シャチの母は大人の息子を一生世話していた。息子が1頭いると、次の子が育つ見込みは約半分に
魚を食べるシャチを40年分調べると、生きた息子がいる母ほど次の子が育ちにくかった。息子は何歳になっても母の負担のままだった。

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- シャチの息子は、大人になっても母のそばで暮らし続ける
- 生きた息子がいる母は、次の子が育ちにくくなっていた
- 閉経した母がいる息子は、仲間からのかみ傷が少なかった
人に話すなら
シャチの息子って、大人になってもずっと母親と一緒にいるんだって。母親は大人の息子にも魚を分けていて、息子がいると次の子が育ちにくくなるらしい。娘ではそうならないんだよ。
読む前に予想しよう
シャチの母にとって、息子は大人になれば負担ではなくなる
息子が何歳になっても、母が次の子を育てられる見込みは下がったままだった。
多くの動物では、子どもは大人になると親から離れていきます。親のほうも、次の子を産んで育てることに力を注ぎます。ところが北アメリカの太平洋岸にすむ、魚を食べるシャチは違います。息子は大人になっても、母親のそばを一生離れないのです。
イギリスのエクセター大学などのチームは、このシャチの群れの40年分の記録を調べました。すると、生きている息子が1頭いるだけで、母親がその年に次の子を産んで育てられる見込みは、約半分に下がっていました。娘がいても、そうはなりませんでした。
大人になった子が母親に助けられている例は、これまでにも知られていました。けれども、その世話が母親自身の子づくりをどれだけ犠牲にしているのかは、ほとんど調べられていませんでした。シャチの母は、次の子を育てる機会を減らしてまで、大人の息子を支え続けていたのです。
01母と息子が一生離れない、魚を食べるシャチの家族
研究の舞台は、アメリカのワシントン州とカナダのブリティッシュコロンビア州の間に広がる沿岸の海です。ここには「南の定住型」と呼ばれるシャチの群れがすんでいます。主な食べ物はサケなどの魚です。アザラシなどのほ乳類はおそいません。
この群れでは、息子も娘も、生まれた母親の群れから出ていきません。そのため、祖母・母・子・孫が一緒に暮らす家族の群れができます。中でもオスは、母親と一生ぴったり寄りそって過ごすことが知られています。
アメリカのクジラ研究センターは、1976年からこの群れの全頭調査を毎年続けています。シャチは背びれの形や、背びれの後ろにある模様が1頭ずつ違います。そこで船から写真をとり、どのシャチが生きているか、子が生まれたか、誰が死んだかを記録してきました。
これまでの研究で、母親がいるとシャチの子は長生きしやすいことが分かっていました。特に、年上の息子でその傾向が強く見られました。母親は、サケがいる場所を知っていて群れを導いたり、とった魚を分け与えたりします。エクセター大学の発表によると、母親はよくサケを2つにかみ切り、半分を自分で食べ、半分を息子に渡すといいます。
0240年分の出産記録から、「息子がいる年」の出産を数えた
チームの第一著者は、アメリカのクジラ研究センターにも所属するマイケル・ワイス(Michael Weiss)さんです。調べたのは、生まれた年が分かっているメス40頭の、1982年から2021年までの記録です。
チームは、メス1頭の1年を1つの単位にして、その年に子を産めたかどうかを数えました。ただし、もともと子を産めない年は外しました。シャチの妊娠期間は約18か月なので、子を産んだ次の年は外します。3歳未満の子に乳をやっている年に次の子を産んだメスもいなかったので、その年も外しました。45歳をこえたメスは子を産まなくなるので、これも外しました。
こうして残ったのは、のべ636年分です。その間に生まれた子は67頭でした。この群れでは生まれたばかりの子がよく死ぬので、1歳まで生きのびた場合だけを「子育て成功」と数えました。成功は54頭でした。
そのうえで、メスの年齢、年ごとの違い、メスごとの違いの影響を取りのぞいて計算しました。毎年の「成功したかどうか」と、その年に生きていた離乳ずみの息子と娘の数を比べたのです。
03息子は何歳になっても、母の負担のままだった
結果ははっきりしていました。離乳ずみの息子が生きている年ほど、母親が次の子を1歳まで育てられる見込みは下がっていました。エクセター大学の発表では、生きている息子1頭ごとに、この年ごとの見込みが約半分になったとしています。一方で、娘の数は母親の子育てとはっきりした関係がありませんでした。
ただ、これだけでは「息子のせい」とは言いきれません。オスは体が大きく、たくさん食べるので、群れにオスが多いだけで食べ物が足りなくなるのかもしれません。また、息子を育てるときの乳やりが、何年もあとまで母親の体にひびくのかもしれません。
そこでチームは、ほかの数とも比べました。すでに死んでしまった息子の数と、同じ家族の群れにいる、自分の息子ではないオスの数です。結果は、どちらも母親の子育てとはっきりした関係がありませんでした。母親の負担になっていたのは、「今も生きている自分の息子」だけでした。
次にチームは、息子の年齢による違いを調べました。息子が大きくなるにつれて負担が軽くなるなら、母親の世話は「長いけれど、いつかは終わる」ことになります。けれども、息子が何歳になっても、負担が軽くなる様子は見られませんでした。論文によると、母親が自分の次の子を犠牲にしてまで子を一生支え続ける直接の証拠は、子を何度も産む動物ではこれが初めてです。

