くすぐられたラットは笑い声に似た超音波で鳴いて跳ねた。不安な場所ではその声が減った

くすぐられたラットは人に聞こえない高い声で鳴き、跳びはねた。不安になる場所ではその声が減り、脳の反応も弱まった。遊びと同じ脳の場所が働いていた。

No.027 7分で読めるえっ度 論文 2023年
薄暗い部屋で、人の手がラットのおなかを指でくすぐっている。ラットはあおむけになり、口を開けて前足を少し上げている。

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  1. くすぐられたラットは、高い声で鳴き、手を追い、跳ねた
  2. 明るく高い台の上では、くすぐっても声が減った
  3. 遊びとくすぐりに同じ脳の場所が関わっていた

人に話すなら

ネズミのなかまのラットって、くすぐると人に聞こえない高い声で鳴いて、ぴょんと跳ねるんだって。でも明るくて高い台の上だと、くすぐってもあまり鳴かなくなるらしいよ。

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読む前に予想しよう

ラットは、明るくて高い台の上でも、くすぐると同じように鳴く

1匹のラットがあおむけにされ、人の手でおなかをくすぐられています。耳をすましても何も聞こえません。でも、特別なマイクで録音すると、ラットは人には聞こえない高い声でさかんに鳴いていました。ラットは、くすぐる手に自分から近づいてきます。ときには、その場でぴょんと跳びはねます。

ラットは、実験用に飼われてきたドブネズミのことです。ドイツの研究チームは、くすぐられているラットの脳を調べました。背中やおなかをくすぐると、体の感覚をあつかう脳の場所で記録した細胞のおよそ77%が、ふだんより活発になりました。ところが、明るい光の下の高い台にラットをのせると、同じようにくすぐっても声が減り、脳の反応も弱まりました。

遊びは、安心して落ち着いているときにしか始まらないことが、昔から知られています。ラットのくすぐったさも、ただ皮ふが感じるだけのものではなく、気分や遊びと結びついているらしいのです。ラットの研究は、そのしくみを脳の細胞のレベルで調べることにつながりました。

01くすぐると、ラットは人に聞こえない声で鳴き、手を追いかけた

話は1990年代にさかのぼります。ラットの「笑い」の研究を切り開いたのは、ヤーク・パンクセップ(Jaak Panksepp)さんです。1999年には、共同研究者と「笑うラット?」という題の文章を書いています。遊んだりくすぐられたりしたラットは、およそ50キロヘルツの高い声で鳴きます。人の耳には聞こえない高さです。

2016年、ドイツのフンボルト大学ベルリンのチームが、この声をくわしく調べました。シンペイ・イシヤマ(Shimpei Ishiyama)さんと、ミヒャエル・ブレヒト(Michael Brecht)さんです。くすぐる場所は、おなか・背中・しっぽの3つです。比べるために、指でそっとなでるだけの場合も調べました。

いちばん声が多かったのは、おなかをくすぐったときでした。4匹のラットで16回記録したところ、おなかをくすぐると1秒に平均4.45回鳴きました。おなかをそっとなでたときは2.58回でした。ラットはくすぐる手にすばやく近づき、手を追いかけました。くすぐられたあと、声を上げながら勝手に跳びはねることもありました。ドイツ語で「フロイデンシュプルング(喜びのジャンプ)」と呼ばれる動きです。

02胴体の感覚を受け持つ脳の細胞が、くすぐりにも遊びにも反応した

研究チームは、ラットの脳のうち、体の感覚をあつかう部分に細い電極を入れました。ここには、体のどこを触られたかに合わせて担当の場所が並んでいます。チームが記録したのは、胴体を担当する場所です。

背中やおなかをくすぐると、この場所の細胞のおよそ77%が、休けい中よりも活発になりました。逆に、くすぐると静かになる細胞も少しだけありました。ラットが手を追いかけて遊んでいるときも、細胞のおよそ80%が活発になりました。このとき、人の手はラットに触れていません。触られていないのに、くすぐりと同じ細胞が反応したのです。

チームは、この場所の深いところに弱い電気を流してもみました。すると、くすぐっていないのに、ラットは同じ高い声で鳴きました。浅いところに流しても、声は出ませんでした。

薄暗い箱の中で、1匹のラットが4本の脚で床をけり、真上にぴょんと跳び上がっている。そばに人の手が見える。

03明るく高い台の上では、くすぐっても声が減った

次にチームは、ラットを不安にさせる場所を用意しました。強い光で照らした、床から高い台の上です。どちらも、ラットを不安にさせる条件として使われています。ふだんの実験は、ラットが落ち着けるよう薄暗い場所で行いました。

この台の上でくすぐると、ラットの声ははっきり減りました。ふだんの薄暗い箱にもどすと、声は元にもどりました。脳の細胞も同じでした。不安な場所では、くすぐったときの細胞の反応が弱まったのです。

ブレヒトさんは研究機関の発表で、こう話しています。「くすぐったさは、人と関わったり遊んだりすることにごほうびを与える、脳の仕かけなのかもしれない」。

042023年、遊びとくすぐりの声に欠かせない場所が脳の奥で見つかった

ブレヒトさんたちは2023年、さらに脳の奥を調べました。ねらったのは「中脳水道周囲灰白質」という場所です。中脳という脳のまん中あたりにある部分で、鳴き声を出すことや、身を守る行動に関わることが知られていました。

まず、4匹のラットでこの場所の働きを薬で一時的に止めました。すると、背中をくすぐったときの声が減り、手を追いかける遊びも減りました。次に、5匹のラットのこの場所から、細胞85個の活動を記録しました。くすぐりにも遊びにも強く反応する細胞は、この場所の「横側」の柱のような部分に集まっていました。そして、その細胞の反応は、明るく高い台の上では弱まりました。

最後に、光を当てると細胞の働きが止まるしかけを使いました。横側の部分だけを止めると、くすぐったときの声が減り、ラットどうしで遊ぶ時間も短くなりました。この結果から、チームは横側の部分が遊びと笑いに欠かせないと結論づけました。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

くすぐったさは、なぜ進化したのか

ブレヒトさんたちは、くすぐったさと遊びが深く結びついていると考えています。これまでの研究で、くすぐったがりのラットほどよく遊び、よく遊ぶラットほどくすぐったがることが、くり返し確かめられてきました。くすぐったさが遊びを楽しくし、仲間とのつき合いを深めているのではないか。これが研究チームの考えです。ただし、このしくみがどう進化したのかを直接確かめた研究は、まだありません。

ラットも、自分で自分をくすぐると声が減る

人は、自分で自分をくすぐっても笑いません。2019年、イシヤマさんたちはラットでも同じことを調べました。ラットが自分の体に触れているあいだは、脳の胴体担当の場所の働きが広くおさえられ、声も減りました。自分で触れているあいだは、人に触られたときの声や脳の反応もおさえられました。働きをおさえる物質を薬で止めると、この効果は消えました。脳の中で働きをおさえるしくみが、くすぐったさの感じ方を調節していることを示す結果です。

くすぐってほしがる一方で、こわがるようすも見せた

同じ2019年の研究では、鼻で穴をつつくとくすぐってもらえるしかけも作りました。ラットは自分から穴をつつきました。ところが、同じラットが逃げたり、固まったり、危険を知らせる別の種類の声を出したりすることもありました。くすぐりを求めながら、少しこわがってもいる。研究チームは、この入りまじった反応が、くすぐられる子どもの様子に似ていると書いています。

「ラットが笑う」と言ってよいのか

パンクセップさんは2003年の論文で、50キロヘルツの声が人の子どもの笑いと進化的につながっている、という考えを12の理由とともにまとめました。ただし本人も、これを確かめる途中の「作業仮説」と呼んでいます。ラットが人と同じ「おかしい」という気持ちを感じているのかは、今の方法では確かめられません。研究者が言えるのは、遊びやくすぐりの場面で出て、不安な場所では減る、という事実までです。

仲間がくすぐられるのを見ただけで、声を上げた

2022年の研究では、仲間のラットがくすぐられるのを見ているラットも、声を上げて跳びはねました。録画した映像や録音した声を流しただけでは、ほとんど反応しませんでした。研究チームは、目の前の仲間の様子が、遊びたい気分をうつしたのではないかと考えています。一方で、「次は自分の番だ」と期待しただけかもしれない、という見方も否定できないと書いています。

05まとめ

人にくすぐられたラットは、人に聞こえない高い声で鳴き、手を追いかけ、跳びはねました。脳の胴体担当の場所では、くすぐりにも遊びにも同じ細胞が反応しました。明るく高い台の上では、声も脳の反応も減りました。2023年には、遊びとくすぐりに欠かせない場所が、脳の奥にあることも分かりました。

ラットの声が人の笑いと同じ気持ちなのかは、まだ分かりません。それでも、不安な場所ではくすぐっても声が減るという結果は、くすぐったさが気分に左右されることを示しています。ちなみに、ラットも自分で自分をくすぐると、声があまり出なくなります。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ドイツ・ベルリン

研究チーム
ドイツのフンボルト大学ベルリンのチーム(シンペイ・イシヤマ、ミヒャエル・ブレヒト)
調べた場所
ドイツ・ベルリンの研究室
調べた動物
ラット(学名 Rattus norvegicus、実験用のドブネズミ)
調べ方
人の手でラットをくすぐり、超音波の声と、体の感覚をあつかう脳の細胞の反応を記録した
分かったこと
くすぐると声が増え、脳の細胞の多くが活発になった。不安な場所では声も反応も減った
まだ分からないこと
ラットの声が人の笑いと同じ気持ちを表しているのか
論文
Science(2016年)。続きの研究は Neuron(2023年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Tickled Rats Call Out and Jump

Scientists in Germany tickled rats with their hands. The rats made very high calls that people cannot hear. They came to the hand and sometimes jumped up.

The rats called the most when the scientists tickled their bellies. Many cells in the brain became more active during tickling. The same cells were active when the rats played a chasing game.

Next, the scientists put the rats on a high place with bright lights. Rats feel nervous in places like this. When they were tickled there, they made fewer calls. Their brain cells also became less active.

In 2023, the team found another important area deep in the brain. When this area stopped working, the rats played less. We do not know if rats feel the same joy as people. But they seem less ticklish when they feel nervous.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the rats call the most?どこをくすぐったとき、ラットはいちばん多く鳴きましたか。

Q2. What happened on the high place with bright lights?明るい光の当たる高い場所では、何が起きましたか。

Q3. Can people hear the rats' calls?人はラットの鳴き声を聞くことができますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Ishiyama, S. & Brecht, M. (2016) Neural correlates of ticklishness in the rat somatosensory cortex. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aah5114
  2. 2Gloveli, N. et al. (2023) Play and tickling responses map to the lateral columns of the rat periaqueductal gray. Neuron 論文確認済みdoi:10.1016/j.neuron.2023.06.018
  3. 3Ishiyama, S. et al. (2019) Behavioral and Cortical Correlates of Self-Suppression, Anticipation, and Ambivalence in Rat Tickling. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2019.07.085
  4. 4Kaufmann, L. V. et al. (2022) Tickle contagion in the rat somatosensory cortex. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2022.105718
  5. 5Panksepp, J. & Burgdorf, J. (2003) "Laughing" rats and the evolutionary antecedents of human joy? Physiology & Behavior 論文確認済みdoi:10.1016/s0031-9384(03)00159-8
  6. 6NeuroCure(フンボルト大学ベルリンなどの研究拠点)Why are we ticklish?(2016)neurocure.de/118/why-are-we-ticklish.html

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい