貝殻ごと魚をとるイルカの技は、母ではなく主に仲間から広まった。12年の記録で分かった

シャーク湾のイルカは、巻き貝の殻に逃げこんだ魚を殻ごと持ち上げて食べる。12年分の記録を調べると、この技は母子ではなく仲間どうしで広まっていた。

No.172 8分で読めるえっ度 論文 2026年
青く浅い海の上で、ミナミバンドウイルカが大きな巻き貝の殻の口にくちばしの先を差しこみ、殻を水面から持ち上げてかたむけている。殻の口から水と小魚がこぼれ落ちている。

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  1. イルカが、巻き貝の殻ごと魚を持ち上げて食べていた
  2. この技は、母から子ではなく、主に仲間どうしで広まった
  3. 仲間から学ぶ狩りの技の証拠は、イルカなど歯のあるクジラでは初めて

人に話すなら

オーストラリアのイルカって、巻き貝の殻に逃げこんだ魚を、殻ごと水の上に持ち上げてふり落として食べるんだって。しかもその技、お母さんからじゃなくて、よく一緒にいる仲間から覚えたらしいよ。

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イルカの狩りの技は、すべて母親から子どもに伝わっている

浅い海の水面に、大きな巻き貝の殻がぬっと持ち上がります。殻の口には、イルカのくちばしの先が差しこまれています。イルカは殻をゆすって水を出し、中に逃げこんでいた魚を口に落とします。西オーストラリアのシャーク湾で見られる、イルカの「シェリング(shelling)」という魚のとり方です。

スイスのチューリッヒ大学などのチームは、シャーク湾の西側で12年間イルカを観察し、1,035頭を見分けました。シェリングをしたのは19頭で、観察できたのは42回だけでした。それでも、誰がこの技を身につけたのかを調べました。すると技は、母から子ではなく、主によく一緒にいる仲間どうしで広まっていました。

イルカの狩りの技は、子どもがお母さんのそばで覚えるものだと考えられてきました。シャーク湾でも、母から子へ伝わる技がいくつも知られています。論文によると、仲間から学んで広まる狩りの技の証拠が見つかったのは、イルカをふくむ歯のあるクジラの仲間では、これが初めてです。

01巻き貝の殻ごと持ち上げて、中の魚をとる

シャーク湾は、オーストラリア大陸の西のはしにある、浅い湾です。ここにすむミナミバンドウイルカは、35年以上前から研究者に観察されてきました。

シェリングでは、イルカはまず魚を、海底にある大きな巻き貝の空の殻に追いこみます。次に、殻の口にくちばしを入れて水面まで運び、殻を持ち上げてゆすります。殻から水が出ていくと、隠れていた魚がイルカの口に落ちてきます。使われるのは、大型の巻き貝2種の殻です。

この行動は、1990年代の半ばに初めて記録されました。2011年に最初にこの行動を報告した論文は、題名が問いの形でした。「シャーク湾のイルカはなぜ巻き貝の殻を運ぶのか」です。そのころは「コンチング」と呼ばれ、1996〜2009年の間に7回しか見られていませんでした。写真などから、殻の中に逃げこんだ獲物をとろうとしているらしいと考えられました。

シェリングは、1回が数秒で終わります。船の上から見つけるのはむずかしく、42回という数は、実際より少ないだろうとチームは説明しています。

0212年間、船から1頭ずつ見分けて記録した

研究の中心になったのは、ソーニャ・ワイルド(Sonja Wild)です。ワイルドは当時、イギリスのリーズ大学の大学院生でした。チューリッヒ大学のミヒャエル・クリュッツェン(Michael Krützen)のチームと一緒に調べました。

チームは2007年から2018年まで、シャーク湾の西側の湾を船で回りました。イルカの群れに出会った回数は5,278回です。1頭ずつ写真で見分け、1,035頭を記録しました。

ワイルドの博士論文によると、群れに出会うと、まず船の位置を記録しました。最初の5分間に、ほかのイルカから10メートル以内にいたイルカを、同じ群れの仲間としました。シェリングを見たときは、それが誰かも記録しました。皮膚のごく小さなかけらも採って、遺伝子を調べました。

こうして、どのイルカがどのイルカとよく一緒にいるかを、何年分も積み重ねていきました。シェリングをするイルカが、誰とつながっているのかを調べられる記録です。

浅い海の中で、2頭のイルカが並んで泳いでいる。片方のイルカが巻き貝の殻を口先で持ち上げ、もう片方のイルカがすぐそばでその様子を見ている。

03「誰と一緒にいるか」「どこにすむか」「血のつながり」を比べた

仲間どうしで同じ技を使っていても、仲間から学んだとは限りません。よく一緒にいるイルカは、同じ場所で暮らしていることが多いはずです。殻が多い場所にすむイルカが、それぞれ自分で技を思いついたのかもしれません。血のつながったイルカが、生まれつき似た行動をとりやすいのかもしれません。

