ラットは人間とのかくれんぼを覚え、鬼と隠れる役を交代できた。隠れる時はほとんど鳴かなかった

ラットは人とのかくれんぼをすぐ覚え、鬼と隠れる役を交代できた。ごほうびはエサでなく遊び。隠れるときは黙り、中の見えない箱を選んだ。

No.015 8分で読めるえっ度 論文 2023年
実験室の床に置かれた段ボール箱のかげから、白と黒の毛のラットが顔を半分だけ出して、のぞいている。奥に人の足元だけが見える。

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  1. ラットは人間とのかくれんぼを覚え、鬼と隠れる役を交代できた
  2. ごほうびはエサではなく、くすぐりなどの遊びだった
  3. 隠れるときは声を出さず、中の見えない箱を選んだ

人に話すなら

ネズミって、人間とかくれんぼができるんだって。エサももらえないのにすぐルールを覚えて、隠れるときは声を出さずに、外から見えない箱を選ぶらしいよ。見つかると、また隠れ直したりもするんだって。

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読む前に予想しよう

ラットは、エサのごほうびがないと、かくれんぼを覚えない

実験室の広い部屋に、段ボールの箱がいくつも置かれています。人が部屋のどこかに隠れると、小さな箱のふたが開き、中からラットが飛び出してきます。ラットは部屋の中を探し回り、隠れている人を見つけます。見つかった人は、ラットをくすぐって一緒に遊びます。

ドイツの研究チームが、ラットに人間とのかくれんぼを教えました。ラットはルールをすぐに覚えました。そして、探す鬼の役と、隠れる役を交代でこなせるようになりました。ごほうびにエサは使っていません。

遊びは、人も動物もよくする行動です。けれど、脳のどこでどう生まれるのかは、まだよく分かっていません。動物に自由に遊ばせると、実験の条件をそろえられないからです。この研究は、ルールのある遊びを実験室で行うことで、この問題を解こうとしました。

01遊びは、脳の研究から取り残されてきた

脳の研究では、ふつう動物に同じ単純な作業を何百回もくり返させます。毎回同じ条件で、脳の細胞の反応を比べるためです。けれど、遊びはそうはいきません。同じ遊びは二度となく、毎回の動きが違います。

チームを率いたのは、フンボルト大学ベルリンのミヒャエル・ブレヒト(Michael Brecht)さんです。ブレヒトさんの研究室は、2016年にもラットをくすぐる実験を発表しています。ラットは、遊んだりくすぐられたりすると、人の耳には聞こえない高い声を出します。その声は、楽しいときの合図と考えられています。

ペットの飼い主の多くは、自分のペットがかくれんぼを好むと話します。ブレヒトさんによると、それなのに、きちんと調べた研究はほとんどありませんでした。そこで、アニカ・ラインホルト(Annika Reinhold)さんたちは、かくれんぼを実験にすることにしました。かくれんぼには、はっきりした場面の区切りがあります。それなら、遊びの自由さを残したまま、場面ごとに脳の活動を比べられます。

02ラットに、人間とのかくれんぼを教えた

舞台は、広さ約30平方メートルの部屋です。中には、段ボールの仕切りや、隠れるための箱が置かれました。部屋には、ふたつきの「スタートの箱」もあります。

遊びは、ラットがスタートの箱に入るところから始まります。人がふたを閉めたら、ラットは鬼の番です。人は部屋のどこかに隠れ、離れた所からふたを開けます。ラットは飛び出して、人を探します。

ふたが開いたままなら、ラットが隠れる番です。ラットは箱から出て、部屋のどこかに隠れます。今度は人がラットを探します。

どちらの役でも、見つけたり見つかったりしたあとには、人がラットとじゃれ合ったり、くすぐったりして遊びました。これがごほうびのすべてです。エサは使いませんでした。

03鬼のときははしゃぎ、隠れるときは黙った

ラットはすぐにかくれんぼを覚え、2つの役を交代できるようになりました。鬼のときは、目で見たものと、前に人が隠れていた場所の記憶を頼りに探しました。

声の出し方は、役によってはっきり違いました。鬼の役のときは、たくさん鳴きました。特に人を見つけたあとに、よく鳴きました。一方、隠れる役のときは、ほとんど声を出しませんでした。

隠れる場所の選び方にも違いがありました。部屋には、外から中が見えない箱と、中が透けて見える箱が置かれていました。隠れる役のラットは、中の見えない箱を好んで選びました。鬼の役のときには、どちらの箱を好むということはありませんでした。

ラットは、見つかってもすぐには遊びを終わらせませんでした。見つかると、別の場所に隠れ直そうとすることがよくありました。ブレヒトさんは、これを「ちょっとしたずる」と呼んでいます。くすぐりのごほうびは遅れるのに、ラットは遊びを長引かせようとしたのです。

広い部屋に段ボールの箱や仕切りがいくつも置かれている。そのうちの1つの、中が見えない箱の中で、ラットが体を丸めてじっとしている。

04脳の前のほうでは、ゲームの場面ごとに違う細胞が働いていた

チームは、かくれんぼ中のラットの脳の活動も記録しました。ラットの頭に小さな記録装置をつけ、コードなしで動き回れるようにしました。測ったのは、脳の前のほうにある前頭前皮質の細胞です。

その結果、多くの細胞が、ゲームの決まった場面で強く活動しました。たとえば、スタートの箱のふたが閉まった瞬間に反応する細胞がありました。ふたが閉まることは「今回は鬼の番だ」という合図です。同じ場面でも、鬼の回と隠れる回とで活動が違う細胞もありました。

ブレヒトさんは、ラットがゲームのルールを理解している表れだと考えています。チームは、これらの細胞が役割に合わせた行動を導いているのかもしれないとしています。

2022年には、同じチームのベンス・バギ(Bence Bagi)さんたちが、このデータを別の方法で分析し直しました。ゲームのことは何も教えずに、細胞の活動のパターンだけをコンピューターで分けたのです。すると、分けられたパターンは、ゲームの場面にきれいに重なりました。その中には、ラットが隠れ場所から顔をのぞかせるときに現れるパターンもありました。

05見ているだけでは、同じ細胞は働かなかった

かくれんぼが上手になるには、相手の立場にある程度立って考える力が要る、とブレヒトさんたちは説明しています。けれど、ラットにその力があるかは、2019年の研究ではまだ確かめられていません。

2020年には、同じチームが別の実験をしました。ガラスの箱に入ったラットに、ほかのラットが人とかくれんぼをする様子を見せたのです。すると、見ているだけのラットの前頭前皮質は、ほとんど反応しませんでした。細胞の活動は、自分で遊んでいるときより弱く、ゲームの場面にも合っていませんでした。少なくともこの条件では、ラットの脳は、ほかのラットの遊びを見ても、自分で遊ぶときと同じようには働いていなかったのです。

研究の規模にも限りがあります。かくれんぼを教わったラットは数匹で、遊び相手は人間でした。ラットどうしでも同じようにかくれんぼをするのかは、この研究では調べていません。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

遊びは、なぜ進化したのか

遊びは、すぐには得にならない行動です。エネルギーを使い、敵に見つかる危険もあります。それでも多くのけものが遊びます。

1つの考えは、遊びが大人になってからの練習になる、というものです。バギさんたちの論文は、仲間との遊びが、新しい場面や予想外のできごとに対応する力を育てると説明しています。ラットでも人でも、仲間との遊びがうまくできないことは、考える力や社会の中でのふるまいの育ちの問題と結びついていることが知られています。

ブレヒトさんは、かくれんぼが進化の上でとても古い遊びかもしれないと考えています。隠れることと探すことは、生きのびるのに欠かせない行動だからです。ラットがかくれんぼをすぐに覚えたことについて、ブレヒトさんは「生まれつき持っているのだと思う」と話しています。ただし、これはまだ考えの段階です。

遊びのスイッチは、脳の奥にもある

かくれんぼでは前頭前皮質がよく働きました。けれど、遊びそのものは、もっと奥の脳でも支えられています。大脳の表面を取りのぞいたラットでも、遊びは続くことが知られています。

2023年、ブレヒトさんの研究室は、脳の奥の中脳にある「中脳水道周囲灰白質」という部分を調べました。この部分の働きを薬で止めると、ラットのくすぐったがる反応と遊びが乱れました。光を使って横側の部分だけを止めても、同じように乱れました。研究チームは、この部分の横側が、遊びと笑いに欠かせないと結論づけています。

ラットの声と気持ち

ラットの超音波の鳴き声には、大きく2つの種類があります。50キロヘルツ前後の短い声は、遊びやくすぐりなど楽しい場面で多く出ます。22キロヘルツ前後の長い声は、こわいときや争いの場面で出ます。ふつうの場面では、人はどちらの声も聞き取れません。

研究者たちは、50キロヘルツの声を、ラットが遊びを楽しんでいる目安として使ってきました。2023年の研究では、ラットは人にさわられるだけだと少し鳴き、遊んだりくすぐられたりすると、ずっと多く鳴きました。ただし、声だけで気持ちを決めつけることはできません。同じ種類の声でも、場面や個体によってばらつきがあります。

研究方法の工夫と限界

この研究の工夫は、自由な遊びを、はっきりした場面の区切りで整理したことです。ふたが閉まる、ふたが開く、飛び出す、見つける、じゃれ合う。こうした場面ごとに脳の活動をそろえれば、毎回違う遊びでも比べられます。

一方で、遊び相手が人間なので、ラットどうしの遊びとは違うかもしれません。また、ラットが「相手から見えるかどうか」を考えて箱を選んだのかは、行動だけからは決められません。チームは、鬼のときにはこの好みが出なかったことを示し、隠れる役のときだけの選び方だとしています。

06まとめ

ドイツの研究で、ラットは人間とのかくれんぼをすぐに覚え、鬼と隠れる役を交代できました。ごほうびはエサではなく、くすぐりなどの遊びでした。

鬼のときはよく鳴き、隠れるときは声を出さずに中の見えない箱を選びました。脳の前のほうでは、ゲームの場面ごとに違う細胞が活動していました。ただし、ラットが相手の考えを読んでいるのかは、まだ分かっていません。

見つかったラットは、すぐには出てこずに、別の場所へ隠れ直すことがよくありました。ごほうびのくすぐりが遅れても、ラットは遊びのほうを長引かせたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ドイツ・ベルリン(フンボルト大学)

研究チーム
ドイツのフンボルト大学ベルリンのアニカ・ラインホルト、ミヒャエル・ブレヒトらのチーム
調べた場所
ドイツ・ベルリンの大学の実験室(広さ約30平方メートルの部屋)
調べた動物
実験用のラット(オス)
調べ方
ラットに人間とのかくれんぼを教え、声と動きを記録した。脳の前のほうの細胞の活動も測った
分かったこと
ラットは鬼と隠れる役を交代でき、隠れるときは黙って中の見えない箱を選んだ
まだ分からないこと
ラットは相手の気持ちや考えを読んで遊んでいるのか。ラットどうしでもかくれんぼをするのか
論文
Science(2019年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Rats Can Play Hide-and-Seek With People

Scientists in Berlin taught rats to play hide-and-seek with people. The game took place in a large room with many boxes. The rats learned the game quickly. They could take turns as the seeker and the hider.

The rats did not get any food for playing. Instead, the scientists tickled them and played with them.

When the rats were seekers, they made many sounds. When they were hiders, they stayed very quiet. They also chose boxes that people could not see into. Sometimes a rat that was found tried to hide again. The rats seemed to want to make the game last longer.

The scientists also recorded cells in the front part of the brain. Many cells became active at certain moments in the game. We still do not know if rats think about what the other player sees.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the rats get for playing?ラットは遊ぶと何をもらいましたか。

Q2. What did the rats do when they were hiders?隠れる役のとき、ラットはどうしましたか。

Q3. Which sentence is true?正しい文はどれですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Reinhold, A. S. et al. (2019) Behavioral and neural correlates of hide-and-seek in rats. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aax4705
  2. 2Bagi, B. et al. (2022) Unsupervised discovery of behaviorally relevant brain states in rats playing hide-and-seek. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2022.04.068
  3. 3Concha-Miranda, M. et al. (2020) Play, but not observing play, engages rat medial prefrontal cortex. European Journal of Neuroscience 論文確認済みdoi:10.1111/ejn.14908
  4. 4Gloveli, N. et al. (2023) Play and tickling responses map to the lateral columns of the rat periaqueductal gray. Neuron 論文確認済みdoi:10.1016/j.neuron.2023.06.018
  5. 5フンボルト大学ベルリン(2019)プレスリリースidw-online.de/de/news723380

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい