キタゾウアザラシは深い海で、らせんを描いて沈みながら眠っていた。海での眠りは1日2時間ほど
野生のキタゾウアザラシは、潜る途中で20分たらずの眠りをとっていた。レム睡眠に入るとさかさまになり、らせんを描いて沈んだ。海では1日2時間ほどしか眠らない。

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- アザラシは潜っている途中で、20分たらずの短い眠りをとっていた
- レム睡眠に入ると、さかさまになり、らせんを描いて沈んでいった
- 海にいる間の眠りは1日2時間ほどで、陸の5分の1以下だった
人に話すなら
ゾウアザラシって、海に潜ってから眠るんだって。レム睡眠っていう眠りに入ると体がひっくり返って、くるくる回りながら沈んでいくらしい。海にいる7か月くらいは、1日2時間ほどしか寝ないんだって。
読む前に予想しよう
キタゾウアザラシは、海では水面に浮かんでぐっすり眠る
潜ってから眠り、深いところでらせんを描きながら沈んでいた。水面にいるのは数分だけだった。
眠りに落ちると、体がゆっくりひっくり返る。おなかを上にしたまま、くるくると輪を描いて、暗い海の底へ沈んでいく。北太平洋を旅するキタゾウアザラシは、海の中でこんなふうに眠っていました。
アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校などのチームは、野生のキタゾウアザラシの頭に、脳波を測る装置をつけました。すると、アザラシは潜っている途中で、20分たらずの短い眠りをとっていました。眠ったまま沈んだのは、最も深いときで水深377mです。この記録をもとに334頭の潜り方を調べると、海にいる7か月ほどの間、眠りは1日平均2時間ほどと見積もられました。
キタゾウアザラシは、エサをとる旅の間、何か月も陸に上がりません。水面には、シャチやホホジロザメといった天敵がやってきます。それでは、いつ、どこで、どうやって眠っているのか。研究者の間で長く答えの出なかった問いでした。
01頭にかぶせたゴムの帽子で、海の中の脳波を測った
研究を率いたのは、ジェシカ・ケンドール=バー(Jessica Kendall-Bar)さんです。眠っているかどうかは、体の動きだけでは分かりません。確かめるには、脳波を測る必要があります。けれども、脳波はとても弱い電気の信号です。泳ぎ回る野生の動物から、海の中で何日も測るのは簡単ではありません。
チームは、専用の装置を作りました。電極を、やわらかいゴムの板2枚の間にはさんだ帽子です。麻酔で眠らせたアザラシの毛を短く刈り、この帽子を頭に貼りつけます。手術はせず、電極は皮ふの上に当てるだけです。記録する本体は、水の圧力にたえるケースに入れました。
この装置で、脳波と心臓の動き、潜った深さ、体の向きや動きを同時に記録しました。対象は若いメスのキタゾウアザラシ13頭です。5頭は研究所の中で、8頭は野生で記録しました。記録した場所は、砂浜、浅い海、深さ250mより浅い陸に近い海、それより深い沖の海の4つです。野生では3〜5日たってから装置を回収しました。残ったゴムのかけらは、次の毛がわりのときに毛と一緒に落ちたそうです。
02レム睡眠に入ると、さかさまになってくるくる沈んでいった
脳波の記録から、海で眠りながら潜った104回の様子が分かりました。眠るときの潜り方には、決まった順番がありました。まず、起きたまま泳ぐのをやめ、すべるように沈んでいきます。次に、ノンレム睡眠という、脳がゆっくりした波を出す眠りに入ります。このとき、アザラシは数分間、体をまっすぐに保っていました。
ところが、レム睡眠に入ると様子が変わります。レム睡眠は、脳は活発に動いているのに、体の筋肉から力が抜けて動けなくなる眠りです。アザラシは体の向きを保てなくなり、さかさまになりました。そして、らせんを描きながら沈んでいきました。チームはこれを「眠りのらせん」と呼んでいます。
らせんは、ノンレム睡眠からレム睡眠に移ると小さくなりました。ノンレム睡眠のときの輪の直径は7.5mほどで、1周に71秒ほどかかりました。レム睡眠では直径3.3mほどの輪を、40秒ほどで1周しました(どちらも中央値)。らせんは2〜13周続き、そのときの深さは82〜377mでした。陸に近い浅めの海では、アザラシは深さ64〜249mの海底で、じっと動かずに眠ることもありました。

03眠る場所は、天敵の目が届かない深い海だった
イルカや、オットセイ・アシカの仲間は、脳の片側だけを眠らせることができます。片方の目を開けて、泳ぎながら天敵を見張ることができます。ところが、キタゾウアザラシの脳波には、左右で大きな差は見られませんでした。脳の両方が一緒に眠っていたのです。
チームは、ゾウアザラシの身の守り方は別にあると考えました。目で獲物を探す天敵からは見えない、深い海で眠るという方法です。深く潜る力がとても高いからこそ、できる眠り方です。
レム睡眠は、体が動けなくなるため、天敵がいる場所では特に危ない眠りです。水の中で飼われたオットセイは、レム睡眠をほとんどとりません。ところが、キタゾウアザラシは眠りの26.5%がレム睡眠でした。飼われた動物が水の中で眠るときのレム睡眠の割合は、カスピカイアザラシで11%、タテゴトアザラシで6%、セイウチで5%、オットセイで1%と報告されています。深い海でなら、動けない眠りも安全にとれるのだろうとチームは考えています。
04334頭の潜り方から、海での眠りは1日2時間ほどと見積もられた
