推定100歳をこえるニシオンデンザメの目は、暗い海で見るしくみが壊れていなかった

目に寄生虫がつき、見えていないと思われていたニシオンデンザメ。推定110〜134歳の個体の目を調べると、暗い所で働く細胞と遺伝子はそろっていた。

No.130 9分で読めるえっ度 論文 2026年
暗い青色の深海を、大きなニシオンデンザメがゆっくり泳いでいる。小さな目の表面には、細長い寄生虫が1匹ぶら下がっている。上の方から、かすかな青い光が差しこんでいる。

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  1. 目に寄生虫がつくサメは、見えていないと思われていた
  2. 推定100歳をこえる個体でも、網膜にはっきり傷んだあとはなかった
  3. 明るい所用の遺伝子は壊れ、暗い所用の遺伝子は働いていた

人に話すなら

何百年も生きるっていうニシオンデンザメ、目に寄生虫がついてて見えてないと思われてたんだって。でも100歳をこえたサメの目を調べたら、暗い所で見るための細胞はちゃんと残ってたらしいよ。

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ニシオンデンザメの目は、寄生虫のせいで光がほとんど通らない

ニシオンデンザメは、北大西洋から北極海の冷たい海にすむ大きなサメです。2016年の研究で、寿命は少なくとも272年と報告されました。体長5メートルをこえる一番大きな個体は、推定392歳(誤差はプラスマイナス120年)でした。いま知られている背骨のある動物の中で、一番長生きです。

グリーンランドのまわりでは、このサメの目によく寄生虫がついています。そのため「ほとんど見えていないのではないか」と考えられてきました。そこでスイスとアメリカなどの研究チームが、グリーンランドでとれたサメの目を、遺伝子から細胞まで調べました。すると、推定100歳をこえる個体でも、網膜に老化ではっきり傷んだあとは見つかりませんでした。

人の網膜では、光を感じる細胞が年とともに少しずつ減っていきます。これまでに報告された細胞の減り方から計算すると、もし人が400歳まで生きたら、暗い所で働く細胞の半分以上を失います。何百年も生きるサメの目は、なぜ傷まないのでしょうか。調べてみると、その手がかりも見えてきました。

01目に寄生虫がつくサメは、見えていないと思われていた

ニシオンデンザメがすむのは、水温がマイナス1.1度まで下がる海です。深さ3000メートル近くまでもぐります。光がほとんど届かない世界です。

グリーンランドのまわりでは、このサメの角膜(目の表面の透明な膜)に、カイアシ類という小さな甲殻類の寄生虫がよくついています。寄生虫が視界をさえぎると考えられてきました。

まっ暗な洞くつにすむ魚の中には、見る力を失ったものがいます。網膜が衰え、見るための遺伝子が壊れているのです。暗い海で何百年も生き、目に寄生虫までついているニシオンデンザメも、同じように見る力を失ったのではないか。そう考える研究者もいました。

ただ、反対の手がかりもありました。脳の中で目からの情報を処理する部分は、ほかのよく見えるサメやエイと同じくらいの大きさでした。目の奥には、光を反射して暗い所で光を集めやすくする層もあります。

研究を率いた一人、アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校のドロタ・スコウロンスカ=クラフチク(Dorota Skowronska-Krawczyk)さんは、サメの動画を見て気づきました。目がにごって見えるサメが、光の方へ目を動かしていたのです。

02グリーンランドの海でとった10匹の目を、いろいろな方法で調べた

研究の第一著者は、スイスのバーゼル大学のリリー・フォッグ(Lily Fogg)さんです。同じ大学のヴァルター・ザルツブルガー(Walter Salzburger)さんたちも加わりました。2016年の寿命の研究に加わった、デンマークのコペンハーゲン大学のジョン・フレン・ステフェンセン(John Fleng Steffensen)さんも著者の一人です。ステフェンセンさんは、論文が出る前に亡くなりました。

サメは2020〜2024年に、グリーンランド西部のディスコ島の沖でとりました。コペンハーゲン大学の北極観測所の近くです。研究用のはえなわで釣り上げ、その場で安楽死させてから目を取り出しました。調べたのは10匹で、体長は1メートルほどから3.65メートルまでです。

年齢は、2016年の研究で作られた「体長と年齢の関係」から推定しました。年齢が出せた個体は、推定110歳、126歳、130歳、134歳などでした。どれも、プラスマイナス20年ほどの誤差があります。

チームは、1匹の目から全部を調べたわけではありません。調べることごとに、使う個体を分けました。

  • 網膜をうすく切って、顕微鏡で見る(3匹)
  • 遺伝子を全部読んで、見るための遺伝子がそろっているか調べる
  • 網膜で、どの遺伝子がどのくらい働いているかを測る(3匹)
  • 寄生虫のついた角膜に光を当てて、どのくらい通るかを測る(5匹の角膜6枚)

03網膜は暗い所用の細胞だけでできていて、どの層も傷んでいなかった

人の網膜には、光を感じる細胞が2種類あります。暗い所で働く「桿体(かんたい)」と、明るい所で色を見分ける「錐体(すいたい)」です。ニシオンデンザメの網膜には、桿体しかありませんでした。桿体は細長く、すき間なく並んでいました。暗い深海にすむほかのサメや魚と同じ特徴です。

網膜は何層にも重なってできています。光を受ける層から、信号を脳へ送る層まで、すべての層がそろっていました。推定100歳をこえる個体でも、はっきりした老化のあとは見つかりませんでした。

チームは、細胞が死にかけているかどうかも調べました。細胞が死ぬとき、DNAはばらばらに切れます。切れたDNAを光らせる薬を使っても、サメの網膜に光る細胞はありませんでした。わざとDNAを切った切片では、きちんと光りました。薬はちゃんと働いていたことになります。

人の網膜では、桿体が1年に0.2〜0.6%ずつ減ると報告されています。この割合で400年たつと、50〜90%が失われる計算です。チームは、ゾウやカメについても老化の調べがあると書いています。今回一番年上と推定されたサメは、そうした研究で調べられた最高齢の個体の2〜4倍の年齢でした。

実験台の上に、取り出したサメの目玉が1つ置かれ、手袋をした手が透明な角膜に細い光を当てている。角膜のふちには寄生虫の小さな体がついている。

04遺伝子を読むと、明るい所用の部品だけが壊れていた

見るためには、光を受けてから信号を出すまでに、たくさんの遺伝子が働きます。チームはサメの遺伝子を読み、ジンベエザメやアオザメ、トラザメなど浅い海にすむ5種のサメと比べました。

暗い所で働く桿体のための遺伝子は、全部そろっていて、壊れていませんでした。一方、明るい所で働く錐体のための遺伝子は、ほとんどが壊れていました。形は残っていても、たんぱく質を作れない「なごり」になっていたのです。浅い海の5種のサメでは、これらの遺伝子は残っていました。

網膜で働いている遺伝子も測りました。3匹のサメの網膜では、桿体のための遺伝子がしっかり働いていました。その量は、ほかの種の大人のサメと同じくらいでした。錐体のための遺伝子は、ほとんど働いていませんでした。

桿体の中で光を受けるたんぱく質「ロドプシン」も調べました。チームはサメのロドプシンを実験室の培養細胞に作らせ、どの色の光を一番よく吸収するかを測りました。答えは458ナノメートルで、青い光です。浅い海のサメの多くより、青い側にずれていました。北極の深い海に届くのは、青い光が中心です。サメの目は、その光に合っているとチームは考えています。

寄生虫のついた角膜も、光を通していました。サメ5匹の角膜6枚は、どれもふちに寄生虫がついていました。それでも光の70〜100%が通りぬけました。

05網膜を長もちさせているのは、DNAを直すしくみかもしれない

年をとると、細胞のDNAには傷がたまっていきます。チームは、DNAの傷を直す遺伝子にも注目しました。

ERCC1という遺伝子があります。人では、この遺伝子が関わるしくみに生まれつき異常があると、紫外線に弱くなり、早くから視力が落ちる病気になります。この遺伝子を働かなくしたマウスでは、網膜の老化が早まります。

調べると、ニシオンデンザメを含む特に長生きのサメは、ERCC1を持っていました。寿命の短いサメでは、この遺伝子が見つかりませんでした。ERCC1と組んで働くERCC4という遺伝子は、ニシオンデンザメの網膜でほかのサメより多く働いていました。チームは、DNAを直すしくみが、何百年も網膜を保つのを助けている可能性があると書いています。ただし、これはまだ確かめられた結論ではありません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

「400歳のサメ」という年齢は、どうやって推定されたのか

2016年、デンマークのコペンハーゲン大学のユリウス・ニールセン(Julius Nielsen)さんたちは、サメの目のレンズの中心にふくまれる炭素を調べました。

1960年代の初め、核実験のために大気中の放射性の炭素が急に増えました。この「時代の目印」がレンズに入っていたのは、体長220センチ以下のサメだけでした。もっと大きなサメは、それより前に生まれていたことになります。チームは体長81〜502センチのメス28匹を調べ、寿命は少なくとも272年と結論しました。おとなになる年齢も、少なくとも156歳(誤差はプラスマイナス22年)と推定されました。

今回の研究は、このときの「体長と年齢の関係」を使って年齢を出しました。だから、どの年齢も推定で、プラスマイナス20年ほどの誤差があります。

この研究で分かったことと、分からないこと

分かったのは、見るための「部品」がそろい、働いていることです。網膜の細胞、遺伝子、光を受けるたんぱく質、光を通す角膜。どれも暗い海で見るのに合っていました。

一方で、サメが実際にどのくらい見えているかは、この研究では確かめていません。暗い所で物を見分ける行動の実験は、していないのです。顕微鏡で網膜を調べたのは3匹で、細胞の死を調べた染色は1匹でした。チーム自身も、冷たい海では体の働きがゆっくりになり、細胞の衰えがおそくなるのかもしれないと書いています。比べたほかのサメの中には子どものサメも入っていて、種の違いと年齢の違いを分けきれない点も認めています。

昼と夜を知るための遺伝子も壊れていた

哺乳類の網膜には、ものを見るのとは別に、光の明るさを感じて体内時計を昼夜に合わせる細胞があります。その細胞で働く「メラノプシン」の遺伝子が、ニシオンデンザメでは壊れていました。調べたサメの中で、壊れていたのはこの種だけです。洞くつにすむ魚の一部と同じ変化です。

ニシオンデンザメは、もぐる深さを昼と夜で変えるはっきりしたリズムを見せないと報告されています。光のほとんど届かない海では、この遺伝子の役目が小さくなったのかもしれない、とチームは考えています。

長生きの秘密を、遺伝子全体から探る研究も進んでいる

2026年には、東京大学などのチームが、ニシオンデンザメの遺伝子を染色体の単位までくわしく読んだ結果を発表しました。読んだ遺伝情報は59億塩基分です。その中に、免疫を強めるしくみ、がんにかかりにくくするしくみ、DNAを直すしくみなど、長生きと結びつく特徴が見つかりました。

目の研究と、遺伝子全体の研究。どちらも「DNAを直すしくみ」に行き着いています。ただ、どの遺伝子が本当に寿命をのばしているのかは、まだ実験で確かめられていません。

06まとめ

ニシオンデンザメの目は、寄生虫のせいで見えていないと思われてきました。ところが推定100歳をこえる個体の網膜は、暗い所で働く細胞だけでできていて、はっきり傷んだあとはありませんでした。明るい所用の遺伝子は壊れていましたが、暗い所用の遺伝子はしっかり働いていました。寄生虫のついた角膜も、光の7割以上を通しました。人なら網膜の細胞の多くを失う年齢でも、このサメの目は暗い海で見るしくみを保っていたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

グリーンランド ディスコ島

研究チーム
スイスのバーゼル大学、アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校などのチーム(第一著者リリー・フォッグ)
調べた場所
グリーンランド西部のディスコ島の沖(コペンハーゲン大学の北極観測所の近く)
調べた動物
ニシオンデンザメ(学名 Somniosus microcephalus)10匹
調べ方
網膜の切片を顕微鏡で見る、遺伝子を読む、網膜で働く遺伝子を測る、角膜を通る光を測る
分かったこと
網膜は暗い所用の細胞だけでできていて、推定100歳をこえる個体でもはっきり傷んだあとはなかった
まだ分からないこと
実際にどのくらい見えているのか。DNAを直すしくみが本当に網膜を守っているのか
論文
Nature Communications(2026年)
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Old Sharks Still Have Working Eyes

The Greenland shark lives in the cold, dark Arctic sea. It may live for hundreds of years. Small animals often hang from its eyes, so people thought it could not see.

Scientists caught ten sharks near Greenland and studied their eyes. Some of the sharks were more than one hundred years old. Their eyes did not show clear signs of damage from old age.

The sharks had only one type of light cell, the type for dark places. The genes for bright light were broken. But the genes for dim light were still working. Light also passed through the front of the eye, even with the small animals on it.

The scientists think genes that repair DNA may help the eyes stay healthy. We still do not know how well the sharks really see.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Why did people think the Greenland shark could not see?なぜニシオンデンザメは見えていないと思われていたのですか。

Q2. Which genes were still working in the sharks' eyes?サメの目でまだ働いていたのは、どの遺伝子ですか。

Q3. What do we still not know?まだ分かっていないことは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Fogg, L. G. et al. (2026) The visual system of the longest-living vertebrate, the Greenland shark. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-025-67429-6
  2. 2Nielsen, J. et al. (2016) Eye lens radiocarbon reveals centuries of longevity in the Greenland shark (Somniosus microcephalus). Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aaf1703
  3. 3UC Irvine School of Medicine(2026)Eye-opening researchmedschool.uci.edu/news/eye-opening-research
  4. 4Yang, K. et al. (2026) The Greenland shark genome: Insights into lifespan extremes and population dynamics. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2601272123

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい