ラットは、エサのドアより先に、水につかった仲間を助けるドアを開けることが多かった
水につかった仲間がいると、ラットはドアを開けて助けることを覚えた。エサのドアと選ばせても、多くの回で仲間のドアを先に開けた。

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- 水につかった仲間がいると、ラットはドアを開けて助けた
- かわいた所にいる仲間には、ほとんどドアを開けなかった
- エサより仲間を先に助けることが多かったが、理由には反論もある
人に話すなら
ネズミのなかまのラットって、水につかって困ってる仲間がいると、ドアを開けて助けるんだって。しかもエサの部屋より先に助けることが多かったらしいよ。
読む前に予想しよう
ラットは、水につかった仲間を助けるより先にエサを取りに行くことが多い
関西学院大学の実験では、多くの回で仲間のドアを先に開けた。
小さな箱の中で、1匹のラットが水につかっています。ラットは水が苦手な動物です。すぐ横のかわいた部屋には、いつも同じケージで暮らしている仲間がいます。2つの部屋のあいだには、かわいた側からしか開けられないドアが1枚あります。
関西学院大学の佐藤暢哉さんたちは、この場面を何日もくり返して観察しました。すると、かわいた側のラットは、ドアを開けて仲間を助け出すことをすぐに覚えました。あとでこの実験を調べ直した別のチームの論文によると、最初の実験では10匹のうち9匹がドアを開けるようになりました。さらに、「仲間のドア」と「エサのドア」を選ばせると、多くの回で仲間のドアを先に開けました。
ネズミのなかまが仲間を助けるかどうかは、1960年前後から実験で調べられてきました。2011年には、アメリカのシカゴ大学のチームが、筒に閉じこめられた仲間をラットが出してやることを報告しました。関西学院大学の実験は、閉じこめる代わりに水を使ったものです。ただし、この研究には「助けたのは共感のせいではない」という反論も出ました。この記事では、実験の中身と、その後の言い合いまでを順に見ていきます。
01水の中の仲間が出るには、となりのラットにドアを開けてもらうしかない
実験に使ったのは、ペアで飼われていたラットです。研究チームは、片方を水を張ったプールの部屋に入れました。もう片方は、となりのかわいた部屋に入れました。
水の中のラットが外に出るには、かわいた側のラットにドアを開けてもらうしかありません。ドアは仕切りの丸い穴をふさぐ板で、穴の直径は65ミリでした。かわいた側のラットが押して開ければ、水の中の仲間はかわいた部屋に移れます。
研究チームは、まずラットが本当に水をいやがるのかを確かめました。水が平気なら、水の中の仲間は「困っている」とは言えないからです。確かめた結果、ラットは水につかるのをいやがることが分かりました。
02水につかった仲間のときだけ、ドアを開けるのが速くなった
かわいた側のラットは、回を重ねるごとに、すばやくドアを開けるようになりました。12回の実験のうちに、10匹中9匹がドアを開けて仲間を出しました。
研究チームは、ほかの場合とも比べています。プールに水だけがあって仲間がいないとき。水も仲間もいないとき。かわいたプールにおもちゃのラットを置いたとき。どの場合も、ドアを開けるまでの時間は、水につかった仲間がいるときより長くなりました。
もう一つ、はっきりした差が出たことがあります。かわいた側のラットのうち、前に自分も水につかった経験があるラットは、ない場合より早くドアの開け方を覚えました。自分がいやな目にあった経験が、仲間を助け出そうとする動機を強めた可能性がある、と研究チームは考えています。

03かわいた部屋にいる仲間には、ほとんどドアを開けなかった
では、ラットは単に「仲間と一緒にいたい」からドアを開けたのでしょうか。これを確かめるため、研究チームは別の箱を作りました。部屋が3つ並び、ドアが2枚ある箱です。
2つ目の実験では、仲間を水ではなく、かわいた部屋に閉じこめました。仲間は困っていませんが、ドアを開ければ一緒にいられます。初めてこの実験を受けたラット8匹のうち、12回のあいだにドアを開けたのは1匹だけでした。
仲間に会えるだけなら、ラットはほとんどドアを開けなかったのです。佐藤さんたちは、この結果から、ドアを開ける行動は困っている仲間への反応だと考えました。
04エサのドアと選ばせても、多くの回で仲間のドアを先に開けた
3つ目の実験では、ラットに選ばせました。一方のドアの先には、水につかった仲間がいます。もう一方のドアの先には、エサがあります。
ラットがどうやってドアの開け方を覚えたかにかかわらず、多くの回で、ラットはエサより先に仲間のドアを開けました。論文は、ラットにとって仲間を助けることの値打ちが、エサより大きい可能性を示していると書いています。
プレスリリースでは、この結果を「苦しんでいる仲間を助けることは、食物を得ることよりも価値が高い」とまとめています。ただし、エサを捨てて助けたわけではありません。エサの部屋に行く前に、まず仲間のドアを開けた、という順番の話です。
05反論:ラットは水と仲間のそばに行きたいだけかもしれない
2017年、アメリカのアメリカン大学のリンジー・シュワルツ(Lindsay P. Schwartz)さんたちが、反論の論文を出しました。シュワルツさんたちは、まず佐藤さんたちの実験の弱点を指摘しました。2つ目の実験の箱はドアの穴が85ミリで、最初の箱の65ミリより大きかったのです。同じ材料なら、ドアは7割以上重くなります。ドアが重いから開けなかっただけかもしれない、という指摘です。
シュワルツさんたちは、アルファベットのEの形をした通路を作りました。ラットは右と左のどちらかの部屋を選べます。片方には水の中の仲間、もう片方にはかわいた所の仲間がいます。ラットは水の中の仲間の側を、最後の5日間の実験で7〜8割選びました。ここまでは佐藤さんたちと同じ結果です。
ところが、仲間がいない水のプールと、かわいた空っぽの部屋を選ばせても、初めてのラットは水の側を7割ほど選びました。水の側を選んだラットは、ときどき水の中に足をふみ入れることもありました。シュワルツさんたちは、ラットにとって「水のそば」と「仲間のそば」がそれぞれごほうびになると考えました。そして、共感がなくても結果は説明できる、と主張しました。
これに対して2020年、アメリカのサウスカロライナ医科大学のスチュワート・コックス(Stewart S. Cox)さんたちが、新しい箱で確かめました。助けたラットと助けられたラットが、ドアを開けたあとも会えない箱です。くさりを引くと、水の中のラットは別のかわいた部屋に移ります。オスのラット24組で調べると、それでもラットはくさりを引くことを覚えました。水がないときは、くさりを引くのが速くなりませんでした。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「仲間を助けるネズミ」の研究は60年以上前から
この分野の研究は、最近始まったものではありません。1959年に発表された実験では、ラットがレバーを押してエサをもらうと、となりの仲間に電気ショックが流れるようにしました。するとラットは、レバーを押すのを控えるようになりました。1962年には、ハーネスでつり上げられた仲間を、レバーを押して下ろすラットも報告されています。
2011年には、アメリカのシカゴ大学のチームが、せまい筒に閉じこめられた仲間をラットが出してやることを示しました。筒が空っぽのときや、仲間の代わりに物が入っているときは、ラットはあまり開けませんでした。関西学院大学の実験は、閉じこめる代わりに水を使った点が新しいところです。水をいやがることを先に確かめているので、「仲間が困っている」という条件がはっきりしています。
反論と再反論、それぞれの根拠
シュワルツさんたちの反論の土台には、「同じ結果を説明できるなら、より単純な説明を選ぶ」という考え方があります。仲間のそばに行きたい、水のそばに行きたい、という2つで説明できるなら、共感をもち出す必要はない、というわけです。ただしシュワルツさんたち自身も、自分たちの結果は共感の説を否定するものではない、と書いています。
コックスさんたちの実験は、この「仲間のそばに行きたい」という説明を取り除いたものです。会えない箱でも助ける行動は身についたので、会えることだけが理由ではないと言えます。
ただし、コックスさんたちは、ドアを開けると仲間に会える箱でも実験しています。その箱では、仲間がかわいた所にいて困っていなくても、ラットはだんだん早く開けるようになりました。佐藤さんたちの2つ目の実験とは、違う結果です。仲間に会えること自体も、ラットにとってはごほうびになるようです。助ける理由は1つではないのかもしれません。
ハタネズミでも同じ実験。オキシトシンがかかわっていた
佐藤さんたちのチームは、2022年に、北アメリカの草原にすむプレーリーハタネズミでも同じ形の実験をしました。深さ25ミリの水に仲間をつからせると、助ける側はドアを開けることを覚えました。仲間が水につかっていないときは、ドアを開けるまでの時間は短くなりませんでした。
さらに、オキシトシンというホルモンを受け取るしくみを、遺伝子の操作でなくしたハタネズミも調べました。オキシトシンは、仲間とのきずなにかかわるとされるホルモンです。このハタネズミは、ドアの開け方をあまり覚えず、水の中の仲間への関心も低くなりました。助ける行動に、オキシトシンが大事な役わりをしている可能性があります。
この実験で分かることと、分からないこと
これらの実験で確かめられたのは、行動のほうです。「困っている仲間がいると、ラットはドアを開ける」ことは、別々の研究室でくり返し見られました。けれど、そのときラットが何を感じているのかは、行動からは直接は見えません。
人の共感にも、相手の気持ちがうつる単純なものから、相手の立場を考える複雑なものまで段階があります。ラットの行動が、そのどの段階にあたるのかは、まだ議論が続いています。
06まとめ
関西学院大学の実験で、ラットは水につかった仲間を助けるドアの開け方をすぐに覚えました。かわいた所にいる仲間にはほとんど開けず、エサのドアと選ばせても、多くの回で仲間を先に助けました。
その一方で、「ラットは水と仲間のそばに行きたいだけ」という反論も出ました。会えない箱を使った別の実験では、それでも助ける行動が身につきました。ラットが何を感じて助けているのかについては、研究者のあいだで今も意見が分かれています。
この研究で、ほかのラットより早く助けることを覚えたのは、自分も前に水につかった経験のあるラットでした。
研究カルテ
日本・兵庫県西宮市
- 研究チーム
- 関西学院大学の佐藤暢哉さんたちのチーム
- 調べた場所
- 兵庫県西宮市の関西学院大学の実験室
- 調べた動物
- 同じケージで飼われていた2匹1組のラット(学名 Rattus norvegicus)
- 調べ方
- 片方を水を張った部屋に入れ、もう片方がドアを開けて助けるかを何回も調べた
- 分かったこと
- 水につかった仲間のときだけドアを開けることを覚え、エサのドアより先に開けることが多かった
- まだ分からないこと
- 助ける理由が「共感」なのか「仲間に会いたい」「水に近づきたい」なのか
- 論文
- Animal Cognition(2015年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Scientists in Japan put two rats from the same cage into a small box. One rat stood in water, and the other rat was in a dry room. Only the dry rat could open the door between the two rooms.
Rats do not like water. The dry rats quickly learned to open the door and let their friend out. When the friend was in a dry room, they almost never opened it.
Next, the rats had two doors. One door led to the wet friend, and the other door led to food. In most tests, the rats opened the door for their friend first.
Other scientists gave a different reason. They said rats may simply like to be near water and other rats. Later, a team in the United States used a box where the rats could not meet. The rats still learned to help.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where was one of the two rats?2匹のラットのうち1匹はどこにいましたか。
1匹は水の中、もう1匹はかわいた部屋にいました。
Q2. Which door did the rats open first in most tests?多くのテストで、ラットはどのドアを先に開けましたか。
多くの回で、ラットはエサより先に仲間のドアを開けました。
Q3. What did the team in the United States use?アメリカのチームは何を使いましたか。
会えない箱でも、ラットは助けることを覚えました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Sato, N. et al. (2015) Rats demonstrate helping behavior toward a soaked conspecific. Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-015-0872-2
- 2関西学院大学 広報室(2015)溺れる友に手を差し伸べるラット(プレスリリース)kwansei.ac.jp/assets/entry/0000071697.pdf
- 3Schwartz, L. P. et al. (2017) Does a rat release a soaked conspecific due to empathy? Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-016-1052-8
- 4Cox, S. S. & Reichel, C. M. (2020) Rats display empathic behavior independent of the opportunity for social interaction. Neuropsychopharmacology 論文確認済みdoi:10.1038/s41386-019-0572-8
- 5Kitano, K. et al. (2022) Helping behavior in prairie voles: A model of empathy and the importance of oxytocin. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2022.103991
- 6Silva, P. R. R. et al. (2020) Are there multiple motivators for helping behavior in rats? Frontiers in Psychology 論文確認済みdoi:10.3389/fpsyg.2020.01795
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