脳波を測れたのは、若いアザラシの数日分だけです。そこでチームは、脳波と潜り方の記録を照らし合わせました。眠っている区間は、沈む速さがゆっくりで、体の動きがほとんどないという特徴がありました。この特徴をもとに、潜り方の記録だけから眠りを見つける計算方法を作りました。脳波と比べると、この方法は93%の正しさで眠りを当てました。
この方法を、おとなのメス334頭について、これまでに集められた潜り方の記録に使いました。300万回をこえる潜水のうち、眠っていたと判断されたのは51万4406回です。キタゾウアザラシのメスは、7か月ほどかけて1万km以上を旅し、エサを食べ続けます。旅の間は、10〜30分潜っては、水面で2分ほど息をすることをくり返します。
計算の結果、200日をこえる長い旅の間の眠りは、1日平均2.2時間でした。70日ほどの短い旅では、1日平均1.1時間でした。一方、陸の上ではまったく違いました。脳波を測った若いアザラシは、陸で1日最大14時間眠りました。陸での眠りは、海での5倍以上でした。
眠る場所にも、チームが予想していなかった傾向がありました。陸に近い海は、沖よりも天敵が多いかもしれない場所です。ところがアザラシは、その陸に近い海で、むしろ多く眠っていました。ある1頭は、陸に近い海で36回続けて眠りながら潜りました。沖の海では、続けて眠った潜水は5回より少なかったそうです。陸に近い海には天敵から身をかくせる場所があることや、水面が近いことが助けになっているのかもしれないと、チームは書いています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
ひっくり返って沈む姿は、2010年にすでに記録されていた
ゾウアザラシが潜水の途中で泳ぐのをやめ、ゆっくり沈む「ドリフト潜水」は、以前から知られていました。2010年、日本の国立極地研究所などのチーム(第一著者は三谷曜子さん)が、若いキタゾウアザラシ6頭に体の向きを測る記録計をつけました。すると、アザラシはおなかを上にしてひっくり返り、ゆらゆらと沈んでいました。チームはその姿を「落ちる葉」にたとえ、休んだり、食べた物を消化したり、眠ったりしているのかもしれないと書きました。けれども、脳波がないため、本当に眠っているかは確かめられませんでした。今回の研究に加わったダニエル・コスタ(Daniel Costa)さんは、このときのチームにも加わっていました。
眠りが短いのは、体が大きいからなのか
繁殖のために陸に上がったときのおとなのメスの体重は、456〜687kgもあります。チームは、この大きな体を保つにはほとんど休まずエサを食べ続ける必要があり、そのために海での眠りが短くなると考えています。それまで、眠りが最も短いけものの記録を持っていたのはアフリカゾウです。2017年、南アフリカのウィットウォーターズランド大学などのチームが、野生のアフリカゾウのメス2頭を調べました。鼻に動きを測る小さな装置を入れて記録すると、1日の眠りは平均2時間でした。2頭は、最長46時間眠らずにいたこともありました。
ゾウと比べるときの注意
ただし、ゾウとアザラシの記録は、測り方が違います。ゾウの研究は体の動きから眠りを判断していて、脳波は測っていません。アザラシのほうも、334頭の眠りは潜り方からの見積もりです。脳波を測ったのは若いメスで、おとなのメスの海での眠りを脳波で直接測ったわけではありません。論文自身も、測った場所や方法の違いが、動物どうしの比べ方を難しくしていると書いています。「どちらが一番短いか」は、まだ決まっていません。
深い海のカメラに写った、じっと動かないアザラシ
2024年には、カナダのブリティッシュコロンビア州の沖で、別の観察が報告されました。深さ645mの海底に置かれた観測用のカメラとソナーに、若いオスのキタゾウアザラシが少なくとも8頭写っていたのです。1頭は、海底で8分40秒動かずにいました。ただし、その報告を書いたチームも、脳波を測っていないので眠っていたとは言い切れないとしています。
05まとめ
野生のキタゾウアザラシの頭に脳波の装置をつけると、潜っている途中で20分たらずの眠りをとっていることが分かりました。レム睡眠に入ると体がまひしてさかさまになり、らせんを描きながら、最も深いときで377mまで沈みました。334頭の潜り方から見積もると、海にいる7か月ほどの間、眠りは1日2時間ほどです。陸の上では1日14時間眠ることもある動物が、海では1日2時間ほどの眠りで何か月も旅を続けているのです。
研究カルテ
アメリカ カリフォルニア州 モントレー湾
- 研究チーム
- アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校などのチーム(第一著者ジェシカ・ケンドール=バー)
- 調べた場所
- アメリカ・カリフォルニア州のアニョヌエボ州立公園、近くの研究所、モントレー湾の海
- 調べた動物
- 若いメスのキタゾウアザラシ13頭(脳波)と、おとなのメス334頭(潜り方の記録)(学名 Mirounga angustirostris)
- 調べ方
- 頭に脳波と心拍を測る装置をつけて海で眠りを記録し、その潜り方の特徴から334頭の眠りを見積もった
- 分かったこと
- 潜る途中で20分たらずの眠りをとり、さかさまのらせんで沈む。海では1日2時間ほど
- まだ分からないこと
- おとなのアザラシの海での眠りを脳波で直接測ること。短い眠りで足りるしくみ
- 論文
- Science(2023年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Northern elephant seals travel in the sea for about seven months. They do not go on land during the trip. So when do they sleep?
Scientists put a soft cap on the heads of young seals. The cap recorded brain waves while the seals were in the sea. The seals took short naps of less than 20 minutes during their dives.
In one kind of sleep, called REM sleep, their bodies could not move well. The seals turned upside down and went down in circles. The deepest place they slept was 377 meters down. Sharks and killer whales can attack seals near the surface, so the deep sea may be safer.
The team also studied the dive records of 334 adult seals. At sea, the seals slept only about two hours a day. On land, young seals sometimes slept for 14 hours a day.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How long were the seals' naps during their dives?潜っている途中のアザラシの眠りは、どのくらいの長さでしたか。
1回の眠りは20分たらずでした。2時間は、海での1日の眠りの合計の見積もりです。
Q2. What did the seals do in REM sleep?レム睡眠の間、アザラシはどうしましたか。
体がうまく動かなくなり、さかさまになって、らせんを描くように沈みました。
Q3. How much did the seals sleep in a day at sea?海にいる間、アザラシは1日にどれくらい眠りましたか。
334頭の潜り方の記録から、海では1日2時間ほどと見積もられました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Kendall-Bar, J. M. et al. (2023) Brain activity of diving seals reveals short sleep cycles at depth. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adf0566
- 2Kendall-Bar, J. M. et al. (2022) Eavesdropping on the brain at sea: development of a surface-mounted system to detect weak electrophysiological signals from wild animals. Animal Biotelemetry 論文確認済みdoi:10.1186/s40317-022-00287-x
- 3Mitani, Y. et al. (2010) Three-dimensional resting behaviour of northern elephant seals: drifting like a falling leaf. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2009.0719
- 4Gravett, N. et al. (2017) Inactivity/sleep in two wild free-roaming African elephant matriarchs – Does large body size make elephants the shortest mammalian sleepers? PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0171903
- 5Frouin-Mouy, H. et al. (2024) Deep-sea cabled video-observatory provides insights into the behavior at depth of sub-adult male northern elephant seals. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0308461
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