内戦中に象牙目当ての密猟が続いたあと、牙のないメスのゾウが2割弱から5割に増えていた

内戦中に象牙目当ての密猟が続いた公園で、牙のないメスのゾウが約2割から約5割に増えた。この性質は母から娘へ伝わり、受けついだオスは生まれる前に死ぬらしい。

No.131 8分で読めるえっ度 論文 2023年
草原の水辺で、牙のない大人のメスのアフリカゾウ(大きな耳を持つサバンナゾウ)が、鼻を地面につけて歩いている。後ろには小さな子ゾウがついてきている。

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  1. 内戦の密猟で、ゾウの9割以上がいなくなった
  2. 生き残ったメスの半分は、生まれつき牙がなかった
  3. 牙のない母の子は、娘が多く、その半分ほどに牙がなかった

人に話すなら

モザンビークの国立公園で、内戦中にゾウが象牙目当てで大量に殺されたんだって。そしたら、もともと2割くらいだった牙のないメスが、生き残りでは半分になってたらしい。人間の密猟が、ゾウの群れの中身を変えちゃったんだよ。

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読む前に予想しよう

ゴロンゴサ国立公園では、牙のないオスのゾウも増えた

アフリカのサバンナにすむゾウは、オスにもメスにも牙があります。牙は上あごの前歯がのびたもので、生まれつき牙のないゾウはめったにいません。ところが、アフリカ南東部のモザンビークにあるゴロンゴサ国立公園では、内戦を生きのびたメスのゾウの半分ほどに、牙がありませんでした。

アメリカのプリンストン大学などの研究チームが、その理由を調べました。内戦の前に18.5%だった牙のないメスは、内戦を生きのびたメスでは50.9%に増えていました。内戦をはさむ28年間で、牙のないメスは、牙のあるメスより5倍以上生き残りやすかったと計算されました。

内戦のあいだ、ゾウは象牙をねらって次々に殺されました。牙のないゾウは、ねらわれにくかったのです。そして牙のないことは、母から娘へ遺伝で受けつがれていました。人間の行いが、たった十数年で、牙のないゾウの割合を大きく変えていたことになります。

01内戦の15年で、ゴロンゴサのゾウは9割以上いなくなった

ゴロンゴサ国立公園は、モザンビークの中部にあります。1972年には、2542頭のゾウがいました。

1977年から1992年まで、モザンビークでは15年にわたる内戦が続きました。公園の大型の草食動物は、9割以上がいなくなりました。戦った両方の軍が、象牙を目当てにゾウを殺したのです。2000年に数えたとき、ゾウは242頭しかいませんでした。

ゴロンゴサでは、内戦の前から、牙のないメスがほかの地域より多くいました。ジョイス・プール(Joyce Poole)さんたちは、この公園のゾウを長く調べてきました。プールさんたちによると、この地域では1200年ごろから象牙の取引が続いていました。昔からの象牙狩りが、牙のないメスを少しずつ増やしていた可能性があると、プールさんたちは書いています。

ほかの地域とも比べてみます。1965年から1969年に、ウガンダ、ケニア、タンザニアで、ゾウ2900頭が数を減らすために駆除され、くわしく調べられました。生まれつき両方の牙がないメスは、1.5%でした。

02昔の映像と今の観察を比べると、牙のないメスの割合は3倍近くになっていた

研究の中心は、プリンストン大学のシェーン・キャンベル=ステイトン(Shane Campbell-Staton)さんとブライアン・アーノルド(Brian Arnold)さんです。同じ大学のロバート・プリングル(Robert Pringle)さんも加わりました。ゴロンゴサ国立公園やアメリカのアイダホ大学の研究者も一緒です。プールさんも著者の一人です。

内戦の前のゾウについては、昔撮られた映像を使いました。映像に映ったメスのゾウを1頭ずつ見て、牙があるかどうかを数えたのです。内戦の後のゾウは、今の観察記録で数えました。牙のないメスは、内戦前の18.5%から、生き残ったメス108頭では50.9%になっていました。3倍近くです。

ただ、数が大きく減ると、たまたま牙のないゾウが多く残ることもありえます。そこでチームは「牙があってもなくても生き残りやすさは同じ」と仮定しました。その条件で、2542頭から242頭への減り方をコンピューターで何度も再現したのです。その条件では、50.9%まで増えることは、ほとんどありえませんでした。

チームは、1972年から2000年までの28年間で、牙のないメスの生き残りやすさも計算しました。牙のあるメスの約5.1倍でした。

03牙のない母の子は娘が多く、娘の半分ほどに牙がなかった

この公園では、牙のないオスは1頭も記録されていません。そこでチームは、遺伝のしくみを1つ予想しました。

メスは性染色体のX染色体を2本、オスはX染色体とY染色体を1本ずつ持っています。牙をなくす遺伝子の変化がX染色体にあり、1本にあるだけで牙がなくなる、と考えます。さらに、その変化を受けついだオスは、生まれる前に死んでしまうと考えます。

この予想が正しければ、こうなるはずです。

  1. 牙のある母から生まれる娘は、全員に牙がある。
  2. 牙のない母から生まれる娘は、半分に牙があり、半分に牙がない。
  3. 牙のない母から生まれる子は、息子の半分が生まれてこないので、3分の2が娘になる。

親子の記録を調べると、牙のある母の娘は、23頭中21頭に2本の牙がありました。牙のない母の娘は、牙が2本の娘が19頭、牙のない娘が21頭でした。牙のない母が産んだ子67頭のうち、65.7%がメスでした。予想の66.7%とほとんど同じです。牙のある母の子では、メスは54.2%でした。

ただし、牙が1本だけの娘も生まれていました。牙のない母の娘では7頭です。1つの遺伝子だけでは説明しきれない部分も残っています。

草原に3頭のメスのアフリカゾウ(大きな耳を持つサバンナゾウ)が並んで立っている。左のゾウには長い牙が2本、まん中のゾウには牙が1本だけ、右のゾウには牙がない。

04遺伝子を調べると、歯をつくる2つの遺伝子が候補にあがった

チームは、メスのゾウ18頭の血液からDNAをとり、すべて読みとりました。牙のあるメスが7頭、牙のないメスが11頭です。両方を比べて、牙のないゾウのDNAだけに、最近になって急に広がったあとが残る場所を探しました。

候補にあがったのは2つです。1つはX染色体にある「AMELX」という遺伝子です。歯の表面のエナメル質をつくるのに関わります。人では、この遺伝子をふくむX染色体の一部が欠けると、女性だけに出る病気になります。男性では生まれる前に死んでしまう病気です。この病気の女性では、上あごの前歯の横の歯が小さかったり、なかったりします。この歯は、ゾウの牙にあたる歯です。

もう1つは「MEP1a」という遺伝子で、歯の象牙質をつくるのに関わります。ゾウの牙の「象牙」は、この象牙質のことです。

ただし、2つの遺伝子のどこが変わると牙がなくなるのかは、見つかっていません。チームも「正確なしくみは解決していない」と書いています。

05内戦が終わっても、牙のないメスは多いまま

内戦が終わってから生まれた世代も調べました。1995年から2004年ごろに生まれたメス91頭のうち、牙がないのは33%でした。内戦前の18.5%より、まだ高いままです。

プールさんたちは、2011年から2019年にかけて9回、公園で1か月ずつの調査をしました。孫の世代にあたる、内戦後の2世代目のメスでも、牙のない割合は37%でした。ただし、この世代は調べた数が少なく、確かなことは言えないとプールさんたちは書いています。

牙は、ゾウにとって大事な道具です。土を掘って食べ物や塩分をとったり、木の皮をはいだりするのに使います。皮をはがれた木が枯れて、森が草原に変わることもあります。牙のないゾウが増えると、こうした働きが減り、公園の植物や地面の様子が変わる可能性があると、チームは指摘しています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

メスを助け、オスを殺す性質が広がった理由

ふつう、生まれる前にオスを死なせる遺伝子の変化は、子の数を減らすので広がりにくいはずです。けれども内戦中のゴロンゴサでは、牙のないメスほど生き残り、子を産むことができました。メスにとっての「得」が、オスにとっての「損」を上回ったと考えられます。

このように、一方の性には役立ち、もう一方の性には害になる性質が選ばれることを、「性的拮抗(きっこう)選択」と呼びます。チームは、人間の行いがこの選択を引き起こした例はめずらしいと書いています。また、内戦の前から牙のないメスがいたので、その遺伝子の変化はもともと群れの中にあったと考えられます。新しい変化が生まれたのではなく、もとからあった変化が一気に増えたということです。

牙のないゾウは、昔から知られていた

牙のないメスのゾウがいることは、ずっと前から知られていました。1965年から1969年の駆除のときの記録では、両方の牙がないオスは1頭もいませんでした。生まれつき片方の牙がないオスは15頭いました。

同じ記録では、海岸と海の交易に近い地域のほうが、内陸の地域より牙のないメスが多めでした。何百年もの象牙狩りの影響かもしれないと、記録をまとめた研究者は書いています。ゾウの牙が歯ぐきから出てくるのは1〜5歳です。若いゾウでは、牙がないのか、まだ出ていないのかを見分ける注意も必要です。

反対の見方と、この研究の限界

牙のないオスのゾウは、ゴロンゴサでも、よく調べられたほかの群れでも記録されていません。ただし、ほかの地域では、牙のないオスを見たという話がいくつかあります。チームは、けがや見まちがいでは説明できない例は確認できなかったとしつつも、別の遺伝のしくみがある可能性は否定できないとしています。

内戦前の割合は、昔の映像から数えたものです。牙があるかどうかをはっきり見分けられないゾウは、数に入れていません。また、牙が1本だけのメスもいます。チームは、ほかの遺伝子が牙の出方に影響している可能性をあげています。2本のX染色体のどちらが働くかが細胞ごとに違うことも、関わっているかもしれません。

遺伝子を読んだのは18頭だけです。アフリカ全体のゾウで同じしくみが働いているかは、ほかの地域の群れを調べないと分かりません。牙のない原因になる遺伝子の変化そのものも、まだ見つかっていません。

06まとめ

モザンビークのゴロンゴサ国立公園では、内戦中の密猟でゾウの9割以上がいなくなりました。生き残ったメスでは、牙のないメスが18.5%から50.9%に増えていました。親子の記録は、牙のない性質がX染色体の上の遺伝子の変化で母から娘へ伝わり、その変化を受けついだオスは生まれる前に死ぬ、という考えによく合っていました。内戦が終わって20年以上たった2010年代の調査でも、この公園の牙のないメスの割合は、内戦前より高いままでした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

モザンビーク ゴロンゴサ国立公園

研究チーム
アメリカのプリンストン大学などのチーム(第一著者シェーン・キャンベル=ステイトン)
調べた場所
モザンビークのゴロンゴサ国立公園
調べた動物
アフリカゾウ(サバンナゾウ、学名 Loxodonta africana)
調べ方
内戦前の映像と今の観察で牙のないメスの割合を比べ、親子の記録と18頭の遺伝子を調べた
分かったこと
牙のないメスは18.5%から50.9%に増えた。牙のないメスは5倍以上生き残りやすかった
まだ分からないこと
牙をなくす遺伝子の変化そのもの。ほかの地域のゾウでも同じしくみなのか
論文
Science(2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Elephants Without Tusks

Most African elephants have two long tusks. But in one national park in Mozambique, many female elephants have no tusks.

From 1977 to 1992, there was a war in Mozambique. People killed many elephants for their tusks. Elephants without tusks were safer, so more of them lived. Before the war, about 19 percent of females had no tusks. After the war, about 51 percent had no tusks.

Scientists studied mothers and their babies. About half of the daughters of tuskless mothers also had no tusks. Some daughters had only one tusk. These mothers also had more daughters than sons. Scientists think sons with this gene die before they are born.

Elephants use tusks to dig and to pull bark off trees. So this change may affect the plants in the park, too. Scientists still do not know the exact change in the gene.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Why did more tuskless elephants survive the war?なぜ牙のないゾウのほうが戦争を生きのびたのですか。

Q2. After the war, about how many females had no tusks?戦争の後、牙のないメスはどのくらいいましたか。

Q3. What do scientists think happens to sons with the tuskless gene?研究者は、牙のない遺伝子を持つ息子はどうなると考えていますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Campbell-Staton, S. C. et al. (2021) Ivory poaching and the rapid evolution of tusklessness in African elephants. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abe7389
  2. 2Poole, J. & Granli, P. (2022) The Gorongosa elephants through war and recovery. Pachyderm 論文確認済みdoi:10.69649/pachyderm.v63i.483
  3. 3Parker, I. S. C. (2023) Tusklessness and Tusk Eruption in East African Savanna Elephant. Journal of East African Natural History 論文確認済みdoi:10.2982/028.112.0401
  4. 4U.S. National Science Foundation(2021)Scientists pinpoint genes behind tuskless African elephantsnsf.gov/news/scientists-pinpoint-genes-tuskless-african-elep

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい