コウモリの口げんかの声から、誰が何でもめているかを、コンピューターが6〜7割当てた
オオコウモリの口げんかの声を約1万5000回分析すると、声だけで、鳴いたのは誰か、エサや寝場所など何でもめているか、誰に向けた声かをかなり当てられた。

30秒で読む
- オオコウモリの声のほとんどは、2匹の間の口げんかだった
- 声だけで、7匹のうち誰が鳴いたかを7割の確率で当てられた
- 何でもめているか、誰に向けた声かも、声に表れていた
人に話すなら
コウモリってギャーギャー口げんかばっかりしてるんだけど、その声をコンピューターで調べたら、誰が鳴いたかも、エサでもめてるのか寝場所でもめてるのかも、声だけで6〜7割当てられたんだって。
読む前に予想しよう
オオコウモリのけんかの声は、もめている理由が違っても全く同じだった
声だけで、エサや寝場所など4つの理由のどれかを61%の割合で当てられた。
オオコウモリの群れは、ねぐらでいつも鳴き合っています。エサの取り合い、寝る場所の取り合い。人が聞くと、どれも似たような「ギャーギャー」という声です。動物の声の研究では、こうした声は「争いの声」とひとまとめにされることが多くありました。
イスラエルのテルアビブ大学のチームは、オオコウモリ22匹を75日間、昼も夜も録音・録画しました。約1万5000回の声をコンピューターで分析すると、声だけで、7匹のうち誰が鳴いたかを71%の割合で当てられました。でたらめに当てたら14%です。何でもめているかも、61%の割合で当てられました。
さらに、誰に向けた声なのか、けんかの後にどうなるのかも、でたらめより高い割合で当てられました。毎日のありふれた口げんかの声に、たくさんの情報が入っていたのです。
01オオコウモリの声のほとんどは、2匹の間の口げんかだった
調べたのは、エジプトルーセットオオコウモリです。果物を食べるコウモリで、数十匹から数千匹の群れで暮らします。少なくとも25年生きることがあり、声を学んで身につける力もあります。
研究に使ったコウモリは、イスラエルのヘルツリーヤという町の近くにあるねぐらから捕まえました。ふだん5000〜1万匹のコウモリがすむ場所です。
ねぐらでの鳴き声は、ほとんどが2匹の間の争いで出る声です。エサの取り合い、とまる場所の取り合い、オスが交尾しようとしたときのメスの抗議。どれも、片方がもう片方の近くに入りこみ、相手が声で文句を言う場面です。
これまでの研究では、こうした声は「争いの声」として1つにまとめられがちでした。声の特徴でも、そのときの行動でも、細かく分類するのが難しかったからです。チームは、この「ひとまとめの声」の中身を調べることにしました。
0222匹を75日間、昼も夜も録音・録画した
研究したのは、テルアビブ大学のヨセフ・プラット(Yosef Prat)さん、モル・タウブ(Mor Taub)さん、ヨシ・ヨベル(Yossi Yovel)さんです。
コウモリは、外の音が入らない2つの部屋で飼いました。部屋はコウモリが飛べる広さで、壁には反響をおさえるスポンジ状の材料をはりました。1つ目の部屋にはメス6匹、子ども5匹、オス1匹。2つ目の部屋にはメス4匹、子ども4匹、オス1匹、若いコウモリ1匹です。
それぞれの部屋に、暗くても映る赤外線カメラと、超音波も録れるマイク2本を置きました。75日間、24時間止めずに記録しました。1匹ずつ見分けられるように、コウモリには光を反射する円板のついた首輪をつけました。
録れた声は16万2376回です。訓練を受けた学生が、声と同時に撮れた動画を1つずつ見て、次のことを書き出しました。
- 鳴いたのは誰か(口の動きで見分け、2〜3台のカメラで確かめる)
- 誰に向けて鳴いたか
- 何でもめていたか
- 鳴いた後、2匹はどうしたか
鳴いたのが誰か少しでも迷う声は、分析から外しました。このため、全体の約9割は使えませんでした。最後に残ったのは、大人のメス7匹の1万4863回の声です。オスはあまり鳴かなかったので、分析に入れませんでした。
もめごとの種類は、次の4つに分けました。
- エサの取り合い
- オスの交尾の誘いに対するメスの抗議
- 近くにとまった2匹のにらみ合い
- 昼間に寝ている集団の中での場所の取り合い
03声だけで「誰が」「何で」もめているかを当てられた
分析には、人の声を聞き分ける技術を使いました。声を細かく区切り、それぞれの部分について、音の高さごとの強さを数字にします。これは、人の話し言葉をコンピューターに聞き取らせるときによく使う方法です。そのうえで、人の声から話し手を当てる方法を、コウモリの声に使いました。
コンピューターには、一部の声で「この声はこのコウモリ」と覚えさせました。そして、覚えるときに使わなかった声で、正しく当てられるかを試しました。
鳴いたのが7匹のうち誰かは、71%の割合で当てられました。でたらめに当てたら14%です。以前の実験の記録も加えて15匹に増やしても、56%の割合で当てられました。でたらめなら7%です。
何でもめているかは、4つのうちどれかを61%の割合で当てられました。でたらめなら25%です。1匹ずつに分けて調べると、当たる割合は平均75%に上がりました。
チームは、ほかの理由で当たっていないかも確かめました。たとえば、エサの取り合いでは、口に食べ物が入っているせいで声が変わるかもしれません。そこで、口に食べ物がないと確認できた声だけで試すと、64%で当てられました。声が出ていない部分の録音だけでは、もめごとの種類を当てられませんでした。部屋の物音で当てていたわけではない、ということです。

04誰に向けた声か、けんかの後どうなるかも、声に表れていた
次に、同じコウモリの声が、相手によって違うかを調べました。一番たくさん声が録れたメスの場合、3匹の相手のうち誰に向けた声かを50%の割合で当てられました。でたらめなら33%です。ほかのメスでも、1匹を除いて、でたらめより高く当てられました。
相手がオスかメスかは、64%の割合で当てられました(でたらめなら50%)。メスだけを相手にした声にしぼっても、ほとんどのメスで相手ごとの違いが残りました。
けんかの後どうなるかも予想できました。2匹が離れるか、近くに残るかは62%の割合で当てられました(でたらめなら50%)。どちらが残ってどちらが去るかまで分けた4通りでも、41%で当てられました(でたらめなら25%)。
ただし、誰に向けた声かと、けんかの後どうなるかは、当たる割合がほかより低めでした。チームは、鳴いたコウモリや、もめごとの種類のかたよりで当たっただけではないかも確かめました。メス1匹ずつ、もめごと1種類ずつに分けて調べ直しても、多くの組み合わせで、でたらめより高く当てられました。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「声に情報がある」と「コウモリがそれを使っている」は別の話
この研究で分かったのは、コンピューターが声から読み取れる情報です。チームも、これを「声から取り出せる可能性のある情報」と定義しています。コウモリ自身がこの違いを聞き分け、相手やもめごとの理由を知っているのかは、まだ分かっていません。
一方で、チームは逆の見方も書いています。分析に使ったのは、音の高さの成分だけです。音が時間とともにどう変わるかは使っていません。コウモリの耳と脳は、もっと多くの情報を取り出しているかもしれません。その場合、今回の数字は「少なくともこれだけは入っている」という下限になります。
また、調べたのは飼育室の22匹で、分析できたのは大人のメス7匹の声だけです。何千匹もいる野生のねぐらで同じように当てられるかは、この研究からは分かりません。
研究のその後
チームは2017年に、録音を1年以上続けた約30万個の音声ファイルを公開しました。そのうち約9万個には、誰が誰に、どんな場面で鳴いたかの記録がついています。世界中の研究者が、同じデータで分析できるようにしたのです。
同じ2017年には、子どものコウモリが声をどう覚えるかの実験も発表されました。チームは子どもを3つのグループに分け、それぞれに高さの違う群れの声を流して育てました。すると生後6か月ごろから、グループごとに違う「方言」が生まれました。子どもは母親だけでなく、まわりの群れ全体の声から学んでいたのです。
2023年には、同じ研究室が、いくつもの音がつながった声のほうが、1つの音よりも場面の情報を多く持つことを示しました。ただし、音の並ぶ順番は、場面の区別には関係していませんでした。チームは、コウモリが本当にこの情報を使っているかは、声を聞かせる実験で確かめる必要があると書いています。
人の会話との共通点
鳥のさえずりや、多くの種類の警戒の声は、まわりのたくさんの相手に向けて出されます。一方、オオコウモリの争いの声は、目の前の1匹に向けた声です。チームは、特定の相手に向けて話す人の会話と、この点が似ていると書いています。動物のことばの研究では、目立つ声だけでなく、こうした毎日のありふれた声も調べるべきだというのが、チームの主張です。
第一著者のプラットさんは2019年に別の論文を書き、人の話し言葉と動物の声を、かたよりなく同じ条件で比べた研究はほとんどないと指摘しました。人の言葉だけが特別かどうかは、そうした比べ方をしてから決めるべきだという考えです。
05まとめ
オオコウモリの群れで聞こえる声のほとんどは、2匹の間の口げんかでした。75日分の録音から約1万5000回の声を調べると、声だけで、鳴いたのは誰か、エサや寝場所など何でもめているか、誰に向けた声かまで、でたらめより高い割合で当てられました。人が聞くと似たような「ギャーギャー」でも、その中には、相手と理由の違いが入っていたのです。
研究カルテ
イスラエル テルアビブ大学
- 研究チーム
- イスラエルのテルアビブ大学のチーム(第一著者ヨセフ・プラット)
- 調べた場所
- テルアビブ大学の防音の飼育室
- 調べた動物
- エジプトルーセットオオコウモリ(学名 Rousettus aegyptiacus)22匹
- 調べ方
- 75日間24時間録音・録画し、約1万5000回の声をコンピューターで分析した
- 分かったこと
- 声だけで、鳴いたのは誰か、何でもめているか、誰に向けた声かを、でたらめより高い割合で当てられた
- まだ分からないこと
- コウモリ自身が、声のこうした違いを聞き分けて使っているのか
- 論文
- Scientific Reports(2016年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Fruit bats live in large groups and make a lot of noise. Most of their calls come from small fights between two bats. To people, the calls all sound alike.
Scientists in Israel kept 22 bats in two rooms. They recorded the bats day and night for 75 days. Each bat wore a small collar, so the scientists could tell them apart. Then they used a computer to study about 15,000 calls.
The computer could often tell which bat was calling. It could also tell what the bats were fighting about. For example, they fought about food or places to sleep. The calls also changed a little for different listeners.
So the calls carry information about the caller, the reason, and the listener. But we do not know yet if the bats use this information.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How long did the scientists record the bats?研究者はどのくらいの間、コウモリを記録しましたか。
75日間、昼も夜も録音・録画を続けました。
Q2. What did the bats often fight about?コウモリはよく何でけんかしていましたか。
エサの取り合いや、寝る場所の取り合いなどでもめていました。
Q3. What do we not know yet?まだ分かっていないことは何ですか。
コンピューターは違いを見つけましたが、コウモリ自身が使っているかは分かっていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Prat, Y., Taub, M. & Yovel, Y. (2016) Everyday bat vocalizations contain information about emitter, addressee, context, and behavior. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/srep39419
- 2Prat, Y. et al. (2017) An annotated dataset of Egyptian fruit bat vocalizations across varying contexts and during vocal ontogeny. Scientific Data 論文確認済みdoi:10.1038/sdata.2017.143
- 3Prat, Y. et al. (2017) Crowd vocal learning induces vocal dialects in bats: Playback of conspecifics shapes fundamental frequency usage by pups. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.2002556
- 4Prat, Y. (2019) Animals Have No Language, and Humans Are Animals Too. Perspectives on Psychological Science 論文確認済みdoi:10.1177/1745691619858402
- 5Amit, Y. & Yovel, Y. (2023) Bat vocal sequences enhance contextual information independently of syllable order. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2023.106466
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





