海が暖かい年、アホウドリの「離婚」が増えた。子育てに成功した夫婦まで別れやすくなった
アホウドリの離婚の割合は年0.8〜7.7%。海の水温が高い年ほど増え、子育てに成功していた夫婦でも別れやすくなった。理由はまだ仮説の段階。

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- アホウドリは相手が生きていても、別の相手に替えることがある
- 海の水温が高い年ほど、離婚の割合が高かった
- 子育てに成功していたメスまで、相手を替えやすくなった
人に話すなら
アホウドリって何年も同じ相手と子育てするのに、海が暖かい年は離婚が増えるんだって。子育てに成功してた夫婦まで別れやすくなるらしい。別の島では、臆病なオスほど離婚しやすいんだって。
読む前に予想しよう
アホウドリの夫婦は、相手が生きているかぎり一度も別れない
フォークランド諸島の群れでは、年によって0.8〜7.7%の夫婦が別れていた。
アホウドリは、一度ペアになると、何年も同じ相手と子育てを続ける鳥です。それでも毎年、ほんの少しだけ「離婚」する夫婦がいます。相手がまだ生きているのに、次の年には別の相手と子育てを始めるのです。
ポルトガルのリスボン大学などのチームは、南大西洋のフォークランド諸島で、マユグロアホウドリの夫婦を16年分調べました。すると、海面の水温がいつもより高い年ほど、離婚が多いことが分かりました。離婚する夫婦の割合は、少ない年で0.8%、多い年で7.7%でした。
鳥の離婚は、これまで「子育ての失敗」が引き金だと考えられてきました。この研究でも、失敗した夫婦はたしかに別れやすくなっていました。ところが海の暖かい年には、子育てに成功していたメスまで、相手を替えやすくなっていたのです。
01島の繁殖地で、足環をつけたアホウドリの夫婦を毎年記録した
研究の舞台は、フォークランド諸島のニュー島です。この島では、約1万5500組のマユグロアホウドリが子育てをしています。
研究チームは2003年から、島の中の5つの区画で、子育てをするすべての鳥を毎年記録してきました。新しく子育てを始めた鳥には、番号つきの足環をつけます。卵とひなの様子は、卵を温める時期とひなを抱く時期には毎日確かめました。2008年からは鳥にGPSをつけ、えさを探しによく行く海の範囲も調べています。
この研究で「離婚」とは、夫婦の少なくとも片方が、次の年に別の相手と子育てをしたことを指します。ただし、元の相手が生きている場合だけです。相手が死んで別の相手に替わった場合は、離婚ではなく「死別」として分けて数えました。研究チームは、2004〜2019年のメス424羽、合わせて2899回分の繁殖の記録を分析しました。
02卵がかえらなかったメスは、子育てに成功したメスの約5倍も離婚しやすかった
まず、子育ての結果との関係です。卵がかえらなかったメスは、子育てに成功したメスと比べて、約5.4倍離婚しやすくなっていました。ひながかえってから失敗したメスと比べても、約5.2倍です。失敗の時期が早いほど、別れやすかったのです。
研究チームは、早い時期の失敗は、相手との相性や子育ての力に問題があるしるしかもしれないと考えています。うまくいけば同じ相手を続け、だめなら替える。鳥の研究では、これを「勝てば残り、負ければ替える」という考え方で説明してきました。
離婚のあと、メスの子育ての成績は少しよくなっていました。メスが子育てに成功する確率は、離婚の前が約0.65で、離婚して新しい相手と組んだあとは約0.69でした。一方、オスでは前とあとでほとんど変わりませんでした。新しい相手を見つけて子育てに戻る確率も、オスよりメスのほうが高くなっていました。研究チームは、離婚を言い出すのはおもにメスだろうと考えています。
03海面の水温が高い年ほど、離婚が増えていた
16年間の離婚の割合は、平均3.7%でした。年によってばらつきが大きく、低い年は0.8%、高い年は7.7%です。研究チームは、このばらつきを海の状態と比べました。
比べたのは、「海面水温の平年差」と風の強さです。平年差とは、その海の、いつもの年の平均と比べて、水温がどれだけ高いか低いかを表す数字です。GPSで分かった、アホウドリがよく使う海の範囲で計算しました。すると、離婚の割合は平年差と一緒に上がり下がりしていました。風の強さとの関係は見られませんでした。
大事なのは、子育ての結果の影響を差し引いても、この関係が残ったことです。子育てに成功したメスでも、失敗したメスでも、水温の平年差が上がるほど離婚しやすくなっていました。さらに、別の分析では、子育てに成功していたメスが同じ相手を続ける確率が、暖かい年ほど下がっていました。
暖かい海は、海鳥にとってえさの少ない海です。水温が高いと、海の小さな生き物が育ちにくくなり、海鳥のえさも減ります。この島のアホウドリでも、水温の高い年には子育てをする鳥が減り、成功率も下がることが前の研究で分かっていました。

04別の島では、臆病なオスほど別れやすかった
離婚に関わるのは海の状態だけではありません。2022年、アメリカのウッズホール海洋研究所などのチームは、別の種類のワタリアホウドリで、性格と離婚の関係を調べました。第一著者は、マサチューセッツ工科大学とウッズホール海洋研究所の共同の大学院で学ぶルイジャオ・スン(Ruijiao Sun)さんです。
舞台は、南インド洋のクローゼー諸島にあるポゼッション島です。この島のワタリアホウドリは1959年から記録が続いています。研究チームは2008年から、巣で卵を温めている鳥に人が5メートルまで近づき、反応を0〜5の6段階で記録してきました。0は反応なし、1は頭を上げる、2は脚を伸ばして体を少し起こす、3は鳴く、4は立ち上がる、5は巣を離れる、です。この研究では、反応が強いほど「大胆」、弱いほど「臆病」と数えます。測った大人の鳥は1942羽です。
夫婦関係の記録のうち、離婚で終わったのはメスで490件中71件、オスで622件中88件でした。そして、臆病なオスほど離婚が多くなっていました。メスでは、性格と離婚の関係は見られませんでした。
研究チームは、この群れのオスが余っていることに注目しました。メスは漁の釣り糸に誤ってかかって死ぬことがオスより多く、1970年代からオスの割合が高くなっています。そのため、相手のいないオスがペアの間に割りこんでくることが多いと考えられます。大胆なオスはライバルを追い払いますが、臆病なオスは争いをさけて相手をゆずってしまうのではないか、と研究チームは考えています。鳥の研究では、このような別れを「強制された離婚」と呼んでいます。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
長生きの海鳥が、同じ相手と長く組む理由
鳥の種類の9割以上は、オスとメスが1対1でペアを作って子育てをします。中でもアホウドリのように長生きの海鳥は、離婚がとても少ないことで知られています。マユグロアホウドリの研究チームは、その理由を3つ挙げています。同じ相手と組み続けると、経験がたまり、2羽の動きもそろってきます。相手が長生きなので、待っていれば翌年また会える可能性が高いです。そして、新しい相手を見つけるには手間がかかります。
ワタリアホウドリは、ひなを育てるのに最長280日もかかります。そのため多くの鳥は、子育てのあと1年ほど海で過ごして休みます。こうした長い子育てには、慣れた相手との協力が欠かせないと考えられています。
離婚は「より良い相手探し」か、「押し出された結果」か
2つの研究は、離婚の意味について違う答えを出しました。マユグロアホウドリでは、離婚のあとメスの子育ての成功率が少し上がりました。研究チームは、離婚を「より良い相手を選び直す作戦」と考えています。
一方、ワタリアホウドリの群れでは、離婚してもオスとメスのどちらの成功率も上がりませんでした。スンさんたちは、この群れの離婚は作戦ではなく、ライバルに押し出された結果だろうと考えています。同じアホウドリでも、オスとメスの数のつり合いや、すむ場所によって、離婚の意味が変わるのかもしれません。
暖かい海がなぜ夫婦を別れさせるのかは、まだ仮説の段階
マユグロアホウドリの研究チームは、いくつかの仮説を挙げています。1つ目は、えさの少ない年には子育てに大きな力を使うため、次の年に繁殖地へ戻るのが遅れるという説です。夫婦の戻る時期がずれると、別の相手と組んでしまうかもしれません。
2つ目は、ストレスで出るホルモンです。海鳥では、えさが足りないと、ストレスに関わるホルモンが血液中に増えることが知られています。研究チームは、苦しい年を過ごしたメスが、その苦しさを相手のせいだと「勘違い」して別れるのかもしれない、と考えています。ただし、これはこの研究で確かめたことではありません。
ほかの説は、データと合いませんでした。たとえば、死んだ鳥が増えて相手のいない鳥が多くなり、相手を替えやすくなる、という説です。しかし、相手を亡くした鳥の数と離婚の割合には、関係が見られませんでした。
研究方法の限界
水温の平年差は、1年に1つの数字しかありません。同じ年の鳥にはすべて同じ数字が当てはまるので、鳥1羽ずつの分析では、結果の確かさを高く見積もりすぎるおそれがあります。研究チームはこれを認めたうえで、年ごとの離婚の割合だけを使う分析でも、同じ結果が出たことを示しました。
効果の大きさにも注意が必要です。水温の平年差が、ふだんの年ごとの振れ幅くらい上がっても、離婚の確率は1ポイントほど上がるだけです。離婚の主な引き金は、やはり子育ての失敗です。また、これは観察にもとづく研究なので、水温を変えて確かめる実験はできていません。
05まとめ
何年も同じ相手と子育てするアホウドリにも、離婚はありました。フォークランド諸島のマユグロアホウドリでは、子育ての失敗に加えて、海の水温が高い年ほど離婚が増えていました。
別の島のワタリアホウドリでは、臆病なオスほど相手を失いやすいことも分かりました。夫婦が別れる理由は、2羽の間だけでなく、海の状態や群れのオスとメスの数にもかかわっています。
地球の海が暖かくなると、アホウドリの夫婦の別れも増えるかもしれません。研究チームは、暖かい海による夫婦の別れは、気候の変化の見落とされてきた影響かもしれないと書いています。
研究カルテ
フォークランド諸島・ニュー島
- 研究チーム
- ポルトガルのリスボン大学などのチーム(第一著者フランチェスコ・ヴェントゥーラ)
- 調べた場所
- 南大西洋のフォークランド諸島のニュー島
- 調べた動物
- 野生のマユグロアホウドリ(学名 Thalassarche melanophris)
- 調べ方
- 足環をつけたメス424羽の夫婦関係を2004〜2019年に毎年記録し、海の水温や風と比べた
- 分かったこと
- 離婚は子育ての失敗で増えるが、それとは別に、海の水温が高い年ほど増えていた
- まだ分からないこと
- 暖かい海がなぜ夫婦を別れさせるのか。体の疲れや帰りの遅れなどの仮説がある
- 論文
- Proceedings of the Royal Society B(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Albatrosses are large seabirds. A pair often stays together for many years and raises chicks every season. But some pairs break up while both birds are still alive. Scientists call this divorce.
A team studied albatross pairs on an island in the Falkland Islands for 16 years. The divorce rate was between 0.8 and 7.7 percent a year. Pairs split up more often when their eggs did not hatch.
The team also found something new. In years with a warmer sea, more pairs divorced. Even females that raised a chick the year before changed partners more often. A warm sea often has less food for seabirds.
Another study looked at a different kind of albatross. On that island, shy males divorced more often than bold males. Other males may push them away from their partners.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How long did the team study the albatross pairs in the Falkland Islands?チームはフォークランド諸島でアホウドリのペアを何年調べましたか。
2004〜2019年の16年分の記録を分析しました。
Q2. In which years did more albatross pairs divorce?どんな年に、離婚するアホウドリのペアが増えましたか。
海面の水温がいつもより高い年ほど、離婚の割合が高くなっていました。
Q3. In the other study, which birds divorced more often?別の研究で、離婚が多かったのはどの鳥ですか。
ワタリアホウドリでは、臆病なオスほど離婚が多く、メスでは性格との関係は見られませんでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Ventura, F. et al. (2021) Environmental variability directly affects the prevalence of divorce in monogamous albatrosses. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2021.2112
- 2Sun, R. et al. (2022) Boldness predicts divorce rates in wandering albatrosses (Diomedea exulans). Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2022.0301
- 3MIT News(2022)Divorce is more common in albatross couples with shy malesnews.mit.edu/2022/divorce-albatross-shy-males-0913
- 4PMC(Ventura et al. 2021 全文)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8611344/
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





