コウモリの子は、まわりの大勢の声に合わせて「方言」を身につけた。1年間の飼育実験

コウモリの子を3つの部屋で育て、部屋ごとに高さの違う群れの声を流した。1年後、子の鳴き声は部屋ごとに分かれ、3つの方言ができていた。

No.188 7分で読めるえっ度 論文 2024年
うす暗い洞窟の天井に、大きな目のオオコウモリが何十匹もぶら下がっている。その中で、まだ小さな子どものコウモリが、母親のおなかにしがみつきながら口を開けている。

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  1. コウモリの子を3部屋に分け、高さの違う群れの声を1年流した
  2. 子の鳴き声は、流された声に近づき、部屋ごとの方言になった
  3. 親1匹ではなく、まわりの大勢の声から学んでいたらしい

人に話すなら

コウモリの赤ちゃんを3つの部屋に分けて、部屋ごとに違う高さの群れの声を1年間流したんだって。そしたら部屋ごとに鳴き方が分かれて、「方言」ができたらしいよ。親よりまわりの大勢から覚えるみたい。

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読む前に予想しよう

コウモリの子の鳴き声は、生まれつき決まっていて、まわりの声では変わらない

真っ暗な洞窟に、何百匹ものコウモリがぶら下がっています。あちこちで、鳴き声が飛びかいます。生まれたばかりのコウモリの子は、この声の中で育ちます。子が聞く声のほとんどは、母親ではなく、ほとんどかかわりのない大勢の大人の声です。

イスラエルのテルアビブ大学のチームは、この環境を実験室で作りました。コウモリの子を3つの部屋に分け、部屋ごとに声の高さの違う群れの声を、1年間流し続けたのです。すると、子の鳴き声は流された声の高さに近づいていきました。生後7〜8か月ごろには、部屋ごとに鳴き声がはっきり分かれました。3つの「方言」ができたのです。

動物の群れごとに鳴き声が違うことは、野生でも知られています。でも野生では、その違いが「学んだもの」なのか、遺伝や住む場所の違いによるものなのかを分けるのが難しいのです。この実験は、聞いた声だけを変えて、ほかの条件をすべてそろえました。

01洞窟のようにうるさい部屋を、3つ作った

研究したのは、テルアビブ大学のヨセフ・プラット(Yosef Prat)さん、ヨシ・ヨベル(Yossi Yovel)さんたちです。結果は2017年に発表されました。

使ったのは、エジプトルーセットオオコウモリです。果物を食べる大きなコウモリで、数十匹から数千匹の群れでくらします。とてもよく鳴くコウモリです。

チームはまず、イスラエル中部の野生のすみかで、出産が近いメスをつかまえました。メスは、音を通さない同じ作りの部屋3つに、でたらめに分けられました。部屋は長さ190cm、幅90cm、高さ82cmで、中を飛べる広さです。母親はそれぞれの部屋で子を1匹ずつ産みました。高いグループとふつうのグループでは、子が1匹ずつ、生まれて数日で死にました。そこで、ふつうのグループには、野生でつかまえた生後約1.5か月の子を母親ごと加えました。子は3つのグループに分かれ、5匹・5匹・4匹になりました。

各部屋にはスピーカーを置き、生まれた日から1年間、同じ種のコウモリの鳴き声を流し続けました。声の量は、およそ100〜200匹の大人が鳴いているのと同じくらいです。子は、母親の声が大勢の声にまぎれて聞こえる、野生の洞窟に近い状態で育ちました。母親は、子が乳離れした(生後約14週)数週間後に、部屋から出されました。

02部屋ごとに、流す声の高さを変えた

このコウモリの鳴き声は、ほとんどが、仲間と体がぶつかったときなどに出す言い争いの声です。チームは、前に同じ部屋で録音した何千もの声から、流す声を選びました。変えたのは、声の高さです。

  • ふつうのグループ(5匹):ふつうの割合で声を選んだ。平均の高さは564ヘルツ
  • 低いグループ(5匹):低い声を多く選んだ。平均の高さは303ヘルツ
  • 高いグループ(4匹):高い声を多く選んだ。平均の高さは1871ヘルツ

ヘルツは、音の高さを表す単位です。数字が大きいほど高い音になります。高いグループの声は、自然の群れよりも高い声がずっと多い、不自然な組み合わせでした。また、このコウモリの声は、大人になるにつれて低くなっていきます。高いグループでは、その流れとは逆の方向に子を引っぱることになります。チームは、高い声のほうがまねしにくいだろうと予想していました。

声を流すのは、1日中です。野生のコウモリが鳴く時間に合わせて、明け方と夕方に多く、昼より夜に多く流しました。1日に流した声のまとまりは、どの部屋も1万4057回です。母親がいた最初の14週の間、子は1日に、母親が出す声の少なくとも16〜30倍の量の声を、スピーカーから聞いていました。

3つの同じ形の小さな飼育部屋が横に並んでいる。どの部屋にも天井にコウモリが数匹ぶら下がり、部屋のすみにスピーカーが1つずつ置かれている。人は描かない。

03生後7〜8か月ごろから、3つの方言がはっきり分かれた

チームは1年の間に4回、子の声を録音しました。年齢でいうと、生後12〜18週、31〜35週、40〜43週、48〜51週です。条件をそろえるため、録音は4つ目の同じ作りの部屋で、声を流さずに行いました。子どもたちが仲間どうしで鳴き合う声を、そのまま録ったのです。

どの子が鳴いたかは、ビデオで口の動きを見て確かめました。子の毛を一部だけ脱色して、見分けられるようにしていました。少しでも迷った声は、分析から外しています。

チームは、1つ1つの声から、高さなど7つの特徴を測りました。そして、流した3種類の声の違いが最もはっきり出る計算式を作り、その式で子の声を分けてみました。子どもどうしの違いが出やすい式ではなく、流した声に合わせた式を使ったところが工夫です。その式で子の声が分かれれば、流した声の影響だと言えるからです。

最初の録音(生後12〜18週)では、正しく分かれた子は14匹中10匹で、グループの差ははっきりしませんでした。2回目の生後31〜35週には、14匹全員が、その式で自分のグループに正しく分けられました。最後の生後48〜51週でも、14匹全員が正しく分かれました。

04低い声を聞いた子は低い声を、高い声を聞いた子は高い声を使った

流した声の高さに、子の声は本当に近づいたのでしょうか。チームは、声の高さを直接比べました。

低いグループの子は、生後約31週から、250ヘルツより低い声を、ふつうのグループより多く使うようになりました。高いグループの子は、少なくとも生後約43週まで、1315ヘルツより高い声をふつうのグループより多く使いました。ただし、どのグループの子も、いちばんよく使ったのは600ヘルツくらいの声でした。研究チームは、この高さを好む生まれつきの傾向があるのだろうと考えています。

ほかの原因も調べました。体の大きさ(体重)と声の高さには、関係がありませんでした。オスとメスの差もありませんでした。翼の膜を小さく切り取ってDNAを調べると、同じグループの子どうしが、ほかのグループの子より血のつながりが近いわけでもありませんでした。母親をでたらめに部屋に分けたうえ、DNAでも確かめたので、遺伝で方言ができたとは考えにくいのです。

子は、スピーカーの声の主と一度も会っていません。流した声の主は、子に何も教えていません。子は、ただまわりで聞こえる大勢の声から、鳴き方を学んでいました。研究チームは、これを「群れからの声の学習」と呼んでいます。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

学んだ声と、生まれつきの声

この実験は、学習だけでは決まらない部分も見せています。高いグループの子は、2000ヘルツを超える声はほとんど使いませんでした。流した声には、そうした声もたくさん入っていました。さらに、生後43週を過ぎて大人になると、高い声を使うことが減りました。高い声は、もともと若いコウモリの声で、大人はめったに出しません。体のつくりによる制限が、学習に勝ったのかもしれない、と研究チームは書いています。

アメリカのカリフォルニア大学バークレー校のチームは2024年、生まれてすぐ耳が聞こえない状態にした子を育てました。大人になってから声を調べると、耳からの音の手がかりが必要だったのは、声の一部だけでした。このコウモリの声には、学んで身につける部分と、生まれつきの部分が混ざっているようです。

同じチームの前の実験

テルアビブ大学のチームは2015年にも、子どもを大人の声から引き離して育てる実験をしています。大人の声を聞かずに育った子は、鳴き声の発達がおくれました。録音した声を聞かせると、子は聞いた声に似た声を出しました。ただ、このときはまだ、群れの中にいる子どもの声が、聞く声によって変わるかは分かっていませんでした。2017年の実験は、その答えを出したことになります。

大人になっても、声は変わる

カリフォルニア大学バークレー校のチームは2019年、大人のエジプトルーセットオオコウモリに、ザーッという雑音を聞かせ続けました。するとコウモリは、声の特徴の一部を変えました。その変化は、雑音を止めた後も、数週間から数か月続いたコウモリがいました。声を変える力は、子どもの時期だけのものではないようです。

サルでも、まわりの声で方言が変わった

スイスのチューリッヒ大学のチームは2019年、飼育されているコモンマーモセットというサルで実験しました。マーモセットの群れを、鳴き方の違う別の群れの近くに引っ越させたのです。直接ふれ合わなくても、16週の間に、3種類の声のうち2種類が引っ越し先の群れの声に近づきました。研究チームは、霊長類で「群れからの声の学習」を示した初めての研究だと書いています。

テルアビブ大学のチームは、クジラのように声が遠くまで届く動物や、アザラシや海鳥のように大勢が集まる動物でも、同じ学び方が見つかるかもしれないと考えています。

05まとめ

コウモリの子を3つの部屋で育て、部屋ごとに高さの違う群れの声を1年間流しました。すると、子の鳴き声は流された声の高さに近づき、生後7〜8か月ごろには、3つの方言がはっきり分かれました。子は声の主と一度も会っていません。まわりで聞こえる大勢の声だけで、鳴き方が変わったのです。

ただし、どのグループも600ヘルツくらいの声をいちばんよく使い、高すぎる声は大人になると使わなくなりました。学んだ部分と生まれつきの部分が、一緒になって声を作っているようです。母親より、洞窟いっぱいの「近所の声」のほうが、コウモリの子の話し方を決めていたのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

イスラエル・テルアビブ

研究チーム
イスラエルのテルアビブ大学のチーム(第一著者ヨセフ・プラット、ヨシ・ヨベルら)
調べた場所
テルアビブ大学の、音を通さない飼育部屋
調べた動物
エジプトルーセットオオコウモリ(学名 Rousettus aegyptiacus)の子14匹。5匹・5匹・4匹の3グループ
調べ方
生まれた日から1年間、部屋ごとに高さの違う群れの声をスピーカーで流し、子の鳴き声を4回録音した
分かったこと
生後7〜8か月ごろから、子の鳴き声が部屋ごとにはっきり分かれた。流された声の高さに近づいた
まだ分からないこと
子が特定の声をまねたのかは分からない。生まれつきの好みと学習がどう組み合わさるかも、まだはっきりしない
論文
PLOS Biology(2017年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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Baby Bats Learn from the Crowd

Egyptian fruit bats live in big groups in dark caves. A baby bat hears many voices around it every day. Most of them are not its mother's voice.

Scientists in Israel put baby bats in three rooms. For one year, they played bat voices from a speaker in each room. One room heard many low voices, and another room heard many high voices. The third room heard normal voices.

The young bats never met the bats on the speakers. But their voices slowly became like the voices they heard. By the age of about seven months, each room had its own way of calling. The scientists called these dialects.

So baby bats learn from the crowd, not only from their mothers. But they never copied the very highest voices, and they used high voices less as adults.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How long did the scientists play bat voices?研究者は、どのくらいの間コウモリの声を流しましたか。

Q2. Did the young bats meet the bats on the speakers?子どもたちは、スピーカーの声の主に会いましたか。

Q3. What did each room have after about seven months?約7か月後、それぞれの部屋には何ができていましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Prat, Y. et al. (2017) Crowd vocal learning induces vocal dialects in bats: Playback of conspecifics shapes fundamental frequency usage by pups. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.2002556
  2. 2Prat, Y., Taub, M. & Yovel, Y. (2015) Vocal learning in a social mammal: Demonstrated by isolation and playback experiments in bats. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.1500019
  3. 3Zürcher, Y., Willems, E. P. & Burkart, J. M. (2019) Are dialects socially learned in marmoset monkeys? Evidence from translocation experiments. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0222486
  4. 4Genzel, D. et al. (2019) Long-term and persistent vocal plasticity in adult bats. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-019-11350-2
  5. 5Elie, J. E. et al. (2024) Role of auditory feedback for vocal production learning in the Egyptian fruit bat. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.07.053

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい