太平洋のマッコウクジラは鳴き方で7つの一族に分かれ、同じ海の一族どうしほど目印の音が違った
太平洋のマッコウクジラは、鳴き方の違いで7つの一族に分かれていた。すむ海が重なる一族どうしほど、一族の目印になる音を使い分けていた。

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- マッコウクジラは鳴き方の違いで「一族」に分かれている
- 太平洋では7つの一族が見つかり、1つは新しい一族だった
- すむ海が重なる一族どうしほど、目印の音が違っていた
人に話すなら
マッコウクジラって、カチカチ音の鳴き方で一族が分かれてるんだって。しかも、ほかの一族とすむ海が重なってる一族ほど、おたがいの目印の音を使わないらしいよ。
読む前に予想しよう
マッコウクジラの一族は、ほかの一族とすむ海が重なるほど目印の音の違いがはっきりする
太平洋の録音を調べると、すむ海が重なる一族どうしほど、目印の音の使い方が似ていなかった。
人は、話し方や服装で「自分はこの集団の一員だ」と示すことがあります。言葉のなまり、民族衣装、入れ墨などです。こうした「仲間のしるし」は、人の文化の大きな特徴だと考えられてきました。動物にも同じようなしるしがあるのかは、数字で示された例がほとんどありませんでした。
カナダのダルハウジー大学などのチームは、太平洋の23の海域で録音したマッコウクジラの声を調べました。カチカチという音の並びは2万3429個です。すると、クジラたちは鳴き方の違いで7つの一族に分かれていました。さらに、すむ海が重なる一族どうしほど、一族の目印になる音の使い方がはっきり違っていました。
研究チームは、この目印の音が、人の方言や民族衣装に似た「どの一族か」を示すしるしとして働いている、と考えています。ただし、クジラ自身がそう聞き取っているのかは、まだ確かめられていません。
01マッコウクジラは、鳴き方の違いで一族に分かれている
マッコウクジラのメスと子どもは、何頭かの家族の群れで、何年も一緒に暮らします。群れの仲間とやりとりするときには、カチカチという短い音を何個か、決まった間かくで並べて出します。この音の並びを「コーダ」と呼びます。音の数やリズムの違いで、コーダにはいろいろな種類があります。
群れによって、よく使うコーダの種類が違います。使うコーダの種類が似ている群れどうしをまとめた大きな集まりを、研究者は「クラン」と呼びます。この記事では「一族」とも呼びます。ただし、血のつながりで決まるのではなく、同じ鳴き方を持つことで決まる集まりです。
クランが見つかったのは2003年です。カナダのダルハウジー大学のルーク・レンデル(Luke Rendell)さんとハル・ホワイトヘッド(Hal Whitehead)さんが、南太平洋とカリブ海の録音から6つのクランを見つけました。クランは何千キロにも広がり、別のクランと同じ海にいても、群れは自分と同じクランの群れと好んで一緒に行動していました。
02太平洋の23か所、40年分の録音を1つにまとめた
今回の研究を率いたのは、テイラー・ハーシュ(Taylor Hersh)さんです。世界中でマッコウクジラの声を研究する人たちが、録音を持ち寄りました。著者は27人で、日本の長崎大学の研究者もふくまれます。
録音は1978年から2017年にかけて、太平洋の23の海域でとられたものです。ガラパゴス諸島やチリの沖、トンガ、日本の小笠原諸島の沖などがふくまれます。チームは音の数が3〜10個のコーダを取り出し、コンピューターで種類分けしました。
次に、1日の録音を1つの単位として、コーダの使い方が似ている日どうしをまとめていきました。コーダが25個以上ある日だけを使い、その数は191日分になりました。
03太平洋には7つのクランがあり、1つは新しいクランだった
まとめた結果、太平洋のマッコウクジラは7つのクランに分かれました。4つはすでによく知られていたクランです。2つは記録はあったものの名前がなかったクランで、1つは新しく見つかったクランでした。
クランごとに、よく使い、ほかのクランではめったに使わないコーダがあります。チームはこれを「目印のコーダ」と呼びました。たとえば「レギュラー」というクランの目印のコーダ9種類は、どれも音が同じ間かくで並んでいます。一方、複数のクランが使うコーダは「共通のコーダ」です。
クランの広がり方は、さまざまでした。「プラスワン」というクランは約1000キロの範囲でしか見つかりませんでした。一方、「ショート」というクランは、太平洋を横切る約1万キロの範囲で見つかりました。23の海域のうち9か所では、2つ以上のクランが同じ海を使っていました。ガラパゴス諸島の沖では、7つのクランすべてが見つかりました。
04すむ海が重なる相手ほど、目印のコーダが違っていた
チームが確かめたかったのは、目印のコーダが「うちのクラン」を示すしるしとして働いているかどうかです。人の研究から、ある予想が立てられます。仲間のしるしは、ほかの集団とよく出会う境目ほど、はっきり違ってくるはずだ、という予想です。出会うことが多いほど、相手と自分を見分ける必要が高まるからです。
チームはクランどうしの組み合わせごとに、すむ海がどれだけ重なっているかを計算しました。目安にしたのは1000キロです。東太平洋の熱帯のマッコウクジラが1年に動き回る範囲が、およそこの広さだからです。あるクランの録音のうち、相手のクランの録音から1000キロ以内でとられたものの割合を「重なり」としました。
結果は予想どおりでした。すむ海が重なるクランどうしほど、目印のコーダの使い方が似ていませんでした。おたがいの目印のコーダを、めったに使わなくなっていたのです。一方、共通のコーダの使い方は、すむ海が重なっても変わりませんでした。

チームはこの結果を、目印のコーダが「どのクランか」を示す象徴的な目印として働いている証拠だと考えています。人以外の動物の文化で、こうした目印を数字で示した例は、ほとんどありませんでした。
05クジラ自身が聞き分けているのかは、まだ確かめられていない
この研究には、大事な限界があります。分かったのは、録音の中のコーダの使い方の「かたより」です。クジラが目印のコーダを聞いて「別のクランだ」と判断しているのかは、確かめられていません。チームも、クジラがコーダをどう受け取っているのかは分からないと書いています。
確かめるには、同じクラン、近くにいる別のクラン、遠くにいる別のクランの目印のコーダを聞かせて、反応を比べる実験が必要です。チームはこの実験が欠かせないとしながら、広い海の野生のクジラでは難しいとも書いています。
もう1つの予想は、はっきりしませんでした。同じクランの中では、目印のコーダの使い方は、共通のコーダより、遠く離れても変わりにくいはずだ、という予想です。7つのうち5つのクランではそうした傾向がありましたが、全体としては確かな差になりませんでした。
録音のかたよりもあります。23の海域の9割近くは、1〜2年分の録音しかありません。録音が多い海ほど、見つかるクランの数も多くなっていました。すむ海が重なると計算されたクランどうしが、実際に同じ年に同じ海にいたとは限りません。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
人の「仲間のしるし」との比較
人の社会では、方言、音楽、飾り、入れ墨、服装などが、どの集団に属するかを示します。こうした目印は、ただ集団の違いを表すだけではありません。ほかの人もそれを見て相手を見分け、だれと協力するかを決めるのに使います。コンピューターの計算では、集団どうしの違いは、ほかの集団との境目で一番大きくなると予想されています。実際のデータも、この予想を支えています。今回のマッコウクジラの結果は、この予想と同じ形をしていました。
ホワイトヘッドさんは2024年の論文で、マッコウクジラのクランと人の社会を比べました。クランは何千頭もふくみ、何千キロにも広がります。同じ海を2つ以上のクランが使うのはふつうですが、クジラは自分のクランの仲間としか一緒に過ごしません。ホワイトヘッドさんは、人の中で一番近いのは、言葉と文化を共有する民族のまとまりかもしれないと書いています。
ガラパゴスで起きたクランの入れかわり
クランの違いは、鳴き方だけではありません。ホワイトヘッドさんによると、1980〜90年代のガラパゴス諸島の沖では、「レギュラー」と「プラスワン」の2つのクランが同じ海にいました。それぞれの群れは、自分のクランの群れとしか集まりませんでした。2つのクランは、海の中での動き方も大きく違っていました。のちにこの海では2つのクランは見られなくなり、「ショート」と「フォープラス」という別のクランがすみつきました。
日本の近くの海のクラン
日本の近くでも、クランの研究が進んでいます。2014年、長崎大学の天野雅男さんたちは、紀伊半島の熊野灘の沖と、小笠原諸島の沖のマッコウクジラのコーダを比べました。2つの海では、よく使うコーダの種類が違っていました。同じ音の数のコーダでも、熊野灘のほうが長くかかりました。チームは、2つの海に別々のクランがすんでいる可能性があると考えています。
今回の太平洋の研究では、音が2つだけのコーダは分析から外されました。こうした短いコーダは小笠原諸島やマリアナ諸島の沖で使われていますが、記録の仕方がデータによってまちまちだったからです。チームは、この短いコーダが一部のクランにとって大事な目印である可能性もあると書いています。
なぜ目印が必要なのか
マッコウクジラは、時間の7割以上を、仲間から離れてえさを探して過ごします。長い潜水のあと、水面で仲間と再び集まるとき、相手が同じクランかどうかをすぐに見分けられれば便利です。チームは、目印のコーダが、だれと一緒に過ごすか、だれを避けるかを決める助けになっているのかもしれないと考えています。
06まとめ
太平洋23か所の2万3429のコーダを調べると、マッコウクジラは鳴き方の違いで7つのクランに分かれていました。すむ海が重なるクランどうしほど、クランの目印になるコーダの使い方が違っていました。チームは、これが人の方言や服装に似た、「どのクランか」を示す目印として働いている証拠だと考えています。
ただし、クジラ自身がその音を目印として聞き分けているのかは、まだ確かめられていません。
ガラパゴス諸島の沖では、7つのクランすべてが同じ海で見つかりました。1つの海に、鳴き方の違う7つのクジラの集団が行き来しているのです。
研究カルテ
太平洋東部(ガラパゴス諸島の沖)
- 研究チーム
- カナダのダルハウジー大学のテイラー・ハーシュさん、ハル・ホワイトヘッドさんら、長崎大学をふくむ各国のチーム
- 調べた場所
- 太平洋の23の海域(ガラパゴス諸島、チリ、トンガ、日本の小笠原諸島の沖など)
- 調べた動物
- 野生のマッコウクジラ(学名 Physeter macrocephalus)の家族の群れ
- 調べ方
- 1978〜2017年に録音した2万3429のカチカチ音の並びを種類分けし、使い方の似ている群れどうしをまとめた
- 分かったこと
- 7つの一族に分かれた。すむ海が重なる一族どうしほど、一族の目印の音の使い方が違っていた
- まだ分からないこと
- クジラ自身が、その音を一族の目印として聞き分けているのか
- 論文
- Proceedings of the National Academy of Sciences(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Sperm whales talk with short series of clicks. Different groups use different click patterns. Scientists call these large groups clans.
A team studied recordings from 23 places in the Pacific Ocean. They sorted 23,429 click patterns. They found seven clans. Each clan has special patterns that other clans rarely use.
Some clans share the same parts of the ocean. These clans used each other's special patterns even less. The scientists think these patterns are signs of each clan. A sign shows which clan a whale belongs to. People also show their group with accents or clothes.
But we do not know if the whales hear the sounds this way. Scientists need to play the sounds to wild whales to find out.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many clans did the team find?チームはいくつのクランを見つけましたか。
太平洋の録音から、7つのクランが見つかりました。
Q2. What did clans in the same ocean area do?同じ海を使うクランどうしは、どうしていましたか。
同じ海を使うクランどうしほど、おたがいの目印の並びを使いませんでした。
Q3. What do scientists still need to do?研究者がまだしなければならないことは何ですか。
クジラがその音を目印として聞いているかを、聞かせる実験で確かめる必要があります。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Hersh, T. A. et al. (2022) Evidence from sperm whale clans of symbolic marking in non-human cultures. Proceedings of the National Academy of Sciences 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2201692119
- 2Rendell, L. E. & Whitehead, H. (2003) Vocal clans in sperm whales (Physeter macrocephalus). Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2002.2239
- 3Whitehead, H. (2024) Sperm whale clans and human societies. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.231353
- 4Amano, M. et al. (2014) Differences in sperm whale codas between two waters off Japan: possible geographic separation of vocal clans. Journal of Mammalogy 論文確認済みdoi:10.1644/13-mamm-a-172
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





