は、ハイイロオオカミから、少なくとも1万5000年前に家畜になりました。人の身ぶりや声を読み取る犬の力は、多くの研究者の関心を集めてきました。

2002年、ブライアン・ヘア(Brian Hare)らの研究は、こんな結果を報告しました。犬は、人の合図からかくされた食べ物の場所を見つけるのが、類人猿(チンパンジーなどの仲間)より上手でした。生後数週の子犬も、人とあまり接していなくても、この力を見せました。ところが、人に育てられたオオカミは、同じ力を見せませんでした。ヘアらは、家畜になる途中で、犬にこの力が選び出されたと考えました。

けれども、その後のオオカミと犬の比較では、意見が一致していません。研究ごとに、テストのやり方や育った環境、結果の読み方が違ったからです。また、多くの研究では、えさをごほうびにしていました。事前の訓練や、よく知った人も関わっていました。そこでチームは、えさも訓練も、知った人もない場面で調べることにしました。

02生後10日から、人の手で育てたオオカミの子

チームは2014〜2016年に、ヨーロッパのハイイロオオカミの子を、3つの腹から育てました。腹とは、同じ母親から一度に生まれた子のまとまりです。2014年の5匹と2015年の2匹は、同じ両親から生まれたきょうだいです。2016年の6匹は、別の血筋でした。

子は生後10日、まだ目が開く前から、人の手で育てられました。最初の8週間は、世話をする人が24時間そばにいました。育て方は3年とも同じルールで、しかったり、しつけたりはしませんでした。

子が世話をする人以外に会ったのは、生後8週でワクチンが終わり、このテストを受けたときが初めてでした。オオカミは犬と違って、育ててくれた人に慣れていても、その慣れを知らない人には広げないらしいことが知られています。初めて会う人をテスト係にすれば、人への慣れの影響を取り除けます。

03子犬の性格テストの中で、初めて会う人がボールを投げた

テストに使ったのは、スウェーデンの使役犬協会が作った子犬の性格テストです。ブリーダーが、子犬に合う飼い主を選ぶために使います。42の場面があり、全部で10〜15分ほどかかります。

世話をする人が子を部屋の真ん中に置いて、すぐに出ていきます。部屋には、初めて会う女性のテスト係が残ります。テスト係はテニスボールを部屋の向こうへ投げ、子が追いかけて遊ぶのを待ちます。それから子に声をかけ、ボールを持ってくるように誘います。これを3回続けます。テスト係は、3年とも同じ人でした。

子の反応は、1〜5の5段階で採点しました。1は「ボールに興味なし」、5は「呼びかけに応えて、ボールを人のところまで持ってくる」です。採点は2人が別々に行いました。1人はテストをした係で、もう1人はどの子か知らないままビデオで採点しました。2人の採点は、すべて一致しました。

部屋の向こう側に転がるテニスボールを、オオカミの子が追いかけている。手前には、しゃがんで両手を広げる人の後ろ姿が見える。

0413匹のうち3匹が、ボールを持ってきた

2016年生まれの3匹が、少なくとも2回、ボールをテスト係のところまで持ってきました。そのうち1匹は、3回とも持ってきました。持ってきた別の1匹は、残りの1回ではボールで遊んだものの、呼びかけには応えませんでした。

ほかの子の反応は、さまざまでした。2匹は、ボールで少し遊びかけて、やめてしまいました。8匹は、3回ともボールに興味を示しませんでした。持ってきた3匹は、すべて同じ2016年の腹の子でした。

05犬らしさの芽は、家畜になる前からあったのかもしれない

著者たちは、この結果をこう考えています。人に向けた遊びの性質は、めったにないとしても、オオカミの中にもともとあった。そして家畜化の始まりに、人がそうした性質のオオカミを選んだのかもしれない、というのです。

似た例は、ほかにもあります。犬は、でんぷんを消化する酵素を作る遺伝子を、オオカミより多くもっています。初めは、家畜になってから新しく起きた変化だと考えられていました。ところが、もっと多くのオオカミを調べると、オオカミの中にもこの遺伝子の数のばらつきがありました。

ただし、限界もはっきりしています。調べたのは13匹だけで、持ってきた3匹は1つの腹に集中していました。著者たちは、この性質がオオカミにあると示すことが目的なので、数は大きな問題ではないと書いています。けれども、野生のオオカミにこの性質がどれくらいあるのかは、この研究からは分かりません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

子犬と子オオカミを比べた、2021年の大きな研究

この研究と反対の向きに見える結果もあります。2021年、アメリカのデューク大学などのチームは、子犬44匹と子オオカミ37匹を、生後5〜18週で比べました。オオカミの子も、生後10〜11日から人の世話を受けて育っています。その結果、子犬のほうが人に引きつけられ、人の身ぶりを上手に読み、人の目をよく見ました。一方で、記憶やがまんの力のテストでは、両者に差はありませんでした。チームは、家畜化によって、人と協力してやりとりする力が強まったと考えています。

2つの研究は、矛盾するとは限りません。平均すれば、子犬のほうが人の合図をよく読みます。それでも、オオカミの中に、人と遊ぶ性質をもつ子がまれにいる、という見方もできます。家畜化の始まりに選ばれたのは、そうした「まれなオオカミ」だったのかもしれません。

「人と遊ぶ」行動は、ほとんど調べられていなかった

人の合図を読む力については、たくさんの研究があります。人に育てられたおとなのオオカミの中には、練習を重ねて人の身ぶりを使えるようになるものもいます。けれども、犬のように教わらずに使う証拠は少ない、と2021年の論文は書いています。

一方、「人と遊ぶ」行動を、家畜とその祖先で比べた研究は、この論文が出た時点で1つしかありませんでした。オオカミが人と遊ぶ行動を調べた研究は、それまでありませんでした。犬は、人と遊ぶときと犬どうしで遊ぶときで、遊び方を変えることが知られています。人と遊ぶ行動は、人と協力する力を見るよい手がかりになる、と著者たちは考えました。

家畜化は「新しい変化」か「もともとあった違い」か

家畜の特徴には、家畜になってから起きた新しい遺伝子の変化で生まれたものもあります。犬の黒い毛の色や、とても短い脚、短い鼻は、その例とされています。一方で、家畜化の始まりには、もともと祖先の中にあった違いが選ばれた場合が多いと考えられています。

その考えを示したのが、キツネを使った長年の飼育実験です。研究者たちは、人をこわがらないキツネを選んで、世代を重ねて育てました。すると、家畜によく見られる体の特徴が、短い期間で現れました。人なつっこさの違いが、もともとキツネの中にあったからです。

研究方法の工夫と限界

人の手で育てたことで、母親の育て方による違いを小さくできました。テスト係は3年とも同じ人で、採点はどの子か知らない人もビデオで行いました。一方で、人が育てたオオカミは、野生のオオカミとは育ち方が大きく違います。著者たちは、遺伝子から犬の行動の起源を探る研究では、こうした「もともとあった違い」のせいで、手がかりが見つけにくくなると指摘しています。

06まとめ

人の手で育てられた生後8週のオオカミの子13匹のうち3匹が、初めて会った人の投げたボールを持ってきました。えさのごほうびも、訓練もありませんでした。人と遊ぶ性質の芽は、まれにではあっても、オオカミの中にもともとあったのかもしれません。

一方で、子犬と子オオカミを平均で比べると、人の合図を読むのは子犬のほうが上手です。家で犬にボールを投げたとき、その「とってこい」の始まりは、1万5000年以上前のオオカミの中にあった可能性があります。

RESEARCH FILE

研究カルテ

スウェーデン(ストックホルム大学)

研究チーム
スウェーデンのストックホルム大学のクリスティーナ・ハンセン・ウィート(Christina Hansen Wheat)とハンス・テムリン(Hans Temrin)
調べた場所
ストックホルム大学のトーヴェトルプ動物学研究所(スウェーデン)
調べた動物
人が育てたハイイロオオカミ(学名 Canis lupus)の子13匹(3つの腹)
調べ方
生後8週で、子犬用の性格テストの中で、初めて会う人がテニスボールを投げ、持ってくるかを3回見た
分かったこと
2016年生まれの3匹が、少なくとも2回、ボールを人のところへ持ってきた。1匹は3回とも
まだ分からないこと
調べた数が少ない。野生のオオカミに、この性質がどれくらいあるのかは分からない
論文
iScience(2020年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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Wolf Puppies That Played Fetch

Many dogs love to play fetch. A person throws a ball, and the dog brings it back. Some scientists thought only dogs could understand people this way.

Scientists in Sweden raised 13 wolf puppies by hand. People stayed with them day and night. When the puppies were eight weeks old, they met a stranger for the first time. The woman threw a tennis ball and called to each puppy. Nobody had taught the puppies this game.

Three puppies brought the ball back to her. One puppy did it all three times. The other two did it two times. Eight puppies were not interested in the ball at all.

The scientists think a few wolves may naturally like to play with people. Long ago, people may have chosen wolves like these. But the study was small, so we need more research.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How old were the puppies at the test?テストのとき、子たちは生後何週でしたか。

Q2. How many puppies brought the ball back?ボールを持ってきた子は何匹でしたか。

Q3. Why do the scientists say we need more research?研究者たちは、なぜもっと研究が必要だと言っているのですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Hansen Wheat, C. & Temrin, H. (2020) Intrinsic Ball Retrieving in Wolf Puppies Suggests Standing Ancestral Variation for Human-Directed Play Behavior. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2019.100811
  2. 2Hare, B. et al. (2002) The Domestication of Social Cognition in Dogs. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1072702
  3. 3Salomons, H. et al. (2021) Cooperative Communication with Humans Evolved to Emerge Early in Domestic Dogs. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.06.051
  4. 4PMC(米国国立医学図書館)Hansen Wheat & Temrin 2020 の全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7033638/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい