南米のクモのオスは、獲物のハエがいても5回に1回、メスへの贈り物に虫のぬけがらを包んだ

メスに獲物を糸で包んで贈るクモのオスは、中身のない贈り物も渡す。南アメリカのクモは、ハエがそばにいても5回に1回はにせ物を選び、にせ物のほうに長く糸を巻いた。

No.179 8分で読めるえっ度 論文 2022年
夜の川辺の小石の上で、脚の長い茶色のクモのオスが、白い糸でぐるぐる包んだ小さな丸い包みを口元にかかえ、メスの前に差し出している。

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  1. メスに、獲物を糸で包んで贈るクモがいる
  2. 食べかすなど、中身のない贈り物を渡すオスも多い
  3. にせ物を包むときのほうが、オスは長い時間をかけて糸を巻いた

人に話すなら

クモのオスって、メスに獲物を糸で包んでプレゼントするんだって。でも中身が食べかすのにせ物のこともあって、にせ物のほうが糸をたくさん巻いてるらしいよ。

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贈り物をするクモのオスは、いつも中身のある獲物を包んで渡す

クモのオスが、メスに会いに行きます。口元には、白い糸で包んだ小さな包みをかかえています。中身は、つかまえた虫です。メスがこの贈り物を食べているあいだに、オスは交尾をします。

ところが、包みを開けると中身がからっぽのことがあります。入っているのは、汁を吸いつくした虫の残りや、植物のかけらです。南アメリカのクモで実験すると、オスは目の前に生きたハエがいても、5回に1回は虫のぬけがらを包みました。しかも、ぬけがらを包むときのほうが、ハエのときより長い時間をかけて糸を巻いていました。

贈り物の中身が食べられなければ、メスにとっては損です。それでもにせ物の贈り物が続いてきたのはなぜでしょうか。糸で包むことが、そのなぞを解くかぎの1つだと研究者たちは考えています。

01獲物を糸で包んで、メスに贈るクモがいる

獲物を贈り物にするクモは、2つの科の、ごく一部の種に限られます。よく調べられているのは、ヨーロッパで研究されてきたキシダグモ科のクモ「ピサウラ・ミラビリス」です。もう1つは、キシダグモ科に近い別の科の「パラトレカレア・オルナタ」です。こちらは、ブラジル南部からウルグアイ南部の川辺にすむクモです。

どちらのオスも、虫をつかまえると糸で包み、メスに差し出します。メスが受け取ると、オスは交尾を始めます。贈り物がないと、オスが交尾できる見こみは大きく下がります。

ピサウラ・ミラビリスでは、野外でオスが持っていた贈り物を開けて調べた例があります。2011年の論文で紹介された16個のうち、新しい獲物が入っていたのは62%でした。残りの38%は、中身を吸われたあとの虫の外側の殻だけでした。

02にせ物を渡されたメスは、交尾を早めに切り上げた

2011年、デンマークのオーフス大学などのチームは、北ヨーロッパのピサウラ・ミラビリスで実験しました。オスに、ハエを包ませる組、にせ物を包ませる組、何も持たせない組などを作りました。にせ物の材料には、綿の玉、虫の食べかす、かれた花を用意しました。

にせ物を持ったオスも、本物を持ったオスと同じくらい交尾できました。何も持たないオスは、交尾できる割合が大きく下がりました。ところが、精子を送っている時間は、にせ物のオスのほうが短くなりました。メスが、交尾を早めに切り上げたのです。

にせ物を受け取ったメスは、本物のときと同じように、上あごと触肢で包みを動かしていました。あとで調べると、綿の玉はぬれていました。メスが消化液をかけて、食べようとしたと考えられています。

03ヨーロッパのクモでは、にせ物のほうに糸を多く巻いていた

2017年、デンマークのオーフス大学やドイツのミュンヘン大学のチームは、同じピサウラ・ミラビリスで糸の量を調べました。野外で集めた贈り物と、研究室で作らせた贈り物の両方です。研究室では、オスに与えるえさの量も変えました。

にせ物の贈り物を渡すのは、やせて獲物をとれないオスだろう、と考えることもできます。ところが結果は違いました。体の状態が悪いオスや、えさが少ないオスほどにせ物を使う、という関係は見られなかったのです。むしろ、にせ物を使うオスは、本物の獲物を自分で食べて体重を増やしていました。

そしてオスは、体の状態やえさの量に関係なく、にせ物の贈り物のほうに多くの糸を巻いていました。チームは、糸が中身をかくし、メスが食べようとする時間を延ばしていると考えました。にせ物の作戦が続くには、糸が欠かせないというのです。

04南アメリカのクモは、ハエがあっても5回に1回はぬけがらを選んだ

では、本物の獲物がすぐそばにあっても、オスはにせ物を選ぶのでしょうか。2022年、ウルグアイの共和国大学などのチームが、パラトレカレア・オルナタで確かめました。

チームは、ウルグアイのミナスの川辺で、まだ子どものクモ78匹を夜に集めました。研究室で大人になるまで育て、実験に使いました。実験に使ったガラスのケースの底には、小石と水を入れて、川辺に似せました。前の日からメスを入れておき、メスの糸を残させます。オスはこの糸に反応して、求愛を始めるからです。

オスを入れるとき、底にはミールワームという虫のぬけがらを6個まいておきました。オスが求愛を始めると、生きたイエバエをピンセットで近づけます。オスは、ハエかぬけがらのどちらかを選んで糸で包めます。オスがハエかぬけがらをつかむまで、ハエは15分ごとに近づけ直しました。交尾は筆で止めて、どのメスも交尾していない状態に保ちました。

オス18匹が、4日おきに別のメスを相手に5回ずつ挑みました。合わせて90回のうち、ハエを包んだのは53回でした。ぬけがらを包んだのは18回、つまり20%です。5回ともハエを包んだオスは39%、5回ともぬけがらだったオスは11%でした。残りの半分のオスは、回によってハエとぬけがらを切りかえていました。

05にせ物を包むときのほうが、長い時間をかけて何度も糸を巻いた

オスは、地面に糸のシートを作り、その上に包む物を置いて、上から糸をかぶせます。この作業を何度かくり返します。チームは、糸を巻いた時間の合計と、巻いた回数を比べました。

すると、ぬけがらを包むときのほうが、糸を巻く時間が長く、回数も多くなっていました。にせ物は「安上がりな手抜き」ではなく、糸にたくさん手間をかけた贈り物だったのです。

チームは、もう1つの組でも確かめました。別のオス18匹には、ハエを近づけず、ぬけがらだけを用意しました。この組でオスがぬけがらを包んだのは、90回中64回でした。その糸の量は、ハエがそばにあった組のぬけがらと同じでした。ハエがあってもなくても、オスはにせ物に同じだけ糸をかけていたのです。

小石の上で、クモのオスが脚で白い糸を何度も巻きつけ、虫のぬけがらを白い包みにしていく様子。横には、生きたハエが止まっている。

どのオスがにせ物を選ぶかは、オスの体の大きさでも、何回目の挑戦かでも説明できませんでした。メスの状態など、別の何かがオスの選び方を決めているのかもしれません。

06ヨーロッパのクモの2011年の実験では、逆ににせ物を包む時間が短かった

ただし、すべての研究が同じ答えを出しているわけではありません。先ほどの2011年の実験では、逆の結果が出ていました。にせ物を包む時間は平均3.9分で、ハエの5.3分より短かったのです。オスがいちばんよく選んだ綿の玉では、糸を巻く回数もハエより少なくなりました。

実験のやり方が違えば、結果も変わりえます。2011年の実験では、オスにハエを選ぶ道はありませんでした。用意した物には、野外にはない綿の玉も入っていました。2017年と2022年の研究は、野外の贈り物や、ハエも選べる場面を調べています。糸の量がどう決まるのかは、まだ答えが出そろっていません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

プレゼントは、メスの「食べたい気持ち」から始まったらしい

虫やクモの贈り物は、メスが食べ物を求める気持ちを、オスが利用して始まったという考えがあります。メスは食べ物という得を受け取ります。同時に、贈り物から「狩りのうまいオス」を見分けているのかもしれません。

ピサウラ・ミラビリスでは、交尾の長さが、メスが贈り物を食べ終わるまでの時間にそろっています。だいたい1時間です。中身がからっぽだと、メスは早く食べるのをやめ、交尾も短くなります。オスは精子を送る時間が減り、ほかのオスとの競争で不利になります。

メスにつかまらないよう、死んだふりをするオス

ピサウラ・ミラビリスのオスには、もう1つの技があります。2006年、デンマークのオーフス大学のチームは、オスが「死んだふり」をすることを報告しました。メスが近づいて襲いかかりそうになると、オスは贈り物をくわえたまま脚を伸ばし、動かなくなります。

最初の実験では、死んだふりをしたオスは平均で32%でした。2つ目の実験で死んだふりをしたオスは、すべて交尾に成功しました。死んだふりをしなかったオスで交尾できたのは58%でした。メスが交尾を中断して贈り物を持ち去ろうとしたときにも、オスの82%が死んだふりをしました。贈り物をくわえたまま引きずられ、メスが食べ始めると交尾を再開したのです。

メスは損をしているのか

パラトレカレア・オルナタでは、にせ物を何度も受け取ったメスは、産む卵の数が減ることが分かっています。それでもにせ物の贈り物は、野外でたくさん見られます。研究チームが調べた川辺では、季節によって贈り物の30〜80%がにせ物だったと論文は紹介しています。ただし、これはまだ論文になっていない調べです。

メスが交尾のあと、本物を贈ったオスの精子をこっそり有利にしている可能性を示す結果もあります。メスが損をしているのか、それとも別の形で埋め合わせているのか。研究者たちは、まだはっきりした答えを持っていません。

07まとめ

ヨーロッパのピサウラ・ミラビリスや南アメリカのパラトレカレア・オルナタのオスは、獲物を糸で包んでメスに贈ります。けれども、中身が食べかすや虫のぬけがらのにせ物も、よく渡しています。南アメリカのクモでは、生きたハエがそばにあっても、90回中18回はぬけがらを包みました。そして、ぬけがらを包むときのほうが、長い時間をかけて何度も糸を巻いていました。

ただし、ヨーロッパのクモの別の実験では、にせ物を包む時間のほうが短いという結果も出ています。その実験では、メスは綿の玉を包んだにせ物にまで消化液をかけ、食べようとしていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ウルグアイ・ミナス

研究チーム
ウルグアイの共和国大学などのチーム(第一著者カミラ・パボン=ペラエス)
調べた場所
ウルグアイのミナスで集めたクモを、研究室で育てて実験した
調べた動物
南アメリカの川辺にすむクモ(学名 Paratrechalea ornata)のオス36匹(18匹ずつ2つの組)
調べ方
メスのそばで生きたハエと虫のぬけがらの両方を用意し、オスがどちらを包むか5回ずつ見た
分かったこと
ハエがあっても、90回中18回(20%)はぬけがらを包んだ。ぬけがらのほうが長く糸を巻いた
まだ分からないこと
糸を多く巻くことがオスにとってどれだけ負担か。メスがにせ物で損をしているのか
論文
PeerJ(2022年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Spiders Give Fake Gifts

Some male spiders give a gift to a female. The gift is usually an insect wrapped in white silk. While the female eats it, the male can mate with her.

But some gifts have nothing good inside. They may hold only the dry shell of an old insect. Scientists in Uruguay studied a spider that lives by rivers.

They gave each male a live fly and an empty insect skin. Each male tried five times. In 18 of 90 tries, the males wrapped the empty skin. They spent more time wrapping fake gifts than real ones.

The silk may hide what is inside the gift. But another study found that males spent less time wrapping fake gifts. Scientists are still asking why males wrap their gifts.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What is a spider gift usually wrapped in?クモの贈り物は、ふつう何で包まれていますか。

Q2. How many times did each male try?それぞれのオスは何回挑みましたか。

Q3. What did the males do with fake gifts?オスはにせ物の贈り物をどうしましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Pavón-Peláez, C. et al. (2022) Beyond the prey: male spiders highly invest in silk when producing worthless gifts. PeerJ 論文確認済みdoi:10.7717/peerj.12757
  2. 2Ghislandi, P. G. et al. (2017) Silk wrapping of nuptial gifts aids cheating behaviour in male spiders. Behavioral Ecology 論文確認済みdoi:10.1093/beheco/arx028
  3. 3Albo, M. J. et al. (2011) Worthless donations: male deception and female counter play in a nuptial gift-giving spider. BMC Evolutionary Biology 論文確認済みdoi:10.1186/1471-2148-11-329
  4. 4Bilde, T. et al. (2006) Death feigning in the face of sexual cannibalism. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2005.0392

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい