ミツバチの8の字ダンスには、先輩から習う部分があった。見ずに育つと方向も距離もずれた

先輩のダンスを見られない巣で育ったミツバチは、方向がばらつく乱れたダンスを踊った。方向のずれは経験で小さくなったが、距離のずれは残った。

No.034 8分で読めるえっ度 論文 2026年
巣の中のまっすぐ立った巣板の上で、1匹のセイヨウミツバチがおしりを左右にふりながら前へ進んでいる。まわりの数匹のハチが、触角をそのハチの体に向けてついて歩いている。

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  1. 先輩のダンスを見られなかったハチは、乱れたダンスを踊った
  2. 方向のずれは経験で小さくなったが、距離のずれは残った
  3. 先輩のダンスを見られたハチは、初めから整ったダンスを踊れた

人に話すなら

ミツバチの8の字ダンスって、生まれつきだけじゃなくて先輩を見て覚える部分があるんだって。見ずに育つとダンスが乱れて、距離のずれは20日たっても直らなかったらしいよ。

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ミツバチの8の字ダンスは、生まれつき完全に踊れるので、ほかのハチから学ぶ部分はない

ミツバチは、花のみつのある場所を見つけると、巣に帰って仲間に教えます。そのときに使うのが「8の字ダンス」です。おしりをふりながら進む向きで方向を、おしりをふる時間の長さで距離を伝えます。このダンスは、本能の代表のように扱われてきました。

ところが2023年、中国とアメリカの研究チームが、このダンスに先輩から習う部分があることを示しました。チームは、生まれて1日のハチだけで巣を作りました。巣には年上のハチがいないので、若いハチは先輩のダンスを一度も見られません。そうして育ったハチの最初のダンスは、方向がばらつき、距離も長めに伝えていました。そして距離のずれは、20日たっても直りませんでした。

ミツバチのダンスに意味があることは、1920年代の終わりから知られていました。けれど「先輩のダンスを一度も見なかったら、ちゃんと踊れるのか」を、きちんと確かめた研究はありませんでした。これまでの研究では、若いハチが初めて踊る前に、先輩のダンスを見られないようにしてはいなかったのです。

018の字ダンスは、えさ場の方向と距離を、おしりをふる向きと長さで伝える

まず、8の字ダンスのしくみを確かめておきましょう。ミツバチの巣の中は暗く、巣板はまっすぐ立っています。ダンスをするハチは、巣板の上で、おしりを左右にふりながらまっすぐ進みます。これを「尻ふり走行」と呼びます。進み終わると、右か左にぐるりと回って、出発点に戻ります。これをくり返すので、動きが8の字に見えるのです。

尻ふり走行の向きは、えさ場の方向を表しています。巣板の真上に向かって進めば「太陽の方向にえさ場がある」という意味です。真上から左に45度かたむけて進めば「太陽の方向から左に45度の方向」という意味です。そして、尻ふり走行が長く続くほど、えさ場は遠くにあります。

ついて歩くハチは、暗い巣の中で、触角をダンスするハチの体にふれたまま、その動きをたどります。こうして仲間は、まだ行ったことのないえさ場の方向と距離を知るのです。

このダンスの意味を調べたのは、オーストリア生まれの研究者カール・フォン・フリッシュ(Karl von Frisch)です。フォン・フリッシュは1920年代の終わりに、みつを見つけたハチが特別なダンスで仲間に場所を伝えることを指摘しました。そして動物の行動の研究で、1973年にノーベル生理学・医学賞を受けました。ノーベル賞の公式サイトは、動物の「生まれつきの行動」を説明する中で、このダンスを紹介しています。

02生まれて1日のハチ2800匹だけで、先輩のいない巣を作った

研究を進めたのは、中国科学院西双版納熱帯植物園のドン・シーハオ(Shihao Dong)さんとケン・タン(Ken Tan)さんたちです。アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校のジェームズ・ニー(James Nieh)さんも加わりました。実験は、中国の昆明にある中国科学院の研究施設で行われました。手順書によると、時期は4〜6月です。

チームは、2種類の巣を5つずつ、合わせて10作りました。1つは「先輩のいない巣」です。さなぎから出てきたばかりの、生まれて1日のハチ2800匹だけを集め、卵を産む女王バチを1匹入れました。はじめ、巣には卵も幼虫もいません。年上のハチが1匹もいないので、若いハチがダンスを見る相手はいないのです。

もう1つは比べるための「ふつうの巣」です。生まれて1日のハチ200匹に、いろいろな年齢のハチ2600匹を加えました。ふつうの巣の若いハチは、先輩たちのダンスを見ながら育つことができます。どちらの巣でも、生まれて1日のハチ200匹の背中にペンで印をつけて、後で見分けられるようにしました。

2つの巣は、同じもとの巣から作ってペアにしました。もとの巣が同じなら、ハチの生まれつきの性質もそろいます。巣を作る前のさなぎも、同じ温度と湿度の箱の中で育てました。

同じ巣板の上で、若いミツバチばかりが集まっている場面。1匹がダンスを始めているが、まわりに年上のハチはおらず、ついて歩くハチも少ない。

03先輩を見ずに育ったハチの最初のダンスは、方向がばらつき、回る向きも乱れていた

若いハチが外へ飛び始めると、チームは巣から150m離れた場所に、砂糖水のえさ場を置きました。巣の入り口でハチをつかまえて、えさ場まで運んで覚えさせたのです。えさ場を覚えたハチは、巣に帰ってダンスを始めます。チームはそれぞれのハチの最初のダンスを、1秒60コマのビデオで撮りました。

最初にダンスをしたときの年齢は、先輩のいない巣で平均9.0日、ふつうの巣で平均9.9日でした。年齢はほとんど同じなので、年齢の差ではダンスの違いを説明できません。

チームは1回のダンスの中の6回の尻ふり走行を調べ、3つの点を比べました。1つ目は、尻ふり走行の向きがどれだけばらつくかです。2つ目は、走行のあとに右と左へ交互に回っているかです。ふつうのダンスでは、右、左、右、左と交互に回ります。同じ側に続けて回るのは「乱れ」です。3つ目は、尻ふり走行の長さです。

先輩を見ずに育ったハチの最初のダンスは、尻ふり走行の向きのばらつきが大きく、回る向きの乱れも多くなっていました。同じえさ場のことを伝えているのに、方向の情報がぶれていたのです。一方、ふつうの巣のハチの最初のダンスには、こうした問題は見られませんでした。

0420日たつと方向のずれは小さくなったが、距離のずれは残った

チームは20日後、同じハチたちをもう一度、同じ150m先のえさ場へ通わせました。このとき先輩のいない巣のハチは、平均29日齢になっていました。その間に、ほかのハチのダンスを見たり、自分で踊ったりする経験を積んでいます。ただし、見られるのは同じ年齢のハチのダンスだけです。

20日後のダンスでは、向きのばらつきも、回る向きの乱れも小さくなっていました。経験を積むうちに、方向の伝え方は上手になったのです。

ところが、距離は違いました。先輩を見ずに育ったハチは、最初のダンスから尻ふり走行が長めでした。つまり、えさ場を実際より遠くに伝えていたことになります。そして20日後になっても、この長さはほとんど変わりませんでした。チームが公開しているデータでは、尻ふり走行の長さの平均はこうなっています。

論文の要旨は、距離の伝え方は「一生そのまま固定された」と書いています。ただし、調べたのは約30日齢までです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

生まれつきか、学ぶのか

8の字ダンスは、昔から「生まれつきの行動」の代表とされてきました。実際、先輩を見ずに育ったハチも、ダンスそのものは踊れました。方向と距離を伝える基本の型は、生まれつき持っていると考えられます。今回の研究が示したのは、その型を正確にするために、先輩のダンスを見ることが役に立つということです。

チームは、人の赤ちゃんの言葉や、鳥のさえずりと同じように、ミツバチの合図も社会的な学習によって形づくられると書いています。ミツバチがダンスから、えさ場の場所を学ぶことは知られていました。今回は、ダンスという合図そのものの踊り方を、先輩から学んでいることが示されたのです。

なぜ距離だけが直らなかったのか

方向のずれは経験で小さくなり、距離のずれは直りませんでした。論文の要旨も、この2つをはっきり分けて書いています。チームの手順書は、距離の伝え方は大部分が遺伝で決まるが、一部に「文化として伝わる」部分があるかもしれないと書いています。最初に見たダンスで、距離の伝え方が決まってしまうのかどうかは、まだ分かっていません。

この実験の弱いところ

先輩のいない巣は、ふつうの巣とは大きく違う環境です。チームも、20日後に方向のずれが小さくなった理由は、年をとったことか、ダンスを見た経験か、飛んだり花を探したりした練習か、その組み合わせか、区別できないと書いています。最初のダンスのずれについても、先輩のダンスを見られなかったことだけが原因だとは言い切れません。先輩のいない巣には卵や幼虫もいないなど、ダンスを見られないこと以外にも違いがあるからです。

また、公開データを見ると、ダンスを調べたハチは1つの条件につき18匹でした。えさ場の距離も150mの1つだけです。もっと遠いえさ場でも同じようにずれるのか、ずれ方は距離によって変わるのかは、この実験からは分かりません。数を増やし、いくつもの距離で確かめることが次の課題になります。

ダンスは「見る側」にも左右される

2026年、同じ研究グループは、ダンスをついて歩く仲間の数がダンスの正確さを変えることを報告しました。ダンスの場所からハチを吸いとって、ついて歩くハチを減らすと、ダンスの方向と距離の正確さが下がったのです。ついて歩く年齢のハチが少ないと、まわりに若いハチがたくさんいても、同じように正確さが下がりました。チームは、ダンスは一方通行の合図ではなく、見る側の反応を受けて変わる行動だと考えています。

05まとめ

ミツバチの8の字ダンスは、生まれつきの型の上に、先輩から学ぶ部分が乗っていました。先輩のダンスを一度も見られなかったハチは、最初のダンスで方向がばらつき、回る向きも乱れました。方向のずれは経験で小さくなりましたが、距離を長めに伝えるくせは20日後も残りました。

ノーベル賞の研究から半世紀たっても、8の字ダンスにはまだ新しい発見があります。巣箱の中で若いハチが先輩のダンスについて歩く時間は、踊り方を学ぶ時間でもあったようです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

中国・昆明

研究チーム
中国の中国科学院西双版納熱帯植物園と、アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校のチーム(第一著者ドン・シーハオ)
調べた場所
中国・昆明の中国科学院の研究施設
調べた動物
セイヨウミツバチ(学名 Apis mellifera)の10の巣
調べ方
生まれて1日のハチだけで巣を作り、先輩のダンスを見られない状態で育て、最初のダンスを撮影して比べた
分かったこと
見ずに育ったハチは方向がばらつき、距離を長めに伝えた。距離のずれは20日後も残った
まだ分からないこと
何がずれの原因か(ダンスを見ること、年齢、飛ぶ練習)。距離のずれが直らないのはなぜか
論文
Science(2023年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Young Honey Bees Learn to Dance from Older Bees

When a honey bee finds flowers, she goes back to the hive and dances. Her dance tells other bees the direction and the distance to the food. Many people thought bees knew this dance from birth.

Scientists in China and the United States made special hives. These hives had only very young bees, so there were no older bees to watch. The scientists filmed the first dances of these young bees.

Their dances were messy. They pointed in different directions for the same food. They also shook their bodies for a longer time, so they told others the food was farther away. Bees that could watch older bees danced well from the start.

Twenty days later, the same bees showed the direction better. But their distance mistake did not go away. So bees learn part of their dance by watching others.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the special hives NOT have?特別な巣に、いなかったものは何ですか。

Q2. What did the young bees tell others about the food?若いハチは、えさ場について仲間に何と伝えていましたか。

Q3. What got better after twenty days?20日後に良くなったのは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Dong, S. et al. (2023) Social signal learning of the waggle dance in honey bees. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.ade1702
  2. 2Dong, S. et al. (2023) A Method for Studying Social Signal Learning of the Waggle Dance in Honey Bees. Bio-protocol 論文確認済みdoi:10.21769/BioProtoc.4789
  3. 3Lin, T. et al. (2026) The audience shapes the information content of the honey bee waggle dance. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2518687123
  4. 4Karl von Frisch – Facts(Nobel Prize 公式サイト)nobelprize.org/prizes/medicine/1973/frisch/facts/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい