ハエトリグモの子は夜、約17分ごとに目の奥を動かしていた。人が夢を見る眠りと似ている
体が透けたハエトリグモの子を一晩撮ると、休む間に目の奥が約17分ごとに動き、脚もピクッと動いた。人のレム睡眠に似た状態かもしれない。

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- 生まれたてのハエトリグモは体が透けて、目の奥が見える
- 夜に休む間、目の奥が約17分ごとに1分ちょっと動いた
- 動き方は人が夢を見る眠りに似るが、本当に眠っているかはまだ不明
人に話すなら
ハエトリグモの赤ちゃんって体が透けてて、目の奥が動くのが外から見えるんだって。夜に糸でぶら下がって休んでる間、17分おきくらいに目の奥がキョロキョロ動いて、脚もピクッとするらしいよ。
読む前に予想しよう
ハエトリグモは、目のレンズは動かせないが、目の奥の部分を動かして見る方向を変えられる
頭の中の網膜の筒を筋肉で動かし、見る向きを変えている。
人は眠っている間に、まぶたの下で目玉をすばやく動かすことがあります。このときの眠りを「レム睡眠」といい、はっきりした夢と結びついていることが知られています。では、クモはどうでしょうか。この研究が出た2022年の時点では、クモが眠ることをはっきり確かめた研究は、まだ1つもありませんでした。
ドイツのコンスタンツ大学のダニエラ・レスラー(Daniela Rößler)さんたちは、ハエトリグモに目をつけました。注目したのは生まれたばかりの子グモです。この時期の子グモは体が透けていて、頭の中で目の奥が動く様子が外から見えるのです。チームは子グモを一晩じゅう撮影しました。すると、夜に休んでいる子グモの目の奥が、約17分ごとに1分ちょっと、くり返し動いていました。
レム睡眠の研究は約70年続いていますが、主に背骨のある陸の動物で行われてきました。目を動かせる動物は限られています。昆虫も、クモやムカデなど陸にすむ節足動物(脚に節がある動物)のほとんども、目を動かせません。ハエトリグモは、陸の背骨のない動物で、レム睡眠に似た状態を探せるめずらしい相手だったのです。
01ハエトリグモは、レンズの奥の網膜を動かして見る方向を変える
ハエトリグモの多くは、獲物をとるための巣を張りません。目にたよってくらすクモで、獲物や敵を目で見つけます。
ハエトリグモは、目のレンズそのものは動かせません。そのかわり、レンズの奥の網膜(光を感じる部分)を動かせます。網膜は細長い筒の形をしていて、筋肉で動くのです。筒を前後や左右に動かしたり、回したりして、体の向きを変えずに見る方向を変えているのです。
ふつう、この筒は外からは見えません。大人のハエトリグモは、体の表面に色がついているからです。ところが、生まれて間もない子グモは、しばらくの間、体の表面に色がなく透けています。上から見ると、頭の中の2本の筒が動く様子がそのまま見えるのです。
02このハエトリグモは、夜に糸1本でさかさまにぶら下がって休む
研究チームが調べたのは、ヨーロッパに広くすむハエトリグモの一種です。レスラーさんたちは2020年、このクモの変わった夜の過ごし方を見つけていました。場所はドイツのトリーアの野外です。夜になると、草や葉から糸を1本たらし、さかさまにぶら下がってじっと休むのです。オスもメスも、大人も子どもも、この休み方をしていました。
ぶら下がっている大人のクモには、ときどき動きの多い時間がありました。脚をぎゅっと体のほうへ丸めたり、脚やおしり、糸を出す部分をピクッと動かしたりするのです。研究チームは、これがレム睡眠のような状態ではないかと考えました。そこで、目の奥が見える子グモで確かめることにしたのです。
0334匹の子グモを、夜7時から朝7時まで赤外線カメラで撮った
研究チームは、生まれて1〜9日の子グモ34匹を一晩ずつ撮影しました。子グモの大きさは1〜2ミリほどです。暗い中でも撮れるように、光を出す装置のついた赤外線カメラを使いました。撮影は夜7時から朝7時までで、夜を4時間ずつ3つに分けて、時間による違いも調べました。
研究チームは、映像を目で見て、目の奥が動いた時刻と長さを記録しました。脚を丸める、体をのばす、体をそうじする、といった動きも記録しました。さらに、コンピューターに映像の見方を覚えさせました。そして、左右の筒がどの角度を向いているかを自動で追いかけました。

04目の奥は約17分ごとに、約77秒ずつ動いた
映像には、目の奥がはっきりくり返し動く様子が映っていました。1回の動きの長さはだいたいそろっていて、真ん中の値は約77秒でした。次の動きまでの間隔もそろっていて、真ん中の値は約17分でした。
夜がふけるにつれて、1回の動きは11%長くなり、間隔は38%長くなりました。人を含む背骨のある動物のレム睡眠でも、夜がふけるにつれて1回のレム睡眠が長くなります。
目の奥が動くときには、体も動きました。脚をぎゅっと丸める動きや、1本の脚やおしりがバラバラにピクッと動く動きです。脚を丸める動きは135回見られ、その135回すべてで目の奥も動いていました。ただし、目の奥が動いた342回のうち、脚を丸めたのは4割ほどでした。
一方で、体をのばす、ぶら下がる糸を直す、脚で体をそうじする、といった動きの間には、目の奥はまったく動きませんでした。どれも手足をそろえて動かす動きなので、研究チームは、こうした動きのときはクモが起きていると考えています。体のそうじは、目の奥が動いた時間のすぐあとに起きることが多く、短い目ざめをはさんでいるようでした。
05大人のクモも、子グモと同じくらいの時間、脚を丸めていた
大人のハエトリグモ3匹(メス1匹、オス2匹)も同じように撮りました。大人は7〜8ミリほどで、体に色がついているので目の奥は見えません。それでも、子グモとまったく同じように脚を丸める動きが見られました。脚を丸める時間の真ん中の値は、大人が約84秒、子グモも約84秒で、ほぼ同じでした。
大人では、脚を丸めたりピクッと動いたりする時間が、約28分ごとにやってきました。また、ぶら下がらずに立ったまま休んでいる大人を、正面から赤外線カメラで撮ることもできました。すると、脚を少し丸めている間に、目の奥がすばやく動いているのが見えました。
論文によると、この長さと間隔は、ネズミのなかまのレム睡眠と数字の上で近いものです。ラットのレム睡眠は1回平均86秒、マウスのレム睡眠の間隔は10〜15分と報告されています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
レム睡眠は、目の動きから見つかった
レム睡眠は、1953年にアメリカのシカゴ大学のユージン・アセリンスキー(Eugene Aserinsky)さんとナサニエル・クライトマン(Nathaniel Kleitman)さんが、眠っている人の目の動きから見つけました。眠りにはそれまで知られていなかった、目がくり返し動く時期があったのです。レム睡眠の間、体の筋肉の大部分は力がぬけますが、手足が小さくピクッと動きます。そして脳は、起きているときに近い動き方をしています。
レム睡眠のような状態は、ほ乳類と鳥のほか、トカゲのなかまや、コウイカ・タコでも報告されてきました。ハエトリグモの研究は、ここに陸の節足動物を加えるかもしれない発見です。
「眠っている」とはまだ言えない
論文が出たすぐあと、同じ雑誌に、アメリカのウィスコンシン大学ラクロス校のバレット・クライン(Barrett Klein)さんが解説を書きました。クラインさんは発見を高く評価しつつ、この研究が示していないことをはっきり書きました。
動物が眠っていると言うには、ふつう2つのことを確かめます。1つは、起きているときより強い刺激を与えないと反応しないこと。もう1つは、眠りを減らされると、あとで眠りがふえることです。この研究では、どちらも調べていません。クラインさんによると、この時点で、クモが眠ることをはっきり示した研究は、まだ1つもありませんでした。
その後、レスラーさんたちは、巣を張るクモのニワオニグモを野外で調べました。夜にじっとしているクモは、昼にじっとしているクモより、音の刺激に反応するまでに長い時間がかかりました。眠りを見分ける1つ目の条件「反応しにくくなる」に合う結果です。2023年に査読前の論文として公開され、2026年に学術誌に載りました。
さらに、レム睡眠の大事な特徴である「体は止まっているのに脳は起きているように動く」ことも、確かめられていません。クモの脳の電気の信号は測っていないからです。研究チーム自身も、見つけたものを「レム睡眠のような状態」とよび、レム睡眠そのものとは言っていません。
目が動かなくてもレム睡眠はある
クラインさんは、目の動きだけでレム睡眠を決めることのむずかしさにもふれています。たとえばフクロウは、目玉が頭の骨の中でほとんど動きませんが、レム睡眠があります。論文も、モグラのように目を動かさない動物にもレム睡眠があると書いています。逆に、目のよい動物では、レム睡眠が目の動きとしてあらわれやすいのかもしれません。
論文は、巣を張るクモにもふれています。巣を張るクモは目があまりよくなく、糸のふるえで獲物を知ります。こうしたクモでは、レム睡眠のような状態が、目ではなく、ふるえを感じる筋肉の動きとしてあらわれるかもしれない、と研究チームは考えています。ミツバチでも、触角が動く眠りの時期と、動かない深い眠りの時期があることが知られています。
クモは夢を見ているのか
人のレム睡眠中の目の動きは、夢の中で見ている景色と関係しているという説があります。もしそうなら、ハエトリグモも夢の中で何かを見ているのでしょうか。研究チームは、この問いはハエトリグモでなら確かめられるかもしれないと考えています。昼間に決まった映像を見せ続け、夜の目の奥の動きがその映像を見るときの動きに似てくるかを調べればよいのです。論文の時点では、この実験はまだ行われていませんでした。
06まとめ
ドイツのコンスタンツ大学などのチームは、体が透けた生まれたてのハエトリグモを一晩撮りました。夜に休む子グモの目の奥は、約17分ごとに約77秒ずつくり返し動き、そのとき脚が丸まったりピクッと動いたりしました。夜がふけるほど間隔は長くなりました。人のレム睡眠によく似たパターンです。
ただし、ハエトリグモが本当に眠っているのか、脳がどう動いているのかは、まだ確かめられていません。ハエトリグモの子の頭が透けて見えるのは、生まれて間もない短い間だけです。
研究カルテ
ドイツ・コンスタンツ
- 研究チーム
- ドイツのコンスタンツ大学のダニエラ・レスラーさん、アメリカのハーバード大学のポール・シャンブルさんたち
- 調べた場所
- ドイツ(研究チームの拠点はコンスタンツ大学とマックス・プランク動物行動研究所)
- 調べた動物
- ヨーロッパにすむハエトリグモの一種(学名 Evarcha arcuata)
- 調べ方
- 生まれて1〜9日の子グモ34匹を、夜7時から朝7時まで赤外線カメラで撮った
- 分かったこと
- 休む間に目の奥(網膜の筒)が約17分ごとに約77秒動き、同時に脚が丸まったりピクッと動いたりした
- まだ分からないこと
- 本当に眠っているのか。脳の活動はどうなっているのか。夢のようなものを見ているのか
- 論文
- 米国科学アカデミー紀要(PNAS、2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
When people sleep, their eyes sometimes move quickly. This kind of sleep is called REM sleep. Do spiders have something like it?
Jumping spiders hunt with their large front eyes. Jumping spiders cannot move the lenses of their eyes. But they can move long tubes behind the lenses. Baby jumping spiders have clear bodies, so we can see these tubes.
Scientists in Germany filmed 34 baby spiders all night. The spiders rested while they hung from a thread. About every 17 minutes, the tubes moved for over a minute. At the same time, their legs curled or twitched. Later in the night, the time between these movements became longer.
This looks like REM sleep in people and other animals. Adult spiders also curled their legs in the same way. But this study did not show that the spiders were really asleep. Scientists have not measured the spider brain during this time. Maybe someday we will learn if spiders dream.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Why can we see the eye tubes of baby jumping spiders?なぜハエトリグモの赤ちゃんの目の筒が見えるのですか。
生まれたばかりの子グモは体に色がなく透けているので、頭の中の筒が見えます。
Q2. How did the spiders rest at night?クモは夜、どのように休んでいましたか。
このハエトリグモは、夜に糸1本でさかさまにぶら下がって休みます。
Q3. About how often did the eye tubes move?目の筒はどのくらいの間隔で動きましたか。
動きの間隔の真ん中の値は約17分でした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Rößler, D. C. et al. (2022) Regularly occurring bouts of retinal movements suggest an REM sleep–like state in jumping spiders. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2204754119
- 2Klein, B. A. (2022) A sleeping paradox may extend to the spider. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2211216119
- 3Rößler, D. C. et al. (2021) Hanging by a thread: unusual nocturnal resting behaviour in a jumping spider. Frontiers in Zoology 論文確認済みdoi:10.1186/s12983-021-00410-3
- 4Rößler, D. C. & Herberstein, M. E. (2023) A state with increased arousal threshold in Araneus diadematus (Araneidae) measured in the wild: new evidence for sleep in spiders. bioRxiv 論文確認済みdoi:10.1101/2023.10.19.563109
- 5Aserinsky, E. & Kleitman, N. (1953) Regularly occurring periods of eye motility, and concomitant phenomena, during sleep. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.118.3062.273
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