そこでチームは、3種類のつながりを同時に比べました。1つめは、誰と誰がよく一緒にいるかです。2つめは、2頭のすむ範囲がどれだけ重なっているかです。3つめは、遺伝子から見た血のつながりです。

使ったのは、「ネットワーク拡散分析」という方法です。行動が、イルカどうしのつながりにそって順番に広がっているかを、計算で調べます。もし技が「よく一緒にいる仲間」のつながりにそって広がっていれば、仲間から学んだと考えます。すむ場所のつながりのほうがよく合えば、場所のせいだと考えます。

博士論文では、母から子に伝わる可能性も計算に入れていました。使ったのは、お母さんからそのまま受けつぐ遺伝子のタイプです。同じ母の家系の中で技が受けつがれていないかを確かめたのです。

結果は、よく一緒にいる仲間のつながりが、技の広がり方を一番よく説明しました。すむ場所や血のつながりを計算に入れても、仲間のつながりの効き目は残りました。論文は、シェリングが主に母から子ではない道すじで広まったと結論しています。

04海の熱波のあとに、シェリングが多く見られた

2011年、シャーク湾は、これまでにない海の熱波におそわれました。海草の草原が大きくかれ、魚や海の小さな生き物がたくさん死にました。殻の持ち主である大型の巻き貝も、その中にふくまれていました。

博士論文によると、シェリングは熱波のあとの2011年と2012年の調査シーズンに、多く見られました。海水温が高い年ほど、シェリングが多いという関係もありました。熱波で巻き貝が死に、空の殻が増えたのかもしれません。チームは、それで技を見て覚える機会が増えた可能性を考えています。

ただし、エサが減ったことが、仲間から技を覚えるきっかけになったのかどうかは、確かめられていません。ワイルド自身、ここは推測にとどまると話しています。

05ただし、母から伝わった部分がないとは言い切れない

シェリングは、とてもめずらしい行動です。19頭、42回という少ない記録から、広がり方を計算しています。博士論文の段階の分析では、シェリングをする仲間とつながりがないのに技を身につけたイルカが3頭いました。この3頭は、自分で思いついたのか、お母さんから学んだのか、区別できませんでした。母から伝わった部分がどれほどあるかは、記録が少なく、まだ正確には分からないと書かれています。

最初の報告では、シェリングは湾の東側と西側の離れた場所で見られていました。そのため報告した研究者たちは、別々に思いつかれたのではないかと考えていました。どこで生まれ、どう広がったのかには、まだ分からない部分が多いのです。

2026年には、オーストラリアの東側からも報告が出ました。クイーンズランド州のグレートサンディー海洋公園で、イルカのシェリングが観察されたのです。その論文の題名には、母から子への学習の「可能性」という言葉が入っています。シェリングの伝わり方は、場所や群れによって違うのかもしれません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

研究の歴史:シャーク湾は「イルカの技」の宝庫

シャーク湾のイルカは、1つの集団の中で、いくつもの違う狩りの技を使います。尾で水面をたたいて泡を立て、海草の中から魚を追い出す技があります。わざと砂浜に乗り上げて魚を追う技もあります。一番有名なのは、海綿という海の生き物をくちばしにかぶせて海底をあさる「スポンジング」です。2019年、ワイルドたちは、シェリングと同じ方法でスポンジングを調べ直しました。すると、スポンジングは母から子へ、主にメスの子どもに伝わっていると確かめられました。同じ湾の同じイルカでも、技によって伝わり方が違うのです。

研究方法の工夫:「ほかの理由」を計算で取りのぞく

動物の文化の研究では、昔は「すむ場所でも遺伝子でも説明できないから、学習だろう」と考える方法がよく使われました。消去法です。けれども、考えられるすべての理由を調べつくすことはできない、という批判がありました。学習と場所と遺伝子は、同時に効いていることもあります。今回の方法は、3つのつながりを同時に計算に入れて、それぞれの効き目の大きさを比べられる点が新しいところです。一方で、イルカどうしの付き合いを正しく測るには、同じイルカを何度も見る必要があります。博士論文では、11回以上見たイルカだけを計算に使っていました。

進化の理由:仲間から学べると、何が得なのか

博士論文では、こんな考え方が紹介されています。環境が変わらないときは、上の世代から技を受けつぐのが安全です。長い間試されてきた方法だからです。けれども環境が急に変わると、古い技が役に立たなくなることがあります。そんなときは、新しい技を仲間から素早く取り入れられる動物のほうが、生きのびやすいかもしれません。ワイルドは、仲間から学ぶことで、新しい行動が集団の中に早く広がると話しています。熱波のような急な変化と、シェリングの広がりが関係しているのかどうかは、まだ確かめられていない問いです。

ほかの動物との比較

仲間から狩りの技を学ぶことは、チンパンジーや人間でも知られています。研究に加わったイギリスのブリストル大学のサイモン・アレン(Simon Allen)は、イルカの仲間と大型の類人猿は、進化の道すじも暮らす環境もまったく違うのに、どちらも長生きで、新しいことを思いつき、仲間から学べると話しています。

06まとめ

西オーストラリアのシャーク湾では、イルカが巻き貝の殻に逃げこんだ魚を、殻ごと持ち上げてとっています。12年間に1,035頭を見分けて調べると、この技は母から子ではなく、主によく一緒にいる仲間どうしで広まっていました。

ただし、記録は19頭の42回だけで、母から伝わった部分がどれほどあるかは、まだはっきりしません。シェリングは1回が数秒で終わるので、本当はもっと多くのイルカが、この技を使っているのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

オーストラリア・シャーク湾

研究チーム
イギリスのリーズ大学のソーニャ・ワイルド(Sonja Wild)、スイスのチューリッヒ大学のミヒャエル・クリュッツェンら
調べた場所
西オーストラリア州のシャーク湾の西側の湾
調べた動物
野生のミナミバンドウイルカ(学名 Tursiops aduncus)。1,035頭を見分けた
調べ方
2007〜2018年に船から観察。誰とよく一緒にいるか、すむ場所の重なり、血縁の3つのつながりを比べた
分かったこと
19頭が42回シェリングをした。技の広がり方は、よく一緒にいる仲間のつながりに一番よく合った
まだ分からないこと
2011年の海の熱波で殻が増えたことが、技の広がりにどう関わったのか
論文
Current Biology(2020年)
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英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Dolphins Learn a Shell Trick from Their Friends

In Shark Bay, Australia, some dolphins catch fish in a strange way. They chase a fish into a big empty shell. Then they lift the shell out of the water and shake it. The fish falls into their mouth.

Scientists watched dolphins from boats for 12 years. They saw this trick only 42 times, by 19 dolphins. They also recorded which dolphins spent time together.

Many dolphin hunting skills pass from mother to baby. But this trick spread mainly between friends. Dolphins that spent a lot of time with shell users often learned it too.

In 2011, a very hot sea killed many sea snails in the bay. This may have left more empty shells for the dolphins. But the scientists say they are not sure yet.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What do the dolphins do with the shell?イルカは殻を使って何をしますか。

Q2. How many dolphins used the shell trick?殻の技を使ったイルカは何頭でしたか。

Q3. Who did the dolphins mainly learn this trick from?イルカはこの技を主に誰から学びましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Wild, S. et al. (2020) Integrating Genetic, Environmental, and Social Networks to Reveal Transmission Pathways of a Dolphin Foraging Innovation. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2020.05.069
  2. 2Allen, S. J., Bejder, L. & Krützen, M. (2011) Why do Indo-Pacific bottlenose dolphins (Tursiops sp.) carry conch shells (Turbinella sp.) in Shark Bay, Western Australia? Marine Mammal Science 論文確認済みdoi:10.1111/j.1748-7692.2010.00409.x
  3. 3Wild, S. et al. (2019) Multi-network-based diffusion analysis reveals vertical cultural transmission of sponge tool use within dolphin matrilines. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2019.0227
  4. 4University of Leeds(2020)Shelling out for dinner: dolphins learn foraging skills from peersleeds.ac.uk/news-environment/news/article/4616/shelling-out-
  5. 5Wild, S. (2018) 博士論文 Social transmission of foraging behaviour in bottlenose dolphins(University of Leeds)etheses.whiterose.ac.uk/23798/1/Wild_S_Biology_PhD_2018.pdf
  6. 6Levengood, A. L. et al. (2026) Observations of Shelling Behavior and Potential Evidence of Vertical Social Learning by Bottlenose Dolphins in the Great Sandy Marine Park, Queensland Australia. Marine Mammal Science 論文確認済みdoi:10.1111/mms.70252

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい