推定194歳のゾウガメのDNAは、エネルギーを作る遺伝子の一部が若いカメと同じ状態だった
推定194歳のゾウガメのDNAの目印を調べると、全体は年齢どおり乱れていた。けれど、エネルギーを作る遺伝子の一部では、入り口が若いカメと同じく整っていた。

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- 推定194歳のゾウガメ・ジョナサンの全部のDNAが読まれた
- DNAの目印の乱れは、年をとるほど大きくなっていた
- エネルギーを作る遺伝子の一部では、入り口が乱れずに保たれていた
人に話すなら
194歳くらいのゾウガメのDNAを調べたら、全体は年相応に乱れてたのに、細胞のエネルギーを作る遺伝子の一部は、入り口が若いカメと同じように整ってたんだって。
読む前に予想しよう
194歳のジョナサンのDNAは、どの部分も若いカメとまったく同じだった
DNA全体の目印は年齢とともに乱れていた。乱れが小さかったのは一部の遺伝子の入り口だった。
南大西洋に浮かぶセントヘレナ島に、ジョナサンという名前のアルダブラゾウガメがいます。年齢は推定194歳です。知られている中で、世界でいちばん年をとった陸の動物とされています。
動物園などの記録をもとにした2022年の研究では、オスのアルダブラゾウガメの寿命は、平均で約80年、長くても約94年と見積もられました。ジョナサンは、その上限を100年近くこえて生きていることになります。2026年10月、アメリカなどの研究チームが、このジョナサンの全部のDNAを読み、5歳の子ガメなど4頭と比べた結果を発表しました。
チームが注目したのは、DNAそのものの違いに加えて、DNAにつく「目印」でした。目印の並び方は、年をとるとだんだん乱れていきます。ジョナサンでもDNA全体の目印は年齢どおり乱れていました。ところが、細胞の中でエネルギーを作るしくみの遺伝子の一部では、入り口の目印が、若いカメと同じように整っていたのです。
01血はとれないので、口の中をこすってDNAを集めた
研究の中心は、アメリカのカレル財団(Kallel Foundation)のチームです。第一著者はベンジャミン・バイスビル(Benjamin Vaisvil)さんです。アメリカのバンダービルト大学医療センターなどの研究者や、ジョナサンがくらすセントヘレナ島の政府の担当者も加わりました。
最初の壁は、DNAの集め方でした。DNAを調べるには、ふつうは血をとります。けれど、セントヘレナ島の担当者は、感染の危険をさけるため、ジョナサンから血をとることを認めませんでした。
そこでチームは、口の中の細胞と、だ液からDNAを集めました。論文には、そのときの様子も書かれています。植物のDNAがまざらないよう、作業は朝早くに行いました。えさをあげるふりをすると、ジョナサンは空中をかむような動きをします。その瞬間に、手袋をした手で口を開けたまま支え、もう片方の手で舌の下をこすりとったのです。
0236歳のゾウガメ「タンク」のDNAを手本にして読んだ
口の中からとれたDNAは、長い形のまま取り出すことができませんでした。DNAを長く読める方法が使えないため、チームは短く切って大量に読む方法を選びました。ジョナサンのDNAから、約11億本の短い断片を読みました。
短い断片だけでは、全体を正しく組み立てるのが難しくなります。そこでチームは、飼育されている36歳のアルダブラゾウガメ「タンク」から血をとりました。タンクのDNAを長く読み、ゾウガメの全部のDNAの「手本」を作ったのです。その手本にジョナサンの断片を重ね、ジョナサンのDNAを組み立てました。
こうして読んだジョナサンのDNAには、約2万5700個のたんぱく質を作る遺伝子が見つかりました。タンクと違う部分は、約690万か所ありました。
03老化にかかわるしくみの多くで、ジョナサンだけの違いがあった
チームはまず、ジョナサンのDNAに、ほかのゾウガメにはない違いがあるかを調べました。比べたのは、手本にしたタンクと、ガラパゴス諸島のゾウガメ「ロンサム・ジョージ」と、人です。ロンサム・ジョージのDNAの研究は、2018年に別のチームが発表していました。
比べたのは、ロンサム・ジョージの研究で長生きとの関係が調べられた遺伝子のグループです。その中で、たんぱく質の形を変えるような違いがジョナサンだけに見つかった遺伝子は、287個ありました。その中には、傷ついたDNAを直す遺伝子や、染色体の端(テロメア)を守る遺伝子が含まれていました。こうしたしくみは、人や動物の老化に関係するとされています。
ほかにも、体を守る細胞がほかの細胞を攻撃するときに使う「パーフォリン」という遺伝子が、ジョナサンには10個ありました。ロンサム・ジョージでは7個でした。チームは、この遺伝子が多いことが、古くなった細胞やがん細胞を取りのぞく力を高めている可能性があると考えています。ただし、まだ確かめられてはいません。

04DNAの目印の乱れは年齢とともに増えたが、遺伝子の入り口は整っていた
次にチームは、DNAの目印を調べました。DNAには、メチル化という小さな目印がつく場所があります。メチル化とは、DNAの一部に小さな化学の目印がつくことで、その遺伝子が使われるかどうかに関わります。目印の並び方は若いうちは整っていて、年をとると少しずつばらばらになることが、人の研究で知られています。この乱れの大きさを、チームは数字で表しました。
比べたのは5頭です。ジョナサンのほかに、5歳の子ガメ、12歳の若いカメ、そして1969年にはすでに大人だった年上の2頭です。どのカメも、口の中からとったDNAを使いました。
結果、目印の乱れは、年をとったカメほど大きくなっていました。5頭の乱れの平均は、年齢とほぼぴったり並びました。人で知られているのと同じ傾向です。ジョナサンも、若いカメより目印の乱れが大きくなっていました。
ただし、遺伝子の入り口は別でした。遺伝子の手前には、その遺伝子を読み始める合図になる部分があります。この部分を、ここでは「遺伝子の入り口」と呼びます。5頭とも、入り口では目印の乱れが小さかったのです。それでも、入り口の乱れの平均も、年をとったカメほど少しずつ大きくなっていました。
チームはさらに、約2900個の遺伝子の入り口を1つずつ比べました。そして、ジョナサンと若い2頭では整っているのに、年上の2頭では乱れている入り口を272個見つけました。この272個の中には、細胞の中でエネルギーを作るミトコンドリアに関わる遺伝子が35個ありました。遺伝子の情報を読み取ってたんぱく質を作る過程に関わる遺伝子も、25個含まれていました。
05「整った目印が長生きの理由」は、まだ仮説の段階
チームは、ここから1つの考えを出しています。大事な遺伝子の入り口で目印が整っていれば、その遺伝子は安定して使われます。エネルギーを作るしくみがしっかり働けば、DNAを直すしくみにもエネルギーが回ります。そうして入り口の目印も保たれ、老化がゆっくり進むのではないか、というものです。
けれど、チーム自身が論文の中で、この考えには大きな限界があると書いています。1つ目は、データからは「原因と結果」を言えないことです。目印が整っていたから長生きしたのか、別の理由で長生きした結果なのかは分かりません。2つ目は、調べられた遺伝子の入り口が、全体の約1割だけだったことです。
3つ目は、血がとれなかったことです。そのため、遺伝子が実際にどれだけ使われているかを測ることができませんでした。ジョナサンだけに見つかった違いが本当にあるのかも、別の方法で確かめられていません。そして何より、ジョナサンほど長生きしたカメは、ほかに知られていません。この特徴がジョナサンだけのものか、アルダブラゾウガメに共通するのか、もっと多くのカメで調べる必要があります。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
カメはなぜ長生きなのか
カメのなかまが長生きなことは、よく知られています。2022年、動物園や水族館で飼われているカメ52種の記録を調べた研究がありました。すると、約75%の種で、老化がとてもゆっくりか、ほとんど見られないことが分かりました。約80%の種は、今の人よりも老化の速さが小さかったのです。この研究は、飼育の環境が良くなると、カメは老化をさらに遅らせられるかもしれないとも書いています。
ゾウガメのDNA研究の歴史
ゾウガメのDNAを長生きの視点で調べた研究には、2018年に発表されたロンサム・ジョージの研究があります。ロンサム・ジョージは、ガラパゴス諸島のあるゾウガメの種の、最後の1頭でした。この研究では、DNAを直す遺伝子や、炎症やがんに関わる遺伝子に、ゾウガメならではの違いが見つかりました。ジョナサンの研究は、そこに「DNAの目印」という新しい見方を加えたものです。チームによると、とても長生きした1頭のゾウガメについて、DNAの目印を調べた研究はこれまでありませんでした。
人の長寿の人たちとの比較
人でも、似た結果が報告されています。2024年、中国の研究チームが、90歳をこえる長寿の人たちの血液のDNAの目印を調べました。ふつうは年をとると目印の乱れが増えるのに、長寿の人たちではその増え方がおさえられていました。とくに遺伝子の入り口で、長寿の人たちだけ乱れの小さい場所がたくさん見つかりました。ジョナサンの論文は、この人の研究と同じ傾向が、ゾウガメでも見られたと書いています。
論文は、117歳まで生きた女性を調べた別の研究にもふれています。その女性は、同じ年代の高齢者と比べて、ミトコンドリアの働きがとても効率的だったと報告されています。人とカメという遠い動物で、同じようにエネルギーを作るしくみが注目されているのです。
1頭を調べることの意味と限界
とても長生きした1頭を調べるのは、長生きの手がかりを探す1つの方法です。けれど、1頭では、その特徴が長生きのおかげなのか、たまたまその個体が持っていたものなのかを区別できません。比べたほかの4頭は年齢がばらばらで、しかも年上の2頭は正確な年齢が分かっていません。目印の比べ方も、5頭という少ない数での結果です。ジョナサンの194歳という年齢も推定です。それでも、血をとらずに口の中の細胞からここまで調べられたことは、ほかの貴重な動物を調べるときの参考になります。
06まとめ
推定194歳のゾウガメ・ジョナサンのDNAには、老化に関わるしくみの多くで、ジョナサンだけの違いが見つかりました。DNAの目印の乱れは、年齢どおりに大きくなっていました。それでも、エネルギーを作る遺伝子などの入り口では、目印が若いカメと同じように整っていました。
それが長生きの理由かどうかは、まだ分かりません。チーム自身が、もっと多くのカメで確かめる必要があると書いています。分かっているのは、194歳のカメの舌の下からとった少しの細胞にも、ここまでの情報が入っていたということです。
研究カルテ
セントヘレナ島
- 研究チーム
- アメリカのカレル財団(Kallel Foundation)などのチーム。第一著者ベンジャミン・バイスビル。セントヘレナ政府の担当者も参加
- 調べた場所
- 南大西洋のセントヘレナ島(ジョナサンのすむ島)と、アメリカの研究機関
- 調べた動物
- アルダブラゾウガメ(学名 Aldabrachelys gigantea)のジョナサンと、ほかの5頭
- 調べ方
- 口の中をこすりとったDNAで、全部のDNAとメチル化(DNAの目印)を読み、5歳から大人までの4頭と比べた
- 分かったこと
- 目印の乱れは年齢とともに増えたが、エネルギーを作る遺伝子などの入り口では乱れが小さかった
- まだ分からないこと
- 整った目印が長生きの原因なのか。ほかのカメや動物でも同じなのか
- 論文
- Science Advances(2026年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Jonathan is a giant tortoise on the island of Saint Helena. He is about 194 years old. He may be the oldest land animal in the world.
Scientists wanted to read all of his DNA. They could not take his blood, so they gently took cells from inside his mouth. Then they compared his DNA with the DNA of four younger tortoises.
DNA has small marks on it. As animals get older, these marks become less orderly. Jonathan's marks were less orderly than the young tortoises' marks. But near some important genes, his marks were still neat, like a young tortoise's.
Some of these genes help cells make energy. The scientists think this may help Jonathan live long. But they studied only one very old tortoise, so they need more tests.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How did the scientists get Jonathan's DNA?研究者はどうやってジョナサンのDNAを手に入れましたか。
血はとれなかったので、口の中の細胞をこすりとってDNAを集めました。
Q2. What happens to the marks on DNA as animals get older?動物が年をとると、DNAの目印はどうなりますか。
年をとると目印の並び方は乱れていきます。ジョナサンも若いカメより乱れていました。
Q3. Some of the genes with neat marks help cells do what?目印が整っていた遺伝子の一部は、細胞の何を助けますか。
整っていた272個の遺伝子の入り口には、エネルギーを作るミトコンドリアに関わる遺伝子が35個含まれていました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Vaisvil, B. et al. (2026) Epigenetic insights into extreme longevity in the world’s oldest terrestrial animal, Jonathan. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.adw8887
- 2同論文の全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13644754/
- 3da Silva, R. et al. (2022) Slow and negligible senescence among testudines challenges evolutionary theories of senescence. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abl7811
- 4Quesada, V. et al. (2018) Giant tortoise genomes provide insights into longevity and age-related disease. Nature Ecology & Evolution 論文確認済みdoi:10.1038/s41559-018-0733-x
- 5Wang, H.-T. et al. (2024) Methylation entropy landscape of Chinese long-lived individuals reveals lower epigenetic noise related to human healthy aging. Aging Cell 論文確認済みdoi:10.1111/acel.14163
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