04閉経した母がいる息子は、仲間からのかみ傷が少なかった
同じエクセター大学のチームは、2023年に別の角度からも、母と息子の関係を調べました。第一著者はチャーリー・グライムス(Charli Grimes)さんです。注目したのは、シャチの皮ふに残る「歯のひっかき傷」です。
シャチの体には、細く白い平行な線の傷がつくことがあります。ほかのシャチの歯が皮ふに当たってできる傷です。この群れのシャチは魚しか食べず、人のほかに天敵もいません。そのため、歯の傷をつけられる相手はほかのシャチだけです。けんかや、荒っぽい遊びでつく傷だと考えられています。
チームは、103頭のシャチの写真6,934枚を調べました。新しい傷が、写った体の表面のどれだけの割合をしめているかを、画像の点の数で測ったのです。前の年の写真と見比べて、同じ傷を二重に数えないようにしました。
その結果、閉経した母親が同じ群れにいるオスは、傷が少ないことが分かりました。グライムスさんは発表の中で、このオスたちの歯の傷は、ほかのオスより35%少なかったと述べています。ところが、母親がまだ子を産んでいる場合は、傷は減っていませんでした。娘では、母親が閉経していてもいなくても、傷の量は変わりませんでした。
祖母がいても、孫の傷は減っていませんでした。閉経したメスが群れにいても、自分の子でなければ、傷は減っていませんでした。閉経した母親の助けは、群れ全体ではなく、自分の息子に向けられていたのです。
母親が実際に何をしているのかは、まだ分かっていません。チームは、年をとった母親がほかの群れのシャチをよく知っていて、もめごとを避けられるのかもしれないと考えています。けんかが起きそうなときに、母親が間に入る可能性もあります。傷が少ないことは、オスにとって大事です。皮ふの傷から病原体が入り、命にかかわることがあるからです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜ娘ではなく、息子なのか
母親が助けるなら、息子でも娘でも同じに思えます。論文は、シャチの「相手の選び方」に答えがあると考えています。この群れでは、オスは別の家族の群れのメスと子をつくります。そのため、息子の子は相手の群れで生まれ、相手の群れで育ちます。
娘の子は違います。娘の子は母親と同じ群れで生まれ、同じ群れの魚を分け合って育ちます。母親から見ると、娘の子が増えると、自分の群れの食べ物をめぐる争いが増えます。息子を助ければ、自分の群れの負担を増やさずに、自分の血を引く孫を別の群れに残せます。理論の上では、助ける相手を選べるなら、メスは息子を優先するはずだと予想されていました。今回の結果は、その予想と合っています。
ほかの動物では、大人の子を助けても母が損をするとは限らない
大人になった子が母親に助けられる例は、ゾウ、ハイエナ、アカシカ、チンパンジーなどでも報告されています。けれども、その世話で母親が損をしているとは限りません。サルの仲間や人では、大人の子と母親の関係はお互いに得をしていると考えられてきました。大人の子がいると、弟や妹が生きのびやすくなったり、母親が長生きしやすくなったりするからです。
生物学では、親が自分の将来の子づくりを犠牲にして子を助けることを、親の「投資」と呼びます。今回の研究は、シャチの母の世話が「お互いさま」ではなく、母親の損をともなう投資らしいことを、出産の記録から示しました。この点が、これまでの研究と違います。
反対の見方と、研究の限界
この研究は、母親が息子に何をしていて子が育ちにくくなるのかまでは、確かめていません。チームは、魚を分けることで母親の食べる量が減るのが原因の一つだと考えています。この群れのメスの子づくりは、エサの量や栄養の状態に強く左右されることが分かっているからです。
ただし、南の定住型の群れは1990年代の初めから数が減り続けています。論文を書いた時点で、残りは73頭でした。エサの少ない群れだからこそ、母親の負担が大きく出た可能性があります。チームは、エサに困っていない近くの別の群れと比べる必要があると書いています。
かみ傷の研究にも限界があります。傷は、けんかだけでなく荒っぽい遊びでもつきます。体当たりのような、傷あとが残りにくいけがは数えられていません。チームは、空から撮るドローンの映像で、母親が実際に何をしているのかを確かめたいとしています。
05まとめ
北アメリカの太平洋岸にすむ、魚を食べるシャチでは、息子が母親のそばを一生離れません。40年分の記録を調べると、生きている息子がいる母親ほど、次の子を育てにくくなっていました。その負担は、息子が何歳になっても軽くなりませんでした。
閉経した母親がいるオスは、仲間からのかみ傷も少なくなっていました。母親が何をして息子を守っているのかは、まだ分かっていません。
母親は、とったサケを2つにかみ切り、半分を大人の息子に渡すことがあるといいます。体が母親よりずっと大きくなった息子も、まだ母親から魚をもらっているのです。
研究カルテ
アメリカ・ワシントン州の沿岸
- 研究チーム
- イギリスのエクセター大学と、アメリカのクジラ研究センターなどのチーム(第一著者マイケル・ワイス)
- 調べた場所
- アメリカのワシントン州とカナダのブリティッシュコロンビア州の沿岸
- 調べた動物
- 魚を食べる「南の定住型」と呼ばれるシャチの群れ(学名 Orcinus orca)
- 調べ方
- 1976年から毎年続く写真による全頭調査をもとに、メス40頭の1982〜2021年の出産を、息子や娘の数と比べた
- 分かったこと
- 生きた息子がいる年ほど、母が次の子を育てられる見込みが下がった。娘ではそうならなかった
- まだ分からないこと
- なぜ子が育ちにくくなるのか。魚を分ける負担のせいだと考えられているが、確かめられていない
- 論文
- Current Biology(2023年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Some killer whales live near the coast of North America. They eat fish, and their sons stay with their mothers all their lives. Mothers often share salmon with their grown sons.
Scientists studied 40 years of records about these whales. They looked at 40 female whales and counted their babies. When a mother had a living son, she had fewer babies that lived to one year old. Daughters did not have this effect.
The cost did not go down when the sons got older. So the mothers help their sons for their whole lives.
Another study looked at marks from teeth on the whales' skin. Sons with older mothers who no longer had babies had fewer marks. Scientists still do not know how the mothers protect their sons.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What do the mothers often share with their grown sons?母親は、大人になった息子に何をよく分けてあげますか。
このシャチは魚を食べ、母親はサケを大人の息子に分けてあげます。
Q2. What happened when a mother had a living son?生きている息子がいる母親には、何が起きましたか。
生きている息子がいると、母親が次の子を1歳まで育てられる見込みが下がりました。
Q3. Which sons had fewer marks from teeth?歯の傷あとが少なかったのは、どの息子ですか。
閉経した母親がいる息子は、仲間からのかみ傷が少なくなっていました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Weiss, M. N. et al. (2023) Costly lifetime maternal investment in killer whales. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2022.12.057
- 2エクセター大学(2023)プレスリリース「Killer whale mums pay high price for raising sons」news.exeter.ac.uk/research/killer-whale-mums-pay-high-price-
- 3Grimes, C. et al. (2023) Postreproductive female killer whales reduce socially inflicted injuries in their male offspring. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2023.06.039
- 4エクセター大学(2023)プレスリリース「Male killer whales protected by post-menopause mothers」news.exeter.ac.uk/faculty-of-health-and-life-sciences/male-k
- 5Foster, E. A. et al. (2012) Adaptive prolonged postreproductive life span in killer whales. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1224198
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





