小さなサルのマーモセットは、仲間を名前のような声で呼び分けていた。声5万回以上を分析
マーモセットの「フィー」という声には、誰に向けた声かで違う特徴があった。自分あての声を聞かせると、サルはより多く返事をした。

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- サルの「フィー」という声に、相手ごとに違う特徴が入っていた
- 自分あての声を流すと、サルはより多く返事をした
- 同じ家族のサルは、同じ相手を似た声で呼んでいた
人に話すなら
マーモセットっていう小さなサル、仲間を名前みたいな声で呼び分けてるらしいよ。自分あての声を流すと、ちゃんと多めに返事するんだって。ただ、本当に名前なのかは反対意見もあるみたい。
読む前に予想しよう
マーモセットは、仲間ごとに違う声の特徴を使って呼びかけている
約5万4000回の声を分析すると、誰に向けた声かで特徴が違っていた。ただし「名前」と呼べるかは議論中。
ブラジルの森にすむコモンマーモセットは、体重250グラムほどの小さなサルです。葉がしげった森では、少しはなれただけで仲間の姿が見えなくなります。そんなとき、マーモセットは「フィー」と聞こえる、高く大きな声をかけ合います。
イスラエルのヘブライ大学のチームは、この声を約5万4000回録音して調べました。すると、声の中には「誰に向けた声か」によって違う特徴が入っていました。自分あての声をスピーカーから流すと、サルはほかのサルあての声より多く返事をしました。
声で特定の仲間を呼び分ける動物は、人間のほかには、イルカやゾウ、一部のインコなどしか知られていませんでした。人間に近いサルのなかまでは、はっきりした例がなかったのです。ただし、これを本当に「名前」と呼んでよいのかは、研究者の間で意見が分かれています。
01姿の見えない家族に、マーモセットは「フィー」と呼びかける
コモンマーモセットは、ブラジルの北東部などの森にすむサルです。アメリカのウィスコンシン国立霊長類研究センターの資料によると、体重はオスが平均256グラム、メスが平均236グラムです。耳のまわりに白いふさふさの毛があり、しっぽにはしま模様があります。
マーモセットは家族で暮らします。野生の群れは平均9匹ほどです。母親はふつう双子を産み、家族みんなで赤ちゃんを運んで育てます。
「フィー」という声は、とても大きくて高い声です。1回の呼びかけは1〜5個の音が続き、1つの音は2秒ほどです。この声は、遠くの仲間と連絡を取ったり、はぐれた仲間を探したりするときに使われます。
これまでこの声は、主に「自分はここにいるよ」と知らせるものだと考えられてきました。ヘブライ大学のデイビッド・オメル(David Omer)さんは、大学の発表の中で、それだけではないことが分かったと話しています。
02カーテン1枚をはさんで、2匹に自由に声を交わさせた
研究を中心になって進めたのは、大学院生のガイ・オレン(Guy Oren)さんです。実験に参加したのは、3つの家族のマーモセット10匹でした。3つの家族は同じ大きな部屋で飼われていて、ほかの家族の声も聞こえる環境でした。
実験の部屋は、たて3.8メートル、横2.6メートルです。部屋のまん中には、上げ下げできるカーテンがあります。2匹のサルを、カーテンの両側のおりに1匹ずつ入れました。
はじめの数分間は、カーテンを上げて、2匹がお互いを見られるようにします。そのあとカーテンを下ろします。すると、2匹は誰に教えられたわけでもなく、「フィー」の声を交互にかけ合い始めました。
1回の実験は約1時間半です。組み合わせを変えながら、全部で281回の録音をしました。相手には、同じ家族のサルも、ほかの家族のサルもいました。1回の実験で、1匹は平均約116回の声を出しました。録音のあいだ、サルたちは「フィー」以外の声を出しませんでした。
03声の高さと大きさの変化から、コンピューターは誰あての声かを当てた
チームは、1回1回の声を、2つの特徴に分けました。音の高さが時間とともにどう上がり下がりするか。そして、音の大きさがどう変わるかです。
この特徴をもとに、コンピューターに「この声は誰に向けたものか」を当てさせました。使ったのは機械学習という方法です。結果、コンピューターは、でたらめに選ぶよりも高い割合で、声のあて先を当てられました。
2025年にこの研究を検討した別の研究者の論文によると、当たった割合は、呼ばれる相手によって16〜61%でした。呼ばれる相手の候補は10匹なので、でたらめに当てると約10%です。いちばん低い相手でも、でたらめよりは高かったことになります。
10匹のうち1匹のオスは、分析から外されました。このオスは、どの実験でも、同じおりで暮らす相手のメスにしか返事をしなかったからです。

04自分あての声を流すと、サルはより多く返事をした
声に違いがあっても、聞く側が分かっていなければ、呼び分けにはなりません。そこでチームは、2つめの実験をしました。
カーテンの片側にサルを1匹だけ入れます。反対側には、マイクとスピーカーにつながったコンピューターを置きます。コンピューターは、サルの声をその場で聞き取り、録音しておいた声を返します。
流す声は2種類です。1つは、前の実験で仲間がこのサルに向けて出した声です。もう1つは、同じ仲間たちがほかのサルに向けて出した声です。2つの違いは「誰に向けた声か」です。
サルが30〜40秒鳴かないと、コンピューターのほうから声を流しました。どちらの声を流すかは半々の確率で決めました。この実験には3匹が参加し、全部で20回行いました。
結果、3匹とも、自分あての声のほうに多く返事をしました。研究チームは、マーモセットは声が自分に向けられたものかどうかを聞き分けている、と結論しました。
05同じ家族のサルは、同じ相手を似た声で呼んでいた
チームは、10匹全員の声をまとめて比べました。すると、同じ家族のサルどうしは、同じ相手を呼ぶときに似た声を使っていました。声のどの特徴を使って相手を区別するかも、家族ごとに似ていました。
家族の中には、血のつながらない大人もいます。研究チームは、こうした大人も家族の呼び方を学んでいると考えています。大学の発表では、これを人間の方言にたとえています。
06「名前」と呼んでよいのかには、はっきりした反対意見がある
2025年、アメリカのイルカ研究センターのケリー・ヤーコラ(Kelly Jaakkola)さんが、この研究を検討する短い論文を出しました。ヤーコラさんも、声に「誰あてか」の情報が入っていて、呼ばれた側がそれを聞き分けていることは認めています。そのうえで、「名前」と呼ぶには2つの問題があると書きました。
1つめは、当たる割合です。16〜61%では、1匹だけを指す「名前」と呼べるほどはっきりしていない、という指摘です。
2つめは、名前を持ち出さなくても説明できることです。ある種類の小さなインコは、仲間と声をかけ合うとき、相手の声に似せて自分の声を少し変えることがあります。そして、自分の声に似た声を聞くと、返事をしやすくなります。マーモセットが相手の声の特徴を少し取り入れているだけでも、今回とまったく同じ結果になる、とヤーコラさんは指摘しました。
家族ごとに呼び方が似ていたことにも、別の説明があります。「フィー」の声には、もともと「呼んだサルがどの群れのサルか」という情報が入っていることが、前の研究で分かっていたからです。ヤーコラさんは、サル自身が特定の声と特定の相手を結びつけている証拠がない限り、「名前」と結論するのはまだ早いとしています。
元の論文にも、注意すべき点があります。実験は実験室の10匹で行われました。また、データを集めて分析した人は、どの条件の実験かを知った上で作業していました。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
見通しの悪い森と、家族で育てる暮らし
マーモセットの母親は、ふつう双子を産みます。ウィスコンシン国立霊長類研究センターの資料によると、生まれた双子は合わせて母親の体重の20〜27%にもなります。子育てには、群れの大人も子どもも、ほぼ全員が加わります。
森の中では、姿が見えないことがよくあります。研究チームは、相手を声で呼び分ける力が、見通しの悪い森で家族のつながりを保つのに役立っている可能性があると考えています。
イルカとゾウでは、呼び名のしくみが違う
バンドウイルカは、1頭ずつ自分だけの「シグネチャーホイッスル」という音を持っています。2013年、イギリスのセントアンドルーズ大学のチームは、野生のバンドウイルカに、その個体のホイッスルをまねた音を聞かせました。するとイルカは、自分のホイッスルの音にだけ鳴き返しました。イルカは、相手のホイッスルをまねることで、その相手を呼んでいると考えられています。
2024年には、野生のアフリカゾウも、相手ごとに違う声で呼びかけているという研究が出ました。この研究では、ゾウは相手の声をまねずに呼んでいる可能性が高いとされました。
一方、マーモセットの呼び分けが、まねなのか、まねではないのかは、まだ分かっていません。ヤーコラさんによると、イルカでも、ある仲間のホイッスルをその仲間のほかの手がかりと結びつけられると示されたのは、2022年になってからでした。
研究方法の工夫と限界
この研究の工夫は、サルを訓練せず、自然に始まる声のやりとりを大量に録音した点です。人の耳では区別しにくい細かな違いも、機械学習なら見つけられます。
ただし、コンピューターが違いを見つけられることと、サル自身がその違いを意味として使っていることは、別の問題です。後者を確かめたのが、録音を聞かせる実験でした。その実験に参加したのは、3匹だけでした。
07まとめ
コモンマーモセットは、姿の見えない仲間と「フィー」という声をかけ合います。この声には、誰に向けた声かで違う特徴があり、聞く側も自分あての声により多く返事をしました。同じ家族のサルは、同じ相手を似た声で呼んでいました。
ただし、これが人間の名前と同じものかどうかは、まだ決まっていません。相手の声の一部をまねているだけでも説明できる、という反対意見があるからです。
ちなみに、分析から外された1匹のオスは、どの実験でも、同じおりで暮らすメスにしか返事をしませんでした。ほかのサルの呼びかけには答えなかったのです。
研究カルテ
イスラエル(エルサレム)
- 研究チーム
- イスラエルのヘブライ大学のチーム(第一著者ガイ・オレン、責任著者デイビッド・オメル)
- 調べた場所
- ヘブライ大学の実験室(エルサレム)
- 調べた動物
- 3つの家族のコモンマーモセット10匹(学名 Callithrix jacchus)
- 調べ方
- カーテンをはさんで2匹に声を交わさせ、約5万4000回の声を機械学習で分析。さらに録音した声を聞かせた
- 分かったこと
- 声には誰あてかで違う特徴があり、自分あての声により多く返事をした。家族は似た呼び方をした
- まだ分からないこと
- 本当の「名前」なのか、相手の声の一部をまねているだけなのか
- 論文
- Science(2024年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Common marmosets are small monkeys from Brazil. In the forest, they often cannot see their family. So they call to each other with a loud, high sound. They live in families and raise their babies together.
Scientists in Israel put two monkeys in one room with a curtain between them. The monkeys started to call to each other without any training. In total, they recorded about 54,000 of these calls from ten monkeys. A computer studied the sounds. It guessed who each call was for better than by luck.
Then the scientists played the calls to three monkeys. All three answered more often when a call was for them. Monkeys in the same family used similar calls for the same friend.
Are these calls really names? Some scientists are not sure. The monkeys may only copy part of the other monkey's call. More studies will tell us the answer.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where do common marmosets come from?コモンマーモセットはどこから来たサルですか。
コモンマーモセットはブラジルの森にすむサルです。イスラエルは研究をした大学のある国です。
Q2. How many monkeys heard the calls from the scientists?研究者から声を聞かせてもらったサルは何匹ですか。
声を聞かせる実験に参加したのは3匹で、3匹とも自分あての声に多く返事をしました。
Q3. Why are some scientists not sure the calls are names?なぜ一部の研究者は、声が名前だと確信していないのですか。
相手の声の一部をまねるだけでも同じ結果になる、という反対意見があります。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Oren, G. et al. (2024) Vocal labeling of others by nonhuman primates. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adp3757
- 2Jaakkola, K. (2025) Do marmosets really have names? Learning & Behavior 論文確認済みdoi:10.3758/s13420-024-00662-z
- 3King, S. L. & Janik, V. M. (2013) Bottlenose dolphins can use learned vocal labels to address each other. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1304459110
- 4Takahashi, D. Y. et al. (2015) The developmental dynamics of marmoset monkey vocal production. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aab1058
- 5Wisconsin National Primate Research Center, Primate Info Net: Common marmosetprimate.wisc.edu/primate-info-net/pin-factsheets/pin-factshe
- 6Hebrew University of Jerusalem(2024)プレスリリースeuropeanfriends.huji.ac.il/node/3183898
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





